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最高裁判所第二小法廷 昭和45年(あ)699号 決定 1974年9月24日

本店所在地

東京都台東区浅草橋五丁目六番一三号

株式会社 佐々木香料店

右代表者代表取締役

佐々木敏雄

右の者に対する法人税法違反被告事件について、昭和四五年二月二五日東京高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から上告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人柴田勝の上告趣意は、憲法三一条違反をいう点もあるが、実質はすべて単なる法令違反、事実誤認の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 岡原昌男 裁判官 小川信雄 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 吉田豊)

○昭和四五年(あ)第六九九号

被告人 株式会社 佐々木香料店

弁護人柴田勝の上告趣意(昭和四五年五月一一日提出)

第一点 原判決は、第一審判決を支持し有罪の言渡をしたが、原判決には左記の理由により審理不尽の違法があり、憲法第三一条並びに法人税法第四八条第一項、同法第五条に違反すること、及び憲法の解釈に誤りがあること明白であるから刑訴法第四〇五条及び同法四一一条第一項に依り破棄さるべきである。

(其の理由)

原判決は、被告人会社の主張事実すなわち

『(一) 被告人佐々木佐謹吾は既に昭和三七年十月二九日に死亡して居り、而も検察官が本件の事実立証に供した直接証拠は、その大部分が亡佐々木佐謹吾の自白に基いていること。

(二) 法人税法第五一条に照らし罰せらるべき同法第四八条の違反容疑者が、第一審判決以前に死亡し公訴棄却されて居り、自ら本件不正行為の立証手続に参加して自己の利益を伸長する機会を全く失つていることは不当で、憲法第三一条に規定されている適正手続に違反するものであること。

などに依り本件は無罪であると思料する。』

とする主張に対して原判決は、

『よつて記録を調査するのに、検察官が本件公訴事実の立証に供した直接証拠が、人的証拠としては亡佐謹吾の自白がその大部分を占めていることは窺知できないではないが……法人税法第四八条の違反容疑者である亡佐謹吾が税務当局の査察に際し、正しい所得計算に協力した事実があるからといつて……被告会社を有罪として処罪することは憲法第三一条所定のいわゆる適正手続に違反するということはできない。』

と判示しているが、しかしその判示理由は抽象的且漠然とした判断に過ぎず、原判決に於ても人的証拠は本件違反容疑者である亡佐謹吾の自白がその大部分であることを認めているとおり、しかも佐謹吾が税務当局の査察に際し、所得計算に協力した事実がある。

かゝる事実を綜合すれば、まさしく上告人の論旨の通り「本件違反容疑者たる亡佐謹吾が、自ら本件不正行為の立証手続に参加して、自己の利益を伸長する機会を全く失つていること」になり、本件手続は明らかに憲法第三一条の適正手続違反となるから破棄さるべきである。

第二点 原判決は、被告人会社の主張に対して理由を附せず又は理由不備及び重大な事実誤認の違法を犯して居り、又法人税法第三一条二に違反するから刑訴法第四一一条第一項により破棄さるべきである。

(其の理由)

原判決の理由を詳細に検討すると、左記被告人会社の各主張事実に対し慢然と第一審判決を支持しているに過ぎないと思はれるので、以下各項に関しその上告理由を詳述する。

一、財産増減法に関して

右に関する被告人会社の主張は、

(一) 法人税法第三一条の<2>において「当該法人の財産若しくは債務増減の状況……に依つて所得金額を推計してこれをなすことが出来る」とあるが、財産増減法は単に財産の増減を調査することに依つて所得(収益)の推計をするものに過ぎないから、特に「厳格なる証拠」に依らざる限り処罰の要求は出来ない筈で、本件刑事手続になじまないことが明白である。

(二) 所得の決定は、原則として損益計算法でなすべきであり、特に本更生に関しては、法人の所得決定の重大な要素である被告人会社の仕入の大半を占める輸入商品に関する調査を省き、又棚卸に関しても、実地調査及び之に関連する事項について国税調査官自ら調査した事実がなく、単に期末の総財産の数字から期首のそれを差引き、その差額を所得金額に見做すなどは明らかに違法である。

(三) 厳正なる所得税額の算定は、複合的な勘定科目の加減乗除に依つて導き出さねばならず、単なる増減のみに依つた本件の計算方法では正確なる所得金額を決定出来ない筈で、この点からも違法たることを免れない。(最高裁昭和三七年(あ)一五五七号、昭和三八年十二月十二日小法廷判決参照)

仍ち所得金額を財産増減法に依つて確定させたこと自体が、証拠並びに根拠の全くなかつたことを立証していると思料する。

二、右に関連して、本件の調査主任であつた菊地秀臣証人の法廷に於ける証言も之を裏書している。

仍ち菊地調査主任は第二八回公判において検察官の質問に答え、家宅捜査の状況の中で、

「所謂損益関係、例えば売上がこうなつているとか、こう云つた様な記載をしたものは、所謂一口に云えば、売上が落ちていると云つたような関係の証拠書類と云つたようなものは、その時全然発見されていない訳です」

と証言し、

更に同日、佐々木香料店仕入関係の七割を占める輸入関係の商品仕入の調査が無い件について、弁護人が、「損益計算法にしろ、財産増減法にしろ、所得の決定の場合、何れにしても仕入、販売の二つを調査するのが適正なのに、本件の場合は仕入関係が殆んど調査されていない点はどうか」

との質問に答え

「それは先程も出ましたですが、要するに財産法で行くようになつた理由と云うものが、所謂会社計算以外の、所謂別途損益と云いますとちよつと表現があれですが、所謂別口の損益計算が証拠物件上、そう云つた方向では組めないと云う当初の見込みもありましたし……」

と証言し、更に同弁護人の

「そうすると、本件の場合どこから損益が出ているか、ということを大体でも正確に把握するということは思われなかつたか」

の質問に答えて、

「その期間増差というものだということが、財産の場合はある程度描ければ、それで意味が立つと思うんです」

と述べている通り、「法人の財産増減」に対する具体的な根拠及び証拠が極めて薄弱であり、且税務当局は単に個人の預金とか、その他の財産を確認する資料をもつて、調査期間以外をも含めた亡佐々木佐謹吾及びその他の個人の財産並に一切の行為及び行動並に適法になされた不動産、貸付金等の法律上の効果を否認しているのであるが、更に先に述べた法人税法第三一条の三による同族会社の行為、又は計算の否認規定は、更生をなすその調査期間内における税務計算上においてのみ、その行為又は計算を否認して所得金額を計算出来るとした規定であつて、過去数年又はそれ以前において、その行為に依つて生じた法律上の効果を無効にするものではない筈である。

三、菊地調査主任は、亡佐々木佐謹吾長男敏雄に対して調査の期間中に―この事件は出刀一挺出ないから、殺人罪にはならない―などの言明をして居り、事件になし得ないから推定でゆくことを暗示している事実がある。

以上を綜合して、本件所得税額の決定は、推定に依る計算であつたことは明白で、当局は之等推定数字の合理性を裏付けすべく、調査担当者の作文にも等しい質問顛末書、信憑性のない第三者の質問顛末書などを利用し、且何等の関係もない証拠を列べ上げて綿密正確なる調査をなしたるかの如く装い、過大な算出税額を正当化しようとしているが、その数字は単なる推定により決定したものに過ぎないから、何等の厳格なる証拠を有するものではないと被告人会社は主張する。

ところが右の主張に対して原判決は「財産増減法に依る所得の算定は違法ではない」との説示をなしたがたとえ法人税法の所得決定の方法としては違法でないとしても、厳格なる証拠資料に基き処罰さるべき刑事裁判においては、単なる所得の計算方法として財産増減法の理論を援用すべきではない。

即ち「財産増減法」の言葉自体あくまでも税務用語に過ぎず、国税当局捜査官が所得を確定したのは、旧法人税法第三一条の三及び三一条の四の<2>を適用せるものと考えられ、之等の条文に照らしても「同族会社の行為又は計算がたとえ事実に反したものでなく、また法律に違反したものでなく、有効且適正なものであつてもこれを容認した場合においては法人税の負担を不当に軽減する結果となると認められる場合は、その行為又は計算にかゝわらず法人税の所得を計算することが出来るとする」規定であり、本件記録を綜合しても又前記菊地証人の証言その他に依つても、所得決定に関し証拠不備のため前記条文を引用して推計によつて税額を計算したものと考えるのは極めて常識的な判断であり、

加之第一期、第二期分棚卸商品の金額が全く事実と相違している点及び第二六回公判における佐々木敏雄証言でも明白なる如く、調査官が自ら佐々木敏雄に作成せしめた証言書を信用力なしと判断した点などについても当然関係書類を再調査すべきも、かゝる事実のなかつたこと及び法人税法の規定が税額決定のための便法にすぎないことは、前記法人税法の各条文に徴して明白なことなどから「厳格なる証拠」を要求さるべき本件刑事手続に違法又は適当ならざる点のあることは明らかである。

第三点 簿外預金の蓄積とその帰属に就て

右に関し被告人会社は左記の通り主張する。

仍ち、被告人会社が争点として特に主張することは、本論告に言う「第一期以前における預金の帰属」自体が問題の中核であり、之を度外視して、之から派生した当該年度の増差分の帰属を立証するなど無意味というべきである。

尚、之に関して検察側は論告要旨第三問題点についての意見一、「簿外預金の帰属について」で一応言及しているが、それには何等具体的根拠がなく、想像に依る推定に過ぎないものであり、之を裏付ける立証資料は存在しない。

依つて、以下に之等過年度における預金の帰属に関する事実状況及び被告人会社の主張を、冒陳第四の(二)各修正貸借対照表を引用して詳述する。

右の修正貸借対照表は、国税局において、調査期間である昭和二九年十一月三〇日現在の個人法人を合算する資産を一括して、法人資産並に法人別途資産として計上し、之を基礎にして以後の利益を財産増減法で算出した結果を表現しているものであるが、本修正貸借対照表においては、当局の称する期首別途資産なるものを期首仮受金、金一億四九四七万四〇八二円と見合つて計上しているが、会計学上仮受金とは、あくまで負債勘定であつて、之が誰からの負債であるかの説明を要するにも拘らず不明である。

尚、第一三回公判(昭和三七年十一月二七日)における証人駒形行雄の証言及び第二九回公判(昭和三九年二月十四日)における証人菊地秀臣の証言においても、結局「財産法による税務上の期間計算の必要上、この金額を会社資産であるとの前提のもとに仮受金として表現した」と述べているが、会社資産と認定した根拠の証明はなく、之等の預金並に物件即ち商品各種、銀行預金、不動産及び各種株券並に担保物件、貸付金及びその他の物件は、当時数年又はそれ以前から亡佐々木佐謹吾及びその他の一族が平隠且公然と自己の所有物であるとして、銀行預金その他の方法により管理し、又私用に利用したものであり、之等調査期間前における個人資産を会社資産と認定することは、何等の法律的根拠なしに、事実及び個人の意志を無視するばかりか、個人の財産権をも侵害するものであり、又之等の資産より生ずる預金利子並にその他の利益に関しては、所得税法第三条の二、同第四六条及び法人税法第七条の三の規定等による法人、個人を問わず、その所得の真実の享受者に課税することを明らかにした実質課税の原則に依つて本法人税法事件とは別個に、個人法人財産を分離の上、審理すべきが至当である。

