最高裁判所第二小法廷 昭和56年(さ)3号 判決 1981年7月17日
主文
原略式命令を破棄する。
被告人を罰金五万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金二〇〇〇円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。
理由
本件記録によると、千葉簡易裁判所は、昭和五五年一〇月六日被告人に対する公然わいせつ幇助被告事件(同庁昭和五五年(い)第二九〇五号)について、「被告人は、千葉市栄町二三番六号所在のストリップ劇場『千葉別世界劇場』の照明係をしているものであるが、昭和五五年九月二五日午後二時五五分ころから同日午後三時ころまでの間、同劇場舞台上において、踊り子(ストリッパー)クイン美保こと工藤勝子及びケイ・ジヤネットこと相木百恵が約一〇名の観客の面前で『生板ショー』と称して男客武藤貴彦及び林浩一の下半身をそれぞれ裸にしたうえその陰茎を手淫して射精させるなどして公然猥褻の行為をするに際し、その情を知りながら、右姿態などにライトを照射し、もって右工藤勝子らの公然猥褻の犯行を容易ならしめてこれを幇助したものである。」との事実を認定した上、刑法一七四条、六二条一項、一八条、罰金等臨時措置法二条一項、三条一項、刑訴法三四八条を適用して、「被告人を罰金一〇万円に処する。右罰金を完納することができないときは、金弐千円を壱日に換算した期間(端数が生じたときは壱日に換算する)被告人を労役場に留置する。被告人に対し、仮に右罰金に相当する金額を納付すべきことを命ずる。」旨の略式命令を発付し、同略式命令は昭和五五年一〇月二一日確定したことが認められ、右事実によれば、本件は踊り子及び男客の正犯が共同して犯した一個の公然わいせつ行為を被告人が幇助したものと解される。
ところで、刑法一七四条、罰金等臨時措置法三条によれば、公然わいせつの罪の罰金の法定刑は一〇万円以下であり、本件は幇助犯であるから刑法六三条、六八条四号により法律上の軽減をした処断刑は五万円以下であるところ、加重事由のない本件について、これを超過して被告人を罰金一〇万円に処した原略式命令は、法令に違反していることが明らかである上、被告人のために不利益であるといわなければならない。
よって、刑訴法四五八条一号但書により、原略式命令を破棄し、被告事件についてさらに判決することとする。
原略式命令の確定した事実に法令を適用すると、被告人の所為は、刑法一七四条、六二条一項、罰金等臨時措置法三条に該当するので、所定刑中罰金刑を選択し、右は従犯であるから、刑法六三条、六八条四号により法律上の軽減をした金額の範囲内で被告人を罰金五万円に処し、右罰金を完納することができないときは同法一八条により、金二〇〇〇円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置することとし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 栗本一夫 裁判官 木下忠良 裁判官 鹽野宜慶 裁判官 宮崎梧一)