最高裁判所第二小法廷 昭和44年(オ)728号 判決 1969年11月21日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告人の上告理由第一ないし第三点について。
所論の原判示が、被上告人加藤の弁済供託を有効なものと判示したものではなく、かえつて、所論の如き賃料債務の不履行を前提としたうえ、その背信性を判断するうえの事情として、その弁済供託の経緯を判示したものにすぎないことは、原判文上明らかである。したがつて、原判決に、所論の違法はなく、所論は、原判決を正解せずしてこれを非難するものであつて、採用に値しない。
同第四点について。
本件賃料の増額請求およびこれをめぐる紛争の経緯、ならびに被上告人加藤のした賃料供託等原審の確定した諸般の事情のもとにおいては、同被上告人の所論賃料債務の不履行は、未だ背信行為と認めるに足りない特段の事情があるものというべきであり、これを理由とする本件賃貸借契約解除の意思表示は無効であるとする原審の判断は相当であり、原判決に所論の違法はない。所論引用の判例は本件に適切でなく、論旨は採用できない。
同第五点について。
所論は、原審において上告人が主張せず、したがつて原判決が判断しなかつた事柄について原判決を非難するものであるのみならず、原審の判断はなんら所論引用の判例と抵触するものではないから、論旨は採用することができない。
同第六ないし第九点について。
原審は、所論第二審判決言渡前の賃料債務の不履行については、未だこれをもつて背信行為と認めるに足りないとし、かつ、それ以後の供託については、これを有効と判示しているのであつて、右判断は、原判決挙示の証拠およびこれによつて原審の確定した諸般の事情に照らして肯認することができる。したがつて、原判決に所論の違法はない。所論引用の判例は、すべて本件に適切でなく、所論は、原判決を正解せず、独自の見解にたつて原判決を攻撃するものであり、すべて採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 色川幸太郎 裁判官 村上朝一)