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最高裁判所第二小法廷 昭和45年(オ)982号 判決 1974年3月15日

上告人

日本鋼管株式会社

右代表者

槇田久生

右訴訟代理人

孫田秀春

外二名

被上告人

坂田茂

外二名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人孫田秀春、同高梨好雄の上告理由及び同滝川誠男の上告理由第一点ないし第三点について。

論旨は、要するに、原判決が、上告会社の原判示懲戒規定は従業員が不名誉な行為をして会社の社会的評価を著しく汚した場合に限つて適用されるもので、本件における被上告人らの行為はいまだこに当たらないとしたのは、憲法の理念を無視し、同法一三条、二九条に違反するとともに、自治法規たる前記懲戒規定の解釈適用を誤り、かつ、審理不尽、理由不備、理由齬齟の違法を犯すものである、と主張する。

よつて、按ずるに、原判決の確定するところによれば、上告会社川崎製鉄所の従業員であつた被上告人らは、昭和三二年七月八日東京都北多摩郡砂川町で発生したいわゆる砂川事件に加担し、日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約三条に基づく行政協定に伴う刑事特別法二条違反の罪により逮捕、起訴されたところ、上告会社は、川崎製鉄所の労働協約三八条一一号及び就業規則九七条一一号所定の懲戒解雇事由である「不名誉な行為をして会社の体面を著しく汚したとき」(以下本件懲戒規定という。)に該当するとして、被上告人坂田、同高野を懲戒解雇、同菅野を諭旨解雇にしたことが明らかである。

ところで、営利を目的とする会社がその名誉、信用その他相当の社会的評価を維持することは、会社の存立ないし事業の運営にとつて不可欠であるから、会社の社会的評価に重大な悪影響を与えるような従業員の行為については、それが職務遂行と直接関係のない私生活上で行われたものであつても、これに対して会社の規制を及ぼしうることは当然認められなければならない。本件懲戒規定も、このような趣旨において、社会一般から不名誉な行為として非難されるような従業員の行為により会社の名誉、信用その他の社会的評価を著しく毀損したと客観的に認められる場合に、制裁として、当該従業員を企業から排除しうることを定めたものであると解される。

所論は、右懲戒規定にいう「会社の体面」とは、会社の社会的評価のほかに、会社がそのような評価を受けていることについての会社の経営者や従業員らの有する主観的な価値意識ないし名誉感情を含むものであり、同規定は、従業員の不名誉な行為がこのような会社関係者の主観的感情を著しく侵害した場合にもこれを懲戒解雇の対象とする趣旨である旨主張するが、会社の存立ないし事業運営の維持確保を目的とする懲戒の本旨にかんがみれば、右「会社の体面」とは、会社に対する社会一般の客観的評価をいうものであつて、所論指摘の諸点を考慮しても、なお、同規定を所論のように広く解すべき合理的理由を見出すことはできない。

しかして、従業員の不名誉な行為が会社の体面を著しく汚したというためには、必ずしも具体的な業務阻害の結果や取引上の不利益の発生を必要とするものではないが、当該行為の性質、情状のほか、会社の事業の種類、態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から綜合的に判断して、右行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合でなければならない。

そこで、本件についてみるに、被上告人らは、在日アメリカ空軍の使用する立川基地の拡張のための測量を阻止するため、他の労働者ら約二五〇名とともに、一般の立入りを禁止されていた同飛行場内に不法に立ち入り、警備の警官隊と対峙した際にも、集団の最前列付近で率先して行動したというものであつて、反米的色彩をもつ集団的暴力事犯としての砂川事件が国の内外に広く報道されたことにより、当時上告会社が巨額の借款を申し込んでいた世界銀行からは同会社の労使関係につき砂川事件のことを問題とされ、また、国内の他の鉄綱関係会社からも同事件について批判を受けたことがあるなど、上告会社の企業としての社会的評価に影響のあつたことは、原判決の確定するところである。しかし、原判決は、他方において、被上告人らの前記行為が破廉恥な動機、目的に出たものではなく、これに対する有罪判決の刑も最終的には罰金二〇〇〇円という比較的軽微なものにとどまり、その不名誉性はさほど強度ではないこと、上告会社は鉄鋼、船舶の製造販売を目的とする会社で、従業員約三万名を擁する大企業であること、被上告人らの同会社における地位は工員(ただし、被上告人坂田は組合専従者)にすぎなかつたことを認定するとともに、所論が砂川事件による影響を強調する前記世界銀行からの借款との関係については、上告会社の右借款が実現したのは同時に申込みをした他の会社より三箇月ほど遅延したが、被上告人らが砂川事件に加担したことが右遅延の原因になつたものとは認められないとしているのである。

