大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

最高裁判所第二小法廷 昭和49年(オ)824号 判決 1974年12月20日

上告人

小沢真治

上告人

佐藤覚次郎

被上告人

望月啓司

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人らの上告理由について。

民訴法六四六条二項が、不動産競売手続における配当要求は、競落期日の終りに至るまですることができると規定したのは、競売手続においてなるべく多数の利害関係人に権利主張の機会を与えるとともに、その手続が徒らに遅延することのないようにとの趣旨に出たものと解せられるところ、再競売は、競落人の競落代金支払義務の不履行を原因として前の競落を当然解除し、債務者の所有に復帰した競売不動産に対して競売手続を再開するものであることに鑑みれば、再競売が実施された場合には、格別手続の遅延を来すわけではないから、再競売の競落期日の終りに至るまで配当要求をすることができるものと解するのが相当である。これと同旨の原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、右と異なる見解に立つて原判決を非難するものであつて、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(岡原昌男 小川信雄 大塚喜一郎 吉田豊)

上告人らの上告理由

第一点 原判決の判断には判決に影響を及ぼす事明白なる法令の解釈。及び適用の誤りがあり当然破棄せらるべきものである。

第二点 原判決は再競売執行三日前の昭和四八年七月二三日被上告人がなした配当要求申立について配当要求の終期を競落期日の終り迄に限定する民事訴訟法第六四六条第二項の法意はもつぱら競売手続き遅延防止の為配当要求に限界を画したに止り一般債権者間の債権平等の原則を基磐に於て再競売三日前の配当要求申立を有効と判示した事は次の理由に依り法令の解釈及びその適用を誤りたものである。

第三点 競落期日の終局の時期

即ち民事訴訟法第六四六条第二項は配当要求の申立は競売開始決定後競落期日の終り迄として居るが、然らば本件に於ける競落期日の終りとはいつか、即ち同法六六六条第一項に執行官は最高競買人の氏名及び其の価額を呼び上げたる後ち競売の終局告知に依つて終局すると定めている、して見ると本件競売の終局は昭和四八年七月二五日協和商事株式会社(以下協和商事と言ふ)が金三、五一二、〇〇〇円也の競落に依り終局したものである。

第四点 競落人の所有権取得の時期

然して同法六八六条は競落人は競落許可決定に依り不動産の所有権を取得するとある、して見ると本件競落物件は同年同月三〇日の競落許可決定に依り協和商事の所有に決定した。

第五点 競落許可決定確定の効力

然して競落許可決定が確定すれば民事訴訟法に於ける判決確定に依る既判力同様の執行力。形成力を有し強制的に目的の事実効果を遂行する事が可能であると共に法は債務者及び競落人に対しその権利義務について強制的拘束力を有しその内容は不可撤回性であり、その法力に依り訴訟存在の意義を確保し法治国の法的安定を維持し可能ならしめて居る。為に法は厳にして犯し得ざるものでなければならない。

第六点 競落人の危険負担

(一) 競落不動産の滅失毀損に依る危険は競落人に移転する(法第五三四条)その時期は競落許可確定の時と認むべきである。随つて其の後不動産が滅失毀損しても競落人はその代金支払義務を免れ得ない。

依つて競落人が代金支払期日にその代金を支払はないとしても再競売の余地は無いと共に裁判所から代金取立の方法も無いとしても尚配当期日を実施し確定された配当表に基いて債権者は各自競落人に対し配当額を請求出来る。兼子一著増補強制執行法(以下同書と言ふ)第二目競落の効力一の(2)五五二頁五行目以下)

(二) 競落目的物の隠れたる瑕疵欠点に依り競落人は解除又は代金減額は出来ない。

即ち民法第五七〇条但書に依れば強制競売にあつては債務者はその意に反し強制的に売主たる地位に立たせられるのであるから隠れたる欠点について迄担保責任を認めるのは酷でありむしろ競落人に於て充分注意すべき事であると記述されて居る(同書二五六頁(5)の(ロ)