尚、之等個人資産を法人資産に繰入れる根拠に関して菊地調査主任は、第二九回公判において検察官の質問に答えて証言しているが、之を要約すると、

<1> 被告人会社関連預金を把握した。

<2> 亡佐々木佐謹吾が別口預金であると表現した。

<3> 会社の設立が古くて、昭和七年株式会社になり、社長及び役員が会社の営業部類に属する業務を行つていた。

<4> 資金の増加する収入源が不明である。

<5> 個人として納税申告をしていない。

等であり、かゝる点から之等預金は会社別口預金であると認定した上、告発したと述べているので以下その各項について反論する。

<1> 被告会社関連の預金は、個人及び法人を含む意味だけであつて、之等の預金があつたのは事実であるが、之が直ちに会社預金としての帰属の認定の根拠にはならない。

<2> 亡佐々木佐謹吾が之等の預金は会社の別口預金であると、質問顛末書で供述しているが、同人は昭和三七年九月二七日の臨床尋問において全面的に取消して居り、又同人は同年十月二九日に死亡し、その後更に弁解の主張を申し述べる機会を失つている訳であるから、之を補足すると、亡佐々木佐謹吾は査察強制調査の当日(昭和三二年二月十三日)水野事務官の質問一五に対する答弁の中で、「実際棚卸をして正味財産を把握することと、老令であるから、もしものことがあつた場合に子供等に遺言状の代りに実際の正味財産を出しておく必要上、個人会社を問はず財産目録を作成するため……」と述べ

又質問二〇に対する答弁の中で、

「要するに個人法人を通ずる全財産は、右の財産目録が全部であり……」と述べ、この目録が個人法人を合算した被告人会社及び佐々木家の全財産であると証言している。

之は査察強制調査当日の査察官に対する供述であるから本人の真実の気持を端的に表明した答弁であると思う。

このことは論告要旨問題点の意見一においても、

「押収になつた財産目録メモは、会社及び個人の総財産を含めて記載されているが」とあり、検事も亦これを認めたところである。

然るにその後において国税当局は、亡佐々木佐謹吾の右のような供述の真実性を抹殺して、総ての個人財産を否認すべく、計画的な作文をつくり上げ、終始一貫亡佐々木佐謹吾の意志に全く反する。

「会社の簿外別口預金です」

「簿外別口預金から貸しました」

「それは簿外別口預金です」

など、本人の経理上の無知識を利用して「簿外別口」という意味を誤解納得させることに努めている。

この事実の状況は、本人死亡のためその詳細を述べることが出来ないが、佐々木佐謹吾はあくまで「簿外別口」という言葉の意味を「会社以外の個人の預金及び資産」と解釈していた為に之等の作文の意味を誤信して記名捺印したものであつて、当局が誤信させるべく、計画的に誘導し、或いはおだて、或いはおどしたりすることに依つて記名捺印させたものであることは、之等の質問顛末書を一読すれば明瞭であり、本人の臨床証言においても申述べているところである。

従つて佐々木佐謹吾の各質問顛末書の記載内容は、信憑性が乏しく証拠にはなり得ない。

<3> 会社設立時期及び役員が会社業務と同一の営業を行つていた点については次の通り反論する。

株式会社佐々木香料店は昭和七年に資本金一万円で設立したものであるが、昭和二十年三月十日及び同年五月の空襲に依つて会社の全資産を焼失して壊滅状態となり、以後数年に亘り事実上会社の機能は停止していたので、亡佐々木佐謹吾及びその同族がそれぞれ個人的に経済活動せざるを得ない状況が続いたものである。

すなわち、本業である香料は、不急不用品であるとの当時の国策上の建前で、昭和十二年頃より輸入が困難となり、更に昭和二十年の終戦後しばらくの間は、全国的に全く品物のない状態が続いた為に、香料以外の商売に頼らざるを得なくなつた。

例えばヒマシ油、木、ステアリン酸等の工業用原料及び染料、靴墨、化粧品その他商売になるものは何んでも取扱い、全く平常の経済情況に依らない特殊な個人的売買を続け、来たるべき正常な経済活動の為に資金を蓄積したものである。このことは当時行はれた預金封鎖に際し、会社預金は全くなく、佐々木佐謹吾個人名義の預金のみが約四十万円位封鎖された事実、及び会社が昭和二七年の増資に至るまで一万円の資本金に過ぎなかつたことから見ても明らかである。

その後、昭和二三年頃になつて、当時の進駐軍関係を通じて密輸その他の形で外国香料がぼちぼち市場に現われるようになり、佐々木一家としても本業が香水であるから、このようなものを取扱はないと商売にならないという訳で、遂次之等の品物をも取扱うようになつたが、かゝる取引は勿論正規のものではなく、且すべて現金取引であつた為、資金のない会社としては出来る筈がなく、全部個人関係の取引として行はれ、このようにして個人資産は次第に増え、昭和二四年頃には三菱銀行浅草橋支店の佐々木洪之名義当座預金は三、〇〇〇万円以上に達した。(佐々木佐謹吾の臨床尋問の結果参照)

昭和二五年一月に正式に貿易が再開され、一部香料に関しても数量の割当制度の下に、徐々に輸入されるようになつたが、輸入手続に当り、通産省に申請するとか、銀行で信用状を開くとかの場合、従来のような個人名義では、対外的にも或いは外国の輸出商社に対する信用上からも具合が悪いと云うところから、初めて株式会社佐々木香料店の名称を使つて申請もし、又輸入の手続もしたので、この時点から株式会社佐々木香料店としての営業が再開されることになる。

しかし、本来なれば、こゝで実体の消滅していた株式会社佐々木香料店を解散するか、或いは休業させて、新に資本金を募つて新会社を設立発足させるのが妥当であつたが、当時偶々従来の会社名があるという処から、便宜上この名前を使用した訳である。

勿論、株式会社佐々木香料店なる法人には資金が全くないのであるから、会社名で輸入業務はするものゝ代金決済の面になると、個人の資金を会社が借りるとか或いは代払いして貰うという状況で、又個人としては取引の都度之を回収する積りではあつたが、次第に営業が活発となつてきた為、会社名による資金繰りが忙しくなり出し、回収する余裕がなく、逆に個人の資金をどんどん注ぎこまねばならなくなり、その結果昭和二九年十一月三十日現在四、七一九万八九〇五円の個人貸付金を生ずるに至つた。(証人木村事務官の証言に引用せる表裏資金交錯状況表参照)

又、従来個人で取扱つた商品とか、貸付金とか、或いは商品を現金で安く買つてくれというような時に、個人には金があつたので、遂これを引受けることになり会社取引とは別の個人取引が出来て二本建となつた。

その他個人預金よりの利子及び貸付金の利子等も徐々に蓄積されていつた訳である。

又、商品に関しても、昭和二五、六年頃以降の佐々木個人から第三者に対する貸付金の一部を、昭和二八、二九年頃までの間に代物弁済されて得た商品とか、担保物件の買受など、更に昭和二八年以降三一年頃までの間における現金売物(納品書、領収書等のない換金投物)で、会社に持込まれたものゝ、会社には資金がなかつたことから佐々木個人で買取るなどした商品等が累積してきたものである。(昭和三九年七月二日公判における証人佐々木敏雄証言参照)

又、株式会社佐々木香料店は、創立以来十数年に亘り、引続き各事業年度の会社確定申告を所轄税務署に提出して居り、この更生期間以前の会社決算に異議があれば、各事業年度に亘つて更生すべきであり、之等と共に除斥期間を過ぎた昭和二九年十一月三十日現在の個人資産を、会社資産として設定したことは、法人税法第三一条の二(現行法国税通則法第七〇条)の規定に反する行為である。

<4> 収入源が不明であることは、会社の資産と認定するに足る証拠が存在しないことゝ同じである。

<5> 個人申告に関しては、前出菊地証人も第二九回公判で、「蛇足ではあるが」と前置きした後「個人の申告がないから、すべて法人に帰属すると決めて申上げた訳じやないです」と証言している通り、会社の所得とは何等関係がない筈である。

以上を綜合しても、何等具体的証拠にはなり得ないこと明白であるが、更につけ加えると、同じく第二九回の公判において同証人の菊地調査主任は、弁護人の

「二九年十一月以前の預貯金について、会社のものと認定する根拠というものはないのですね」

との質問に始まり、次のような質問応答をしている。

(答) それは一部反面調査によつて出ている訳です。

(問) その場合でも、反面調査はなされていない訳ですね、一部だけで。

(答) 一部はして居ります。それは可能な分だけですね。

(問) 一部だけであつて、全部が会社のものだと認定出来ないでしよう。

(答) それは矢張り供述なり、周囲の状況なりから判断して決める外ないと思います。

全部の数字を洗い出した訳ではございません。

右の問答に依つても明らかな通り、「認定の根拠」は極めて薄弱なものであり、立証に足りる証拠事実は全くないのであるから、重大なる事実誤認であると言はざるを得ない。

以上の如き論旨の被告人会社の主張に対して、

原判決は、

「原判決は、これを含めて昭和二九年一一月三〇日現在の簿外資産に対応して、負債勘定である期首仮受金一億四、九四七万四、〇八二円を計上して処理し、これを基礎とし……なるほど、原判決が右のような処理をしていることは明らかである」(判決文七頁裏三-八行目)

と判示し、更に

「個人資産であると認められない」

と判示するが、右判示の内更に納得出来ない点は、

「財産増減法による所得計算における税務技術として期首仮受金として計上したものであり、又佐謹吾の供述及び自認並に前記木村、駒形、菊地、戸谷各査察官の各原審公判証言によれば……これらの預金が被告会社預金であることが充分裏付けられるといわねばならぬ」

との判示である。仍ち被告人会社は、前述の通り第一三回公判における証人駒形行雄の証言、及び第二九回公判における証人菊地秀臣の証言、

「財産法に依る税務上の期間計算の必要上、この金額を会社資産であるとの前提のもとに仮受金として表現した」

以下何れの原判決主張の公判証言に依るも、昭和二九年十一月三〇日以前の被告人会社の預金であると裏付けられる事実(大部分が被告人会社の商品売上や原材料売却の際の代金が源泉となつていることが判明したという)は存在しない。

又更に原判決(八頁末行)は、「そして記録によれば」以下において被告人会社資産に認定した理由の説明を行つているが、右認定に関する法律的根拠の判断はなにもなく、之等調査期間以前の個人資産を会社資産と認定するなどは、事実及び個人の意志を無視したものと言わねばならない。

更に、本件認定は、前記第一点同様法人税法第三一条三及び第三一条四の四を引用したものであるが、本件に関する浅草税務署の被告人会社に対する更正決定は昭和三五年二月二五日であり、同時点においては昭和二九年十一月三〇日の決算期日は当然税務時効が完成されて居り、法人税法第三一条の二(現国税通則法七〇条)の規定により、前記第三一条の三及び四の二による積立金額等の推定は出来ない筈であるから、明らかに法人税法第三一条の二に違反した行為である。

第四点 棚卸商品等の圧縮について

原判決では、本件各期末における在庫圧縮計上の事実には疑問の余地がなく、

第一期商品計上洩 四、〇二〇万五、三五六円

第二期商品計上洩 四、八三二万七、八八九円

と判示しているが、右金額には全く根拠がなく、事実に一致しない数字である。

仍ち、昭和四四年六月二二日付塚谷悟検事の釈明書に対する被告人会社の釈明書に依つても明らかなとおり、「右商品棚卸高一覧表は(記録一五四八丁乃至二五六三丁、以下単に「一覧表」という)証人佐々木敏雄が事件取調中に、調査官の要求により作成したものであり、同表の摘要欄の記載は国税局の希望により最終仕入原価法で商品の単価を計上すべく、記憶を辿り該当商品の決算日に近い仕入の一例を拾い出したものに仕入先及び日付又はインボイスの所要項目を掲記したものであるから、実際の在庫数量は必ずしも右一覧表記載の在庫と一致するものではない。このことは、証人佐々木敏雄の第二六回公判における証言でも明らかである。

尚、釈明書中

『又右一覧表の摘要欄記載の「31・11・30L/Dインボイス」等と記載されているものについては、実情としてインボイス日付というものは船積会社が船積港出港の日付を以つてその日付としインボイスを作成し、船積書類の一部として送付するもので、現実の問題として本国を11・30に出港した同品が、同じ11・30の被告人会社の在庫として存在すことはあり得ないことで、インボイス自体すら11・30には被告人会社に届いている筈のないことも明白であり、このことは尚更佐々木敏雄の証言を裏付けるものである』

