最高裁判所第二小法廷 昭和51年(行ツ)115号 判決 1978年5月01日
東京都杉並区天沼二丁目三八番一七号
上告人
鈴木武廣
右訴訟代理人弁護士
原長一
大塚功男
佐藤寛
田中清治
青木孝
東京都杉並区天沼三丁目一九番一四号
被上告人
荻窪税務署長
垪和暉興
右指定代理人
五十嵐徹
右当事者間の東京高等裁判所昭和四九年(行コ)第二七号所得税更正処分取消請求事件について、同裁判所が昭和五一年九月三〇日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人原長一、同大塚功男、同佐藤寛、同田中清治、同青木孝の上告理由及び上告人の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 本林譲 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 吉田豊 裁判官 栗本一夫)
(昭和五一年(行ツ)第一一五号 上告人 鈴木武廣)
上告代理人原長一、同大塚功男、同佐藤寛、同田中清治、同青木孝の上告理由
原判決は以下に述べる各点において判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令の違背がある。
第一点 元本のないところに利息はない。利息収入を認定するには元本の存在が不可欠である。しかるに原判決は国際学園もしくは高木章に対する貸金元本の存在につき合理的な証拠のないまゝその存在を認定したもので、この点につき採証法則に違反し、審理不尽、理由不備の違法がある。
原判決(第一審)は元本につき僅かに「国際学園の借入れは昭和三五、六年ごろまでがピークで、昭和三九年ごろには跡絶え、遅くとも同年一一月ごろには六口合計一、一五〇万円の借入金元本が残つた……」と認定したのみである。
右認定に供せられた主たる証拠は
乙第三号証12(更正決定に対する異議申立後、被上告人において調査作成した国際学園事務長元山光広からの意見聴取書および元山作成のメモ)、乙第一三号証(同じく国際学園現理事長高木一明からの意見聴取書)および高木一明の証言ぐらいのものである。
しかしてこれらの証拠は右乙三号証2を除いていずれも供述ないし供述を録取したものであり客観的証拠とはいゝ難い。却つて原審における証人元山光広、同佐々木祐成の証言によれば前記一、一五〇万円の真の貸主は上告人または上告人の長男鈴木敬志(以下敬志と称す)ではなく、小峯抑多(もしくは同人の政治団体経済懇話会)その他である。証人高木一明は父親である高木章の死亡後(昭和四一年一一月死亡)にはじめて国際学園の理事長に就任したものでそれ以前は同学園の運営には全く関与せず、理事長就任後に、本件貸借につき事務長元山の報告を通して知つたにすぎず、その証言は価値があるとはいえない。それにもかゝわらず原判決は利息収入の重要な要素である元本の存在につき前記証拠によりたやすくこれを認定したのは理解に苦しむ。
第二点 原判決は乙第九号証(敬志名義の第一銀行荻窪支店普通預金元帳)の預り金高欄に記入された金額のみをとりあげ、この大部分を利息収入とみなし、同一証拠中の払戻金高欄に記入された金額については全く無視してこの点についての上告人の主張立証を一方的にしりぞけ、まことに不公平な証拠の評価を行つた点は、事実認定の経験則に反している。
乙第九号証は銀行の普通預金元帳であるから記入の数字は誤記のないかぎり、金銭の出入を示す客観的な最も確実な証拠といえる。従つてこれらの出入が何のために行われたかが重要なのであるが、原判決はこの同一証拠からことさらに入金のみをとりあげて利息収入の根拠とし、出金の部分についての上告人の主張立証については一顧だにせず、まことに不公平な認定をした。
上告人は国際学園もしくは高木章に対する貸付の日付、金額、返済の明細は乙第五号証記載のとおりであり、利息の約定はなく同学園からの入金はすべて元本の返済であると主張した。
その根拠は、例えば
