最高裁判所第二小法廷 昭和53年(オ)1267号 判決 1979年3月30日
上告人
春山一夫
右訴訟代理人
高野裕士
丸山富夫
被上告人
夏川松雄
被上告人
夏川甲一
被上告人
夏川乙次
被上告人
夏川丙三
右二名法定代理人親権者
夏川松雄
右四名訴訟代理人
西尾太郎
木内道祥
主文
原判決中被上告人夏川甲一、同夏川乙次、同夏川丙三の請求を認容した部分を破棄し、右部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
上告人の被上告人夏川松雄に対する上告を棄却する。
前項に関する上告費用は、上告人の負担とする。
理由
上告代理人高野裕士、同丸山冨夫の上告理由第一点中被上告人夏川甲一、同夏川乙次、同夏川丙三に関する部分について
原審は、(1) 被上告人夏川甲一(昭和三〇年九月一八日生れ)、同夏川乙次(昭和三四年七月九日生れ)、夏川丙三(昭和三九年五月二日生れ)(以下「被上告人甲一ら」という。)の母親である訴外夏川梅子(昭和九年八月一二日生まれ)と上告人とは、小学校、中学校の同級生で、そのころ親しい間柄であつたところ、上告人が昭和四五年三月ごろ勤務先のB商事株式会社のメキシコ駐在員に命ぜられたために催された中学校の同級生による送別会に出席した梅子は、久し振りに上告人と会い、これをきつかけに二人の交際が始まつた、(2) 上告人は、それから間もなくメキシコへ赴任したが、現地から梅子と秘かに手紙や電話のやりとりを続けるうち、梅子へ愛情を打ち明けるようになり、梅子の心は次第に上告人の方へ傾いて行つた、(3) 梅子は、昭和四六年七月ごろ上告人に逢いたさにメキシコまで赴く決心をし、夫である被上告人夏川松雄には、女友達とアメリカ旅行に出かけるといつてその許しを得、同年八月中旬単独でメキシコへ渡航し、上告人と再会し、二人は初めて肉体関係を持つに至り、梅子の心はますます夫から離れて行き、梅子はメキシコから帰つた後同四七年一〇月ごろには夫に対し性格が合わないことを理由に別居を申し出るようにもなつた、(4) 上告人は、同年末及び昭和四八年一月に一時日本へ帰国したが、その際にも梅子と密会を重ねていたところ、同年三月、二人の関係を知つた被上告人松雄は、大いに驚き、上告人との関係を絶つように強く説得したが、梅子がそれを聞き入れなかつたため、梅子に暴力を振うこともあつた、(5) 梅子は、同年六月二三日被上告人松雄に顔面を殴打されたことがきつかけとなつて被上告人丙三(当時九歳)を連れて出奔するに至り、ホテル、上告人の同僚方、上告人方、上告人の実弟方等を転々とし、同年八月ごろから昭和四九年四月初めまで被上告人丙三とともに梅子の従兄弟方で暮したが、同月八日、いつたん、夫や他の子のところに帰つたものの、翌日、単身で上告人の実弟方に身を寄せた後、同年一〇月ごろ日本を発つてメキシコへ渡り、同所で上告人と同棲するに至り、現在に及んでいる、以上のことを認定したうえ、上告人が梅子と肉体関係を結び、同棲するに至つた行為は、未成熟子である被上告人甲一らの母親に対する身上監護請求権及び同被上告人らの平穏な家庭生活を営むことによる精神的利益を侵害することになり、同被上告人らに対し、不法行為を構成するものであるとして、同被上告人らの損害賠償請求を認容した。
しかし、夫及び未成年の子のある女性と肉体関係を持つた男性が夫や子のもとを去つた右女性と同棲するに至つた結果、その子が日常生活において母親から愛情を注がれ、その監護、教育を受けることができなくなつたとしても、その男性が害意をもつて母親の子に対する監護等を積極的に阻止するなど特段の事情のない限り、右男性の行為は、未成年の子に対して不法行為を構成するものではない。けだし、母親がその未成年の子に対し愛情を注ぎ、監護、教育を行うことは、他の男性と同棲するかどうかにかかわりなく、母親自らの意思によつて行うことができるのであるから、他の男性との同棲の結果、未成年の子が事実上母親の愛情、監護、教育を受けることができず、そのため不利益を被つたとしても、そのことと右男性の行為との間には相当因果関係がないものといわなければならないからであり、このことは、同棲の場所が外国であつても、国内であつても差異はない。