と説明した通りであり、検察官主張の如き前記の棚卸高一覧表記載の在庫高金五二、七八六、〇五四円は実在の金額ではない。

このことは右被告人会社作成釈明書に対する昭和四四年九月十八日付、古谷検察官の釈明書においても明白である。

仍ち同検察官は「同書第一、弁護人の釈明一について」に対する釈明中で、

「(三) ……しかしながら、右はいわゆる未着商品であり、右の商品は右船積より以前に被告会社と相手商社との間に売買の契約が締結され、債権債務が確定しているものであるから、税法のいわゆる発生主義(債権確定主義)の原則から、当期中の仕入に計上すべきものであり、いわゆる未着商品は現実に法人の事業所に存在しないが、棚卸資産に含まれるものであることはいうまでもない。」

と反論している。

しかしながら未着商品が棚卸資産に含まれることは考えられるが、前記売買契約が締結され、債権債務が確定したと主張することは、全くあり得ないことであり、被告人会社としても、之を仕入に計上した事実はなく、検察官の右主張は論理並に商取引の実情を無視したものである。

更に第二期に関しては、前記釈明書に何等触れて居らず、この点でも被告人会社の左記主張が正しいものと言はざるを得ない。

仍ち、証拠と称する三八・九・一三第二五回公判に於ける佐々木敏雄証言の一部を引用した「棚卸明細表」は佐々木敏雄が三三・二・一三の棚卸表と称するものを基礎に売買の加減及び調合品の還元により作成したものであり、国税当局において調査検討したものでないことは、第二七回公判(三九・一・一七)における弁護人及び証人駒形行雄の質問応答で明白である。

即ち、

(問) 三三年の初めに、あなたの方で査察に入つて、棚卸の計算関係を確認されたと、それだから三二年の期末の在庫は三三年の査察に入られた在庫を逆算して、三二年の期末の在庫を把握された訳ですね。

(答) えゝ。

(問) その場合に佐々木敏雄に棚卸の計算関係をさせたと、その後あなたの方で資料等に基いて佐々木敏雄の計算が正しいかどうかを一応調査したと、こういうような証言になつて居るんですが、この点は。

(答) えゝ。

(問) 只実際は一応うのみにされたんじやないでしようね。佐々木敏雄計算の在庫を。

(答) 検査程度ですね。

(問) ほかの資料とか、何んとかじやないんですか。

(答) えゝ。

右の通りであり、更に之と関連して三八・九・一三第二六回公判で佐々木敏雄は、検察側の昭和三三年十一月三十日期末棚卸高の計算は、どう云う根拠或いは資料に基いて作られたものか、との質問に答えて、

「之は、こゝにも書いてあります通りに、三三年の二月十三日の実地棚卸と称するものを基礎に致しまして、売上仕入を加減し、更にその調合品を還元して呉れと云はれましたのですが、之に関しましては、こう云うことは私としては不可能だということを申上げましたのですけれども、そんなことはないだろうというお話なので、一応作業はやりましたのですけれども、実際問題として途中において完全に数量を算出することが困難になりました為、その不明分に関しては私の推計に依つて記録したような次第で御座います」

と証言し、推計に依つたことを明らかにしているので、この当期末計上漏四八、三二七、八八九円は根拠のない数字である。

尚厳格な数字を求めるならば、前記作業に用いた帳簿、調合帳其の他一切の証拠品を再調査すべきである。

更に弁第五号国税査察官作成(三四・一二・八)の法人税額計算書二五枚目、別口勘定貸借対照表(三二・一一・三〇現在)に於ては、商品四五、九五二、三八八円とあり、この金額を元に財産増減法に依つて法人税額を計算して居り、原判決においては四八、三二七、八八九円と認定しこの差額二、三七五、五〇一円を加算していることになるが、之に関する何等の説明もなく、各異つた所得の計算をしているのは理解し難く、審理不尽の違法があり、商品計上洩四八、三二七、八八九円は、その数字的根拠が立証出来ないものと言はざるを得ない。

依つて此の点に於ても、原判決は重大な事実誤認があるから破棄さるべきである。

第五点 法律上税務上の是否認及び犯意の問題について

原判決は、被告会社主張の「法律上税務上の是否認及び犯意の問題」につき、所謂申告所得と実際所得との差額の全部について、その差額がいかなる勘定科目のいかなる脱漏額によつて構成されているからと云うことまで認識する必要はなく、不正経理によつて実際所得よりも過少な申告所得を算出して法人税を逋脱しているとの概括的な認識があれば、逋脱犯の犯意としては充分であり、と判示して検察官主張の概括的な認識があれば充分としているが、本件のような法人税逋脱犯における犯意は、概括的犯意では足らず、所得の源泉である個々の取引についての具体的犯意が必要である。

仍ち、この点についての上告人の主張は左記の通りである。

検察側は、「法律上、税務上の是否認」は「所得計算上当然必要」とするものであるが、之は被告会社の「犯意」の問題と云うことが出来るであろうと主張している。

然しながら、法律上青色申告の承認の取消しに伴う是否認に就いては別として、その他の是否認に就いては所得の計算上、必ずしも必要ではない。

即ち、適正な会計諸原則を選択適用することに依つて、是否認しなくても所得の計算は出来るからである。

次に、検察側は、逋脱の犯意につき附言し、抑々本件のような逋脱犯における犯意は、概括的犯意で足りる旨を主張したが、

前述の通り税務計算上、必ずしも是否認を行う必要はなく、当該是否認によつて逋脱所得の増加をきたすもの(例えば貸倒準備金の否認、仮払事業税認定損の否認等)は、当然処罰の対象から除算すべきである。

何んとなれば、検察側はその論告で、犯罪の内容として逋脱所得の内容をとり上げて「各年度毎に不可分な一個の年度所得があり、故意の対象はそれ自体であつて、それを構成している各個の勘定科目の個々の内容に対してではない」と云つて居るが、

決算に於いて最終的な所得を算出する為には、所得を可分なものとして取扱うことからして、結局各所得の原因に遡つて当該取引につき、犯意があつたかどうかを個々別々に検討すべきである。

従つて税務上の是否認も所得構成の増減の重大な要素であるから、之に依つて増加された所得額についても犯意の認識が必要であることは論を俟たない。

然し、右税務上の是否認に就いては、本件告発公訴に依つて初めて本件是非認が発生したもので、被告人会社としては、本来予想しなかつたものであるから、所得逋脱犯意が全くなかつたこと明白である。

要するに、本件の所謂是否認の問題の如き行政犯においては、検察側の言う如き「概括的犯意」では足りず、違法の認識を待つて初めて行為者の反社会性の表現としての犯意の要件が具備するものと考えるのが妥当である。

右の意味から、原判決は、逋脱の犯意につき法目解釈を誤つたものと言はざるを得ず、

従つて、この点においても審理不尽の違法又は理由不備の違法があり、判決に影響を及ぼすべき法令の違反があるから、破棄さるべきである。

第六点 原判決判示第一、第二の各年度の逋脱所得の内容に対する勘定科目の金額の確定について

原判決は、冒頭の金額の確定について判示し、被告人会社の主張をしりぞけ、検察官主張事実を認容し、第一審判決を維持したが、原判決には重大な事実誤認があるから、刑訴第四一一条に依り破棄さるべきである。

仍ち、本件記録を綜合すれば、上告人の主張事実は左記の通りである。

(一) 昭和三一年一一月三〇日期末の事業年度(第一期)

<1> 現金計上洩 三、五〇〇、〇〇〇円

昭和三〇年一一月三〇日現在における、個人の会社に対する立替金及び代払金の内、輸入決済関係分を一括して三菱銀行支払手形として処理し、金一、五二九万一、八四六円を繰越せるものゝ、会社資金の急速なる好転の見込みがない為、帖簿整理の必要上、木内四郎名義借入金として、金一、五〇〇万円を振替処理せるものを、適時返金したものゝ一部であつて、その立替代払いの財源である佐々木洪之当座預金に関しては、預金計上洩れの項で詳細に述べる通り、全く個人の預金であつて、個人預金の内から会社に代払した金を回収したものであり、会社資産とする根拠はない。

又昭和三一年一一月三〇日現在において、現金三、五〇〇、〇〇〇円が存在すること及びこの現金に依つてNo.三〇三定期預金を設定したことは、何等立証されていない。

尚検察側挙示の「三菱銀行浅草橋支店の定期預金調書」なるものは存在しない。

<2> 預金計上洩 三二、四一四、四八一円

(イ) 右金額は、論告要旨第一本件の事実一、二、三、四の次の問題点一の簿外預金の説明にある通り、明らかに問違いである。

即ち、右の説明では「問題点一の簿外預金は、後述するように昭和三一年一一月期(以下第一期と称する)においては、期首に九〇、九一九、八一二円あつたものが、期末には一二三、三三四、二九三円に増加して居り」とあり、

論告の主張としては、一二三、三三四、二九二円の預金計上洩とすべき処、その増差額たる三二、四一四、四八一円を預金計上洩と記入せることは、論告要旨第一本件の事実に主張する「所得の確定方法は、財産増減法に拠る」とある主旨に反するもので、本預金に関しても、当然税務上の是否認によつて計上すべきものである。(第一五回公判三八・二・一八)

昭和三二年一一月三〇日期末の事業年度(第二期)の<3>預金の計上洩一三六、六九四、七一四円と計上し、<4>において前期預金計上洩の認容(論告には前期否認預金計上洩とあるは誤り)△一二三、三三四、二九二円と是否認の処理をなして居り、<2>における預金計上洩三二、四一四、四八一円と全く相違せる金額であり、この金額を他の財産増減法による計算金額と合算し、増減して、逋脱所得金額二七、三三一、七三四円として算出したことは、論告要旨第三の4記載の法律上、税務上の是否認に就いて、

「この点については、税務計算上当然是否認を行はないと正しい所得が算出されないのである」

という検察側主張と相反するもので、正規の会計処理では到底認め得ざる処である。

(ロ) 預金帰属に関する認定

預金の実質的な帰属主体の認定は、法律上あくまで会社の帖簿、銀行の帖簿、預金者名義、登録印鑑及び預金証書、同通帳の占有者が何者であるかに依つて自ら決つてくるものであり、国税当局の一方的な認定は不当である。

更に、検察官論告要旨第三問題点に就いての意見の(1)に於いては「押収となつた財産目録メモは、会社及び個人の総財産を含めて記載されているが、会社の設立が古く昭和七年であり、設立以来の業務内容を見ると、之等商品の売買業は総て被告人会社の業務として行はれ、他に収入源が見当らないから、簿外資産を運用することによつて増加して来たものと考えるのが相当である」と述べ、之が単なる推量に過ぎなかつたことを明らかにして居り、之を立証する証拠のなかつたことを示している。

尚、右に就いては、被告人会社が総論三の項で詳述している通りで、昭和二九年十一月三〇日以前に於いて、株式会社佐々木香料店の営業とは全く別個である預金を、何人も会社所有預金であるとは認定出来ない筈であり、或いは社外流出として他の法律上の問題が発生するとしても、それは本法人税事件の問題外のことであつて、論告要旨の主張は全く証拠に基かない感情的な論理である。

右の検察側主張に対する反論として、更に具体的な事例を挙げて詳述すると、

第一五回公判に於いて木村一夫査察官は、株式会社佐々木香料店の預金調査に関連して、「表裏資金交錯状況表」なるものを作成し、会社以外の個人名義の預金より会社帳簿えの交流があることを挙げて、之によりこの預金を会社の別口預金に認定出来ると述べて居り、

又、資金交錯状況表に関して、

「それにも判りますように、会社の表の資金と、所謂表以外の裏の資金とが、相当複雑に交錯して居りまして、之は到底個人だとか、そういうような分離は絶対に不可能な内容を持つてこんがらかつている訳です。その点から之は全て会社の資金である、という考え方を私の方ではとつた訳です」

