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最高裁判所第二小法廷 昭和41年(オ)969号 判決 1967年2月03日

上告人

磐梯観光株式会社

右代表者

川崎正蔵

右訴訟代理人

片平幸夫

被上告人

株式会社山口製作所

右代表者

山口喜久夫

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担する。

理由

上告代理人片平幸夫の上告理由について。

上告人において本件手形を振出人に返還する意思があり、訴外亜細亜塗装株式会社の取締役である訴外梅本平治郎が本件手形を右訴外会社に持ち帰ることを暗黙のうちに了承していた旨の原判決の事実認定は、原判決挙示の証拠により肯認できるから、この点を争う所論は、原審の専権に属する事実認定を争うことに帰し採用できない。そして、原判決の確定した事実関係の下においては、上告人が本件手形を他に裏書譲渡する意思でこれに署名をしたのであり、原判決判示の経緯でこれが第三者の入手するところとなつたのであるから、本件手形の適法な所持人である第三取者に対しては、上告人は手形債務を負担すると解すべきである。ところで、被上告人が振出人星浩、受取人兼裏書人上告人、被裏書人白地とする本件約束手形を所持しているとの事実は、原判決の確定するところであるから、手形法一六条一項により被上告人が本件手形の適法の所持人と推定すべきであるところ、所論被上告人が悪意の取得であるとの事実は、原審で主張のない事実であるから、これをもつて原判決を非難することは許されない。

しからば、被上告人の上告人に対する本件手形金請求を肯認した原判決に所論の違法がなく、論旨は採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 城戸芳彦 石田和外 色川幸太郎)

≪参考≫

二審判決理由(東京高裁昭三九号(ネ)二八五一号、昭四一・六・七第一四民事部言渡)

被控訴人主張の請求原因事実は、控訴人が本件各約束手形を訴外亜細亜塗装株式会社に交付したとの主張部分を除きすべて当事者間に争いがない。

そこで右争点について考えるに、<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。

一、控訴会社は昭和三八年一二月二三日訴外亜細亜塗装株式会社(以下たんに訴外会社という)より所謂融通手形として同会社代表取締役星浩個人の名義で振り出された、受取人欄を白地とするほかその他の手形要件の記載はすべて被控訴会社主張のとおりの約束手形三通(甲第一ないし第三号証の本件各手形)の交付を受けた。控訴会社ではこれらの手形を他で割引を受けるため白地の受取人欄を補充するにあたり、その第一裏書人欄に裏書するのに用いたのと同一の控訴会社の記名ゴム印を押捺してしまつた。そのため控訴会社では右外観より本件各手形が融通手形であることを察知され、第三者から割引を受けえられないことを懸念し、訴外会社に各手形の差替方(再発行)を申し入れていたところ、昭和三九年一月二一日訴外会社の取締役である梅本平治郎が、控訴会社に受取人欄に控訴会社名をペン書で記載したほかはすべて本件各手形と同様の手形要件を記載した約束手形三通を持参した。そこで控訴会社の経理事務を担当していた取締役降旗良平は、同会社の社長室において江口、吉沢の両取締役立会の上右差替にかかる各手形を本件各手形と対照し、その要件の記載が同一であることを確かめた上これを受領した。間もなく、右江口、吉沢の両名はその席を離れ、降旗も本件各手形をその裏書部分を抹消することなく応接用机の上に置いたまま所要で隣室に立ち去つた。梅本はそのすきに黙つてこれを訴外会社に持ち帰つた。

二、控訴会社では同年四月初旬被控訴会社から本件各手形金の請求を受けるまで、右各手形が控訴会社の手元にないことに気付かず、訴外会社に対し梅本が右各手形を持ち帰つた所為につき特段の抗議を申し述べた事実もなかつた。原審および当番における前顕各証人の証言中以上認定に牴触する部分は借信しがたく、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定した事実に徴して考えると、本件各手形差替の事務処理を担当した降旗は訴外会社が前記のとおり新手形を発行しても新たな経済的負担を負うものではなくたんに旧手形を差し替えるにすぎないものであるから、控訴会社が訴外会社より新手形を受領した以上、本件各手形は同会社に返還すべきものと考えていたものであり、したがつて梅本において同手形を訴外会社に持ち帰ることを暗黙の裡に了承しつつこれを応接机の上に置いたままその席を立ち去り、また梅本においても同様に同手形を受領して訴外会社に持ち帰るのを当然のことと考えていたので特に断りもせずこれを持ち帰つたものと推認するのが相当である。

前顕証人降旗良平の証言によると降旗は梅本より右手形を受領した際用務に忙殺されており、そのため旧手形である本件各手形の控訴会社の裏書部分を抹消することを失念したことが窺えるが、このことは同人が本件各手形を訴外会社に返還すべきものと考えていたとの前叙認定となんら牴触するものではない。

そうだとすると、控訴会社は訴外会社に対し本件各手形を任意に交付したものであつて、控訴会社がその裏書部分を抹消しなかつたことは直接の手形当事者間の人的抗弁事由となるにすぎないものというべきである。

ところで、本件においては、他に本件各手形金の請求を拒むに足る事由につき主張立証がないのであるから、被控訴会社の本件各手形金合計金七二四、〇〇〇円およびそのうち右各手形金相当部分に対する各満期の翌日以降支払ずみまで手形法所定の年六分の割合による利息の支払を求める本訴請求は正当であつて、これを認容すべきである。

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