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最高裁判所第二小法廷 昭和50年(行ツ)97号 判決 1976年2月13日

岐阜市雪見町一丁目二一番地

上告人

矢島実男

岐阜市千石町一丁目四番地

岐阜北税務署長

被上告人

藤具定

右指定代理人

藤井光二

右当事者間の名古屋高等裁判所昭和四七年(行コ)第一二号、同第一八号所得額決定処分等取消請求事件について、同裁判所が昭和五〇年六月三〇日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

昭和三四年分所得税についての決定の取消しを求める請求に関する本件上告を却下する。

昭和三六年分所得税についての再更正処分の取消しを求める請求に関する本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、すべて正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひっきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原審の認定にそわない事実を前提として原判決の違法をいうものであって、採用することができない。

なお、上告人は、原判決中昭和三四年分所得税についての決定の取消しを求める請求に関する部分については、上告の理由を記載した書面を提出していないから、その部分の上告を却下することとする。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、三九九条ノ三、三九九条一項二号、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡原昌男 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 吉田豊 裁判官 本林譲)

(昭和五〇年(行ツ)第九七号 上告人 矢島実男)

上告人の上告理由

一、原判決は、判決に影響を及ぼすことが明らかな採証方法の誤りがあり、且つ事実の誤認がある。

即ち、本件三の土地の上告人の取得価額についてであるが、上告人はこの土地の取得価額はいずれも坪当り金四五万円と定め、訴外堀田昌明の持分を金八四六万円で、又宮島辰之助・岡部清澄の持分については仲介者たる訴外浅井土地株式会社を通じて金一、七五四万一、〇〇〇円で買受けたものであって、結局合計金二、六〇〇万一、〇〇〇円が本件三の土地の取得価額である。

この点、第一審判決では甲第一一号証、乙第一二号証・第一三号証及び証人浅井俊雄・同堀田昌明の各証言を重視し、その結果堀田昌明の持分を金六〇一万六、〇〇〇円で、又宮島辰之助・岡部清澄の持分については金一、七五四万一、〇〇〇円を支払つて買受けた旨認定し、本件三の土地の取得価額を合計金二、三五五万七、〇〇〇円とした。しかも右認定と異なる乙第一五号証等を排除したところである。

ところが、原審判決では右第一審判決が重視した甲第一一号証、第一審証人浅井俊雄の証言を一方的に排除し、宮島辰之助・岡部清澄の持分について浅井土地株式会社を通じて金一、五五〇万円で買受け、結局本件三の土地の取得価額を合計金二、一五一万六、〇〇〇円と認定した。

原審の認定方法に於ける証拠の取捨選択は、第一審証人浅井俊雄の証言内容の吟味に充分な考察が与えられていない結果、第一審判決とも異なる結論に至つたものと考えられる。

この点、原審は採証方法を誤り、合理的理由の説明のないまま事実を誤認したものといわざるを得ない。

二、原判決は判決に影響を及ぼすことが明らかな経験則違反があり、且つ法令の適用の誤りがある。

即ち、上告人の本件三の土地の譲渡に関する所得を旧所得税法第九条一項八号の譲渡に該当せず、これが同項一〇号に規定する雑所得と該るとした点である。

しかし本件三の土地の内、堀田昌明の持分についてはたとえ将来、東海ラジオに買受けて貰うものであつたものにせよ、上告人がこれを買受けるについては上告人が自己の責任と計算によつて自ら交渉し、自らが代金を支払つてこれを買受けたものである。世間では殊に不動産業者間では、自らの責任と計算で自らが売買当事者となつて取引関係に立つのは日常茶飯事の例である。

しかしてこれが更に転売されたとしても、これを目して仲介とみなされないことは日常経験するところである。又、宮島・岡部の持分についても、上告人が浅井土地株式会社に買収を依頼して東海ラジオとは関係なく自己が買受人としてその単価等すべての売買条件を決定し、その売買からくる危険負担を自ら負つているのであつて、而もこの場合、本件一及び二の土地の場合以上に売買当事者としての権利義務は強いものであつた。

この点、原審は上告人は一時的にもせよ自分の物にしようとした意思がなかつたことは明らかであると認定しているが、これは余りに結果のみにとらわれた偏見であり、取引界の実情にそぐわらい見解である。将来の転売を見込んで一時にせよ物件を買受けていることのある事実は、巷間ありふれたことである。

ところが、原審は上告人には一時的にもせよ自分の物にしようとした意思がなかつたと認定しているのであるが、これは如何なる証拠に基づきかような恣意的な独断が下せたのか、甚々疑問視されるところである。

上告人が得た譲渡所得は明らかに旧所得税法第九条一項八号の譲渡に該るものであり、これに反しこれを仲介料として同項一〇号の雑所得にあたるとするは法令の解釈・適用を誤つたものというべきである。

以上

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