と証言しているが、弁護人の質問に対しては、

「一応吾々が調査する場合は、会社の社長名であろうが、実際の役員名であろうが、全てを一応会社のものであると云う前提の下に調査を行う訳です」

と証言するなど、全く筋の通らない矛盾だらけの論拠を前提として会社預金に認定したものに過ぎない。

更に、同公判における検察官の質問に対して、

同木村証人は、

「この資金交錯状況表は、昭和二八年十二月一日から昭和二九年十一月三〇日までの事業年度、昭和二九年十二月一日から昭和三〇年十一月三〇日までの事業年度、昭和三〇年十二月一日から昭和三一年十一月三〇日迄の事業年度及び昭和三一年十二月一日から昭和三二年十一月三〇日迄の各事業年度に関して作成しているが、この内昭和三〇年十二月一日から昭和三一年十一月三〇日迄と、昭和三一年十二月一日から昭和三二年十一月三〇日迄の二事業年度分が、判決の対象となつている訳で、この事業年度の期間の資産を調査するために、前の期に遡つて調査し、それが繰越などでこの三〇年十二月一日の資産負債というようなものゝ数字が記載されている」

と述べて居り、又

「之等繰越金額及び之に関連する資金が、この裁判に関係ある二期及びその前の一期で、会社及びその他の個人名義の預金と出入があつて交錯しているから会社の預金と思れると推定する」

と証言しているが、

この資金交錯の元本の主たる部分を占める佐々木洪之名義の当座預金は、当局の調査においてすら、その開設年月日不明の、およそ十年以前の昭和二三年頃より、当時の三菱銀行浅草橋支店に、亡佐々木佐謹吾が、本人提出昭和三四年十二月二〇日作成、検乙(二)の六号証で証明する如く、本人の実印を使用し、その実印に使用する通称名に依つて設定したもので、昭和二四年当時既に約三千万円の預金が存在していた。(佐々木佐謹吾臨床尋問証言)

その後亡佐々木佐謹吾は、何等の疑いもなく自己の個人預金として管理して来たもので、木村事務官作成の表裏資金交錯状況表に依るも明らかな通り、昭和二八年十二月一日に会社計理に投入したと国税当局が主張している四、七一九万八、〇九五円の内の大部分は、この佐々木洪之口座より出金されたものである。(銀行調査元帖参照)

亡佐々木佐謹吾が、この会社に投入貸付けた個人資金を遂次回収したことは、当然のことであつて、この間において会社に資金が不足のため、一旦回収したものを再び会社計理に投入することを反覆したため、木村事務官調査の如き資金交錯を示したものであつて、元本が個人預金であるものを、その資金が交錯して判別困難を理由に会社預金と認定するのは不法であり、更に又、裁判に関係ある年度における一部資金交錯の実情から過去においても同様な資金交錯が行はれた筈だと想像し、之を基にこの預金は会社の預金であると速断することも、不当である。

要するに、右に関する亡佐々木佐謹吾並に被告人会社の主張は、

―表裏資金交錯表の通り二九年度、三一年度の各事業年度には、会社及び個人預金との間に資金出入に関する事実は存在したが、その元本の主たる預金である佐々木洪之名義の預金は、昭和二九年十一月三〇日現在において残高が三、〇三三万八、三〇八円あり、更にその前年までに会社に立替代払した金額が約五千万円あつて、その大部分がこの佐々木洪之名義の預金から出ていたものであり、而もこの預金は個人の預金であるから、之に関連のある其の他の預金及びその他の資産は、その操作に関係なく個人の資産である。―

ということである。

更に、国税局の主張は、二九年度以降において、会社以外の預金からの資金が会社の計理に出入して居り、過去に遡つても、交錯して居ると思はれるから、この佐々木洪之預金も会社資金として認定するというので、あるが、―

この資金交錯状況表によると、二九年度以降に於ては、資金交錯の事実は本表通りであるものゝ、本表第一頁昭和二八年十二月一日から二九年十一月三〇日迄の状況表によると、二八年度に於ては会社預金以外の個人預金から出金された四、七一九万八、〇九五円が、会社経理に一方的に入金されていることを示し、会社から個人に返済された記録がないのであるから、結局資金交錯がないと云う被告人会社の主張が通ることを立証しているものであり、佐々木洪之口座を会社預金と立証する根拠の全くないことを示して居る。

之と関連して、第二九回公判における弁護人の質問と菊地調査主任の応答は次の通りである。

(問) あなたの方でお調べになつたのは、調査が告発を前提とされるんだから、それだから三一年、三二年度を中心にして、取引関係とか何んとかを、お調べになつて居る訳ですね。

(答) そう云う訳です。

(問) その後、そう云うことも基礎にして預金が、会社のものだと云う風に裏付けられた訳でしよう。それだから成程、あなたの説明をきけば三一年度、三二年度を中心にしてお調べになるから説明がつく訳ですが、たとえば五年前の二九年十一月三〇日以前のものは、あなたの方でお調べになつていないのだから、そうすると二九年十一月三〇日現在における預貯金は会社のものだと断定する資料がない訳ですね。

(答) それは結局、それが断定出来ないということは、裏返して云えば私共の対象とした一番最終期の預貯金に就いても、会社のものと断定出来ないと云うことになるんですね。私の方は先程申上げましたように、その期間中の動きを見て、売上の漏れがあるかとか、そう云つた一連の事実を質問調査とか、反面調査とか、そう云つたことに依つて立証している訳です。

(問) そうすると、たとえば、あなたの方で調査期間前から存在していた預貯金についても、偶々調査期間中に会社の取引に使はれているということになれば、調査前の預貯金も会社のものだと推定されると、こういう意味ですか。

(答) 一概にそうとは云えないと思います。これは一般論ですけれども。

(問) その定期預金に就いても矢張り会社の財産だと云えるでしようか。

(答) 今まで申上げたと同じようなことになると思います。

(問) 只、定期預金は全然動かないですね。

期間中調査されても。

(答) 動きがないというのは、切換えの時に増額しているとか、そう云つた以外という意味ですね。

そう云つたことです。結局解約したとか何んとか、そういう事実のあるまでの間は、定期というものは出し入れがない訳ですから。

(問) そうすると、定期預金というのは、切換えて利息を繰入れる以外には動きのない場合は、矢張り会社の財産だと直ぐ断定は出来ないんじやないですか。全然会社の裏取引に使はれていないから。

(答) それは普通預金の場合と、定期預金の場合これは見方が違うと、たとえば記名にしても、無記名にしても、今仰有られましたように預けてある期間は動きがない訳です。

それから作つた時に、之の財源が当然現金で出来るし、もしくは振替で出来るということです。けれども、要するに何か財源があつて出来ている訳です。それが固定して預けてある期間は動かないから、その財源の問題になります。

(問) 財源ですけれども、私が申上げるのは、今の質問と関連して定期預金の場合は、あなた方で御調査する場合では、之は何に依つて金が生れたかということも、調査が五年前、こういうのは難かしい訳ですね。お宅の方では。

(答) はい。

(問) そう云う場合には、定期預金が特に動きがなくて継続してあろうと、満期が来てまた切替えて利息が出ると、又定期にすると、こういう状態ですから。そうすると、会社のものだと具体的に立証するお宅の資料が、ないじやないですか。

(答) それは私共の対象以前から続いている定期という意味ですか。

(問) そうです。

(答) ですから、その点も佐々木香料店としては、所謂株式会社佐々木香料店としては、ずつと以前から営業されて居る訳ですね。

(問) たゞそれだけでは、薄弱のような気もするんですが。

(答) 所謂個人とか何んとか、収入の要素が、その中にあれば、それは見てもいゝと思います。

だからそう云つたものから定期が出来たんだと。それが二九年以前からあるんだと、それが継続しているんだと云う見方は出来るかも知れませんけど、うちの方にはそういう見方をする材料はありませんでしたから、全部会社のものとして見た訳です。

(問) そうすると、そう云う場合は二九年以前から定期預金として積まれて居つた、そう云うやつは会社の財産だと認定したというのは、矢張り社長証言だけに過ぎなかつた訳ですか。

(答) 具体的にはそういうことになりますね。

それと反面調査の問題ですね。先程も売上のことを申上げましたけれども、売上の問題も簿外貸付につながつて来るのですけれども、その反面調査した場合にも、こう云つて表裏と云う売上の区分は、ずつと以前からやつて居つたのです、二四年前からやつて居つたという処もございます。

右の証言の通り、昭和二九年以前における反面調査の具体的な根拠はなく、単に社長供述のみに依つた認定が確認出来るのである。

このことは検察官冒陳記録第三においても、昭和二八、九年頃から売上除外の事実があつたと主張していることでも明らかである。

従つて、菊地調査主任作成の別口預金総括調書中、(3)別口定期預金継続系統表に記載している

(二九・五・一三)二六/九〇六 百万円 佐々木洪之印鑑

(二九・六・二二)二七/四七〇 五百万円 佐々木洪之印鑑

二七/四七一 五百万円 同右

二七/四七二 参拾万円 同右

二七/四七三 百六拾三万円 同右

二八/六二七 五百万円 同右

二八/六二八 五百万円 同右

以下昭和二九年十一月三〇日現在に存在した各定期預金及び同表中(1)別口預金各期末残高表に記載する佐々木佐謹吾普通預金、佐々木洪之当座預金、(株)加藤香料店当座預金、佐々木敏雄当座預金、以下の財源に関しては、菊地主任の反面調査の資料に何等該当するところなく、逆に木村事務官作成の表裏資金交錯状況表では、之等の財源は、会社資産より流出したものでないことが立証されて居り、本証言とは全く矛盾するもので、之等の預金よりの継続及び振替に依つて生じた資金は(預金は)、総て個人の預金であることが明白である。

又以上の内、佐々木敏雄名義及び預金印鑑に本人の実印を使用した無記名定期預金並に之等よりその継続に依つて発生存在する各種の預金は、昭和三九年七月二日の公判における佐々木敏雄本人の証人尋問においても、その財源について証言した通り、総て本人個人の預金であつて、又昭和三七年九月二七日の亡佐々木佐謹吾の臨床尋問の際にも敏雄関係の預金については知らぬことを証言して居り、更に国税局も本調査期間中を通じ、佐々木敏雄本人に対し、直接預金に関する質問をしたことがなかつた。

にも拘らず之を一方的に会社の預金と認定したことは明らかに財産権の侵害であつて、佐々木敏雄自身も全く予期しなかつたことである。

この点に関し、菊地秀臣証人は昭和三九年四月二十日の第三一回公判に於いて「佐々木香料店の預金管理」についての弁護人の質問

「佐々木敏雄名義の預金がある場合、お父さんはこう云はれるけれども、佐々木敏雄を矢張り調べて、お父さんの供述と一致するかどうか、そこまでお調べになるのが妥当じやないかと思うんですか」

に答えて、

「敏雄さんからは当然裏はとつていませんでした。敏雄さんに裏付けをお聞きしなかつた点は不足だつたと思います。」

と述べ調査の手落を認める証言があるなど、之等の一連の事実に依つても、前記の各預金を株式会社佐々木香料店の預金なりと認定したことの誤りであることが証明出来、右の認定には全く根拠のないことが明白である。

次に、論告要旨にある第一期、第二期各期中の預金増加については、三九・七・二公判で佐々木敏雄が証言した通り、第一に前述の各預金の元本に対する利子が加算され(個人関係の預金利子は租税特別措置法に依る分離課税であり、所得申告の必要はない)、又被告人会社が一貫して主張する通り、之等の預金は個人より会社に対してなされた立替金を回収して預金にしたもの、更に個人よりの貸付金に対する利息、或いは個人として買入れた商品の販売利益などに依つて発生し、逐次累積増加したものであつて、之等を会社預金であると認定することは不当であり、その根拠も全くない。

