最高裁判所第二小法廷 昭和54年(あ)227号 判決 1979年7月13日
主文
原判決中「当審における未決勾留日数中一五〇日を原判決の刑に算入する。」との部分を破棄する。
その余の部分に対する本件上告を棄却する。
理由
検察官の上告趣意について
記録によれば、被告人は、本件強盗致傷の事実について、昭和五二年一月二五日勾留状の執行を受け、勾留中起訴され、同年二月一〇日保釈釈放となり、同五三年五月一七日神戸地方裁判所において、懲役三年六月に処する旨の判決の言渡しを受け、即時保釈の失効により収監されたが、即日弁護人が控訴の申立及び保釈請求をし、同日保釈釈放され、その後身柄を拘束されることなく、同年一二月一五日原裁判所において、「本件控訴を棄却する。当審における未決勾留日数中一五〇日を原判決の刑に算入する。」との判決の言渡しを受けたものであることが明らかであり、右のように保釈中の被告人が第一審判決の言渡しにより保釈が失効し即時収監され、即日控訴の申立及び保釈請求をし、その日のうちに保釈釈放された場合には、第一審判決言渡しの日の勾留は、原審における未決勾留日数に含まれるものと解すべきであるから、原審における未決勾留日数は一日であることが認められる。
ところで、現実に存在しない未決勾留日数を本刑に算入することが刑法二一条の適用を誤り違法であることは、論旨引用の当裁判所の判例(当裁判所昭和三八年(あ)第二九六五号同四一年一月一八日第三小法廷判決・裁判集刑事一五八号一頁、同四二年(あ)第四四三号同年四月一四日第三小法廷判決・裁判集刑事一六三号七九頁、同五一年(あ)第六一三号同年七月九日第二小法廷判決・裁判集刑事二〇一号一九一頁)の示すところであるから、原判決が、被告人の原審における未決勾留日数は一日であるのに、右日数を超えて原審における未決勾留日数中一五〇日を第一審判決の刑に算入する旨言い渡したことは、刑法二一条の適用につき右判例と相反する判断をしたものといわなければならない。論旨は理由があり、原判決中右の部分は、刑訴法四〇五条二号、四一〇条一項本文により破棄を免れない。
よつて、同法四一三条但書により、原判決中「当審における未決勾留日数中一五〇日を原判決の刑に算入する」との部分を破棄し、原判決のその余の部分に対する検察官の上告は、上告趣旨としてなんらの主張がなく、したがつてその理由がないことに帰するから、刑訴法四一四条、三九六条によりこれを棄却することとし、当審における訴訟費用は、同法一八一条一項但書により被告人に負担させないことにし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(鹽野宜慶 栗本一夫 木下忠良 塚本重頼)
検察官の上告趣意
原判決は、未決勾留日数の算入に関し、最高裁判所の判例と相反する判断をしたものであつて、とうてい破棄を免れないものと思料する。以下その理由を開陳する。
原審は、第一審判決に対する弁護人の控訴に対して、「本件控訴を棄却する。当審における未決勾留日数中一五〇日を原判決の刑に算入する。」との判決を言い渡した。しかしながら、記録によると、本件については、大阪高等裁判所係属中における未決勾留日数は全く存在しないのである。すなわち、被告人は本件について昭和五二年一月二五日勾留状の執行を受け(記録第二冊五三八丁)、同年二月九日勾留中公判請求され(同第一冊一丁)、翌二月一〇日保釈釈放となり(同第二冊五四六丁)、同五三年五月一七日神戸地方裁判所第二刑事部において懲役三年六月訴訟費用負担の判決言い渡しを受け(同第一冊五五丁)、即時保釈の失効により収監されたが、即日弁護人が控訴の申立てと保釈の請求をなし(同第二冊五六五丁)、同日保釈釈放され(同五七〇丁)、その後身柄不拘束のまま大阪高等裁判所において控訴審の審理を受けて原判決の言い渡しに至つたことが明白である。
ところで、現実に存在しない未決勾留日数を本刑に算入することが刑法二一条の適用を誤り違法であることは、昭和四一年一月一八日最高裁判所第三小法廷判決(同三八年(あ)七二九六五号、裁判集刑事一五八号一頁)、同四二年四月一四日最高裁判所第三小法廷判決(同年(あ)第四四三号、裁判集刑事一六三号七九頁)、昭和五一年七月九日最高裁判所第二小法廷判決(同年(あ)第六一三号裁判集刑事二〇一号一九一頁)等の各判示するところであるから、原判決が現実に存在しない大阪高等裁判所における未決勾留日数を本刑に算入したことは、刑法二一条の適用につき明らかに右判例に相反する違法な判断をしたものといわげるを得ず、その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。
以上のとおりであるから、刑訴法四〇五条二号、同四一〇条一項本文により原判決を破棄のうえ相当な裁判を求めるため、上告に及んだ次第である。