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最高裁判所第二小法廷 昭和55年(さ)3号 判決 1980年11月14日

主文

第二審判決(福岡高等裁判所那覇支部昭和四九年九月一八日言渡)中「被告会社および被告人仲本から各自金三、五七七万三、九二二円七五銭を追徴する。」との部分を破棄する。

第二審判決中その余の部分及び第一審判決に対する本件非常上告の申立を棄却する。

理由

一昭和四九年一月一八日那覇地方裁判所は、被告人沖繩プリミヤー食品販売株式会社及び同仲本昌達に対し、「被告会社は、那覇市美栄橋町二丁目二〇番地に本店を置き、食肉加工製品の輸出入および琉球内販売等を目的とする株式会社であり、被告人仲本昌達は、右会社の代表取締役として、同社の業務全般を統轄している者であつたが、被告人仲本は、被告会社の業務に関し、株式会社第一企業の代表取締役社長与世山茂と共謀し、被告人が被告会社の代表取締役の地位にあつた間の一九七〇年四月一日から同年一〇月三一日までの間右株式会社第一企業の保税工場において外貨原料を使用して製造加工した別紙一覧表記載のソーセージ、罐詰、精肉類総計一九二、七五二弗五一仙(同年八月四日まで総計一一七、二九一弗五五仙)相当の外国貨物を税関の許可を受けないで、右保税工場から移出して琉球内において販売し、もつて無許可輸入したものである。」との事実(別紙一覧表省略)を認定したうえ、「被告人仲本の行為は、包括して、沖繩の復帰に伴う特別措置に関する法律(以下「特措法」という)二五条一項前段、沖繩の刑法六〇条、沖繩の税関手続法八五条一項(懲役刑選択)に、被告会社の行為は、包括して、特措法二五条一項前段、沖繩の刑法六〇条、沖繩の税関手続法九一条(八五条一項)、特措法二五条一項後段、四九条一項、昭和四七年大蔵省告示五九号にあたる。被告人仲本につき、特措法二五条一項前段、沖繩の刑法二五条一項。被告会社および被告人仲本につき、特措法二五条一項前段、沖繩の税関手続法九二条二項(一九七〇年八月五日立法一〇四号附則三項により、右立法により改正される以前のもの)、特措法二五条一項後段、四九条一項、昭和四七年大蔵省告示五九号。」との法令の適用を示して、「被告沖繩プリミヤー食品販売株式会社を沖繩の刑罰法令による罰金五〇万円に、被告人仲本を沖繩の刑罰法令による懲役一年に処する。被告人仲本に対し、この裁判確定の日から二年間、その刑の執行を猶予する。被告会社および被告人仲本から金三五七七万三九七一円を追徴する。」との判決を言い渡した。

これに対し、被告人らから控訴の申立がなされたところ、昭和四九年九月一八日福岡高等裁判所那覇支部は、各控訴趣意を排斥しながら、職権により調査し、追徴金額の算定に関しドルの円換算に誤りがあるとして、原判決中追徴を命じた部分を破棄し、右破棄部分についてさらに判決するとし、原判決の法令の適用の項中追徴に関する部分に摘示の各法条を適用して、「原判決中『被告会社および被告人仲本から金三、五七七万三、九七一円を追徴する。』との部分を破棄する。被告会社および被告人仲本から各自金三、五七七万三、九二二円七五銭を追徴する。原判決その余の部分に対する本件各控訴を棄却する。」との判決を言い渡した。

これに対し、被告人らから更に上告の申立がなされたところ、昭和五〇年七月一五日最高裁判所第三小法廷は、上告棄却の判決を言い渡し、同月二六日右判決は確定した。

以上は、本件記録により明らかである。

二ところで、沖繩の税関手続法については、一九七〇年立法一〇四号(同年八月五日から施行。以下「改正法」という。)により無許可輸出入の罪に係る貨物の没収・追徴に関して改正があり、改正前の沖繩の税関手続法(以下「旧法」という。)九二条一項及び二項では無許可輸出入の罪に係る貨物については、同条一項但書の場合を除きすべて没収・追徴を科すべきものとされていたのに対し、改正後の同法(以下「新法」という。)九二条一項及び二項では、没収・追徴の対象となるものを無許可輸出入の罪に係る貨物のうち同条三項に規定する輸入制限貨物等に限ることとされたのである。そして、本件無許可輸入罪に係る貨物は、右輸入制限貨物等には該当しないので、旧法によれば没収・追徴の対象となるが、新法によればそれが許されないものである。