<3> 受取手形計上洩 九三〇、六九三円

(イ) 受取手形計上洩と称する九三〇、六九三円の内、論告要旨<3>の(イ)ケンシ精香振出七〇万円の受取手形は、ケンシ精香株式会社に対する正規の売上金の回収であることは、論告要旨主張の通りであるが、預金計上洩の項で詳細に述べた如く、会社資金不足の為に佐々木佐謹吾個人が資金を廻し、後日之等の立替金の一部として会社より回収したもので、之に関しては、三九年七月二七日の公判における証人佐々木敏雄の証言の通りであり、三一年十一月三〇日現在において個人資金の一部として回収所持していた手形を、三二年二月二六日に新藤新八名義の普通預金に入金したことは、本件に何等関係がなく、又新藤新八名義預金を会社の裏預金とする根拠とはならない筈であり、受取手形の計上洩でないことは明らかである。

(ロ) 論告要旨<3>の(ロ)植野憲治商店一二五、九五七円、伊藤商事(株)二四、〇〇〇円、佐藤商店八〇、七三六円に関しては、之等三店に対する商品売買の事実はなく、論告要旨では廻り手形として取引先から受取つたものと考えるのが相当であると主張したが、之には何も根拠がない。この三通の手形が、三菱銀行浅草橋支店の田村健二名義の当座預金に入金されたとあるが、右預金は、預金計上洩の項で述べた通り、個人預金である佐々木洪之名義預金を昭和三〇年七月二日に田村健二名義に振替えたものであつて、従つて右の手形は個人関係の割引などにより所持していた手形であつたことは明らかである。

尚右預金の振替については、菊地調査主任作成の別口預金各期別残高表が之を証明している。

(ハ) 論旨<3>の(ハ)に於ては、昭和三四年四月十七日の佐々木佐謹吾質問顛末書を取上げているが、公表B/Cに未計上のものは、個人預金から表勘定へ資金を入れた為、期末になつて、はみ出したものであり、とあるが、之は前記ケンシ精香手形のところで述べた通りであり、「この外に表勘定から引抜いて別口預金に入金させた手形で期日未到来の手形があります」とあるが、之は言葉の誤りで、このような事実はない筈である。

「又、会社の売上代金の回収手形で、各期末にB/Cに計上していない手形は、代金取立手形通帖に記載の後、期日未到来のものでB/Cに計上しなかつたもの」

は、当時被告人会社の会計方式は現金主義であつた為(第一五回公判木村証言参照)必ずしもB/Cに計上する必要のないことを説明したもので、受取手形計上洩の事実を認めたものでなく、又別口預金に返した期日未到来の手形とは、前記個人預金よりの立替金回収のことであり、佐々木佐謹吾が所得逋脱のため受取手形をB/Cに計上しなかつたことを認めたものではなく、論告要旨の主張は失当である。

<4> 前記受取手形計上洩の認容 △一〇、九六〇、七〇六円

本件に直接関係のない前期の逋脱分として課税の対象となつたもので、税務上の是否認であるが、論告は前期末に一〇、九六〇、七〇六円の受取手形の計上洩のあつたことを第一五回公判(三八・二・四)における証人木村一夫査察官の証言及び同証言引用の表裏資金交錯状況表から認定主張しているが、

同証人は裏預金から出金しているとの前提で、之等回収手持の手形を簿外受取手形と称したものに過ぎず、従つて同証言等からかゝる受取手形計上洩の存在することを立証することは出来ない。

又、同証人はこの表裏資金交錯状況表に関し、

「この表ですと、一番左側の繰越ですが、この欄の前期末までに裏預金(被告の主張では個人預金)から既存の表の負債を立替払いしてある。

「そのものゝ合計をこゝに示してあります。」

と証言しているが、

佐々木佐謹吾はこの立替代払金と信ずる二九年十一月三〇日現在の本表繰越金四、七一九万八、〇九五円及び二九年十二月一日より翌年十一月三〇日に至る間に立替又は代払した金額の一部を、受取手形で回収したものであつて、受取手形の存在が直ちに計上洩の立証になるとの主張は誤りである。

<5> 前期売掛金計上洩の認容 △二、七五九、〇〇〇円

これも本件に直接関係のない前期逋脱分として課税の対象になつたもので、税務上の是否認であり、前期末に合計二七五万九、〇〇〇円の売上計上洩があつたとしているが、

之は三九年七月二八日公判で佐々木敏雄が証言した通り泉香料(株)並に紅椿化学工業所に対する佐々木香料店の簿外取引は存在せず、未回収分もない。

(イ) 論告<5>の(イ)に述べる泉香料に対する前期売掛金計上洩二、一七九、七五〇円は、第一二回公判(三七・一〇・一八)において岩永実証人が広波直子との売買に関連して佐々木香料店より買入れたとする認識のないことを証言している通り、広波直子に対する売掛金が直ちに佐々木香料店の売上残になるという証拠はない。

(ロ) 右論告(ロ)において、前期末に四七九、二五〇円の受取手形があつたことを明らかにしているが、

受取手形か存在するということだけで、会社売掛金計上洩の立証にすることは不当である。

(ハ) 紅椿化学工業所からの受取手形一〇〇、〇〇〇円は、佐々木佐謹吾個人現金により割引したものであるが、第一二回公判に於て証人久道しげのは仕入代金の支払のような証言をしているが、

之に関する仕入の年月日及び商品名などは、全く不明であり、明確に立証する裏付はない。

<6> 売掛金の計上洩 一、八八八、四五〇円

(イ) 泉香料に対する売掛金九八八、四五〇円は、前記<5>岩永実証言の通り、佐々木香料店との取引であるとの認識がなく、

又、三九年七月二七日公判における佐々木敏雄証言の如く泉香料(株)振出の手形は、佐々木香料店の帳簿に記載された取引以外の分としては入手の事実なく、本取引は佐々木佐謹吾個人対広波直子の取引であつて、佐々木香料店の売掛金計上洩となるものではない。

(ロ) 前期末公表勘定の売掛金、芳香社八〇〇、〇〇〇円、田中商店一〇〇、〇〇〇円を前期に否認し、当期に之を戻入している訳であるが、前期架空であることは田中直一の回答書(甲三56)及び佐々木佐謹吾の三四・四・一五質問顛末書第九問、第一〇問に依り明らかであると主張したが、

之は何れも田中商会或いは芳香社において、佐々木香料店に対する債務の消滅したことを表現したものであるものの、佐々木香料店としては三〇・一一・三〇現在の時点では売掛金に対する帳簿処理は完了して居らず、即ち各債権を保全した担保物件は、佐々木敏雄名儀で、抵当権を設定した為、貸付金を請算した会社の売掛残に対する金額を、個人より入金しなければ、会計処理が出来ない訳であつたが、国税局は一方的に社長勘定なる会社資産を設定した為、前期架空売掛金として否認されることになつたものであり、

当期に於いて個人預金より九〇〇、〇〇〇円を入金し、処理したことは、実際に売掛金として処理すべきものであつたことの証明であつて、実際には斯る否認とか戻入はその必要がなく、所得逋脱と何等関係のないことである。

又、右の事実は、年度区分を誤ることに依り公訴の時効を無視せんとの違法のあつたことを示している。

<7> 商品計上洩 四〇、二〇五、三五六円

右は当期末の棚卸高の計上洩とされた金額であるが、公表以外の商品は総て個人の所有に属するもので、三七・九・二九の佐々木佐謹吾臨床尋問及び第二五回(三八・九・一三)並びに三九・七・二公判に於ける佐々木敏雄証人の証言通り、二九年当時の貸付金の内、商品で回収せるもの、或いはその後の貸付金に対しても代物弁済などの形で回収したもの、時には換金物、バツタもの等を、個人の資金で遂次買入れて来たものが累積して在庫になつていたものである。

この事実は、三三・八・一四佐々木佐謹吾質問顛末書(乙(2)の8)、第二二回公判(三八・五・二)における杉山賢一証人の証言及び同証人供述の一部として添付した佐々木香料店との取引明細一覧表、第二一回公判(二八・四・二)に於ける関口庄市証人の証言及び同日提出の三三・六・二付「関東香料株式会社清算人関口庄市作成の手形小切手の明細」と題する書面などにより明白に証明された通りである。

又、論告要旨第三の問題点である棚卸商品の圧縮計上に就ての中で佐々木敏雄、佐々木謹也各質問顛末書の内容を引用しているが、何れも証拠としては提出されて居らず、立証価値のないものである。

<8> 前期末商品棚卸高計上洩の認容 △二一、五五〇、四三二円

前期末商品棚卸高に就いては、前記<7>で述べた通り、会社公表以外の商品は個人のものであるから計上洩は存在しない。

<9> 仮払金の計上洩 四七三、九八〇円

(イ) 豊玉香料に対する仮払金二八九、一八〇円に就いて

第一二回公判(三七・一〇・一八)における井上辰蔵証人の証言を以つて明白な事実として居り、同証言では豊玉香料会社帳簿は論告要旨に表現した通りになつていると述べている訳であるが、最初に仮受金として記帳した三、四五〇、〇〇〇円に関し、弁護人の問に対して次のように答えている。

(問) この借受金の三四五万円というのは、あなたが先程云はれたように貸して貰つた金でございますね。

(答) そうです。前にですね。

(問) 品物を納入しない前に。

(答) そうでございます。

この貸付金は、三九・七・二七公判で佐々木敏雄が証言している通り、豊玉香料又は井上辰蔵に対して佐々木佐謹吾個人が貸付けたものであるからその残金である二八九、〇〇〇円に就いても会社帳簿に計上する理由がなく、従つて右の仮払金は存在しない。

尚豊玉香料側で仮受金として記帳していた点については被告人会社の関知する処ではない。

<10> 前期仮払金計上洩の認容 △二八九、一八〇円

前記<9>の(イ)で説明した通り、否認認容の必要がないものである。

<11> 貸付金計上洩 一三、八一〇、二〇四円

右に関し、論告では主として各証人の証言及び回答書、上申書、佐々木佐謹吾質問顛末書を引用してその存在を立証せんとしているが、その根拠は薄弱である。

仍ち、佐々木佐謹吾は三七・七・二七の臨床尋問において、全面的に個人預金よりの個人貸付金である旨を供述し、又各回答書に関しては、弁(一)号証として提出した証拠の通り、国税局が調査初期の昭和三三年五月二日付、東京国税局調査査察部長名で各関係者に対して、取引金額等についての回答を求めたのであるが、この中で

「上告法人(佐々木佐謹吾個人より手形担保か、割引で借入れた場合も含む)よりの借入金に就いては別表2の様式によつて、年月日の順序に借入返済金、利息等を取引毎に記入する」

とあり、又別表2の様式は、同証拠に示す通り、冒陳「株式会社佐々木香料店よりの借入金明細」と明記してある等、本人の意志及び事実とは関係なく、個人会社一切を含めて、株式会社佐々木香料店よりの借入金としての回答を求められたことを示すもので、従つて当局としては調査の初期において既に会社、個人を切離して計算する意志の全くなかつたことを立証している。

その他上申書、質問顛末書等も同一の方針で作成文又は提出させて居ることなどからして、之等の回答書(証言の一部として添付したものを含む)は、何れも「会社(法人)よりの貸付金」を証拠立てる資料にはなり得ないこと明白である。

尚、この件に関し、論告要旨の順に従つて一つ一つ具体的に反論すると次の通りである。

<イ> 松原喜一郎貸付金六〇万円

第八回公判(第九回の誤りと思はれる)における松原喜一郎証言は、債務発生を証するために作成された約束手形、借用証の名宛人が被告人会社でないこと、取引の相手が、会社であつたか否かにつき確定的な認識を欠いていたこと等を内容とし、又三三年七月五日付証言添付上申書は同人の所持せる書類、帳簿等を基にして作成したものではなく、税務署作成の書類を写したものである。