以上の事実関係を綜合勘案すれば、被上告人らの行為が上告会社の社会的評価を若干低下せしめたことは否定しがたいけれども、会社の体面を著しく汚したものとして、懲戒解雇又は諭旨解雇の事由とするのには、なお不十分であるといわざるをえない。

したがつて、右と同旨に出て被上告人らに対する本件解雇を無効とした原審の判断は相当であり、原判決に所論の違法はない。所論のうち違憲をいう部分は、その実質において単なる法令違背の主張にすぎず、また、懲戒権の根拠に関する原判断の誤りをいう所論も、判決の結論に影響を及ぼさない傍論に対する非難に帰する。論旨は、ひつきよう、以上と異なる独自の見解もしくは原審の認定にそわない事実に立脚して原判決を攻撃するものであるか、あるいは原判決を正解しないことによるものであつて、いずれも採用することができない。

上告代理人滝川誠男の上告理由第四点について。

上告会社の世界銀行からの借款の遅延が被上告人らの砂川事件における行動が報道されたことによるものとは認められないとした原審の判断は、原審で取り調べた証拠関係に照らして首肯するに足り、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(大塚喜一郎 岡原昌男 小川信雄 吉田豊)

上告代理人滝川誠男の上告理由<省略>

上告代理人滝川誠男の上告理由

第一点 原判決は憲法の解釈の誤りならびに法令の解釈適用の誤りがある。

原判決が本件労働協約、就業規則における当該条項の意義を歪曲し、ほしいままなる解釈適用をあえてしていることは法規違反の違法あるのみならず、明らかに憲法第一三条並にわが労働憲法の定立する基本原則にも違反するものである。

けだしわが憲法は、一方第一三条においてすべての個人及び法人に対し、基本的人権として「幸福追及」の基本権を認め人格の自由なる発展のための一切の行動の自由を保障しているのであり、又他面わが労働憲法は労働自治の原則を採用し、自主交渉を基幹とする労働制度を確立し、労働事象については、そが公共の福祉に反しない限り、一切を当事者の処理に一任し、国家干渉主義を排除する建前をとつているのである(憲法二八条、労働基準法八九条参照)。即ち、本件労働協約及び就業規則も右憲法の基本原則に準拠し、その下に作成されたものであつて、経営体人格の活動の自由に基き、その人格の自由なる発展のために設けられた自主的法規なのである。従つて、その中に如何なる保護法益を設定することも、又如何なる保護要件を設定することも公序良俗に反せざる限り当事者の自由であり、国家機関の介入すべき限りではない。この意味において原審判決は許し難い憲法違反に陥つている。更に詳しくいえば左の通りである。

一、原判決は、懲戒権が企業体の維持発展のため固有のものであると理解せず、

「使用者がその従業員たる労働者に対して有するいわゆる懲戒権は、使用者が一方的に労働者に対しその固有の権利として有するものと解すべきものではなく、使用者と労働者との間において個別的又は集団的に合意がなされることによつてはじめて生ずるものと解すべく、右の合意が憲法その他法令に違反することなく且合理性のあるものである限り、使用者も労働者もこれに拘束されるものというべく、これに反する控訴人会社の見解は採用できない」

とする。この立場は、労使の共同組織体である企業体が本来的に有する法益であると同時に、企業を構成する使用者と従業員とが共に享受すべき法益である「会社体面」の特殊な意義を理解しないものである。原判決は懲戒権が使用者と労働者との契約により発生するという観点から、次項記載のように「体面」イコール「社会的評価」したがつて、「体面を著しく汚したこと」イコール「社会的評価を著しく損つた場合」、というように「体面」を「社会的評価」とおきかえ、本条項の「不名誉な行為をして会社の体面を著し汚したもの」を「不名誉な行為をして会社の社会的評価を著しく損つた場合」に読みかえ、このような前提に立つて、「会社の社会的評価を著しく損つたかどうか」の有無について判断したものである。

しかし、この解釈は明らかに誤りである。

以下検討する。

まず懲戒権が労使の合意のみにより発生するとする説は結局、懲戒条項を含む就業規則の法規範性の否定にも結びつくもので、その誤りであることは昭和四三年一二月二五日最高裁大法廷の判例に徴し明らかである。

次に、本条項の「不名誉な行為をして会社の体面を著しく汚したもの」の適用が問題となるケースとしては次の如きいくつかの態様が考えられる。

① 不名誉行為があつたが報道されない場合。

例えば、企業外で強姦、少女誘拐等破廉恥行為を行ない、その事実を司法当局しか知らない場合。

② 不名誉行為があつて報道されない場合であるが、会社内部で公知となつた破廉恥行為の場合。

③ 不名誉行為について報道されないが、それが会社の信用・損害につながる場合。

例えば、取引先や世銀視察団に対する暴行事件など。

④ 著しく不名誉行為で、それが報道され必らずしも物質的損害を惹起しないが、世人は、その行為を著しく不名誉と解する場合、例えばトニー谷子息誘拐事件や強姦その他破廉恥事件。