したがつて、前記のとおり、原審が特段の事情の存在を認定しないまま、いずれも成年に達していなかつた被上告人甲一らのもとを去つた梅子と同棲した上告人の行為と同被上告人らが不利益を被つたことの間に相当因果関係があることを前提に上告人の行為が同被上告人らに対する関係で不法行為を構成するものとしたのは、法令の解釈適用を誤り、ひいては、審理不尽の違法をおかしたものというべく、右違法は、判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は、この点において理由があり、原判決中被上告人甲一らの請求を認容した部分は、破棄を免れず、更に審理を尽くさせるのを相当とするから、右部分につき本件を原審に差し戻すこととする。
同第一点中被上告人夏川松雄に関する部分について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
同第二点について
本件事実関係のもとにおいては、未成年者である被上告人乙次、同丙三の親権は父親だけによつて行使されることを許さなければならない場合であるというべきであるから、同被上告人らの訴訟手続が父親だけを法定代理人としてされたとしても、法定代理権の欠缺があつたものとはいえない。したがつて原審に所論の違法はなく、論旨は、採用することができない。
よつて、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、三八六条、九五条、八九条に従い、裁判官大塚喜一郎の補足意見、裁判官本林譲の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
裁判官大塚喜一郎の補足意見は、次のとおりである。
上告理由第一点中被上告人夏川甲一、同夏川乙次、同夏川丙三に関する部分について、私は、上告人の行為と被上告人甲一らが被つた不利益との間には相当因果関係がないとする多数意見に同調するものであるが、その理由の詳細は、当裁判所昭和五一年(オ)第三二八号同五四年三月三〇日第二小法廷判決の補足意見で述べたとおりである。
裁判官本林譲の反対意見は、次のとおりである。
私は、上告理由第一点中被上告人夏川甲一、同夏川乙次、同夏川丙三に関する部分について、本件事実関係のもとにおいても、上告人の行為と被上告人甲一らが被つた不利益との間には、相当因果関係があり、また、同被上告人らが被つた右不利益が法律の保護に価する法益であると考えるのである。その理由の詳細は、当裁判所昭和五一年(オ)第三二八号同五四年三月三〇日第二小法廷判決の私の反対意見中で述べたとおりである。したがつて、上告人の行為が同被上告人らに対する関係で不法行為を構成し、上告人には、損害賠償責任があるとした原審の判断は、正当として是認すべきであり、この点についての論旨は理由がないから、上告人の本件上告をいずれも棄却するのが相当であると考える。
(吉田豊 大塚喜一郎 本林譲 栗本一夫)
上告代理人高野裕士、同丸山富夫の上告理由
第一点 原判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかな法令(民法七〇九条)の違背がある。
一、事案の概要と第一審第二審の経過
(一) 第一、二審とも本件につき概ね次の事実を認定している。
