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最高裁判所第二小法廷 昭和42年(あ)1884号 判決 1968年4月26日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人木村憲正の上告趣意は、単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由にあたらない。

しかし、所論に鑑み職権をもって調査するに、原判決は、検察官の控訴を容れ、量刑不当を理由に第一審判決中被告人らに関する部分を破棄したのであるが、その際、第一審判決が被告人に対する本件公訴事実中分離前の第一審相被告人畑島好松に対する現金一〇、〇〇〇円の供与の事実についての判断を遺脱し、これと併合罪の関係にあるものとして起訴されたその余の訴因(一名に対する金員供与、事前運動および六名に対する金員供与の事実)についてのみ被告人を有罪と認めて判決した過誤のあることを看過し、漫然第一審判決の認定判示した事実に法令を適用して自判に及んだものであることが記録上明らかである。すなわち、原判決には審判の請求を受けた事件につき判決をしない違法があるに帰し、右違法は判決に影響を及ぼすものと認められる。

そこで、原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認むべきであるかにつき考えてみるのに、当裁判所大法廷判例(昭和二二年(れ)第七三号同二三年五月二六日判決、刑集二巻六号五二九頁)の趣旨に徴すれば、当該判断遺脱にかかる訴因については、原判決が有罪の判決をしていない以上、被告人としては積極的にその点の無罪を主張して上訴することは許されないものと解すべく、他方、刑事訴訟にあっては、民訴法一九五条に相当する規定を欠き、却って判断遺脱の場合は刑訴法三七八条三号により絶対的控訴理由の一とされていることに鑑み、併合審理を経た数個の訴因の一部についてのみ実体判決がなされた場合においても、当該判決裁判所において他の訴因につき明示的に適法な弁論分離の手続がなされている等特段の事情のないかぎり(本件においてはかかる事情を認め得ない。)、右判決に対し上訴がなされたときは、併合審理を経た数個の訴因全部につき上級審に移審の効力を生じ、もはや当該判決裁判所においてさきに判断を遺脱した訴因につき審判することはできなくなり、また、右判決が上級審において確定するに至ったときは、判断を経なかった訴因についても、併合審理を受けた訴因の全部につき実体判決がなされた場合と同様、再度の公訴提起は許されなくなるものと解するを相当とするから、結局、被告人としては、併合審理を受けた数罪につき二個の有罪判決を受けるおそれはないこととなる。これを要するに、判断のなされなかった訴因につき被告人が有罪であると無罪であるとを問わず、判断遺脱の瑕疵により被告人の側に重大な法律上の利益の侵害を生ずることはないものと認められるから、検察官の上告のない本件にあっては、前示の事由が存在しても、いまだ原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められない。

なお、所論は、原判決が一方において被告人の行為をすべて供与罪にあたるとした第一審判決の認定を支持しながら、他方において被告人が判示保守系議員七名に対し金員の供与または供与の申込をしたことが認められる旨説示している点を捉えて原判決には理由にくいちがいがあると主張するが、原判文を仔細に吟味すれば、右後段は、罪となるべき事実そのものの認定ではなく、単に控訴趣意に対し被告人の一連の行動につき説示しているに過ぎないことが明らかであるから、前後の判示にくいちがいがあるとは認められない。

その他記録を調べても、刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって、同法四一四条、三九六条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 色川幸太郎)

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