最高裁判所第二小法廷 昭和55年(あ)914号 判決 1987年7月17日
主文
本件上告を棄却する。
理由
一 弁護人鈴木淳二の上告趣意について
所論のうち、死刑を定めた刑法の規定の違憲をいう点は、右規定が憲法一三条、三六条に違反するものでないことは当裁判所の判例(昭和二二年(れ)第一一九号同二三年三月一二日大法廷判決・刑集二巻三号一九一頁)とするところであるから、理由がなく、原判決が被告人の自白の証拠能力を肯認したことの違憲(三一条、三八条一項、二項違反)をいう点は、記録を検討すると、所論の指摘する自白の任意性を認めてその証拠能力を肯認した原判断は相当と認められるから、前提を欠き、その余は、違憲をいう点を含め、実質は単なる法令違反、事実誤認、量刑不当の主張であって、適法な上告理由に当たらない。
二 被告人本人の上告趣意について
所論のうち、刑訴法三二一条一項二号後段の規定の違憲をいう点は、右規定が憲法三七条二項に違反するものでないことは当裁判所の判例(昭和二三年(れ)第八三三号同二四年五月一八日大法廷判決・刑集三巻六号七八九頁、なお、同二九年(あ)第一五四号同三〇年一一月二九日第三小法廷判決・刑集九巻一二号二五二四頁参照)の趣旨に照らして明らかであり、憲法三八条三項違反をいう点は、共犯者の自白を憲法の右条項にいわゆる「本人の自白」と同一視し、又はこれに準ずるものとすることのできないことは当裁判所の判例(昭和二九年(あ)第一〇五六号同三三年五月二八日大法廷判決・刑集一二巻八号一七一八頁)とするところであり、また、最高裁判所及び高等裁判所の判例を引用して判例違反をいう点は、原判決は所論引用の各判例と相反する判断をしているものではないから、いずれも理由がない。原判決が被告人の自白の証拠能力を肯認したことの違憲をいう点は、前示のとおり前提を欠き、地方裁判所の判決及び決定を引用して判例違反をいう点は、所論引用の各判決及び決定は刑訴法四〇五条三号にいう判例には当たらず、その余は、違憲をいう点を含め、実質は単なる法令違反、事実誤認の主張であって、適法な上告理由に当たらない。
三 また、所論(弁護人井上智治、同堀裕一、同安田修の当審弁論における陳述を含む。)にかんがみ、記録を調査しても、刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない(記録によれば、被告人が、実兄Bと共謀の上、保険金目当てに被告人の妻C子を殺害しようとしてその目的を遂げなかったこと、右Bに自己の殺害を嘱託して自己を殴打負傷させた上、あたかも氏名不詳者から殴打されて負傷したため入院加療に至ったもののように装って保険金名下に額面六〇万円の小切手一通を騙取したこと、Bと共謀の上、金員強取の目的で、知人の佐藤安弘を偽計を用いてB宅に誘い出し、Bと共に、右佐藤の頭部を野球用バットで殴打し、更にその頚部をロープで絞めて同人を殺害し、同人の所持する現金一〇二〇万円を強取したこと、並びに、Bと共謀の上、右佐藤の死体を地中に埋没して遺棄したことを肯認した原判決の認定は正当として是認することができる。また、本件各犯行の動機に酌量の余地がないこと、いずれも計画的になされた犯行であること、各犯行の態様が悪質であること、特に強盗殺人の殺害方法が残虐であること、結果が重大悲惨であること、被害者の遺族の被害感情は強いこと、社会的影響も無視できないことなどに加えて、本件各犯行において果たした被告人の役割、前科の存在等を考慮すると、原判決が維持した第一審判決の死刑の科刑は、やむをえないものとして当審も是認せざるをえない。)。
よって、刑訴法四一四条、三九六条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 香川保一 裁判官 島谷六郎 裁判官 藤島 昭 裁判官 林藤之輔)