⑤ 不名誉行為が報道され、それが物質的損害を惹起するか、又は損害を惹起する危険性の存する場合。

⑥ 不名誉行為が報道され、将来物質的損害を惹起する可能性があつたが、会社の防止措置により損害の発生を阻止しえた場合。

このように、本条項が問題となるケースはいく通りか考えられる。しかるに原判決がかかる場合についてなんら検討することなく体面汚損が一率に「会社的評価を著しく損う」場合に限定されるとしたことは理由不備ないし、理由齟齬の違法あるものであることは次項で述べるとおりである。

ところで、原判決が会社体面の代りに置きかえた「会社の社会的評価」には、会社が営利企業であるところから主として、使用者としての企業の取引上の地位・信用を意味し、企業や経営者並びに従業員が世間に対して恥ずかしい思いをすることは含まれていないと考えられる。したがつて前にあげた例で言えば従業員の犯す破廉恥事件たる強姦、小児誘拐等の事件においてすら、其に偶発的な出来ごととして会社の社会的評価すなわち、生産営利会社としての取引上の地位・信用に影響を与えることは殆んど皆無であると想像される。

しかし、本条項を締結するに当り、労使は「トニー谷子息誘拐事件」や「鏡子ちやん殺し事件」の起つた場合本条項の適用もやむをえない旨の了解に達した事実がある。このことは結局労使とも体面について、これを営利という観点のみから捉えず、当該企業とこれを運営する経営者、従業員がどのように世間から評価されるかといつた会社およびその構成員の固有する人格的法益(あるいは主観的価値感情)をも保護したものとみるべきである。そのことは体面の類以概念たる「面目」という言葉が「私は面目ない思いをした」とか「私は彼に面目を失墜しました」とかいつた具合に使用されていることからも容易に想像される。

即ち、体面は、憲法一三条の認める会社ならびに経営者、従業員など会社構成員に与えられた基本的人権の一つであり、それを協約や就業規則において保護したものであり、その点を、単に営利企業としての「会社の社会的評価」というふうに限定した原判決は、憲法に違反し、且つ、判決に影響を及ぼすべき重大な法令違反の存することは明らかである。

二、原判決は、「従業員約三万名を有する控訴人会社のようないわゆる巨大産業会社における一事業所の従業員にすぎない被控訴人らの前記のような行為について、それが、右に認定した程度において、控訴人会社の企業としての社会的信用等に若干の影響を及ぼしたことは認められるものの、それ以上に、控訴人会社の主張するようにその主観的危惧、認識の程にまで控訴人会社の社会的評価を著しく損うところがあつたことを認めるに足る証拠はない。」とし、結局、巨大産業においては、一事業所の一従業員の行為によつて、会社の社会的評価を害されることはありえないといつた趣旨の考え方に立脚している。しかし、これまた、懲戒権が、本来、経営者と従業員より成る組織体の、経営者と労働者の双方にとつて維持されるべき法益侵害防止のため認められたもので、憲法上の基本的人権にも相応するものであることを無視した誤つた議論である。

即ち、前述の如く「会社体面」は「会社の社会的評価」と同一ではないし、「会社の社会的評価」が著しく損われていなくとも、本条の「会社の体面を著しく汚したとき」にあたるケースは充分考えられる。

例えば、原判決も認めるように、協約交渉において組合も異議がなかつたどころか、会社側の指摘によつて本条の存在意義を首肯した「トニー谷子息誘拐事件」や「鏡子ちやん殺し」で巨大産業である会社の社会的評価を著しく害したといえるかどうか、特に原判決が社会的評価の汚損の前提として必要とする物質的損害が惹起されるかどうかは、全く疑問であり、むしろ、巨大産業にあつてはかかる損害は殆んど発生しないと考えられる。

それにもかかわらず、かかる「鏡子ちやん殺し」とか「トニー谷子息誘拐事件」について、労使とも本条項が適用さるべきものと信じて疑わなかつたのは、結局、企業体に関係する当事者として懲戒解雇は、必らずしも企業に物質的損害を与えるとか、会社の社会的評価を著しく損つた場合に限定すべきものとはいささかも考えていなかつた事実を示すものである。

いいかえれば、原判決も適示するように懲戒解雇を定める労働協約第三八条の各規定は本条項を除き「その大部分が従業員たる労働者の事業所内における就労に関する規律を維持し、企業財産を保護することにあつて、この点に焦点がおかれているものであること明らかであつて」その場合(懲戒解雇の場合)企業に重大な損害を与えるとか、企業規律を完全に破壊する程度に至らなければ、解雇が無効とせられるなどとは考えていない筈である。例えば、最高裁では、タイム・レコーダーの不正打刻を以て懲戒解雇した件を解雇権の乱用とした原判決を破棄差戻しており(昭和四二・三・二第一小法廷判決)、右事件の場合、具体的に企業に損害を発生せしめるとか、企業秩序が著しく弛緩し、そのため、会社の生産力に重大な阻害が発生するという事実も直ちには起りえない筈である。そしてこのことは社内窃盗などの場合にも同様である。