その他の証拠については佐謹吾臨床尋問(三七・九・二七)において訂正した通り個人預金よりの個人貸付金である。

<ロ> 小林一夫貸付金一〇万円

右の証拠は、借用証二通であるとしているが、(証拠としては提出されていない)その一通は佐々木佐謹吾宛であり個人よりの貸付金であることに間違いはない。

尚右については臨床尋問の際にも供述している。

<ハ> 鈴木専三貸付金四〇万円

右も臨床尋問の際供述した通り個人貸付金である。

<ニ> 鏑木淑男貸付金

右も臨床尋問の供述及び佐々木洪之名義の個人預金より貸出された個人貸付金である。

<ホ> 第一酒販(株)貸付金

右に関し論告要旨では、

「田村健二当座預金からの貸借金額、町田健二からの貸借金額及び諸口各預金からの貸借金額並に貸付残高は、菊地査察官作成の第一酒販の貸付金入出金調書その他に依つて認められる」

としているが、右第一酒販の貸付金入出金調書は、第二九回公判(三九・二・一四)における菊地査察官の第一酒販貸付金に関する証言及び第三三回公判(三九・四・三〇)における戸谷公晴査察官の第一酒販貸付金に関する証言に於ても夫々確実なる証拠に依つて作成したものではない旨を述べている通り立証価値の薄いものである。

何れにしても、佐々木香料店としては貸出した証拠がなく、臨床尋問で佐謹吾供述の如く、個人貸付金であつたことには間違いがない。

<ヘ> 田村香料店に対する貸付金一、三一四、一〇七円

検察側は、田村禎造、橋本雅、佐々木佐謹吾の各質問顛末書の証拠によつて右が認められるとしているが、

橋本雅質問顛末書では、国税査察官山下忠雄の質問の意図は橋本吉衛香料店各七五、〇〇〇円の手形に関する質問であり、以下判読するも田村香料店に対する貸付金一、三一四、一〇七円との関連性を認めることが出来ない。

又、田村禎造顛末書における山下査察官の質問内容及び佐々木佐謹吾質問顛末書(三三・一〇・八)の内容は何れも三〇・一一・三〇以前の問題であつて、本貸付金の一、三一四、一〇七円とは何等関係がなく、立証価値がないにも拘らず、之等を証拠とするのは理解出来ない。

<ト> 田村禎造貸付金一、五〇〇、〇〇〇円

右に関する証拠物は、公正証書、権利書及び借用書並に田村禎造の質問顛末書(三三・九・一九)であるとしているが、

被告人会社としては、逆に之等を個人貸付金の証拠たることを主張する。

仍ち、右各証書の債権者名義人佐々木佐謹吾個人の適法になされた債権であることは異論の余地がなく、斯かる法律上確定した権利を無視して、会社貸付金に認定計上することは明らかに違法であり、個人貸付金であることに誤りはない。

更に、三三・九・一九田村禎造に対する山下査察官の質問顛末書問5に答えて、

「それは、新設会社の資金、自己の生活費及び旧債権者のうち、品物を出して貰うため、是非支払わねばならない金などが必要であつた為、現住所の母名義の建物を担保とする公正証書を作成して、佐々木さんから借りた金であります」

とあり、個人よりの借入金であることを立証している。

<チ> 田中真一に対する貸付金一、五〇〇、〇〇〇円

右の証拠としても不動産権利証、財産目録及び佐々木佐謹吾証言をあげているが、本不動産権利書による貸付名義人は佐々木敏雄であり、検察官自身でも本説明において、貸付者佐々木敏雄名義で二九・四・二〇に一、五〇〇、〇〇〇円貸付けたとあり明らかに敏雄個人の貸付金であるから、この個人の権利を否認することは出来ない筈で、或いは会社及び佐々木敏雄間において別個貸借その他の問題が発生するか否かは別として、佐々木敏雄の既に確定した権利を無視し、会社貸付金と認定することは違法である。

尚佐々木佐謹吾質問顛末書の記載は、同人が臨尋問(三七・九・二七)において供述した通り、立証価値のないものである。

<リ> 関東香料に対する貸付金一、〇六六、六二〇円

右の証拠として証人関口庄市の証書、菊地査察官作製の「期末簿外貸付金残高表」、関口庄市の回答書(三四・一二・八)、同人作成の説明書(三三・七・二八)及び同人の質問填末書(三三・三・八)(三四・三・一七)などを綜合したものが挙げられる、と述べたが、三八・四・二六の第二一回公判において証人関口庄市は、検察官の

「この柳屋本店から昭和三一年一〇月一〇日頃、額面一〇五万六、六〇〇円の手形を売上代金として貰つたという記憶はありませんか」

との問に対して

「記憶して居りません」

と答えて居り、更に続けての

「或いは今云つた柳屋から貰つた額面の手形を、佐々木香料店に割引に出して割引いて貰つたというような点はどうですか」の問に対しても

「はつきり記憶して居りません」と述べ、

次に弁護人の質問で、

「それから、あなたの会社が倒産されたのが三一年六月ということだつたのですね」に対し、

答「そうです」

問「そうすると、今聞かれた手形は、三一年一月一〇日頃の柳屋の手形が一〇五万六六〇〇円と、この検事さんが聞かれましたが、実際倒産後に柳屋と取引したことがあるのですか」

答「私は当時の記憶では、兎に角六月でございましたから、六月からは殆んど整理の問題で忙殺されて居りまして、実際の取引上の問題については余りはつきりした記憶がないのですが、何れにしましても、倒産しましてから後に、私の有力な得意先であつた柳屋さんを初め数社が、一応うちの方との取引を停止というようなことで、出入を禁止されてしまいましたので、その間のことは、よく記憶には残つて居りませんが」

問「そうすると、そう云う関係だつたとすれば、つぶれた会社の手形を、あなたが、六七万二〇〇〇円の関東香料経理の手形を、佐々木に振出して割引いて貰うということが、有り得ないですね。

つぶれた後の手形は。」

答「つぶれた後には、そういうことは、関東香料としてはないと思います」

この時弁護人はマドレア商会提出の回答書(証四〇、三三・七・二)と題する書面を証人に示す。

問「この数字の二番目の柳屋本店振出の約束手形と書いて一〇五万六六二〇円という柳屋の振出と、あなたの関東香料と、之は関係ないですね」

答「マドレヤ商会と私の方は関係ありません」

右の通り関東香料に対して一、〇五六、六二〇円の手形を割引いたこと及び他に同金額の手形が存在したということの証明がない。

又菊地査察官作成の期末簿外貸付金残高表及び関口庄市作成の説明書(三三・七・二八)及び同人の質問顛末書(三三・一二・八)(三四・三・一七)は証拠として提出されて居らず、立証資料としては根拠、価値がない。

<ヌ> 佐々木直作貸付金 六四、八九〇円

二〇〇、〇〇〇円

右は佐々木佐謹吾臨床尋問証言通り、個人よりの貸付金であることに間違いない。

<ル> 大和食品会社貸付金

右は検察側冒陳においても実在せず、証人菱沼吉松の証言、佐々木佐謹吾質問顛末書(三三・一〇・六)田村健二名義預金調査元帖に依り認められるとあるものゝ、論告においても、その金額の記載がないなど、論要が事実に反していることを指摘したい。

<オ> 昭和香料貸付金二〇九、九〇〇円

右の証拠として岡沢留吉の上申書(三三・七・一二)(三四・七・一七)をあげているが、之は綜合意見で述べた通り国税局が誘導的に会社よりの借入であると認めさせたもので、証明出来るものは何もなく、従つて臨床尋問(三七・九・二七)主張通り、個人の貸付金である。

<ワ> ボツプ香粧品貸付金四八、三三六円

右につき第一六回(三八・三・六)公判で、証人佐々木泰幸は佐々木佐謹吾よりの借入であると証言し、臨床尋問でも個人の貸付であると証言している通り、会社の貸付金ではない。

尚佐々木泰幸の三四・四・八上申書は、その一部である明細書だけを刑事訴訟法三二八条に依り提出されたもので証拠価値は乏しい。

<カ> 御国屋佐々木商店貸付金二三二、〇六〇円

第二〇回公判(三八・四・五)で右商店が佐々木佐謹吾個人より借入したと証言し、又臨床尋問(三七・九・二七)でも主張している通り個人貸付金であり、会社貸付金たる証拠はない。

<12> 前期末貸付金計上洩の認容 △一五、九二八、五六九円

前期末に於て貸付金の計上洩があり、当期で認容したと、検察側は称しているが、この内松原喜一 一、六〇〇、〇〇〇円、小林一夫 一〇〇、〇〇〇円、鈴木専三 二〇〇、〇〇〇円、鏑木淑男 三〇〇、〇〇〇円、田村禎造 一、五〇〇、〇〇〇円、田中真一 一、五〇〇、〇〇〇円、佐々木直作 七四、〇〇〇円、昭和香料 四三七、三七五円、については<11>で夫々説明した通り個人の貸付金であることは明白であり、その他の第一酒販(株)、田村香料店、(株)大和食品商会、関東香料に関する貸付金も佐々木佐謹吾臨床尋問主張通り何れも個人貸付金であるが、その金額については被告人会社でも明確に立証出来ないものゝ、之等の金額は云はゞ架空のものであつて、前期末に一五、九二八、五六九円の貸付金が存在していたことの証明はないのである。

<13> 社長勘定計上洩 六、四二五、〇七六円

<14> 前期社長勘定計上洩の認容 △五、一九三、〇三七円

右の社長勘定なるものは、国税局の一方的な設定による主張で被告人会社としては認められないし、佐々木佐謹吾としても自分名義の個人預金より、個人関係の費用等に支出したものであり会社とは何等の関係がない。

右につき、仮に検察側主張が正当なるものとしても、その立証の根拠と称する駒形行雄査察官作成「社長勘定計算書」の記載内容は、その金額において明確を欠き、本項に計上している当期首の計上洩五、一九三、〇三七円は全く根拠のない金額であり、従つて当期の計上洩六、四二五、〇七六円も立証のない金額である。

尚、右を具体的に証明すると、

駒形行雄査察官作成「社長勘定計算書」(証言の一部として添付したもの)一頁の繰越四、一〇〇、〇〇〇円に関して、同駒形査察官は第一三回公判(三七・一一・二七)の証人として、検察官の質問

「そうすると、社長に質問して、そして繰越、要するに昭和三〇年期の期首には、社長勘定としての四一〇万の、前から繰越のあつたんだろうと認定された、ということではないんですか」

に対して、

「之は最後に菊地査察官が、社長から質問顛末書をとりまして、そして私の方に四一〇万円は社長勘定に帰属するものだという連絡がありまして、それで私は書いた筈なんですが」

と答えているのであるが、本表証拠欄に記載のある(四八三号)三四・四・一菊地査察官の佐々木佐謹吾に対する質問顛末書の問一〇で、

「芳香社に対する分も、前に駒形さんにお答えした通りですが、要約すれば、期首以前に別口預金より借用証付二五〇万円を酒井に渡したのより、当社の売掛金を返して貰いました。

その担保として土地、家をとつたのですが、回収不能になつたので名義書換えをしようとしたところ、その建物には他の第一順位抵当権設定があつたので、之を解くため負けさせて、六〇万円を別口預金より追加支出しました。」

と答えているが、右証言には四一〇万なる数字はなく、又証言中「前に駒形さんにお答えした通り」とあるのは、三三・一〇・一三(一八〇号)質問顛末書問五で、

「同社に対して売掛金が約一四〇万残り、この外貸金約二〇〇万円位でしたか、貸しましたが、その担保物件として芳香社の事務所及び宅地を担保に取りました処、その抵当権設定登記の時に、芳香社より、その事務所でしたかに既に抵当権が設定されている事実を知りました。

抵当権の金額は一〇〇万円位でしたが、それを六〇万円に負けさせまして、裏預金より六〇万円を支払つて、抵当権を解除して間もなく、芳香社が破産状態になつた為、支払い出来なくなつた為、長男敏雄名義に物件を変更して、売掛金貸付金は帳消しに致しました」

