大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和41年(オ)1045号 判決 1967年6月30日

上告人 新寺阿弥陀堂

右主管者代理 篠田甲央

右訴訟代理人弁護士 竹下伝吉

山田利輔

被上告人 横江信行 <ほか二一名>

右二二名訴訟代理人弁護士 堀部進

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人竹下伝吉、同山田利輔の上告理由第一点について。

論旨は、上告人は、原審口頭弁論終結後において上告人が社団たるの実体をそなえ当事者能力(上告理由書に当事者適格とあるのは誤解であろう。)を取得するにいたったことを主張立証して、口頭弁論の再開を申し出たのにもかかわらず、原審がこれに応じて口頭弁論再開の上当事者能力を職権をもって調査することを怠ったのは、訴訟要件在否の時期に関する判断を誤り、審理不尽の違法を犯したものであるという。しかし、当事者能力は、事実審口頭弁論終結の時に存在することを要し、裁判所は、その時において当事者能力の有無を判断すれば足りるのであって、その判断にあたっては、その時以後に生じた事実を斟酌する必要は存しない。また、終結した口頭弁論を再開すると否とは、裁判所の専権に属するところであるから、当事者の口頭弁論再開の申立に応じなかったからといって、これを違法ということはできない。なお、上告理由は上告理由書自体に記載すべきものであって、所論のように、事実審口頭弁論終結後に提出された準備書面のごときを援用することが許されないことは、当裁判所判例の趣旨に徴して明らかである(昭和二六年(オ)第三一九号同二八年一一月一一日大法廷判決・民集七巻一一号一一九三頁、昭和二五年(オ)第三八号、同二六年六月二九日第二小法廷判決・民集五巻七号三九六頁各参照)。したがって、論旨は採用しえない。

同第二点および第三点について。

原判決(引用の一審判決を含む。)によれば、原審は、上告人が法人格を有しない財団であり、その主管者代理と称して訴を提起した篠田甲央はその代表者でも管理人でもない単なる事実上の管理者、すなわち堂宇の留守番役にすぎないのであって、右財団について代表者もしくは管理人の定めがあるとはいえないと判断していることが明らかであり、右判断は、原審がその挙示の証拠により認定した事実関係に照らして、是認することができる。浄土宗西山禅林寺派が上告人の代表者または管理人を任命する権限を有するかどうかは、右財団について代表者もしくは管理人の定めがないと判断された本件においては、もはや審理判断する必要を認めえない。その他論旨は、るる述べるけれども、原判決を正解せず、原審の認定にそわない事実を主張し、これを前提として、原審の事実認定判断を非難するに帰する。したがって、原判決には所論の違法を認めないから、論旨は採用するに足りない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外 色川幸太郎)

上告代理人竹下伝吉、同山田利輔の上告理由

第一点 原判決理由(一)に依ると上告人新寺阿弥陀堂は、信徒の団結が社団を構成する程度に組織化せられているものとは認められないと判示するが之れは大きな事実誤認である。

上告人は、原審の決審後昭和四一年四月附準備書面と甲第八一号証の新寺阿弥陀堂信徒総代会議事録(附属書類として、新寺阿弥陀堂規則及び代表役員、責任役員の選任記録)を提出して、上告人が社団である旨の主張と立証をし弁論の再開を申立てた。

尤も、一般的に言えば当事者適格の有無は結審の時点においてその有無を判断することになっているが、しかし、当事者が当事者適格を有するや否やは全く裁判所の職権調査事項に属するを以って裁判所は何時でも必要ありと認めるときは職権を以って当事者の訴訟実施権の有、無を調査しその原告たると、被告たるを問わずこれを欠く場合には本案について判決することなく訴却下の判決をなすべく若し当事者適格があると判断せば本案の審理をなすべきであるから、本件についても上告人が新たに準備書面を提出し、当事者適格を有する事実を主張、立証するため新しい証拠を提出し弁論の再開を請求した以上結審の如何にかかわらず当然職権を以って之れを調査する必要がある。

しかるに、原審が敢えて弁論を再開せず職権調査の職務を遂行しなかったのは明かに審理不尽のそしりを免れない。

尚、当事者適格の有無は或る時点においては適格があってもその後喪失する場合もあり、又、或る一定期間の間は適格がなかったが追完によって適格を取得することのあり得ること言うまでもない。

従って、本件につき新たに適格を取得したと認められる事実が提出されたときは裁判所は職権調査の趣旨に則り当然弁論を再開してその調査のため審理をしなければならない。

しかるに、敢えて之れをしなかった原審は審理不尽の違法がある。

原審において当事者適格につき上告人が主張したところは弁論再開申立書に添付した昭和四一年四月付準備書面記載の通りであるから之れをこゝに援用する。

第二、三点<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例