しかし乍ら、社会通念上かかる反会社的行動の場合には損害がなくとも懲戒解雇に処せられてやむをえないと理解する所のものは、当該行為の義務違反性と、当該従業員の行動そのものに対する評価であり、それのひき起した具体的損害の大小ではない筈である。

しかるに、ひとり、企業外の行為であるのを故を以て、かかる懲戒に当つては会社に甚大な物質的損害を与えるとか、会社の社会的評価を著しく損うとかという条件を必要とすることになれば、其れは、懲戒解雇に関する各条項間の綜合的均衡や統一性を破るものであり、会社の基本的人権としての法益侵害防止権(憲法一三条及び憲法二九条)を過少評価するものである。

成程、本条項は私生活の場が主となる点で企業内の反社会的行為よりは、要件を厳格に解すべしとすることもある程度やむを得ないであろう。しかし、さりとて、体面汚損は巨大産業の場合において具体的な損害が発生した場合に限るという程度にまで厳しく考えることは誤りである。かかる前提で本条項を設定したものでないことは、原判決認定の労使間の協約交渉の内容からみて明らかである。

しからば、原判決は他の懲戒解雇条項に比し、あまりに本条項を厳格に解するものでおよそ立法者の意志を遠く逸脱し、本条項を無意味化するもので、正当でないというべきである。若し原判決の言う如くであれば、巨大産業ほど懲戒権の行使は制約を受けるということとなるが、元来、懲戒は企業の存続発展に対し具体的に相当程度の損害の発生を要件とするものではなく、企業秩序違反とか、企業として維持すべき法益に対する加害性のある行為に対し其の防止や制裁の目的を以て課せられるものである。

其は、大企業であろうと、小企業であろうと変る所はない。

大企業であれば、物質損害の甚大な違法行為でなければ懲戒の対象とならなく、小企業であれば、左程、違法性がなくても、懲戒の対象となるとするのは懲戒の本質を誤るものである。本来懲戒解雇は、その行為、影響というよりも、労働契約における誠実義務違反という労働者の行為自体の評価が決定的メルクマールとなるべきもので、行為の影響とか物質的損害ということは偶発的なものに影響されるものである。

以上の点からしても原判決は本条項に関し法令の解釈適用を誤り、ひいては懲戒権の本質や憲法一三条及び憲法二九条に違反するものたることが明らかである。

第二点 原判決には理由不備の違法がある。

即ち

一、原判決は、事実の中で、控訴人の主張として「控訴人会社は通産省を経由して世界銀行に第二次借款を申込中であつたが、この申込書の中には『労使関係』という記載項目があり、右項目に『組合は非常に穏健であり決して過激なものではなく労使関係は良好である』と記載して提出してあつた。ところが、翌三三年一月に世界銀行から審査官が来日し、借款申込の審査のため申込各社の事情聴取を行なつたが、その際控訴人会社に対しては砂川事件を指摘してその釈明を求めた。これに対し、控訴人会社は借款は極めて切実な問題であり、また被控訴人等の行為は非常に遺憾なものであつたので、『砂川事件を起こしたのは、ほんの一部の者であり、これについては労働協約、就業規則に照して対処いたします。どうぞ労使関係については昔から悪いことはありませんから、良好なんだということで理解していただきたい』と弁明に努めた。その後、二月末に被控訴人等を処分したところ、三月に至り世界銀行のリップマン審査課長が来て砂川事件を再び指摘したので、『既に砂川事件に関係した従業員については、懲戒解雇の処置を致しました。労使関係は決して悪いことはない』と述べたことがあつた(井上証人証言参照)。

しかし、その後同時に世界銀行借款を申し込んだ住友金属、神戸製鋼には同銀行より呼出しがあつたが、控訴人会社にはなく、三カ月ほど遅れてようやく呼出しがあり、その結果借款も住友金属、神戸製鋼より遅れてしまい、水江製鉄所の建設に二カ月の遅滞を招いただけではなく、他社は成立したのに控訴人会社には何の呼出しもないということから、借款が不可能かもしれないといつた不安を生じ、控訴人会社の資金関係は重大な悪影響を蒙つたのである。かように同時に申込んだ三社のうち、控訴人会社が他の二社より三カ月も遅れたのは砂川事件に原因すること多大であつたと推断されるのである。」という主張に加えて「その後本件の従業員に対する波及的な影響によつてハガチー事件が起りこの時も世界銀行に第三次の借款を申し込んでいたが、この時は砂川事件に引続くハガチー事件ということで、遂に、世界銀行からの借款は成立しなかつたのである。このように第三次借款が不可能となつた原因は、直接にはハガチー事件であるが、前に砂川事件を起したにも拘らず、更に激しい反米的暴力事件を起したということで砂川事件も借款不成立に重大な影響を与えているに違いないのである。