(1) 被上告人夏川松雄(以下松雄という)は、昭和二九年一二月一五日夏川東太、同西江夫妻と養子縁組をなし、同日右夫婦の三女訴外夏川梅子(以下梅子という)と婚姻し、その後、同女との間に長男被上告人夏川甲一(昭和三〇年九月一八日生)二男被上告人夏川乙次(昭和三四年七月九日生。以下乙次という)、三男被上告人夏川丙三(昭和三九年五月二日生。以下丙三という)をもうけ、昭和四五年頃までは平穏な家庭生活を営んでいた。
(2) 梅子は、上告人と中学校時代同級生であつたが、昭和四六年八月、団体旅行に参加してメキシコを訪れ、同地で外地メキシコ勤務の上告人と初めて肉体関係をもつた。
(3) 松雄は昭和四八年三月二〇日及び同年六月二二日梅子を殴打した。梅子は六月二四日丙三を連れて家出した。そして居所を転々としたが、同年八月一三日以降は同女の親戚宅(夏川月男方)に身を寄せていた。
(4) その間昭和四八年八月一日梅子は大阪家庭裁判所に対し離婚の調停を申立てたが、松雄が離婚に応じないため昭和四九年四月三日調停は不調に終つた。
(5) 昭和四九年四月四日夏川東太の病状が悪化し死亡したため、梅子は同日、翌日及び翌々日通夜葬儀等のため松雄方を訪れ、更に同月七日の骨上げにも松雄方に来たが、七日の夜から八日の朝にかけ親戚の者達から原告の許に戻つてほしい旨説得されたが、上告人の方に行きたい旨返答して復帰を拒否し、松雄からの申出に応じて丙三を置いて月男方へ帰つた。
(6) その後、梅子は昭和四九年一〇月頃日本を発つてメキシコに赴き、同所で上告人と同棲を続け、松雄方へ戻る意思のないことを明らかにしている。
(二) 前記(2)のメキシコにおける肉体関係については事実誤認であり、後述の如く争うものであるが、第一審、第二審とも概ね前記の如き事実を認定し、第一審では夫たる被上告人松雄の請求のみを認め上告人に対し金三〇〇万円の支払いを命じ、その余の被上告人である子供三名の請求はこれをいずれも棄却した。
しかし、第二審においては松雄について請求を五〇〇万円に増額するとともに、子供ら三名について第一審の判断を変更してその請求を認め、上告人に対し各一〇〇万円の支払を命じた。
二、第一審及び第二審の法理
(一) 第一審では前記の如く松雄の請求は認め、子供らの請求は認めなかつたがその理由を次の如く述べている。
「被告(上告人)の行為は、原告(被上告人)夏川松雄に対する関係においては、同原告(被上告人)の妻の不貞行為に加担する行為として、民法上不法行為となることは明らかであるけれども、その余の原告(被上告人)らに対する関係においては、その母との同棲行為たるに止まるから、特別の事情がない限り不法行為を構成するものとは解し難く、特別の事情として認めるべきもののない本件においては、右原告(被上告人)らの請求はその余の点について判断するまでもなく理由がない。」
(二) これに対し子供らの請求をも認めた第二審では、その法理を次の如く述べた。
「思うに、婚姻及び家族制度の機能とこれに関する憲法、民法などの規定の趣旨に鑑みると、夫婦とその未成熟子からなる家族にあつて、各人は他の家族と共に平穏に幸福な家庭生活を営むべき法の保護に値する利益を有し、第三者が違法にこれを侵害するときは不法行為が成立するものと解すべきである。そして、第三者が妻と不倫な関係を結んで当該平和な家庭を破壊したときは、夫の守操請求権、未成熟子の身上監護請求権の侵害を理由とするだけでなく、夫または未成熟子の前記精神的利益の侵害をも理由として不法行為の成立を肯認しうると解するのが相当である。してみると未成熟子に対して第三者が害意を持つなど第一審被告が主張するような特別の態様の侵害行為がなされたときに限つてのみ、不法行為の成立を認めるべきものと解すべきではない。」
右の如く第二審の判断は、不法行為の成立を夫の守操請求権、未成熟子の身上監護権の侵害にとどめず、より広く一般的に「平穏で幸福な家庭生活を営むことによつて享受しうべき精神的利益」の侵害にまで及ぼした。
