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最高裁判所第二小法廷 昭和50年(オ)1125号 判決 1976年3月19日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人小林多計士、同田中久の上告理由について

同一不動産を目的とする後順位仮登記担保権者は、先順位仮登記担保権者の被担保債権を弁済するにつき、民法五〇〇条にいう「正当ノ利益」を有する者にあたると解するのが相当である。したがつて、先順位仮登記担保権者が債務者の履行遅滞により代物弁済予約完結の意思表示をし、又は停止条件が成就したのちにおいても、その換価処分がされるまでは、後順位仮登記担保権者は、債務の全額(換価に要した相当費用額を含む。)を弁済して、先順位仮登記担保権者に当然に代位し、債務者に対する求償権の範囲内において、先順位仮登記担保権者の有する債権及びその担保の一切を取得することができる。そして、後順位仮登記担保権者が先順位仮登記担保権者に対する右代位弁済の効果として先順位仮登記担保権者の有する抵当権及び仮登記担保権を取得したときは、後順位仮登記担保権者は、先順位仮登記担保権者に対し、その代位による附記登記を請求することができることはいうまでもないが、後順位仮登記担保権者が自己の債権について債務者に履行遅滞があつたことにより代物弁済予約完結の意思表示をし、又は停止条件が成就したときは、その取得した目的不動産の処分権の行使による換価手続の一環として、右代位による附記登記請求権を放棄したうえ、先順位仮登記担保権者に対して抵当権設定登記及び仮登記の抹消登記手続を請求することもまたできると解するのが相当である。

これを本件についてみるに、原審の適法に確定したところによれば、(一)訴外プリンス自動車株式会社(以下「プリンス自動車」という。)は、昭和三五年九月三日訴外光洋産業株式会社(以下「光洋産業」という。)との間で「プリンス中古自動車指定販売店契約」を締結し、右契約上の債権を担保するために、訴外竹中磨佐男から、その所有する本件不動産について、代物弁済予約形式の仮登記担保権及び根抵当権の設定を受け、同月一四日その仮登記及び設定登記を経由した。上告人は、昭和四一年二月一五日、プリンス自動車から光洋産業に対する右販売店契約上の売掛金債権一四九万〇八三二円及びこれを被担保債権とする右仮登記担保権、根抵当権の譲渡を受け、その移転の附記登記を経由した。(二)被上告人は、昭和三六年一二月七日、訴外進和工業株式会社(以下「進和工業」という。)との間で継続的手形貸付等の契約を締結し、右契約上の債権を担保するために、昭和三七年六月一一日竹中磨佐男から本件不動産について代物弁済予約形式の仮登記担保権、根抵当権及び停止条件付賃借権の設定を受け、翌一二日その登記を経由した。(三)被上告人は、昭和三九年五月一九日進和工業に対する右契約上の債権のうち九八二万三〇〇〇円の代物弁済として本件不動産を取得する旨の代物弁済予約完結の意思表示をし、竹中磨佐男に対して仮登記の本登記手続を求める訴訟を提起した。(四)上告人は、昭和四一年五月一八日光洋産業の履行遅滞を理由に代物弁済予約完結の意思表示をしたが、同日現在の本件不動産の価額は一八〇〇万円であるのに対して上告人の債権の元本及び遅延損害金の合計は一五八万六五三一円であるにもかかわらず、上告人は評価清算をしなかつたので、同年六月一八日被上告人は、上告人に対して上告人の光洋産業に対する同日までの債権の元本及び遅延損害金の合計一六三万八七二二円を弁済提供し、上告人がその弁済を受領することが不能の状態にあつたため、同年七月一二日弁済供託した。(五)被上告人の竹中磨佐男に対する前記仮登記の本登記手続請求訴訟は、被上告人の勝訴に確定し、被上告人は、本件不動産につき仮登記の本登記を経由した。以上の事実が認められるというのである。右事実関係のもとにおいて、上告人の被上告人に対する本件仮登記の本登記手続についての承諾を求める請求は理由がなく、被上告人の上告人に対する本件根抵当権設定登記及び仮登記(各移転の附記登記を含む。)の抹消登記手続請求の理由があることは、前記説示に照らして明らかである。これと結論において同旨の原審の判断は、正当であり、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡原昌男 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 吉田 豊 裁判官 本林 譲)

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