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最高裁判所第二小法廷 昭和46年(行ツ)51号 判決 1973年10月05日

鹿児島県始良郡隼人町住吉一九五番地

上告人

小林工業株式会社

右代表者代表取締役

田口百合三

右訴訟代理人弁護士

村田継男

鹿児島県始良郡加治木町

被上告人

加治木税務署長

林義則

右当事者間の福岡高等裁判所宮崎支部昭和四四年(行コ)第三号法人税更正処分取消請求事件について、同裁判所が昭和四六年三月三一日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人村田継男の上告理由について。

原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、所論の各点に関する原審の判断はいずれも相当として是認するに足り、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の認定と異なる事実を主張し、あるいは独自の見解に立つて原判決を非難するものであつて、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大塚喜一郎 裁判官 岡原昌男 裁判官 小川信雄 裁判官 吉田豊)

(昭和四六年(行ツ)第五一号 上告人 小林工業株式会社)

上告代理人村田継男の上告理由

第一点 第二審判決の引用する第一審判決は、被上告人が本件係争各特別賞与、特別手当(給与と判決は記載す)、通勤手当の損金計上を否認し、いずれも寄付金と認定したことを相当と認め、その理由として、

一、三六年ないし三八年度分特別賞与の各否認ならびにその寄付金認容について、

1 原告は、従業員に対し該年度毎に本件特別賞与以外にすでに通常の賞与を支給していること、原告は右特別賞与を世帯家族の有無のみを区別して被告主張のとおりいずれも従業員に一律に支給されたものであることは当事者間に争いがなく、また右賞与を支給するに至つた経緯は、原告と組合役員との団体交渉の結果、原告は組合側の三六年度については組合基金の要求に基き、三七年度については組合の役員旅費、洗濯場所建設基金、リクレーシヨン費用等の要求に基き三八年度については労働会館建設基金の要求に基づいて、両者間で右特別賞与を支給することの合意が成立したことによるものであることは原告の自認するところである。従つてこれらの事実と、その成立の真正につき争いのない乙第二号証、同第九号証ならびに弁論の全趣旨を綜合すると、右特別賞与名目の支出の経済的実質は原告の組合に対する組合資金の支出であるというべく、従つて、それが、労働の対価として、個々の労働者の勤務状況、職務内容、勤務年数等を考慮して支給される本来の意味の賃金(労働基準法第一一条)に当らないことは明らかである。

2 つぎに本件各特別賞与名目の支出は帳簿上、各年度とも源泉徴収税額ならびに失業保険料をそれぞれ差引いた上、従業員各人に特別賞与の形式で支出し、同時に同額を組合が組合費として全額徴収するものとし、原告がその支給に際し組合に代つて右徴収にあたつたので、結局個々の労働者には現実の支給がなされることなく、原告において全額控除してこれをそのまゝ組合に交付していることも当事者間に争いなく、証人田口百合三、同中村誠の各証言および原告代表者本人尋問の結果によると原告が組合に対しこのような支出形式をとつたのは、組合に直接金員を交付することが不当労働行為とされることを虞れた結果にほかならなかつたことが認められる。ことに、その支給後退職した従業員に対し、右賞与相当額の返済もなされていないことは当事者間に争がない。従つてこれらの事実は本件各賞与が、実は、原告の組合に対する組合資金交付の趣旨であつたことを裏付けるものというべきである。

3 果してそうだとすると、原告は組合役員を除く一般従業員も右団体交渉の経緯ないし右賞与支出の事情を諒知していて、関係当事者の協定に基いて、その支出がなされた旨主張するけれども、これらの事実をもつてもとうてい前記の結論を左右できない。

二、三六年度分特別給与の否認ならびにその寄付金認容について、

1 原告が、被告主張のとおり右特別賞与(ただし原告は特別手当と称している。)を六回にわたり、毎回各従業員一律に、給与とは別途支給していること、右特別給与を支給するに至つた経緯は、原告と原告の労働組合が結成される以前の労働者の団体である従業員懇親会の代表者との間で右懇親会の浴場建設資金を原告から支出させる約束が成立したことによるものであること、各従業員に対する右特別給与支給に際しその支出形式は給与明細書によれば特別手当という名目で支給されているものの同時に浴場建設資金として全額差し引かれ、現実には個個の従業員に対し支払われていないことは当事者間に争いがなく、また右全額控除は右懇親会が同会費として従業員から徴収するかわりに原告が代つてなしたものであり、これをそのまゝ全額右懇親会に交付したものであることは原告の自認するところであり、成立に争いのない乙第八号証、証人田口百合三の証言によれば右金員は右懇親会に交付された後、全額同会の代表者鳴松重夫名義で鹿児島銀行隼人支店に預金されたことが認められる。