控訴人会社の輸入、輸出先としてアメリカ及び欧州諸国が圧倒的に多いが、そういつた取引先に対して反米的暴力行為としての本件は、悪い意味での影響を与えることが予想され、担当者はその釈明に苦慮した。

控訴人会社の資金関係においても、担当者が一方ならぬ苦慮をしたことは、世界銀行の例に止まらなかつた。

株主および第三者からも、『従業員がとんでもないことをしたな』ということで攻撃され、また鉄鋼六社で構成される六社会や日経連労働部会においても、他社から顛末の報告および釈明を求められて、社長以下著しく体面を汚損された。

控訴人会社には多数の従業員がいるが、これら従業員にも影響を与え、現に昭和三五年には、米国大使を車内に監禁して車に手をかけ、上下動して暴力を働くというハガチー事件が控訴人会社従業員によつて惹起された。

控訴人会社の国内取引先には、造船業、建設業、ガス会社といつた大企業が多かつたが、そういつた企業では労使関係の安定度合を重視するので、営業担当者はその点で釈明その他に苦慮した。

以上の悪影響を最小限に防止するように、控訴人会社の各担当者は、いろいろと釈明し、あるいは砂川事件を起した被控訴人等には懲戒を以てのぞみ、規律維持の意思のあることや、労使関係が良好であることを説明する必要があつた。」などの主張のあることを認定しつつ(五〇丁乃至五三丁)、その理由の中で「水江製鉄所の建設を計画し、その資金八〇〇億円のうち約八〇億円について同年一〇月世界銀行に借款を求めて昭和三三年四月頃よりその建設を開始することを予定していたところ、同年一月に世界銀行の審査官より控訴人会社の労使関係につき砂川事件を問題とされ、同年三月には同銀行審査課長に対し、同事件に関係した被控訴人らを懲戒解雇した旨報告したが、同時に借款を申し込んだ他の会社より三箇月位遅れて資金の借入れを受けることとなつたものであること、その間において控訴人会社の関係者は、砂川事件が反米的色彩を有していたことから、控訴人会社従業員の被控訴人らがこれに加つたことが、アメリカ資本の大きい世界銀行からの借款の成否に影響を及ぼすおそれがあると相当心配し、また六社会という他の鉄鋼関係会社の部課長らとともに構成する会議の席上被控訴人らが砂川事件に関係したことについて報告をせざるを得ない立場となり、他の構成員からの批判を受け恥しい思いをしたことが認められる」とのみ判断し、控訴人のその余の主張について何らの判断もしていないばかりか世銀借款に当り会社が審査官に対し謝罪したこと、また審査課長の質問に対し砂川事件は従業員の一部によつて行なわれたものであつて、これら従業員に対してはすでに懲戒解雇しており、会社の労使関係は安定している旨弁明しなければならなかつた経緯については一切判断をせず、これの物質的損害について、「右の借款が実現すべきものとされる時期については、控訴人会社と同時に借款の申込みをした他社に比し控訴人会社の分が遅れることはないとする確かな根拠があつたと認めるに足る証拠はなく、また、被控訴人らの砂川事件における行動が報道されたことが借款の実現を遅らせる原因となつたものと認めるに足る適当な証拠もない。」とし、

「以上認定のとおり、従業員約三万名を有する控訴人会社のようないわゆる巨大産業会社における一事業所の従業員にすぎない被控訴人らの前記のような行為について、それが、右に認定した程度において、控訴人会社の企業としての社会的信用等に若干の影響を及ぼしたことは認められるものの、それ以上に、控訴人会社の主張するようにその主観的危惧、認識の程にまで控訴人会社の社会的評価を著しく損うところがあつたことを認めるに足る証拠はない」とした。

二、原判決は「不名誉な行為をして会社の体面を著しく汚した」の意義を、「会社の社会的評価を著しく損つた場合」に限定し、かような場合、当然、会社に対する具体的損害の発生が惹起されねばならぬと解していたからこそ、控訴人主張にかかる前記事実の有無について一切判断を加えなかつたものと推察される。しかも原判決は世銀審査官の指摘に対し会社が釈明し謝罪したことやこの事件が新聞に報道されたことが、なにゆえ「体面汚損」に該当しないかについては、全く説示していない。のみならず、「会社の体面汚損」が直ちに「会社の社会的評価の汚損」に結びつくのであるかについても、説示するところがない。原判決が、ただ単に会社の社会的評価が著しく損われた旨の証拠がないとして、被控訴人らの行為が本条項に該当しないとしたのは、理由不備ないし審理不尽の違法があり破棄を免れないものである。