しかして、前記改正法附則三項には、この立法の施行前にした行為に対する罰則の適用についてはなお従前の例による旨の経過規定が置かれているが、被告人仲本の本件無許可輸入の行為は、改正前の施行の前後にまたがつて行われており、第二審判決はこれを包括一罪としているので、右行為については右附則の適用の余地はなく、主刑のみならず附加刑についても行為終了時に効力を有する規定のみを適用すべきである。従つて、本件無許可輸入罪に係る貨物に関し、被告会社及び被告人仲本に対し没収・追徴を科することはできないことが明らかである。それにもかかわらず、第二審判決が改正前の行為に係る貨物の価額総計を特定したうえ、右附則により旧法を適用して右価額の追徴を言い渡したことは、法令に違反していることが明らかであるうえ、被告人らのために不利益であるといわなければならない。

三ところで、申立人は、右のような場合について、第一審判決及び第二審判決を破棄して、さらに相当な裁判をなすことを求めている。しかし、本件においては、第二審判決が第一審判決の一部を破棄して自判しており、その自判部分に前記のような法令違反があるためその部分を破棄することによつて非常上告申立の目的が達せられると解されるので、その部分を破棄すれば足り、第一審判決中第二審判決によつて破棄されている部分についてはたとえ同様の法令違反があつてももはやこれを非常上告によつて是正する必要はない。なお、本件第一審、第二審判決中その余の部分に対する申立は、またその理由がない。

四よつて、刑訴法四五八条一号但書により、第二審判決中「被告会社および被告人仲本から各自金三、五七七万三、九二二円七五銭を追徴する。」との部分を破棄し、その追徴を科さないこととし、第二審判決中その余の部分及び第一審判決に対する申立については同法四五七条によりこれを棄却すべきものとし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(宮崎梧一 栗本一夫 木下忠良 塚本重頼 鹽野宜慶)

〔非常上告申立書〕

【理由】

一、<省略>

二、ところで、沖繩の税関手続法(一九五六年九月一一日立法第五六号)は、一九七〇年立法一〇四号により一部改正があり、改正法は同年八月五日から施行されたが、無許可輸出入の罪に係る貨物の没収・追徴についても法律の改正があつた。すなわち、改正前の同法九二条一項及び二項(以下「旧法」という。)によれば、無許可輸出入の罪に係る貨物については、同条一項但し書の場合を除きすべて没収・追徴を科すべきものとされていたのに対し、改正後の同条(以下「新法」という。)によれば、没収・追徴の対象となるのは、無許可輸出入の罪に係る貨物のうち同条三項に規定する輸入制限貨物等に限ることとされたのである。そして、本件貨物は、右輸入制限貨物等には該当しないので、旧法によれば没収・追徴の対象となるが、新法によればそれが許されないものである。

本件無許可輸入の行為は、前記法律改正の前後にまたがつているところ、第一審判決は、被告会社及び被告人仲本の行為をそれぞれ包括一罪と認定しているので、右各行為には新法のみを適用すべきであり、したがつて、有罪認定にかかる貨物に関し没収・追徴を科することはできないはずである。しかるに、第一審判決は、改正法附則三項の経過規定を根拠にして、改正前の行為に係る貨物の価額総計を括弧内で特定したうえ、旧法を適用して、右価額の追徴を言い渡し、また、控訴審判決も、この部分を破棄しながら、同一の適条により、単に金額を訂正したにとどまる追徴を言い渡したものである。したがつて、右各判決は、いずれも明らかに法令に違反し、しかも、被告会社及び被告人仲本のため不利益であるといわなければならない。

よつて、刑事訴訟法四五八条一号但し書により、原判決たる第一審判決及び控訴審判決を破棄のうえ、更に相当な裁判がなされることを求めるため、非常上告を申し立てた次第である。

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