(三) 然して本件競売目的物件には前記滅失。毀損。及び隠れたる瑕疵も存在せず完全無欠の物件であり競落人たる協和商事の一方的代金支払義務不履行は信義則の原則に反し法を軽視侮辱した不法行為に依るものである。

(四) 但し同書(二五七頁)二の一に競落決定確定後の代金支払期日に競落人が競落代金を完全に支払はない時は裁判所は職権に依り不動産を債務者に復帰させこれに対して更に競売を行ふものである(中略)随つて競落人は本来の代金支払義務を免れ危険負担も復帰するとあるが又或は再競売を以つて競落人の不動産を強制競売を解く見解もあるが競落人に対し債務名義がないし且つ高価に売却された場合にも余剰を請求出来ない点(民訴六八八条の五)から見ても賛成出来ないとして居る。

右後如の見解は不可撤回性を基磐とする法則を忠実に厳守すれば当然であるが実務上法的不備もあり困難が供ふ為止むを得づ前如の再競売に至らしむるものであり随つてその再競売に際して配当要求の申立が出来得る余地の無い事は当然の理である。

(五) そこで著者兼子一氏は同書三配当要求(二六二頁)(1)に於て他の債権者は正本を有すると否とを問はづ配当要求が出来る。

その時期は競売開始決定後競落期日の終り迄の間である(民訴第六四六条第二項)一旦競落が決定あつても抗告に依つて取消され新競売となれば競落ある迄出来るが競落決定が確定すれば配当額が確定されるからもはや他の債権者は配当要求は出来ないと解すべきであると説示して居る。

(六) 其の説示する法理の基磐とする処は本理由書の法理念に基くは勿論であるが特に本項(一)(二)(五)の後段競落許可決定確定に基く自己拘束力を有する不可撤回性の不動的法則の意義を規範とした法理に基くものである。

(七) 依つて本件競売は昭和四八年五月二三日協和商事が本件不動産を金三、五一二、〇〇〇円也の金額で競落した事に依り終局し同年同月三〇日決定、同年六月六日の確定に依り法律的処分行為は実質上終了したのである。

然し競落人協和商事の不法な競落代金不履行に依り配当金に一頓挫した裁判所が止むを得づ再競売に至つたものである。

第七点 再競売の意義

依つて再競売そのものゝ意義は第一次的又は新競売とはその法理的性格を根本的に異にするものであり協和商事の競落が確定し不可撤回性の競落代金三、五一二、〇〇〇円也の不法な不履行に依り裁判所が一頓挫した配当処理の便法として止むなく職権を以つて再競売と称し競売方式の方法を旦に応用して行ふものに過ぎづ金額に対する最終責任はあく迄最初の競落人協和商事に帰属し万一再競売の結果が当初の金額を満さゞる不足額は競落人協和商事の負担とする処は民訴第六八八条第六項の定むる処で明であり、之を以つてしても再競売に際して新たに配当要求申立の余地の無い事は既に屡前述の通りである。

第八点 民事訴訟法第六八八条第六項の法意と意義

(一) 不可撤回性の競落許可決定確定に対する義務不履行に基く加罰性に基きその時の配当要求債権者に与へた不足額につき損害賠償をなすべき責任義務

(二) 即ち同条第六項は再競売に於て再度の代価が最初の競落代価より低い時は前の競落人はその差額を不足額として再競売の手続費用と共に負担しなければならないとして居る。

そして判例のほとんどが一貫してその不足額を競落代金の一部と解して居る(第六点第四項後段。第五項。第六項。共に同様見解)だから法は最初の配当要求債権者に以前の競落人に対し不足額訴求権発生の根拠をこの法理に置いて居るのである。

