最高裁判所第二小法廷 昭和42年(オ)1341号 判決 1971年7月16日
上告人
豊津タマ
外三名
代理人
阿部幸作
越智譲
被上告人
長尾慶一
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告人ら代理人阿部幸作、同越智譲の上告理由第一点について。
被上告人が上告人らの先代亡豊津原三に対し本件建物を賃貸したこと、右賃貸借契約は原三の賃料債務不履行により解除されたことについての原判決の認定・判断は、挙示の証拠に照らして是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。
同第二点について。
亡豊津原三が、本件建物の賃貸借契約が解除された後は右建物を占有すべき権原のないことを知りながら不法にこれを占有していた旨の原判決の認定・判断は、挙示の証拠関係に徴し首肯することができる。そして、原三が右のような状況のもとに本件建物につき支出した有益費の償還請求権については、民法二九五条二項の類推適用により、上告人らは本件建物につき、右請求権に基づく留置権を主張することができないと解すべきである(最高裁判所昭和三九年(オ)第六五四号同四一年三月三日第一小法廷判決、民集二〇巻三号三八六頁参照)。したがつて、原審のこの点に関する判断は正当である。なお、造作買取請求権に基づく留置権に関する論旨は、原判決を正解せざるに出たものである。論旨はいずれも採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致で、主文のとおり判決する。(村上朝一 色川幸太郎 岡原昌男 小川信雄)