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最高裁判所第二小法廷 昭和47年(オ)862号 判決 1974年9月20日

主文

理由

上告代理人井野口勤の上告理由第一点について。

債権者が適法な弁済の提供をうけながらその受領を拒絶して留置権を行使することは、留置権制度の目的を逸脱し、公平の原則に反するものとして、許されないと解するのが相当である。これを本件についてみるに、原審の適法に確定したところによれば、被上告人阪神特殊機工株式会社は、当時本件自動車の所有者であつた被上告人大阪ふそう自動車株式会社より、本件自動車修理代金一八万八四三〇円の弁済を提供されながら、その受領を拒絶し留置権の行使を主張して本件自動車の引渡を拒み、これを第三者たる業者に保管させていることが認められるというのであり、右事実によれば、被上告人阪神特殊機工株式会社は、本件自動車修理代金の受領を拒絶したのちにおいては右被担保債権について本件自動車を留置することができず、その占有は権原に基づかないものであるといわなければならない。したがつて、被上告人阪神特殊機工株式会社が占有権原のないことを知り又は過失により知らずして本件自動車を不法に占有することとなつたのちにその保管のために必要費を支出したとしても、民法二九五条二項の類推適用によつて、右必要費償還請求権に基づいて本件自動車につきさらに留置権を行使することができない場合がありうるにもかかわらず(最高裁昭和三九年(オ)第六五四号同四一年三月三日第一小法廷判決・民集二〇巻三号三八六頁、同四二年(オ)第一三四一号同四六年七月一六日第二小法廷判決・民集二五巻五号七四九頁各参照)、右弁済提供及び受領拒絶がされた際の事情、被上告人阪神特殊機工株式会社の占有権原に関する故意・過失の有無などについての事実を確定することなく、同被上告人は留置物たる本件自動車の保管費用償還請求権についてもまた留置権を行使することができるとした原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)には、留置権についての法令の解釈、適用を誤り、ひいては審理不尽におちいつた違法があるというべく、その違法が原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。

それゆえ、その余の上告理由について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れず、以上の点についてさらに審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻す。

(裁判長裁判官 大塚喜一郎 裁判官 岡原昌男 裁判官 小川信雄 裁判官 吉田 豊)

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