最高裁判所第二小法廷 昭和42年(オ)785号 判決 1967年12月08日
上告人
伊東照子
上告人
松永やゑの
右両名代理人
大矢和徳
前島剛三
佐藤典子
被上告人
恒川又郎
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告代理人大矢和徳、同前島剛三、同佐藤典子の上告理由一、二について
訴外鈴木仙作が上告人伊東に対し、本件第二建物を売り渡し、かつ、被上告人の承諾を得ることなく、その敷地である本件土地(四四・七坪)の過半部分をしめる本件B土地(二三・七坪)を転貸したことは、原審の適法に確定したところである。
ところで、土地の賃借人が賃貸人の承諾を得ることなくその賃借地を他に転貸した場合においても、賃借人の右行為を賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、賃貸人は民法六一二条二項による解除権を行使し得ないものというべきであるが、かかる特段の事情の存在は土地の賃借人において主張立証すべきものであることは、当裁判所の判例とするところである(最高裁判所昭和四〇年(オ)第一六三号、同四一・一・二七第一小法廷判決、民集二〇巻一号一三六頁。)しかして、前記のとおり転貸部分が四四・七坪のうち二三・七坪であることは、右転貸を背信行為と認めるに足りるものというべく、他には、上告人は右転貸につき前記特段の事情を主張立証していないことは原判文上明らかである。そうとすれば、右転貸を理由として、被上告人が鈴木啓市および安藤久子に対してした本件土地全部の賃貸借契約の解除は有効で、鈴木啓市および安藤久子の本件土地に対する賃借権はこれにより消滅したものというべきである。また、右のとおり土地賃借人において右特段の事情について主張立証すべきものである以上、原審がこの点について釈明権を行使しなかつたとて違法となるものではない。したがつて、また、本件土地のうちの本件A土地につき上告人松永になされた賃借権の譲渡に被上告人の承諾がないということを原審が適法に認定した以上、その譲渡が背信行為にあたるかを判断するまでもなく、被上告人が鈴木啓市、安藤久子に対してした本件土地の賃貸借契約の解除は有効というべきである。原判決には所論の違法はない。論旨は採用できない。
同三について。
上告人伊東が本件B土地を鈴木仙作から転貸を受けるについては、賃貸人である被上告人の承諾を受けなかつたことは、前記のとおり原審が適法に認定したところである。所論は原審が適法にした事実認定を非難するものであり、原判決には所論の違法はない。論旨は採用できない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外 色川幸太郎)