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最高裁判所第二小法廷 昭和48年(あ)1817号 決定 1974年9月21日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人佐々木一珍の上告趣意について

所論は、事実誤認、量刑不当の主張であって、いずれも上告適法の理由にあたらない。

弁護人吉川孝三郎の上告趣意について

所論第一は、違憲(三七条違反)をいうが、その実質は、事実誤認の主張であり、同第二は、違憲(三一条違反)をいうが、その実質は、単なる法令違反の主張であり、同第三は、違憲(三七条違反)をいうが、その実質は、量刑不当の主張であり、同第四は、事実誤認、量刑不当の主張であって、いずれも上告適法の理由にあたらない。

弁護人真野毅、同山口信夫、同鈴木富七郎の上告趣意について

所論第一点は、事実誤認の主張であり、同第二点は、判例違反をいうが、所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でなく、同第三点は、量刑不当の主張であって、いずれも上告適法の理由にあたらない。

また、記録を調べても、いまだ刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、主文のとおり決定する。

この決定は、裁判官大塚喜一郎、同小川信雄の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。

裁判官大塚喜一郎の補足意見は、次のとおりである。

私は、弁護人らの上告趣意が、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらないものとする多数意見に同調するものであるが、量刑不当の所論に鑑み意見を補足したい。

(一) 原判決の維持する第一審判決の認定事実の要旨は、被告人は、株式会社東邦相互銀行(以下銀行という。)高知支店の支店長として在職当時、原審相被告人友井年昭らに対する同支店の貸金残債権六〇〇万円の回収に苦慮した結果、同人及び当時の同支店貸付整理等の業務担当者である原審相被告人北添哲郎と共謀のうえ、金月奉に対し、真実は右債権の弁済資金などに充当する意図であるにかかわらず、これを秘し、同人名の預金として受け入れ、直ちにこれを払い戻して同人に返還するとの虚構の事実を申し向けて、同人から金三、〇〇〇万円を騙取した、というものである。そして、第一審は、被告人を懲役一年に、友井年昭を懲役二年に、北添哲郎を懲役一年にそれぞれ処したところ、原審は、友井年昭及び北添哲郎につき、その量刑不当の主張をいれ、第一審の各実刑判決を破棄し、友井年昭に対し、懲役二年執行猶予四年、北添哲郎に対し、懲役一年執行猶予四年の各刑を言い渡し(両名に対する右判決はいずれも確定している。)、被告人に対しては、友井年昭らとの共謀関係を争う事実誤認の主張を斥け、第一審判決の量定を含めその判断を維持していることが認められる。

ところで、本件記録上窺われる右相被告人である共犯者相互間の量刑事情を比較検討すると、被告人と共犯者との量刑の間には刑の均衡を欠き是認し難い点がある。すなわち、本件犯行の実態は、友井年昭が亡和食元為(本件犯行後死亡)らと共謀のうえ、右銀行高知支店に対する負債(約六〇〇万円)を返済するという口実の下に、同支店を舞台にして計画的に実行した詐欺事件であり、その実行の過程で、右債権回収にあせっていた銀行側の北添哲郎をまず抱き込み、さらに、被告人をもこれに加担せしめたものであり、特に、被告人は、犯行加担にためらいながらずるずると引きずり込まれるに至った経過が窺われる。このことは、友井年昭らが、本件領得金の中から六〇〇万円を銀行に対する負債の弁済に充当し、北添哲郎に対し謝礼と称して約七〇万円ないし一〇〇万円を交付したほかは、残余金全部を自分らにおいて分配領得し(右友井年昭の領得金額は、推定約九〇〇万円)、被告人は、右の分配金を全く受け取っていないことからも明らかである。したがって、本件犯行の実態、領得金の分配状況に照らせば、被告人は、共犯者と較べ犯情が軽いことがあっても、重いことはないというべきである。ところで、原審の審理中に、銀行と被害者との間に裁判上の和解が成立し、友井年昭及び北添哲郎は、この和解に利害関係人として参加し、それぞれの領得金につき、内部分担金として支払義務を認め同銀行のその余の負担金とともに、被害者に対し被害弁償を完了しているが、被告人は、自己の領得金がないことからこの和解に参加する余地がなかったものと認められる。それゆえ、被告人が現実に被害弁償をしていないからといって、この点において、共犯者相互間に量刑上差別をもうけるべき事情は認められない。しかるに原審は、友井年昭及び北添哲郎の量刑事情の説示に際し、右被害弁償の点に触れ、さらに、友井年昭の関係では、被害者が被害金を同銀行に預金するに際し、一日で一〇〇万円の高利を先取りするなど、多少の危険を覚悟のうえで暴利をむさぼるあくどい商売人であり、善良な市民と同一に論じえないとしているが、これらの量刑事情は、被告人の関係でもそのままあてはまるものというべきである。しかも、友井年昭には、昭和二八年九月に言渡しを受けた詐欺横領による懲役一年の前科のほか、それ以前の前科三犯(わいせつ致傷による懲役一年六月執行猶予三年、窃盗による懲役一年執行猶予三年、賭博による罰金五、〇〇〇円)があり、また、北添哲郎には、業務上過失傷害等による罰金四万円の前科があるのに対して、被告人は全く前科前歴がなく、量刑均衡上右両名より有利な立場にある。

