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最高裁判所第二小法廷 昭和52年(オ)487号 判決 1977年12月09日

主文

原判決を破棄し、本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人浪川道男、同鮎沢多俊の上告理由第一について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

同第二について

民法一一〇条に第三者とあるのは代理人と法律行為をした直接の相手方をいうものと解すべきであり、権限のない者の振り出した約束手形につき、本人が民法一一〇条に基づき振出人としての責任を負うべきときは、受取人からその手形の裏書譲渡を受けた者に対しても、その者の善意悪意を問わず、振出人としての責任を免れえないものと解するのが相当である(最高裁判所昭和三〇年(オ)第二八六号同三五年一二月二七日第一小法廷判決・民集一四巻一四号三二三四頁参照)。

これを本件についてみるに、上告人の主張によれば、本件手形判決添付の別紙目録記載(イ)(ロ)の約束手形の受取人は鈴木紘一、同(ハ)(ニ)(ホ)の約束手形の受取人は山川守夫であるというのであるから、手形振出行為の実質的な相手方である受取人(最高裁判所昭和三七年(オ)第二三二号同三九年九月一五日第三小法廷判決・民集一八巻七号一四三五頁、最高裁判所昭和四一年(オ)第五〇四号同四五年三月二六日第一小法廷判決・裁判集九八号四七一頁参照)を確定したうえ、同人について民法一一〇条の表見代理の成否を判断すべきである。それ故、手形の所持人である上告人が沢木満に本件手形の振出権限があると信じたことについて正当の理由がないとして表見代理の成立を否定した原判決には、民法一一〇条に定める第三者の解釈を誤り、ひいて理由不備の違法があるものといわなければならない。したがつて、論旨はその余の点について判断するまでもなく理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件は、前記の点についてさらに審理を尽くさせたうえ、被上告人の責任の成否を決する必要があるので、これを原審に差し戻すべきものとする。

よつて、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大塚喜一郎 裁判官 吉田 豊 裁判官 本林 譲 裁判官 栗本一夫)

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