2 以上の事実関係から本件特別給与は、その支給名目を特別手当として一旦各従業員に支給した形式を踏んだとしてもその実質は前記懇親会の浴場を建設する資金の支出であるから前同様本来の意味の賃金といえないことは明らかである。

三、三八年度分通勤手当の損金否認について

1 原告が、被告主張のとおり右通勤手当を各従業員一律に一年分一括支給していること、右手当を支給するに至つた経緯は原告と原告の労働組合代表者との間で団体交渉の結果、組合が通勤用マイクロバスを購入する資金を従業員一人当り月七五〇円の割合で一律に原告から支出させる約束が成立したことによるものであること、労働者に対する給与支給に際し右金員を通勤手当として支給されたものの現実に個々の従業員に支払われることなく前同様バス購入資金として組合に代わり原告が全額これを控除して直接組合に交付し、組合はこれを組合の監事山本善一郎名義で鹿児島銀行に定期預金し、組合はこれを原告の右銀行に対する借入金の担保に提供していることは当事者間に争いがない。

さらに右バスの用途につき遠距離通勤者は通勤利用し、近距離通勤者も休日にはリクレーシヨンに利用するものであることは原告の自陳するところである。

2 右の事実によれば本件通勤手当はその支給名目が通勤手当であるとしてもその実質は組合のマイクロバス購入資金の支出というべく、労働者の通勤距離または通勤費用に応じて算定されるべき通勤手当に該当しないこと従つて賃金に包含されないことは明らかである。

四、寄付金認定について

結局、前述の如く前記の一、ないし三、の本件各金員の支出はそれぞれ組合資金、懇親会の浴場建設資金、ないしは組合のマイクロバス購入資金として原告の組合又は従業員懇親会に対する金員の無償の交付というべきものである。従つて、法人税法第三条、第一一条、第二二条、第三七条の各法意に照すと、これらの支出はいずれも同法上の寄付金と解するのが相当である。

と判示している。

一、しかし労働基準法上賃金とは、賃金、給料、手当、賞与、その他名称の如何を問わず、労働の対価として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう(同法一一条)のであるから、臨時に支給されるものであつても、契約その他によつてその支給が使用者の義務とされる場合には、それが福利厚生施設費とみられない限り、賃金とみるべきものである。

同法に賃金の支払方法として、通貨払、直後払、全額払、一定期日払等の定め(同法二四条)をしていて、これに違反したものは処罰されることになつているが、これは賃金が確実かつ容易に労働者に支給されることを虞つての規定であつて、この規定に反する給与はすべて賃金でないという趣旨ではない。殊に低賃金の日本産業、特に中小企業においては、低賃金を補完するため福利厚生施設の必要に迫られている。これがまた企業を維持する要でもある。されば本件の特別賞与又は手当が労働基準法上賃金であるか否かだけによつては本件は解決しない。

二、法人税法上、法人の所得は各事業年度の総益金から総損金を控除した金額とする(同法二二条一項)。そして総損金とは資本の払戻および利益処分以外において法人の純資産を減少すべき一切の支出をいい(東京高裁昭二七、一、三一参照)、ある支出が益金処分となるか、損金を構成するかの判断に当つてはその法的形式の外面に捉われることなく、当該企業経営の実態を解明し、問題の支出が企業の経営において果たす役割ないし機能を実質的に把握考察して決すべきである。(東京高裁昭四〇、一〇、二一)

而して、寄付金は純資産の減少の原因として本来損金であるが、無条件に損金算入を認めては、法人税の納付に代えて寄付金をなし、国庫収入の確保に不当な影響を与える恐れがあるので、損金不算入の計算をするものだとされている(法人税法三七条)。しかし、ここに謂う寄付金とは法人が相手方に対し、直接法人の事業と関係なく、かつ対価の授受なく、無償で贈与した金額その他の財産的給付をいうのであるから(神戸地裁昭三八、一、一六)、事業に直接または明白に利益を与えるために支出せられた無償贈与は寄付金には該当しない。