以上の如き事情に加えて、被告人が本件犯行により右銀行高知支店長の地位を失い、既に社会的制裁を受けていることを合せ考えれば、被告人が同支店長として本件犯行に加担し、金融機関の社会的信用を失墜させた事情を考慮に入れても、共犯者の量刑と区別し、被告人だけを実刑に処すべき情状は見い出し難いものと考える。

(二) ところで、記録によれば、被告人は、原審において事実誤認を主張するのみで、量刑不当の主張をしていないことが明らかである。そこで、原審が、前記の如き量刑事情を踏まえて職権によって被告人に関するその事情を調査・審理をすべきかどうか、これをすべきものとすればその限界いかん、また、これを怠ったことに対する瑕疵をどう評価すべきかの問題に逢着する。思うに、刑訴法三九二条二項、三九三条二項によれば、控訴裁判所は、被告人が量刑不当の主張をしていない場合でも量刑不当の事実があると認められるときには、職権によって、その事実を調査することができ、また、第一審の口頭弁論終結後量刑に影響を及ぼす事項が認められるに至った場合には、被告人の主張がなくても職権によって事実の取調べができるものとしているが、その反面、明文をもって控訴裁判所に対して右の場合の職権による調査・審理を義務づけてはいない。しかし、同一犯罪事実にかんする共犯者相互間の量刑の不均衡は、法の理念たる公平に反する場合があり、このような場合において、控訴裁判所は、量刑にかんする職権による調査・審理をすべきであり、もしこれを懈怠したときには、その判決は、時には違法であると評価されることがある、と解すべきである。刑訴法四一一条は、上告裁判所が原判決に著しく正義に反するものがあると認めた場合には、職権調査することができるとしていることは、量刑に影響を及ぼす事実についても適用されるものであり、このことは、控訴裁判所の量刑にかんする職権調査について右解釈を正当づけるものである。しかし、他面、同条は、特に「著しく」と規定して、原判決を是認しえない場合であっても、その瑕疵のうち、顕著な場合に職権調査をしうるものと限定しているのであって、このことは、違憲・判例違反にかんする審査を原則とする上告審の基本構造に由来するものである。

よって、本件についてみると、前記の量刑事情のもとに、原審が第一審判決を破棄して被告人に対して執行猶予の言渡しをしなかったことは、共犯者に対する量刑と比較して均衡を失し公平の理念に照らし妥当を欠くものと認められるが、いまだこれを著しく正義に反するものと断定するまでには至らない。よって、多数意見が、刑訴法四一一条による職権調査のうえ、原判決を破棄しないとしたことは、正当であると考える。

裁判官小川信雄の補足意見は、次のとおりである。

私は、裁判官大塚喜一郎の補足意見に同調する。

(裁判長裁判官 大塚喜一郎 裁判官 岡原昌男 裁判官 小川信雄 裁判官 吉田 豊)

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