と答えて居り、この中の金額を合計すると約四〇〇万円になるものゝ、四一〇万円の根拠とはならず立証することが出来ない。

ところが、前記菊地査察官質問顛末書作成と日を同じくする三四・四・一五付で戸谷査察官作成の佐々木佐謹吾に対する質問顛末書なるものがあり、その問二二の「何か申述べることがありますか」に答えて「三四年四月一五日菊地さんの質問に対する答弁(問一〇)で、芳香社酒井国夫に対する貸付金について二五〇万円と六〇万円計三一〇万円を渡して土地建物を担保にとつた旨申上げましたが、実はその日更に一〇〇万円を酒井国夫に出金していますので、合計四一〇万円の貸金に致しまして、土地建物の担保を取つたことになりますのでその点訂正致します。」

という供述があり、右の四一〇万円が社長勘定繰越に計上されたものと想像出来るが、同じ日に何んの理由で更に一〇〇万円を出したかの根拠が示されず、何れにせよ、佐々木佐謹吾が同じ日に二人の査察官から別個の質問顛末書をとられ、而も一方では三八〇万、他方には四一〇万と違つた陳述をしている事実は稍か理解出来ない点であり、「質問顛末書の要領を録取した」ものとしては有り得ないことである。

依つて、右四一〇万円については信憑性が乏しいので、立証価値がないものと主張する。

尚前記三三・一〇・一三質問顛末書問五において佐々木佐謹吾は「右芳香社の売掛金、貸付金は帳消しにして、佐々木敏雄名義と物件を変更した」旨を述べており、

この間の事情及び同表第一項記載の六〇万円その他に関しては、三九・九・一公判において佐々木敏雄(尋問事項八の(一)、(二)が詳述した通りであり、

又、第三四回公判(三九・六・一八)で駒形行雄証人は、弁護人の質問に対して次のように答えている。

(問)「この二九年一二月一日から三〇年一一月三〇日までの社長勘定明細書、これを見ますと、社長勘定の借方が四一〇万円ですね」

(答)「えゝ」

(問)「之が佐々木佐謹吾、佐々木敏雄に不動産を譲渡したからその譲渡総額の四一〇万円を社長勘定の借方として計上したという趣旨を戸谷事務官がおつしやつているのですが、そうしますと、この、佐々木敏雄の不動産売却預り金六〇万円というものが貸方に計上されている訳ですね。」

(答)「えゝ」

(問)「そうすると一応四一〇万円社長勘定で計上しているから、不動産を売つて佐々木敏雄の預金となつたものを、貸方に計上するのは、おかしくなりはしないかと云う、こう云う質問ですが」

(答)「そういうことになりますね」

又、第三二回公判(三九・四・三〇)で、戸谷公晴証人は、

「それは社長が自分でもつて会社の金を借りて土地を買つて、その土地を子供に贈与した、とそう云う風になると思います」

「又個人のものとして贈与の事実があつて、課税したものであつて、それを売却した場合であれば、それは、その預金は勿論個人のものであり、会社の預金に入つて居れば、それは会社としては借入金であるということは事実です」

と証言しているが、佐々木敏雄に対する借入金計上の事実はない。

之等を綜合すると、本「社長勘定明細書」及び「同表各期末繰越残高」の記載内容は、証拠に基いたものでないことが明白であるから、之に依つて佐々木敏雄の個人資産を会社資産に繰入れたのは違法である。

<15> 前期否認支払手形の認容 △一八、九一〇、五八二円

右は昭和三〇・一一・三〇現在の会社公表決算書に計上した支払手形の金額であり、当局が之を架空と認定したものであつて、認定の証拠として三〇・一一・三〇期末の法人税確定申告書(証一号)、証人木村一夫査察官作成の表裏資金交錯状況表が、菊地査察官作成の銀行調査元帖及び佐々木佐謹吾の三四・四・一七付質問顛末書に依つて裏付けられたということを挙げているが、

これは、別口預金がすべて会社に帰属するとの前提の下での認定であつて、佐々木佐謹吾の行為そのものが所得逋脱であると立証したものではない。

この点に関し三九・九・一公判に於て、佐々木敏雄は証人としての弁護人の「之は架空の支払手形だつたんですか」との質問に答えて、

「之は、度々申上げているように、会社に資金がない為に貿易手形その他を一応個人の資金におきまして決済して、会社としては当然支払うべき金が残りますので、之を支払手形として計上して居り、之を当期中に借入金に振替え……大体こう云つた訳ですが、この根本の性質はあくまで個人資産の立替で御座いますので、強いて之を表示すれば、支払手形が否認ということになれば、之に対して借入金をたてることになりますが、之は結果において同じことになりますので。

これは大体前社長が独りでやつていたものですから、特にそういう操作は必要ないと。こういうことになりまして私の方としては何等これは逋脱とか、そういうものには関係ないと。従いまして前期の否認であるとの容認であるとか、こういうことは必要がないんじやないかと、こういう風に考えて居ります」

と、述べていることからも、是否認する根拠がないことが明らかである。

<16> 前記否認買掛金の認容 △九、一九九、一六二円

之も前記<15>で述べたことゝ同様で、公表決算書にも明記した通り之等に関係のある各預金の帰属が、会社別口預金であるとの前提の下に、前期架空買掛金と認定し、当期に認容されたもので、所得逋脱とは関係がない。

<17> 架空借入金の否認 一六、五四一、〇〇〇円

本項説明の各金額も、会社の各帖簿及び公表決算に明記して居り(駒形査察官の佐々木佐謹吾質問顛末書三三・九・一三の通り)事実の借入金であるが、国税局は関係各預金の帰属が会社にあるとの前提から架空借入金に認定されたものである。

然し、この根拠である木村査察官作成の表裏資金交錯状況表の数字自身、何等立証の根拠にならぬものである。

<18> 前期否認架空借入金の認容 △一、九九六、〇〇〇円

前記<17>項通り、実際の借入金であり、税務上否認容認をする必要なく、逋脱とは関係がない。

<19> 前期否認仮受金の当期認容 △二、二二二、六〇〇円

論要要旨では「この点も上記<15><16>項で述べたことゝ同様の表裏資金の操作によるものである」と述べて居り、之に関し三九・九・一の公判で佐々木敏雄証人は

「この二、二二二、六〇〇円は、こゝにも書いてございますように、豊玉香料、昭和香料、或いは佐々福香料に対しまして売掛金を回収致しました時に、先方では得意先の所謂廻り手形と云うものを持つて参りますために、従つて売上の金額と廻り手形の金額は当然一致しない訳でございますが、会社としては常時資金がございませんので一応社長が個人の金をもちまして、それを立替えて先方さんにお払いするという方法をとりまして、会社としては仮受金として処理しなければ決済出来ないものでございまして、実際の会社帖簿に計上されてあるものは、あくまでも正しい仮受金であります」

と証言している通り、之は否認認容の必要がないもので、表裏資金交錯状況表の金額自身が仮受金否識の根拠たり得ない。

<20> 税金引当金支払の損金認容 △二九五、〇二〇円

之は税務計算上当然のことである。

<21> 貸倒引当金の否認 一九六、〇〇〇円

本件については青色申告の承認が取消された為、同申告に伴う特典即ち貸倒引当金が税務上否認されたに過ぎないものであるから、法人税法第五一条の構成要件は行為者に不正行為があり、之に依り法人が法人税を免れたことにあるのであるから、本件金額につき、行為者が不正行為をしたのではないから、犯罪の内容となり得ないこと明白である。

<22> 価格変動準備金繰入額の否認 一、二五八、〇九六円

前記<21>の趣旨と同じ。

<23> 繰入利益金の否認 二、〇九五、一〇四円

検察側の示す本件各証拠は被告人会社の本件会計処理があつたことを立証するのみで、その処理がなぜ「否認」の事由になるかを何等説明していない。

加之、本件処理は三一・一二・一付であり、この前期所得に関する会計処理が、当期期首である三一・一二・一付で行はれたことは、会計学上一般に承認された処であつて、この日付が当期に属すると云うことに着目して当期の所得を加算するということは許されない筈である。又この二、〇九四、一〇四円は三十年期の更生において既に課税済の分であるから、本件否認は二重課税になる危険性があるばかりでなく、本件公訴の提起は三四年十二月二四日であり、本件公訴時効は刑訴二五〇条第五項により、三年で完成するのであるから、既は本件の処理は時効が完成しているので、処罰の対象とはなし得ない。

<24> 未払事業税の容認損 △三、二八七、二〇〇円

本件金額は立証資料がないが、浅草税務署長の別件民事事件における主張に依れば、本件に相当するものは△三、三一一、四九〇円となつて居り、その間に二四、二九〇円の差額がある。

この一事からしても、本件捜査の正確を欠いていたことが認められるのに「特に問題はない」とする検察側の主張は理解出来ない。

(二) 昭和三二年十一月三〇日期末の事業年度(第二期)

本事業年度各項説明に関して、<2><4><6><7><11><13><15>の各項で前期金額を容認しているが、夫々前期否認(何々)計上洩の認容とあるものゝ、資産勘定の否認計上洩ということは、利益の減となり、(何々)計上洩の認容の間違いかと思はれるが、論要に於て反覆して間違を記入して居ることは、前記(一)の<2>の項の誤り同様、本件事実状況の把握に適確を欠いていることを示すもので、之等に依り論告はその価値を著しく低下させていると云はざるを得ないが、弁論の便宜上、之等を夫々訂正して意見を述べる。

<1> 現金計上洩 二、一一三、五一〇円

(イ) 仮受金返済分 五〇〇、〇〇〇円

(ロ) 仮受金返済分 二七八、〇〇〇円

(ハ) 借入金返済分 六六五、五七〇円

(ニ) 輸入税支払分 六六九、九四〇円

右は何れも株式会社佐々木香料店の総勘定元帳(証一一号)現金出納帳(証二一号)において三二・一一・三〇に仮受金、借入金の返済及び輸入税支払の処理がなされて居り、会社経理としては、正しく仮受金、借入金の返済及び輸入税の支払であつて、この返済及び支払に充当した小切手が存在する事実によつて現金計上洩にはならない筈であり、更に(ロ)の項でも「従つて一、二二二、〇〇〇円については、受取手形勘定で是否認すべきであるが、」とあるのに、之に関して是否認した事実はなく論旨に矛盾がある。

以上の内(イ)(ロ)の項に関する被告人会社の主張を、三九・七・二七公判における佐々木敏雄証言を引用して述べると、

佐々木敏雄は、木村査察官が会社別口預金の前提で作成した表裏資金交錯状況表に関連して、預金はすべて会社別口ではなく個人よりの資金交錯であることを根幹として、弁護人の質問に答え次のように証言している。

(問)「仮受金明細(表裏資金交錯状況表以下一九枚目附表)を示すこの左の欄の公表増減の一番最後の行の三二・一一・三〇減五〇万と書いてありますが、そこを見ますと内容の処に表勘定小切手一二月二日高野普と書いてありますね。期末簿外現金と書いてある此の現金の性質について判りますか」

(答)「現金の性質というと、どういうあれですか」

(問)「誰のものか」

(答)「それは結局、これだけを見たんでは、先程と同じように、はつきり判らない訳で、表裏資金交錯表あと一三頁の一番上の欄に(A)(B)(C)と書いてあります繰越(A)裏勘定(実際の資金の流れ)と、こういう風にありますから一応(B)と申し上げます。

(B)欄の中「直接結付分」の上から六行目に書いてありますように一九〇万一〇〇円、それからその右の「不明出金」欄の上から、その四行目に一二〇万、その下に二八万九九六七円五〇銭と、こういう数字が出て来る訳ですが、之はこゝにも書いてありますように、この表では裏から表に実際の資金が流れた、という風に説明して居ります。