乙第五号証(東京正金津田義昭作成、高木章に対する貸金関係の一覧表)の昭和三八年三月五日の段に(出)一〇〇万の記載があり、同月七日二〇万、以下四月一九日一五万まで七段の記載がある。このことは三月五日一〇〇万円を貸し出し、三月七日より四月一九日まで七回にわたり分割して右貸金の返済があつたことの記載であることが判る。
乙第八号証(上告人名義の三菱銀行荻窪支店および敬志名義第一銀行荻窪支店の預金口座をもとにして津田義昭が作成した銀行預金の出入金の一覧表)の昭和三八年三月五日払戻欄に三菱一〇〇万、備考欄に高木先生一〇〇と記載があり、三月七日の入金欄に二〇万<小>、同備考欄に高木先生の記載がある。このことは昭和三八年三月五日上告人名義の三菱銀行口座より一〇〇万円が払戻されて、高木章に支払われ、同じく三月七日二〇万円が敬志名義の第一銀行預金口座に小切手にて高木章より入金があつたことの記載であることを示す。しかして同年四月一九日までの高木章からの入金は七回あり、いずれも小切手で、その金額は乙第五号証の前記部分金額、日付と一致する。
乙第一一号証(上告人名義の三菱銀行預金口座元帳)によれば昭和三八年(一九六三年)三月五日預金より一〇〇万円引出されており、乙第九号証(敬志名義の第一銀行預金口座元帳)によれば、昭和三八年三月七日より同年四月一九日まで乙第八号証、第五号証の各同日付入金欄に見合う金額が入金されることが示されている。
さらに乙第四号証(国際学園作成の敬志に対する小切手支払明細書)は前記国際学園から敬志宛に小切手が支払われたことを裏付けた。
そして右のような関連づけは最後の貸付である昭和三九年五月一一日付八〇万円、最後の返済を受けた昭和三九年九月一日まで続いている(但し九月一日の九万五〇〇〇円の入金は乙五号証によると五万円が元本の返済で、その余の四万五〇〇〇円は品代の入金である)。
以上のとおり上告人主張の国際学園もしくは高木章との間の金銭の出入りは乙第五号証記載のとおりであり、乙第五号証は、乙第八号証にもとづいて作成され、乙第八号証は乙第九号証および乙第一一号証にもとづき作成されたもので、右金銭の出入の日付、金額はすべて確実な数字にもとづいているものである。
従つて原審に現われた前記各信憑性の高い証拠によるとかえつて上告人主張のとおりの元本の存在およびその返済が充分に認定されるにもかかわらず、原判決はこれを無視したのである。
第三点 課税所得の認定に際し具体的資料による直接的認定ができないときは所得税法第一五六条の推計計算によるいわゆる間接的認定の方法をとることができる。原判決は昭和四〇年分の利息収入につき直接資料は欠けているが被上告人の推計計算には合理性があると認定したが、右合理性ありと認めた点に採証法則違反、審理不尽、理由不備の違法がある。
原告名義の三菱銀行預金口座(乙第一一号証)は昭和三八年五月以降は睡眠口座になつており、敬志名義の第一銀行預金口座(乙第九号証)は昭和三九年九月四日解約され、また国際学園の小切手支払明細表(乙第四号証)には昭和四〇年一月分までの記載しかない。しかして昭和四〇年の利息収入の間接的認定方法は、国際学園の期首、期末の借入金元本は一、一五〇万円であり、同年一月の小切手による利息収入が六〇万五〇〇円であるからこの金額は右元本に対する月五分の割合による一ケ月分の利息五七万五〇〇〇円にほゞ見合う額である。したがつて一年分の利息収入は合計六九〇万円と推計計算したものであり、原判決は右推計計算には合理性があると判断した。
しかし右推計計算の基礎となるべき元本一、一五〇万円の存在を示す証拠が乙第三号証1、2(元山光広からの意見聴取書および同人作成のメモ)乙第一三号証(高木一明からの意見聴取書)および証人高木一明の証言しかなくしかも反証(証人元山光広、同佐々木祐成の証言)により右元本の存在はあやうくなつたものである。
次に推計計算の第二の基礎となるべき国際学園から敬志宛の小切手の支払(乙第四号証、甲第三号証小切手)があつたことは認められるが、これが直ちに利息支払であると認定するのは速断にすぎる。しかも国際学園は協議団の調査に応じ協力して小切手支払明細表を提出したのであるが、それが何故に昭和四〇年一月までしかないのか。
