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最高裁判所第二小法廷 昭和48年(し)42号 決定 1974年3月13日

主文

原決定及び原裁判所が昭和四八年三月二三日本件付審判請求人代理人らに示 した審理方式のうち、請求人代理人に対し検察官から裁判所に送付された一件 記録の閲覧謄写を許可する部分を取り消す。

本件その余の抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、別紙添付のとおりである。

所論に対する判断に先だち、職権をもって調査すると、原裁判所は、昭和四七年一月二一日申立人を被疑者とする本件付審判請求事件を受理したのち、別紙第一記載のような審理方式(以下、修正前の審理方式という。)を定めたところ、被疑者の弁護人らから、右審理方式の違法を主張して同裁判所を構成する裁判官三名に対し忌避の申立がされた結果、その特別抗告事件において、当裁判所の右審理方式の適否に触れる判断が示された(昭和四七年(し)第五一号同年一一月一六日第二小法廷決定・刑集二六巻九号五一五頁)ため、この決定の趣旨を参酌し、右審理方式そのものについて、あらためて請求人代理人及び弁護人の意見を聴き、諸般の修正を加えたうえ、別紙第二記載のような審理方式(以下、本件審理方式という。)を定め、昭和四八年三月二三日請求人代理人及び弁護人に告知したこと、本件審理方式第一項には、請求人代理人に検察官から裁判所に送付された書類(以下、本件捜査記録等という。)の閲覧謄写を許す旨定めており、これは修正前の審理方式の第一項と同旨であるが、請求人代理人の一人である弁護士米田泰邦は、昭和四七年二月二九日原裁判所に対し本件捜査記録等の閲覧謄写を申請し、そのころ全部の謄写を終えたことが、記録によって明らかである。

ところで、本来、審理方式なるものは、裁判所が当該事件について審理に関する方針を宣明するにすぎないのが一般であって、審理方式中、これを関係人に告知することにより一定の訴訟法上の効果を生じさせる裁判の性質を有する部分を除き、審理方式自体を対象に不服申立をすることは、不適法として許されない。このような観点に立って本件審理方式をみるに、わずかにその第一項の請求人代理人らに本件捜査記録等の閲覧謄写を許可する部分が、当該関係人に閲覧謄写権を付与する具体的裁判の性質を有するものと解されるほかは、原裁判所が、単に審理に関する方針を宣明し、関係人の協力を要請したものにすぎず、これによって直ちに一定の訴訟法上の効果を生ずるものとは認めがたいのであって、このことは、右方式の前文但書の定め及び各項目の記載の仕方に照らし明らかである。したがって、この部分について不服申立をすることは許されず、これについての異議申立棄却決定に対する本件抗告もまた不適法というべきである。

次に、原決定のうち、本件捜査記録等の閲覧謄写の許可を維持した部分について検討するに、付審判請求手続における右のような決定は、訴訟手続に関し判決前にした決定に準ずるものとして、原則としてこれに対し刑訴法四三三条の抗告をすることは許されないと解すべきである。しかし、かかる訴訟手続に関し判決前にした決定又はこれに準ずるものであっても、次に述べるような重大な違法があり、かつ付審判請求事件の終局裁判に対する上訴によっては効果的な救済を期待しがたい場合には、例外的に刑訴法四三三条の抗告をすることが許され、裁判所は、同法四一一条の準用により原決定を取り消すことができるものというべきである。

おもうに、付審判請求事件における審理手続は、捜査に類似する性格をも有する公訴提起前における職権手続であり、本質的には対立当事者の存在を前提とする対審構造を有しないのであって、このような手続の基本的性格・構造に反しないかぎり、裁判所の適切な裁量により、必要とする審理方式を採りうるものと解すべきところ、検察官から送付された捜査記録等の閲覧謄写を請求人代理人に許可することは、これによって被疑者その他捜査協力者らの名誉・プライバシーを不当に侵害する可能性や、真実歪曲の危険性などの存在を否定しきれないのであるから、このような密行性の解除によってもたらされる弊害に優越すべき特段の必要性のないかぎり、裁判所に許される裁量の範囲を逸脱し、違法となると解するのを相当とする。しかるところ、原裁判所は、請求人代理人ら関与による事実の取調べなどの手続を行なう前提のもとに、その審理に入るに先だち、本件捜査記録等につき、具体的事項に応じ個別的に吟味を加えることなく、無制限かつ全面的にこれを請求人代理人の閲覧謄写に供するのであるが、原決定の挙示する諸事情は、いずれも前記弊害に優越すべき特段の必要性がある場合に該当するものとは認めがたいのであって、許可の対象を弁護士たる請求人代理人に限定し、これに守秘義務を課するなど、許可による弊害防止にも配慮していることを考えても、右措置を正当化しうるものではなく、ひつきよう右閲覧謄写の許可は、裁判所に許された裁量の範囲を逸脱し、違法といわなければならない。そして、このような違法は重大であり、かつ付審判請求事件の終局裁判に対する上訴によっては効果的な救済を得がたい場合にあたるというべきである。

そうすると、原裁判所の本件審理方式のうち、請求人代理人に対し本件捜査記録等の閲覧謄写を許可する部分は違法であり、これを維持した原決定も、右部分に関するかぎり違法であって、これを取り消さなければ著しく正義に反するものと認めるが、本件その余の抗告は、前記のとおり不適法であるから、これを棄却すべきものである。

よって、刑訴法四一一条一号を準用し、同法四三四条、四二六条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 岡原昌男 裁判官 小川信雄 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 吉田 豊)

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