で私の方としては、個人の佐々木佐謹吾が個人の預金から会社に立替えたと、と主張するのでありまして、そういうことがあつたことは此の表に依つて明らかでありまして、この金額を右の(C)欄におきまして、この仮払金関係が、受けて払出し、二八九、九六七・五〇を受けて、払出欄の七行目二八九、九六七・五〇とあります。その次の欄に一二二万二、〇〇〇円、その右の方にも色々書いてありまして、之等に依つて逆に表から裏に行つたと、こういう風に説明して居ります。

で私の方としては、之は会社から個人に回収されたと申上げている訳で、その内の一部の五〇万円と、こう云うことになりまして、その金は私の方としては、あくまで個人の佐々木佐謹吾が回収した金であるから、之を三菱銀行の預金に入金させても、当然之は会社の現金計上洩になることはないと、申上げている訳です」

(問)「別紙四の1現金計上洩説明欄(2)の二七万八、〇〇〇円について説明して戴きたいと思います。(中略)矢張之も先程の五〇万と同じですか。」

(答)「えゝ全く同じ性質でございまして、私の方としては、個人の金であると解釈していますから現金計上洩と云うことはありません。」

(問)「尋問事項一の(5)について(冒四の1(2))別紙四の1(2)の二七万八、〇〇〇円の処で、この一五〇万の内一二二万二、〇〇〇円は受取手形であつて二七万八、〇〇〇円は小切手だと、そう云う風になつていますが、仮に架空仮受金だとしても二七万八、〇〇〇円が現金計上洩だと云う風に認定されるとすれば、当然一五〇万の内の一二二万二、〇〇〇円も受取手形計上洩として税務署は認定すべきですが、一二二万二、〇〇〇円と云うものは受取手形計上洩とは計上していないようですが、この点税務署の認定として矛盾していると思うんですが、どう云う風にお考えですか。

(答)「それは私の方が、税務署なり国税局に、私としても聞きたい処でありまして、この一五〇万円のうち二七万八、〇〇〇円は確かに小切手で出て居りますが、一二二万二、〇〇〇円の受取手形と云うものは私が調べた範囲では、出て来ないのでありますが、先程申上げました表裏資金交錯状況表後の一三頁の(C)欄「受手払出」欄の上から、九行目の処に一二二万二、〇〇〇円とございますけれども、当然あれは、この次の頁の簿外受取手形明細の処に、一二二万二、〇〇〇円の手形が掲載されていなければいけない筈でありますが、之は載つて居りません。そう致しますと、こう書いてある意味と云うものは会計学上から申上げて、誠に私としては納得がいかないと、こういう風に思つて居ります。

こゝに書いてあるというのは冒陳に書いてあります意味は、この証拠と申されます今の表から申しますと、会計学上から申上げましても話が合わない。」

右の通りの証言からして、論告主張には立証価値が認められない。

(ハ)(ニ)は何れも前記(イ)(ロ)と同じ趣旨で三九・七・二七公判に於ける佐々木敏雄の証言通りであり、現金計上洩ではないこと明白である。

<2> 前期現金計上洩の認容 △三、五〇〇、〇〇〇円

前期<1>の説明に於て詳述した通りであり、認容の必要ないものである。

<3> 預金計上洩 一三六、六九四、七一四円

前期<2>項に於て説明したことゝ同様である。

<4> 前期計上洩の認容 △一二三、三三四、二九三円

論告要旨前期預金計上洩(第二ノ<2>)主張金額は三二、四一四、四八一円であり、之に関しては前期<2>の項で述べた通りであつて認容の必要はないものである。

<5> 受取手形の計上洩 四、八七四、七八二円

前期<3>の項で述べた通りであり、個人関係の会社に対する立替金等の回収又は個人等に割引所持せる手形の存在するだけのことで計上洩とすることは出来ない。

従つて当期末現在の簿外受取手形四、八七四、七八二円が存在したと証明したのは事実に相違するものである。

<6> 前期受取手形計上洩の認容 △九三〇、六九三円

之も前期の<3>通り、認容の必要のないものである。

<7> 前期売掛金計上洩の認容 △九八八、四五〇円

之も前期<6>項の通りで、認容の必要ないものであるが、検察官の主張通りとすれば、前期(一)の<6>の(ロ)に於いて論及した九〇〇、〇〇〇円については、年度区分を誤つて前期に否認されたのであるから、之も当期認容の対象とならないと考える。

従つて本件金額は△一、八八八、四五〇円となる筈である。

<8> 棚卸商品の計上洩 四八、三二七、八八九円

前期<7>項で説明の通り、会社商品の計上洩はなく、論告要旨に主張する当期計上洩右金額には数字的な根拠がなく、推計に過ぎないものである。

尚この点に関しては本上告理由書第二点(三)の棚卸商品圧縮についての項目中詳述した通りである。

<9> 前期棚卸商品計上洩の認容 △四〇、二〇五、三五六円

前期<7>の通り、認容の必要がないものである。

<10> 貸付金計上洩 七、九一九、〇〇五円

前期<11>項に述べた処と同じ主旨であつて、個人関係の貸付金である。

<11> 前期貸付金計上洩の認容 △一三、八一〇、二〇四円

前期<11>項通りで、認容の必要はないものである。

<12> 仮払金の計上洩 二五八、七四〇円

前期の<9>項の通り、個人貸付金の残高であつて、期間中の三三・七・六に入金した三〇、四四〇円は個人への入金である。

<13> 前期仮払金計上洩の認容 △一、二八九、一八〇円

(イ) 豊玉香料に対する前期仮払金は、前期<9>項に於いて述べた通りで、認容の必要はないものである。

(ロ) 仮払法人税 △一、〇〇〇、〇〇〇円

之は決して「前期分仮払金計上洩の認容」にはならず、同一事項を同一事業年度の当期分に是否認したもので、全く意味のないものである。

又本件金額も税務上是否認の問題として総論の部に於いて反論した通り犯意の全くないものである。

<14> 社長勘定の計上洩 六、八〇四、一八〇円

前期の<13><14>の項で説明した通り全く根拠がないものである。

<15> 前期社長勘定計上洩の認容 △六、四二五、〇七六円

前期<15>の通り、認容の必要がないものである。

<16> 架空借入金の否認 七、九四一、〇〇〇円

右の<15>同様個人よりの借入であることは明白で、否認さるべきものではない。

<17> 前期否認架空借入金の認容 △一六、五四一、〇〇〇円

前期<17>項の通り、当期認容の必要がないものである。

<18> 繰越利益金の否認 五、九九四、二二九円

(イ) 検察側主張の金額四、五四〇、一五一円は、前期分の繰越利益金とし被告人会社の公表帳簿に計上し、既に前期分の所得として課税済であるから、検察側がことさら之を否認して当期利益に計上したのは当らない。

仮に財産増減法による計算の必要上だつたにせよ、被告人会社としては之についての違法の認識が全くなかつたことは明白である。

(ロ) 本件金額一、四五四、〇七八円に就いては、税務上の是否認の問題であつて、この点については第一の第三点(五)(論告要旨第一問題4に対する反論)で詳述した通り、犯意がない。

更に又、この金額は検察側に貸倒引当金及び価格変動準備金の認容の見合として否認主張されたが、<20><21>の勘定項目は前期分<21><22>の見合として認容されているので、本件金額に対応する勘定項目が、前期分当期分何れにも存在せず、全く架空のものである。

<19> 繰越利益金の認定損 △一、〇五四、二八六円

本件金額は、前期の法人税確定申告書による如く、被告人会社は三一年十一月期の申告に於いて当該金額を所得に加算して適正に申告したものを、税務当局が一方的に計算上是否認したもので、是否認の必要がないものである。

<20> 貸倒引当金の認容 △一九六、〇〇九円

前期分<2>項の通りである。

<21> 価格変動準備金の認容 △一、二五八、〇六九円

之も前期分<22>項の通りである。

<22> 未払事業税の認定損 △二、九一二、七七〇円

之は計算上の問題で、前期分に逋脱所得がない以上事業税の認定損はあり得ない。

<23> 法人税還付加算金の否認 一一三、〇六〇円

本件も否認の謂れがない。

その理由は次の通りである。

昭和三一年期法人税中間申告過納分八四八、六三〇円及び同年度都民税(法人税割)減額更正分一一七、八〇〇円計九六六、四三〇円が当期中に還付され、之に伴い法人税還付加算金、都民税(法人税割)還付加算金並びに事業税(都税)及び同加算金の合計一一三、〇六〇円が還付されたが、被告人会社は前者九六万余円を納税引当金に繰り戻し、後者一一三、〇六〇円を雑収入として当期利益に計上したものである。

従つて検察側の主張は、明らかに失当である。

<24> 当期中間事業税の否認 △二〇、七一〇円

検察は冒陳で主張し、論告で之を徹回したが、之は税務当局の調査が杜撰だつたことの証明である。

<25> 損金計上法人税の否認 一、〇〇〇、〇〇〇円

今期分<13>項で述べた通りである。

以上に述べた通り、原判決及び第一審判決は何れも検察側提出の薄弱なる各証拠により、罪体と被告会社とを無理に結びつけたものであつて、之に対し被告会社の以上の論点は、各公訴事実の各勘定項目に渉り、疑わしい点を抽出して夫々反論を加えたものであるが、右各公訴事実には各所に誤りがあり、且本件記録を綜合検討すれば、その論旨に幾多の矛盾が見出されるなど、その根拠は曖昧にして薄弱、被告会社を所得逋脱犯として断罪するに足るだけの確固とした証拠は全くない。

しかも本件は、あくまで法人たる被告会社に対する所得逋脱事件であつて、前社長佐々木佐謹吾個人の行つた経済行為に関する問題とは当然区別さるべきが至当であり、従来に於いては右の法人、個人間に判然とした経理上の手続を欠いた面のあつたことは認めざるを得ないが、之は亡佐々木佐謹吾の古風な独善的商売感覚に因つたものであつて、株式会社佐々木香料店としては裏勘定設定などにより所得逋脱を画策した事実などは全くない。

又被告会社は前社長佐々木佐謹吾一家一族が株式の過半数を所有する所謂同族会社であり、前社長の素朴な感情として法人、個人の意識的区分所有権の観念の薄かつたことも亦否定出来ないが、然し法人には当然その資本金に基く独自の経済行為がなければならず、仮令社長の個人資金が出入して、外見上如何に資金が交錯していようとも、自己の資金又は借入金に依らざる営業収益は有り得ず、ましてその元本はあくまで借入金であり仮受金であつて返済を要するものであり、法人そのものを否定しない限り、この事実は動かし難いのである。

従つて確固たる証拠に基かない「疑惑」を真実と見做して被告会社に断罪を宜したことは、法の根本大原則たる「罪の疑わしきは罰せず」の精神に背くものである。

尚、原判決は、上告理由第六点逋脱所得の内容に対する各勘定科目の金額の確定中、第一年度の<13>社長勘定計上洩六、四二五、〇七六円、<14>前期社長勘定計上洩の認容△五、一九三、〇三七円、第二年度<14>社長勘定の計上洩六、八〇四、一八〇円及び<15>前期社長勘定計上洩の認容△六、四二五、〇七六円に関する社長勘定の計上洩に就いて、被告会社は詳細に控訴理由を述べ、之に対する判断を求めたるも、原判決はその余の計上洩についてはその理由を詳細に判示しているものゝ、前記社長勘定の計上洩に就いての判断は全くなされていない。

本件、社長勘定の項目は控訴理由の重要なる内容を構成するもので、而も亡佐々木佐謹吾及び被告会社が第一審判決以来終始一貫抗弁したものであり、この点につき全く判断を逸脱した原判決は審理不尽の違法又は理由不備の違法があつて判決に影響を及ぼすこと明白である。

以上要するに、原判決には判決に影響を及ぼすべき重大な事実誤認又は法令の違反があるから破棄さるべきである。

以上

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