これは国際学園あるいは上告人が主張するとおり昭和四〇年ごろには高木章は政界を隠退し同人との金銭の出入がなくなつた。すなわち同年一月以後は小切手の支払がなかつたからである。このような合理的理由があるにもかかわらず、かえつて小切手の支払がなくなつてから以降も利息の支払があつたと認定するのはまことに不自然である。
以上のとおり、右間接的認定方法には合理性があるとはいえない。
第四点 国際学園もしくは高木章との間の金銭の貸借はすべて敬志との間で行はれておるが、その入金がすべて上告人の所得であると認定した点に採証法則違反、審理不尽、理由不備の違法がある。
原判決は、入金はすべて上告人に帰属する利息収入であると認定した。その理由として、
1 上告人は身体の不自由な息子敬志に対し職を与えるために資金を出して金融業東京正金株式会社を設立してやつた。
2 上告人名義の三菱銀行の預金を敬志が無断で引出し運用することを黙認するようになつた。
3 敬志は昭和三六年初めごろ三菱銀行に預け入れた四〇〇万円前後の資金を昭和三八年五月まで敬志名義の第一銀行の口座に移し替え資金の運用を図つた。
4 敬志には東京正金からの給与手当等(一審判決別表7)以外に収入がない。
5 敬志名義の第一銀行の預金口座には上告人に帰属すべきむら田関係の出入金が記載されている(一審判決別表8)いるものであり、右口座は名義人だけを敬志にしたにすぎない。
というにある。
しかし右理由中
1については、上告人は敬志が自活できる途を配慮したためであり従つて入金が敬志の所得になることはむしろ上告人の望むところであつたはずである。
2、3については、敬志に金が足りないときに、上告人の金をつかわせていた(上告人尋問調書6167)が、それが直ちに上告人の所得につながるものではない。上告人の所得と認定するには、上告人において積極的に敬志名義にて自己の資金を運用し、利息収入を図るという意思が認められなければならず、一方、行為者である敬志においても上告人のためにする意思にもとづき資金の運用を図つたことが認められなければならないが、かかる証拠はどこにも見当らない。むしろ敬志が自己のためにする貸付けに際し不足資金分を埋めるため、勝手に上告人の資金を引き出したものであることが認められる。
4についてはむしろ上告人に貸付けの資金があつたことが認定されなければならない。乙第一一号証をみても、上告人には一、一五〇万円も貸出すべき資金の存在はみられない。
5については、むら田に対する貸付の手続は一切敬志が行つたため敬志名義の預金口座を利用したにすぎないのである。むら田に対する貸付は上告人名義で行はれ(乙第一号証むら田の総勘定元帳および乙第二号証、右元帳からの抜粋メモ)これについては上告人も一部了承しており、敬志にまかせていたのである。しかし、若し原判決が認定したように国際学園関係についても上告人が貸主であるというならば、むら田と同様国際学園も又敬志ではなく上告人を貸主として手続が行われた筈である。しかし国際学園関係については、借主の方でも上告人から借りたという認識はなく、上告人の方でも国際学園もしくは高木章に貸すという意識は全然ない。
両者に対する貸出しは明らかに区別されてしかるべきである。
以上
上告人の上告理由
東京地方裁判所が、昭和四九年度に、東京高等裁判所が、昭和五一年度に、各判決を下されました、所得税更正処分取消請求事件について、私は、右判決を不服として、控訴し、又最高裁判所へ上告し、その上告理由書は、私の代理人である弁護士大塚功男、佐藤寛氏より出して頂くことに致しましたが、事の真相を、本上申書によつて祥しく申上げます。
私は国際学園の理事長であつた高木章先生にはお金を貸した事実はありませんが、私の息子敬志が高木章先生に対し、お金を貸していたことがあります。
敬志は身体障害者で、通常では大学へ入学することが出来なかつたのを、高木章先生の御力添えで、中学時代から面倒を見て頂き、法政大学へ入学させて戴き、在学中も何かと御世話になつて、学校を卒業が出来、又同校卒業後、先生の故郷から遠縁の娘さんを、敬志の嫁に世話して戴いて媒酌人となつて頂きました。