三、母と関係を結んだ男性に対し子への不法行為責任を認めた原判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかな法令(民法七〇九条)の違背がある。
(一) 家庭生活を破壊されたとして未成年の子が両親の一方と性的関係を持つた相手方に損害賠償を請求できるかどうかについては、本件第一審の判断と同様これを否定する判例が多い。
(1) 大阪高等裁判所昭和五三年八月三〇日判決(昭和五二年(ネ)第六九八号、同年(ネ)第七六七号損害賠償請求控訴事件)は、父と性的関係を持つた女性に対し、その子供らが損害賠償を請求した事案について、「景一(父)が自らの意思で家庭を去り他の女性と同棲するようになつたため、右第一審原告(子供)らは父景一の愛情、協力を身近かに受けることができず、その結果平和感、幸福感を損われたとしても、これら愛情協力を受ける利益をもつて法律上保護されるべき利益とまではいうことができない。」と判示してその請求を棄却した。
なお、右事件の第一審大阪地方裁判所昭和五二年四月二〇日判決も「子は親に対し親族相互間の権利として扶養請求権を有してはいるが、未成年の子が親と同居し、それに伴い生活上の種々の利益を受けることは、両親が婚姻に伴う義務として同居のうえ互に扶助、協力し、ないしは親の意思に基づき家庭生活を営むことによつて受ける反射的利益であつて、両親より授る恩恵的なものであり、子から親に対する請求権の実現として享受さるべき利益ではないのである。従つて景一(父)が自らの意思に基づき被告(女性)と同棲することにより結果的に前記原告(子供)らに対し、家庭生活上種々の不利益を与えたとしても右原告(子供)らに対し不法行為を構成すべきものとなるのではない」と述べて、同様の結論を採つている。
(2) 東京高等裁判所昭和五〇年一二月二二日判決(判例時報八一〇号三八頁)も、前記(1)の判決と同じく父と性的関係を持つた女性についての事案であるが、「訴外人(父)が控訴人(女性)と同棲して以来子供である被控訴人夏子らは訴外人の愛ぶ教育を受けられなくなつたわけであるが、これは一に訴外人(父)の不徳に帰するものであつて、控訴人(女性)に直接責任があるとすることはできない。」と述べ、子供に対する不法行為の成立を否定している。
(3) 東京地方裁判所昭和三七年七月一七日判決(下民集一三・七・一四三四)も同様の事案であるが、「かように第三者が未成年の子をもつ夫婦の一方と情交関係を結び又はこれと同棲し、その結果その夫婦の一方が未成年の子を夫婦の他方の監護教育に委ね自らはこれをつくさなかつた場合、右第三者は右未成年の子の当該親から監護教育を受ける権利を違法に侵害したというべきか否かといえば、未成年の子とその親との関係はたんに前者が後者に対し扶養、身上監護を要求しうる権利を有するにすぎず、又後者が前者に対し右義務をつくすか否かは専らその意思のみに依存し、たとえ後者が第三者と前記のような関係を結んだからといつて、そのことにより後者に対する右身上監護義務を履行しえなくなるというものではないから右問題は通常は消極に解すべく、ただ第三者が当初から未成年の子に対し苦痛又は損害を加える意図の下に行動したとか或いは積極的に誘惑的な挙措を用いて当該親の無知又は意思薄弱などに乗じて当該親と未成年の子との間の親子的共同生活を破壊したといいうるような特別の場合のみ、未成年の子に対する不法行為が成立するものと解するのが相当である。」と判示している。
(4) 子供の請求に対して否定的な前記各判決は帰するところ、父又は母が自からの自由な意思で第三者と性的関係をもつたり同棲したりしても、その子は独自の権利として当該第三者には損害賠償の請求をなし得ないとしたものである。
