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最高裁判所第二小法廷 昭和42年(オ)468号 判決 1971年11月05日

上告人

西村日吉

峰島徳太郎

被上告人

美浪有限会社

代理人

前田常好

復代理人

田中豊次

主文

原判決中上告人の敗訴部分を破棄する。

右破棄部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人峰島徳太郎の上告理由について。

原判決の適法に確定した事実関係によれば、上告人は昭和二七年一月二六日木村留三郎の代理人南野幾太郎から本件各土地を買い受け、同年二月六日その引渡を受け、爾来これを占有してきたが、いまだ登記を経由していなかつたものであるところ、浅田克己が木村留三郎の死亡後である昭和三三年一二月一七日その相続人である中西英子および桑名輝子から本件各土地を買い受け、同月二七日その旨の所有権移転登記を経由し、その後、昭和三四年六月頃中西浅右衛門に対し買掛代金債務の代物弁済としてその所有権を譲渡し、被上告人は同月九日中西浅右衛門から本件各土地を買い受け、中間省略により同月一〇日浅田克己から直接その所有権移転登記を受けたというのである。

右事実関係のもとにおいて、上告人は本件各土地の所有権を時効取得したと主張し、原審はこれを排斥したが、その理由として判示するところは、「同一不動産についていわゆる二重売買がなされ、右不動産所有権を取得するとともにその引渡しをも受けてこれを永年占有する第一の買主が所有権移転登記を経由しないうちに、第二の買主が所有権移転登記を経由した場合における第一の買主の取得時効の起算点は、自己の占有権取得のときではなく、第二の買主の所有権取得登記のときと解するのが相当である。けだし、右第二の買主は第二の買主が所有権移転登記を経由したときから所有権取得を第一の買主に対抗することができ、第一の買主はそのときから実質的に所有権を喪失するのであるから、第一の買主も第二の買主も、ともに所有権移転登記を経由しない間は、不動産を占有する第一の買主は自己の物を占有するものであつて、取得時効の問題を生ずる余地がなく、したがつて、不動産を占有する第一の買主が時効取得による所有権を主張する場合の時効の起算点は、第二の買主が所有権移転登記をなした時と解すべきであるからである。」との見解のもとに、上告人は浅田克己が所有権移転登記をした昭和三三年一二月二七日から民法一六二条一項、二項の定める時効期間を経過したときに本件各土地の所有権を時効取得するものというべきであつて、上告人の本件土地に対する占有は、被上告人が所有権移転登記をした昭和三四年六月一〇日からはもちろんのこと、浅田克己が所有権移転登記をした昭和三三年一二月二七日からでも民法一六二条一項、二項の定める時効期間を経過していないこと明らかであるから、上告人が本件各土地の所有権を時効取得したとの上告人の主張は理由がない、というのである。

しかし、不動産の売買がなされた場合、特段の意思表示がないかぎり、不動産の所有権は当事者間においてはただちに買主に移転するが、その登記がなされない間は、登記の欠缺を主張するにつき正当の利益を有する第三者に対する関係においては、売主は所有権を失うものではなく、反面、買主も所有権を取得するものではない。当該不動産が売主から第二の買主に二重に売却され、第二の買主に対し所有権移転登記がなされたときは、第二の買主は登記の欠缺を主張するにつき正当の利益を有する第三者であることはいうまでもないことであるから、登記の時に第二の買主において完全に所有権を取得するわけであるが、その所有権は、売主から第二の買主に直接移転するのであり、売主から一旦第一の買主に移転し、第一の買主から第二の買主に移転するものではなく、第一の買主は当初から全く所有権を取得しなかつたことになるのである。したがつて、第一の買主がその買受後不動産の占有を取得し、その時から民法一六二条に定める時効期間を経過したときは、同法条により当該不動産を時効によつて取得しうるものと解するのが相当である(最高裁判所昭和四〇年(オ)第一二六五号、昭和四二年七月二一日第二小法廷判決、民集二一巻六号一六四三頁参照)。

してみれば、上告人の本件各士地に対する取得時効については、上告人がこれを買い受けその占有を取得した時から起算すべきものというべきであり、二重売買の問題のまだ起きていなかつた当時に取得した上告人の本件各土地に対する占有は、特段の事情の認められない以上、所有の意思をもつて、善意で始められたものと推定すべく、無過失であるかぎり、時効中断の事由がなければ、前記説示に照らし、上告人は、その占有を始めた昭和二七年二月六日から一〇年の経過をもつて本件各土地の所有権を時効によつて取得したものといわなければならない(なお、時効完成当時の本件不動産の所有者である被上告人は物権変動の当事者であるから、上告人は被上告人に対しその登記なくして本件不動産の時効取得を対抗することができるこというまでもない。)。これと異なる見解のもとに、本件取得時効の起算日は浅田克己が所有権移転登記をした昭和三三年一二月二七日とすべきであるとして、上告人の時効取得の主張を排斥した原審の判断は、民法一六二条の解釈適用を誤つたものであり、これが判決に影響を及ぼすこと明らかである。原判決は破棄を免れない。

よつて、本件について更に右過失の有無、時効中断事由の存否等について審理させるため、民訴法四〇七条一項により、原判決中上告人の敗訴部分を破棄し、右部分につき本件を原審に差し戻すこととし、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(色川幸太郎 村上朝一 岡原昌男 小川信雄)

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