また、後述するように労使間で、「鏡子ちやん殺し」「トニー谷子息誘拐事件」「世銀視察団に対する無礼」「会社に民事上の損害を与えたとき」「会社の名誉を毀損したとき」「会社の信用を失墜したとき」などについては少なくとも本条項に該当するとの話し合いがなされている旨の認定部分が存するに拘らず本条項を「会社の社会的評価を著しく損つた」場合に限定したのは理由齟齬の違法あるものである。

三、もつとも、事実摘示の中で、控訴人が「体面汚損」は、「社会的地位・信用」の毀損にとどまらず、会社の有する一切の価値に関する社会的評価の汚損である旨の主張がある。

しかし、原判決のいう「会社の社会的評価を損つた場合」は、上告人の主張した、社会的評価の概念よりかなり狭い概念で、取引上の信用とか生産力に対する評価を意味するものであり、そのことは、その物質的損害を要件とする論理の運び方から明らかである。上告人が主張したのは次の如く広い意義で理解される、「社会的評価」のことであつて、原判決の言う「会社の社会的評価を損う」ことより広い意味で主張したものであり、そのことは左の控訴人主張から明らかなところである。

「それでは『体面』とは何か、以下体面の概念について分析を加えてみよう。『体面』とは、単に『名誉』とか『信用』とかに特定せられるべきでなく、ひろく会社の有するすべての形象や価値が、一般社会人の法感情や社会的感覚に訴え感得せられて生ずる社会的評価とその社会的評価について会社側関係者が抱いている主観的価値意識ないし価値感情の両者により構成されるものである。この意味において『体面』は、道義的な人格的価値としての『名誉』や、外的経済的価値としての『信用』と異り、より広い社会的観点から考察されるべきものである。

このように『体面は、一般社会人の会社に対する社会的評価とそれに対する会社の主観的価値意識ないし価値感情より構成される実在する価値であるが、それは企業規模、生産設備、生産能力、販売機構、得意先、技術、金融関係、人的構成等有形の具体的形象そのものとしての価値ではなく、これら具体的形象に伴い発生する価値――いわば観念的形象としての価値として、特殊な性格を有するものである。したがつて、それは経済的価値として、より客観性、具体性を帯びた『信用』や、人格価値としての『名誉』の二つに極限されるべきものではない。

こうした『体面』の概念よりすれば、会社体面という法益侵害としての『会社体面の汚損』とは、一つには、一般社会人が会社に対して抱く社会的評価を汚損することであり、一つには、社会的評価について会社側関係者が抱いている主観的価値意識ないし価値感情を侵害することである。そして、一般社会人による社会的評価としての面における『体面』は『会社の企業規模、生産設備、生産能力、販売機構、得意先、技術、金融関係、人的構成などの具体的形象を通し、会社人格を媒介として、一般社会人により感得せられる観念的形象としての会社の総合された無体的客観的価値につき、一般社会人のくだす一切の社会的評価』のことであり、その汚損は、結局、さらに具体的価値としての他の法益たる社会的地位、信用、生産力、得意先、のれんなどの侵害を惹起するのである。しかもこの意味における『体面』の汚損は器物損壊等の物的侵害と異り、その補填は容易でなく従つて長期間にわたり右具体的価値のそれぞれを毀損する怖れがあり、その意味でより一層保護される必要があるのである。」(三七丁乃至三八丁)

(もつとも、控訴人主張の中で体面の汚損は「結局さらに具体的価値としての他の法益たる社会的地位、信用、生産力、得意先、のれんなどの侵害を惹起するのである」とした部分があり、会社の体面が単に、営利企業としての面の法益に限定されるかの印象を与え、誤解を免く怖れがあるが、控訴人はその意味でこれを主張したのではない。即ち、控訴人主張の中で体面概念を規定する際体面を客観面と主観面の二つに分け、客観面である一般社会人による社会的評価としての面における「体面」については、「会社の企業規模、生産設備、生産能力、販売機構、得意先、技術、金融関係、人的構成などの具体的形象を通し、会社人格を媒介として、一般社会人により感得せられる観念的形象としての会社の総合された無体的客観的価値につき、一般社会人のくだす一切の社会的評価」と規定したように、控訴人は人格共同体の面をも重視し、体面を人格的法益とも見て主張したもので、この点からも控訴人は単純に体面イコール営利企業としての社会的評価と主張したものでないことが明らかである。)

しかも、控訴人主張としては、其の「社会的評価の汚損」に加えて、体面の主観的側面について「そしてまた会社に対する社会的評価についての信頼感情としての会社側関係者の主観的価値意識ないしは価値感情の面における『体面』の汚損は、さらに会社側関係者全体に存する内在的人格感情としての名誉感情の侵害といつた法益侵害を惹起するのである。」と述べ、更に「しかるに一般には、体面と社会的地位、名誉、信用とが右のように密接な関係にあることから「体面汚損』を『社会的地位、名誉、信用等の毀損』と混同することが多いのである(砂川事件東京高裁判決)。しかし、これは言うまでもなく体面という法益に対する分析、検討を欠いた結果もたらされた誤りという他はない。