(三) 然し乍ら判例は不足額を競落代金の一部とし乍らも同法第六九四条の売却代金として裁判所の取扱ふべき事項には属して居ないとの見解でその取立方法はその不足額につき損害を蒙つた所謂前の競落人がその競落代金を履行して居たら当然配当要求債権者が配当に依つて得たであらふ配当金をそれより低い再競売の確定価額に依り差額丈損害を蒙つたとする根拠に基き別途損害賠償の訴求権を行使して前の競落人に請求すべきものとして居る。

(四) 万一損害を蒙つた配当債権者がこの請求権を行使せざる時は債務者が之を代位して請求なし得る権利を有し前競落人は之を履行しなければならない債務として負担しなければならない義務が規定されて居る。

(五) 然して本項の損害賠償の請求権を有し行使し得る者は前の競落期日迄に配当要求の手続をなしたる債権者にして実質的に再競売に依つて損害を蒙つた債権者のみに限らるゝべきは理の当然である。

第九点 被上告人に対する債務者の債務履行提供の催告につき被上告人の義務不履行

(一) 然も被上告人は最初の競売期日昭和四八年五月二三日の十日前債務者山城康彦の代理人弁護士鈴木信雄より債務履行提供の催告を受けて居り(甲第六号証)その催告書は被上告人に送達されて居る。

右の催告書には競売期日が明記されて居りその末尾に同人に対し配当要求をせらるゝ御意向ある向は可然るべく御手配せらるる様にと明記されて居る。

(二) 右に依り被上告人は催告を受けた趣旨に対し債権者として間接的責任を負担して居るにもかゝわらず之に対応する処置を成さなかつた事実は明に配当要求を申立てる意思の無かつたものと見なす事が出来る。たまたま再競売になつたからと言つて当初の義務を怠り債権者平等の原則を誇張し配当要求の申立をした事は道義的にも客観的にも民法第一条第二項の信義誠実の原則に違背するものである。

第十点 以上の法理に鑑み再競売に際して始めてなした被上告人の配当要求申立を有効と認めた原判決の判断は適正なる法理に反した解釈に基いてなした重大なる誤りである。

(一) 即ち再競売確定の結果は最初の協和商事の金三、五一二、〇〇〇円也に対し黒田敏の二、七一五、〇〇〇円也であり差額金六九七、〇〇〇円也の低額に対し再競売の費用金三五、七〇〇円也の合計金七三二、七〇〇円也に対し競落保証金四〇〇、〇〇〇円也を競売売得金に充当する為差引いても猶金三三二、七〇〇円也の不足額損害が生じて居る。

(二) 然して最初の競落人協和商事の競落代金不履行に依つて損害を蒙つた者は最初の競売期日迄に配当要求の申立をなした上告人等二名の外協和商事。西島成晃の四名丈である(但し配当実施のあつた昭和四八年九月七日被上告人に対し配当異議の申立をなしたるものは上告人等二名丈である。随つて右の四名以外に右損害賠償権を有する者は他に有り得る理由はない。

(三) 然るに原判決は再競売三日前に配当要求の申立をなした被上告人に対し債権平等の原則と称し再競売の確定金額金二、七一五、〇〇〇円也に対し当初の競落人協和商事が納めた競落保証金四〇〇、〇〇〇円をも加算した売得金三、一一五、〇〇〇円也の配当に加入を認容した事、特に保証金四〇〇、〇〇〇円については当時高見の見物をして居た被上告人には全く無関係のものであり被上告人に対する債務者山城康彦の責任財産でもないので被上告人に之を取得する何等の原因根拠を有しない不当の配当利益を供与する事になり且つ本件競売に依り何等損害金等発生の原始的原因根拠となる機会を有せず随つてそれに供なふ損害をも有せざる被上告人に本件配当と連鎖的不可分性に在る損害賠償請求権をも許容せざるを得ない矛盾した不合理を招来し且つ最初の競落許可決定確定に基く不動の不可撤回性の法則を甚だしく弱体化し更に当然保護せらるべき上告人等の正当なる既得権に基く配当額が反対に侵害される結果をも生じさせる誤つた法律見解に基く失当のものであるから原判決は当然破棄せらるべきものと信ずる。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例