そこで法人が使用人の福利施設費等として使用人の組織する組合または団体に交付したものであつても、当該組合又は団体が法人格を有せず、かつ当該組合又は団体の経理が当該法人の経理の一部に属するものと認められるものは、寄附金として取り扱はないことになつている(法人税取扱基本通達六七、(一))

三、しかるに本件の特別手当、特別賞与はいずれも、

1 組合の前身たる懇親会又は組合との団体交渉の結果、事業維持上、利益の有無にかかわらず、已むを得ず承諾し、義務付けられた支出である。

2 各組合員に支出するが源泉徴収した残りを組合費として原告会社会計にて各組合員から差し引き徴収し、これを組合に納めた上、組合からそのまま借用又は定期にした後、担保として借用したものである。

3 各組合員に支給し結局は組合に渡したもので、事業に関係ない第三者に交付したものとは違う。

4 右懇親会又は組合も未だ法人格までは取得していない。

5 業者間協定に基く最低賃金が決定せられていて、業者間の足並を乱したくはないし、といつて製材業界は原告会社も割に低賃金であるから、これを補完して労働者を都会並に優遇し、流出を防ぐためには矢張りかかる形式の支出をせざるを得なかつた。

ものである。されば、本件特別手当および特別賞与は法人税法にいわゆる寄附金には該当しない。

第二審判決(第一審判決)は使用人の給料、法人税法第二二条の損金、同法第三七条の寄附金の解釈を誤りその適用を誤つている。この点判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令の違背がある。

第二点 第二審判決の引用する第一審判決は、仮に本件特別手当及び特別賞与が使用人の賃金に該当しないとしても、同支出はいずれも福利厚生施設の設置ないし購入のために支出した福利厚生費であるから、損金として計上すべきであるとする上告人の主張に対し、もともと右団体はいずれも法人格はないが、独立の社団であり原告とはその経理を異にしていることは当事者間に争がなく、資産の帰属主体としてみる限り原告会社と同一体たるべきものではなくかえつて原告と対立する存在であることはいうまでもない。従つて、たとえ原告がかゞる団体との関係で、原告主張の如く従業員の福利厚生ないし福利厚生施設のための費用に充てる目的で、団体交渉の結果組合ないし懇親会との関係でその支出を義務づけられ、原告の業務の維持遂行上支出を余儀なくされたとしてもそれは、事業収益を挙げるための経費ないし費用の面からみれば間接的なもので、直接必要な一般管理費その他の費用とはいい難い。すなわち、かかる福利厚生費用の支出ないし同施設の建設等(この場合、流動資産が固定資産に転化する結果その減価償却費)につき本来正規の税法上の損金の取扱を受くべきものは、前記各金員の支出を受けた懇親会または組合であろう。要するに、本件の場合前記各金員を一旦原告と対立する懇親会ないし組合に交付しその運用に委ねたものである以上、その利益を原告の各従業員が、全面的に享受するとしても、それは組合施設等による間接の利益にすぎずこれをもつて直接原告の事業執行上必要な支出とは認めがたく、主張は理由がない。

と判示した。

しかし本件特別手当及び特別賞与は、判決も認めるごとく

一、組合の前身たる懇親会又は組合との団体交渉の結果、已むを得ず承諾し、義務付けられて支出したものである。

二、全然事業に関係ない第三者に交付されたものでなく、事業維持上、利益の有無にかかわらず、已むを得ず支出したものである。

三、支出の目的は従業員の浴場建設、洗濯場所建設、通勤用マイクロバス購入、リクレーシヨン費用、労働会館建設等福利厚生ないし福利厚生施設を作り又は購入するためであつた。

四、右のごとく本件支出は形式の外面は兎も角、実質は労働者の待遇を良くし、労働者の流出を防ぎ、企業を維持するために支出されたものである。

五、しかも右懇親会又は組合も未だ法人格も取得していない程度の団体である。

以上のことを考合すると、本件の支出は仮に労働基準法上賃金の支払には該当しないとしても明かに福利厚生費であるから、これを法人税法上損金として計上して然るべきである。然るに右支出をあくまで寄附金と認定し、上告人の請求を退けた原判決は明らかに、使用人の給料、法人税法第二二条の損金、同第三七条の寄附金の解釈を誤り、法令の適用を誤つた、法令違背がある。

以上

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