そして、さらに会社は、営利法人として株主のため継続反覆的に営利活動を実現し、さらには全従業員より構成される経営体を総括し、広く従業員について保護義務を有する。かかるところから、『会社体面』は株主および従業員にとつても、極めて重要な意義を有している。

これは企業規模が拡大し、永続的大企業となればなる程、その面での影響は甚大となつてくる。」と主張しており、これらの主張を全く考慮せず、又、説示することもなく、ただ控訴人主張の社会的評価」という用語のみを使用して「会社体面の著しい汚損」を「会社の社会的評価を著しく損つた場合」におきかえ、「社会的評価を損う」とは具体的にどの様な概念を意味し、どのような場合を指すのかにつき説示を欠く原判決は、理由不備ないし審理不尽の違法あるものである。

第三点 原判決は自治法規たる労働協約の解釈を誤り、且、審理不尽、理由不備の違法あるものである。

一、原判決は、本条項の解釈についてはその制定経過、了解事項等の諸事情等を勘案して合理的に解釈すべできあると説示しながら、本条項が古くから就業規則労働協約に定められていたことと、昭和三〇年協約交渉の際組合から会社に同条項削除の要求がなされたが会社から「トニー谷の子息誘拐事件」「鏡子ちやん事件」の例をあげたところ、「これらに対しては、組合側もそれらの事件の犯人が被控訴人会社の従業員であつたとしたならば、この条項を適用して解雇せられてもやむを得ないものとする態度を示し」たことを認定し、さらに「控訴人会社が世界銀行から借款を行なうにあたつて同銀行の調査団が控訴人会社の工場視察中に従業員がこれに対して無礼をはたらいたというような場合には、この条項を適用すべきであるとする控訴人会社の説明によつて組合側の態度が軟化してきて、組合側よりこの条項の存続を前提として次の運用基準、すなわち『(イ)会社に対して民事上の損害を与えたとき。(ロ)会社に対して名誉を毀損たとき。(ハ)会社の信用を失墜したとき。』という運用基準にあたる場合に限つて、この条項を適用するものとしようとする提案がなされたが、これに対しては、控訴人会社において了承せず、結局組合側において削除の要求を取り下げることとなつて、昭和三〇年度の労働協約(乙第一号証)が締結せられたこと、昭和三一年一一月に締結された労働協約については、労使いずれの側よりも右条項の変更は要求せられなかつたものであつて、この条項については労使双方の間において覚書又は了解事項というものは全然存在しないことが認められる」旨認定している。(理由六丁乃至八丁)。

二、本条項を解釈するにあたり「その制定経過、了解事項等の諸事情を勘案して合理的に解釈すべきである」とするならば、本条項を「会社の社会的評価を著しく汚した場合」に限定すべきではなく、少なくとも協約の再締結にあたり、労使間で話題となつた「鏡子ちやん殺し」、「トニー谷子息誘拐事件」、「世銀調査団に無礼を働いた場合」とか、「会社に民事上の損害を与えたとき」「会社に対して名誉を毀損したとき」「会社の信用を失墜したとき」はすべて本条項の対象になると解さなければならず、また、組合が前記適用基準を徹回したことは、右に引用した場合に該当しない「体面」の汚損についても、本条項が適用される場合があることを労使双方が合意していたことを示すものである。

しかるに原判決は「体面汚損」を「会社の社会的評価を著しく損うこと」におきかえたが、原判決の考えた「会社の社会的評価を著しく損う」とは会社の信用の著しい失墜とほぼ同程度の厳しい要件を必要とする概念と解されるのである。かような見地にたつかぎり、ある場合には物質的損害の惹起のあつた場合でさえも、「会社の社会的評価を著しく損つた」とは言えない場合もあるであろうし、また、会社の名誉を毀損した場合であつても必ずしも「会社の社会的評価を著しく汚損した」とは考えられない場合もありうるのである。とくに従業員がいま仮にトニー谷子息誘拐事件を惹起したとしても、だからといつて巨大産業たる営利企業体の「社会的評価が著しく損われる」とは考えられない。

上述したように、本条項の解釈について、「その制定経過・了解事項等の諸事情を勘案して合理的に解釈すべきである」としながら、原判決は、独自に「社会的評価を著しく損うこと」なる概念を創作し、労使の自治規範たる労働協約について、労使の自治意識、規範意識を無視して、これを極端に限定解釈したことは著しく法令の解釈適用を誤るものである。

