最高裁判所第二小法廷 昭和45年(あ)271号 決定 1971年4月09日
主文
本件各上告を棄却する。
理由
弁護人武田庄吉の上告趣意のうち、憲法三一条違反をいう点の実質は単なる法令違反の主張、その余は、単なる法令違反、事実誤認の主張であり、弁護人小林宏也の上告趣意のうち、憲法三一条違反をいう点の実質は、単なる法令違反の主張であり、判例違反を主張する点は、引用の判例は本件と事案を異にし、適切ではないから、所論はその前提を欠き、その余は、事実誤認の主張であって、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
なお、預金等に係る不当契約の取締に関する法律二条一項の「特定の第三者と通じ」とは、預金者と特定の第三者との間に意思の連絡のあることを意味するものではあるが、それは必ずしも直接であることを必要とせず、媒介者がある場合においては、その者を介して意思の連絡があれば足りると解するのが相当である。すなわち、預金と融資との間に、預金がなされることによって融資が行なわれ、融資のために預金がなされるという相互依存の関係があり、預金者においてその関係のあることを知っていれば、特定の第三者または預金者がだれであるかにつき、互いに具体的個別的に認識することがなくても、媒介者を介して意思の連絡があるものとして、同条項の右の要件をみたすものというべきである。原審の認定するところによれば、道央水産食品株式会社総務部長兼株式会社道央ビルディング常務取締役武田庄司は、右両社に対する融資を得るため、順次、越後孝夫、村田新一郎を介して小林正雄に導入預金のあっせんを求め、小林正雄はそれに応じて被告人らに対し預金方を勧誘したところ、被告人らは、武田庄司の氏名や前記両社の名称を確知しないまま、本件預金をすることによって融資の利益を受ける第三者があることを認識したうえで、その第三者に融資を受けさせるためにこれを承諾し、原判示のような契約をしたというのであるから、本件においては、媒介者の越後孝夫、村田新一郎および小林正雄を順次介して、被告人らと前記武田庄司との間に意思の連絡があったものと解すべく、したがって、被告人らについて前記法律二条一項違反の罪の成立を認めた原審の判断は、正当としてこれを是認することができる。
また、記録を調べても、刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない。
よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 村上朝一 裁判官 色川幸太郎 裁判官 岡原昌男 裁判官 小川信雄)