其の後も仕事の事、身上のこと、何くれとなく御骨折を願つて居り、敬志は親にも優る恩人と思つていると思います。敬志は先生の御高恩に対し、いつも御恩返しをしなければならない、と言つて居りました。
私は、敬志が、高木先生にお金を御貸ししたことは、今では知つて居りますが、御貸しした当時は全く知りませんでしたので、どの位のお金を、いつ、どの期間に亘つて貸したか等も判りません、ただ敬志の資金量は、営業資金を全部取り纒めても、四、五百万円以下だつたので、此の資金で多数の人に小口貸金をして居り、又その中から高木先生にお貸ししたものと思いますので、その内半分が先生の方へ廻つていたものとしても、せいぜい二、三百万円が最高の額であつただろうことは、先づ間違いありません。
又、裁判所の判決に、敬志は金融業をやつているので、金を貸して利息を取らない筈はない、等、と言つて居られる様ですが、如何に金融業者でも、親にも優る大恩ある先生から敬志が利息を取つた等とは、親の私でも絶対に考えられません。
むしろ、敬志はお金を貸すことによつて、先生に御恩の万分の一でも返せると、満足し、喜んでお貸しゝていた、と思います。
この事が、裁判になつてから、私は敬志に問い糺したところ、敬志が先生にお金をお貸しゝたのは百万円から二百万円位の間で、それも、重ねて御貸しゝたことはなく、一口貸して、これを五万円、拾万円、時には二十万円、と分割して先付小切手で返していただき、返し終ると、直ぐ又お貸しゝたこともあり、又一寸間を置いてお貸しゝたこともある。と言う様な事がずつと長い間繰返されていた様ですが、利息は全然頂いておりません。
税務署は、先生がこの分割返済のため、学園が発行した沢山の先付小切手を、利息と間違えて、課税して来ているのです。今裁判所で調べて貰つているから、近い内に本当の事が判るでしよう。屡らく待つて下さい、と言つて居りました。
処が、高等裁判所の判決が出て、矢張り敬志が利息を取つていた事になり、私が税金を払わなくてはならないことになつてしまつたので、私は敬志をつれ国際学園を訪れ、前理事長高木章氏の子息で、現理事長高木一明氏に面会に行きました。
高木一明氏は病気で休んで居られるため、御会いすることは出来ませんでしたが、学園の事務所で元山総務部長に会い、何故に頂いていない利息に税金が掛る様になつたかを問い糺しましたところ、元山氏は当時学園の経営は火の車で、先代理事長の個人が注ぎ込まれる資金を合わせて漸く運営して居りました学園もあちこちから借金をしていましたが、その借入先を表に出すと、貸す人が金を貸さなくなるので、私の手帳で処理をしていました。
当時理事長は、政治にも関係していたので、理事長個人の金と、学校の金とがごつちやになつて帳簿整理が出来ないので、税務署が調べに来たときにも、はつきりした事が言えず、税務署が、こうだろう、ときめつけられると、税務署が調べて間違ないのなら、そうでしよう、と言わざるを得ない立場に追込まれました。
私はこの学園に勤めて居る以上、学園の安泰が第一ですから、止むを得ず税務署担当者の書いて来た書類に署名したりしました。敬志さんには本当に申訳ないことゝ思つています。
高木一明理事長にも就任の際、学園の臨時借入金の借入先を全部、鈴木敬志口座と言つてあつたので、新理事長も裁判所の調べの際、私の説明通り証言をし、御迷惑を掛けてしまいました。
其の後、新理事長にも事の真相をお話したら、新理事長も、鈴木敬志さんには大変御迷惑を掛けて申訳ない、と言つて居るとの事で、私は元山総務部長に対し、高木一明理事長より元山さんの云われる真実を証明するため、何か書いたものを頂き度い、と申上げた処、近日中必ず新理事長から事実を書いた書面を御届けする、と約束を取りつけました。
その二日後、学園から高木一明新理事長の上申書が届きました。此の上申書末尾に綴込んであるのがその上申書です。
この様な訳で、私は国際学園には金を貸したこともなく、従つて利息等を戴いたことはありません、又私の息子の敬志も、お金を国際学園に貸しましたが、その額が、全く違つて居り、敬志も利息等を絶対に取つていないのであります。
茲に上申書を提出し、最後の御判断を仰ぎ度い、と存じます。
以上