(二) なお、子供らの請求を認めた事例として東京地方裁判所昭和四四年二月三日判決(判例時報五六六号七一頁)があるが、右判決は「夫と不倫関係に入つて、夫を親族的共同生活から離脱させることによつて家庭を破壊した第三者は、妻に対しては勿論のこと、未成年の子に対しても不法行為者としての責任を負わなければならない。」と判示し、これを否定する見解については「愛情利益の実質的部分を看過するもの」であると論駁している。右判決は本件第二審と同じ立場に立つものといえよう。
(三) 家庭生活を破壊されたとして、未成年の子が両親の一方と性的関係を持つた相手方に損害賠償を請求できるかどうかについては、上告人は次のように考える。
原判決では「夫婦とその未成熟子からなる家族にあつて、各人は他の家族と共に平穏に幸福な家庭生活を営むべき法の保護に値する利益」を有していると述べている。なるほど夫婦が互に愛情にささえられて共同生活を営む確固たる意思を有している場合には、右見解は正しいものと言えよう。しかし夫婦の一方が自由な意思に基づき夫婦の共同生活を解消しようとしたときは、当然右にいう「他の家族と共に平穏に幸福な家庭生活を営む」いわゆる愛情利益は消失することとなるが、これも夫婦が互に独立の人格を有する個人として尊重される限りにおいて、已むをえないことである。
したがつて、未成熟の子供の家庭から受ける利益は両親が婚姻に伴う義務として同居のうえ互に扶助、協力し、ないしは親の意思に基づき家庭生活を営むことによつて受けるいわば反射的利益と言わざるを得ない。
右のように解しなければ、未成熟の子は家庭の共同生活から離脱した父または母に対しても損害賠償請求権を持つことになり、これは明らかに不合理な結論である。
以上の次第で未成熟の子は両親の一方と性的関係を持ちあるいは同棲している相手方に対し、独自の権利として損害賠償請求権を有しないものといわなければならず未成熟の子供に右請求権を認めた原判決は明らかに法令解釈の違背があるものといわなければならない。
四、夫との離婚を望んでいる妻と性的関係を持つた相手方に対して夫の右相手方に対する損害賠償請求権を認めた原判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の違背がある。
(一) 訴外梅子は夫の暴力に耐えかね三男丙三をつれて家出をし、その後夫に対する離婚を求める調停の申立を行つたが、夫の拒否にあつて離婚調停が不調となり、その後外地勤務の上告人のもとに身をよせ同居するに至つたというのが本件事案であるが、夫婦の一方が離婚の調停申立を行うなど夫婦としての共同生活の実態がなくなつているのであるから、このような場合上告人が右訴外梅子と同棲するに至つても夫たる被上告人松雄に対し不法行為の責任を負わないものといわなければならない。
(二) 原判決が、「夫婦とその未成熟子からなる家族にあつて、各人は他の家族と共に平穏に幸福な家庭生活を営むべき法の保護に値する利益」を侵害したとして、上告人の被上告人松雄に対する不法行為に基づく損害賠償義務を認めたのは、法令の違背があることが明らかである。
五、メキシコにおいて被上告人松雄の妻と上告人とが肉体関係を持つたとの原審の事実認定は、判決に影響を及ぼすこと明らかな経験法則違背すなわち法令違背がある。
(一) 原判決は上告人と訴外保子が昭和四六年八月メキシコにおいて肉体関係を持つたと認定している。
(二) しかし右両名ともその事実を否認している。訴外梅子が家出前被上告人松雄との離婚の話の際、あるいは家出後協議離婚の話の際そのような関係を認めるが如き発言をしたことは事実ではあるが、それは決定的な事をいえば離婚を認めてもらえると考えて発言したものであり、当時心底から離婚を望んでいた梅子の心情を理解すれば、なかつたことをあつたかの如く述べた心理状態は充分納得できる(乙第二号証第四項)。当事者が強く否認しているにもかかわらず、客観的な証拠もなくメキシコでの上告人と訴外梅子との性的関係を認定したことは、事実認定に関する経験法則の違背があることは明白である。
第二点 <省略>