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最高裁判所第二小法廷 昭和44年(オ)980号 判決 1974年3月01日

上告人

株式会社和歌山相互銀行

右代表者

尾藤与七

右訴訟代理人

北村巌

外四名

被上告人

杉原邑市

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人北村巌、同北村春江、同松井千恵子、同山本正澄、同古田冷子の上告理由第一について。

被上告人は、被上告人が経理係長代理として勤務する訴外林株式会社(以下、訴外会社という)から、訴外会社の金を被上告人の名前で上告銀行に対し期間三か月の定期預金にし、期間満了後は上告銀行から返還を受けてそれを再び訴外会社に戻し入れることの委任を受け、その委任事務の処理として、自らまたは部下の訴外伊藤勝正を通じ、上告銀行梅田支店に対して被上告人名義で本件定期預金の預入れをし、同支店から被上告人名義の定期預金証書の交付を受けたものであるから、本件預金の預金者は被上告人であると認めるのが相当である旨の原審の認定判断は、原判決の挙示する証拠に照らして首肯するに足り、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同第二、第三について。

金融業者訴外木下俊文は、訴外大建工商株式会社(以下の大建工商という)が上告銀行からいわゆる導入預金と見合いに無担保融資を受けるものであることを承知のうえ大建工商のため導入預金をする者の斡旋をいわゆる導入屋である訴外一見八郎に依頼し、一見は、かねて多額の資金を導入預金のため運用していた訴外会社の被上告人に上告銀行梅田支店に導入預金をするよう勧誘し、被上告人は、裏金利をえてこれに応じ、同支店に本件預金をしたところ、同支店は、本件預金を担保にとらないで大建工商に融資したものであつて、要するに、被上告人は、一見、木下を介して大建工商と通じて、本件預金を導入預金として同支店に預け入れたものというべく、本件預金契約は、預金等に係る不当契約の取締に関する法律(以下、導入預金取締法という)二条一項に違反することが明らかであるとした原審の認定判断は、原判決の挙示する証拠に照らして首肯するに足りる。

しかるところ、論旨は、本件預金契約は、強行法規である導入預金取締法二条一項に反し、また、公序良俗に反し民法九〇条によつて無効であるというので考えてみるに、導入預金法は、金融機関の経営の健全化、ひいてその一般預金者の保護を図ることを目的とする政策的な取締法規であつて、その主眼とするところは、金融機関が特定の第三者に対してする不当融資等の禁止にあること、しかも、導入預金の因つて来るところは、預金量拡大を図る金融機関の態度にあることを考えると、一般に、預金等の契約自体は、その私法上の効力までも否定しなければならないほど著しく反社会性、反道徳性を帯びるものと解することは相当でない。したがつて、本件預金契約が導入預金取締法に反し、当事者が刑事上の制裁を受けることがあるとしても、右契約を私法上無効のものというべきではない。また、原審の適法に確定した事実関係を勘案してみても、いまだ本件預金契約をもつて公序良俗に反する無効のものと解することはできない。

そうすると、その余の点について判断するまでもなく、本件預金の返還を求める被上告人の請求は理由があるものというべく、これと同一結論に出た原判決は結局相当であつて、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(岡原昌男 小川信雄 大塚喜一郎 吉田豊)

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