しかも、原判決は、本件事実により、「同年一月に世界銀行の審査官より控訴人会社の労使関係につき砂川事件を問題とされ、同年三月には同銀行審査課長に対し、同事件に関係した被控訴人らを懲戒解雇した旨報告したが、同時に借款を申し込んだ他の会社より三箇月位遅れて資金の借入れを受けることとなつたものであること、その間において控訴人会社の関係者は、砂川事件が反米的色彩を有していたことから、控訴人会社従業員の被控訴人らがこれに加つたことが、アメリカ資本の大きい世界銀行からの借款の成否に影響を及ぼすおそれがあると相当心配しまた六社会という他の鉄綱関係会社の部課長らとともに構成する会議の席上被控訴人らが砂川事件に関係したことについて報告をせざるを得ない立場となり、他の構成員からの批判を受け恥しい思いをしたこと」などの社会的影響を認めているのである。

それにも拘らず、物質的損害との因果関係の証拠がないとして、社会的評価を著しく損つたとはいえず本条項に該当するものではないとしたのは、自治法規たる前示本条項の解釈を著しく限定解釈し、本条項の適用を誤つたものである。

少なくとも本条項に関し労使間で了解されていた適用例からすれば本件について本条項の適用を否定する論理的理由に乏しく、この点、原判決はその論理構成自体自己矛盾を含み、法令の適用の誤りおよび理由不備の違法がある。

三、原判決は、本件行為の不名誉性は、軽微であると判断する。そして、この点をも、本条項に該当しない理由の一つにするが、これまた、本条項の解釈適用を誤れるもので、判決に影響を及ぼすべき重大な法令違反の存することは明らかである。

即ち、原判決は、まず本条項の解釈について「本件懲戒規定はその文言において如何にも抽象的であるのに加え、従業員の行為が企業外の行為であるときはその行為による企業体の社会的評価の汚損の有無及び程度の認識は必らずしも容易なものではないから、右規定の適用に当つては特に当該行為の性質、態様等との関連において慎重な認定を要するものである。」という前提をもうけている。

この点、本条項を「会社の社会的評価を著しく損つたことの有無」という概念に変更すること自体、前述の如く、重大な法令解釈の誤りを犯しているが、その点の議論はさておき、本条項の適用に当つて行為の性質、態様等の関連において考察すべきとすることは正当である。

しからば、本条項の不名誉性についても一概にその行為の国家的違法性のみを以つて評価すべきではなく、組織体としての会社の法益たる「体面」汚損との関係において、それを評価すべきことは当然のことである。

しからば、単純に、国家刑罰権の評価としての罰金刑であるとか、懲役刑であるとかにより、本条項の不名誉性を判断すべきものではなく、企業の体面に対する影響との関係において本条項の不名誉性を考えるべきものである。

しかるに、原判決は、その関係を軽視し、「その行為に対する刑事判決における問責は最終的には罰金二千円という比較的軽微なものであつて、それが集団的暴力行為犯の範疇に入り、社会的非難を到底免れないものとはいえ、その不名誉性については左程強度なものとはいえない。」とする。しかし原判決のかかる判断はこの点明らかに、本条項の解釈の適用を誤れるものである。

即ち、道義的に或いは刑法的に非難可能性が少いことが、必ずしも、本条項の不名誉性を阻却するものではない。

いま政治的暴力事件に例をとれば、当該行為が、ある場合には刑事的違法の観点から、その違法性が阻却されまた責任が阻却されることもある。

しかし、政治的暴力事件の会社に与える影響は極めて甚大である。それはマスコミに取り上げられることによつて、一層増大する。民間企業において政治的暴力事件が社会に宣伝されることが、必ずその取引先顧客などに直接間的に不利益に影響を与えずにはいない。このことは、かかる事件についてマスコミが競つてこれをとりあげるわが国の社会情勢のなかで殆んど公知の事実とさえいえる。この意味において企業内従業員による政治暴力事件は、一般の刑事事件(例えば窃盗や住居侵入、強姦等)に比較し企業にさらに大きな影響を与えるのである。たとえば、会社組合間で異議のなかつた世銀視察団に対する無礼は刑事上無罪であつても解雇に値するのである。

企業の従業員としては、会社にかかる不利益をもたらす非行をつつしむべき労働契約上の誠実義務を有することは、ドイツの学説の認める所であり、従つて本件を以つて不名誉性が軽微であるとした原判決は、法令の解釈適用を誤るものである。しかも本件の場合、反米行動の故に、会社内に反米感情の存在をアメリカ側取引先やアメリカ資本が中心となつている世銀当局に予想せしめるもので、その点の個別的不名誉性はむしろ強いといいうる。従つて、この点を軽視し本条の適用を否認した原判決は法令の適用を誤り、かつ、その点の理由説明なく、理由不備ないし理由齟齬の違法がある。

第四点 <略>

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