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最高裁判所第二小法廷 昭和56年(オ)110号 判決 1982年1月22日

上告人

勇我康彦

右訴訟代理人

吉田鉄次郎

被上告人

勇我良助

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人吉田鉄次郎の上告理由について

本件遺言公正証書には、遺言者から印鑑証明書を提出させてその人違いでないことを証明させたとの記載がありながら、その印鑑証明書が公正証書の原本に連綴されていないことは、所論のとおりである。しかしながら、本件遺言公正証書は、原判決の認定するように、民法九六九条の定める方式を遵守して作成されたものであつて、その方式の中には、証人二人が立会つて遺言者の遺言を確認したこと及び遺言者本人が本件遺言公正証書に署名押印したことが含まれているばかりでなく、そのような方式の遵守は、本件遺言公正証書の記載自体によつて明らかにされているのであるから、本件遺言公正証書が遺言者である勇我光政本人の嘱託に係るものであることは公正証書上確実であるということができるうえに、さらに原審の適法に確定するところによれば、公証人が光政の氏名を知り、かつ、面識があつて、嘱託人を確認する点において欠けることがなかつたことは、本件遺言公正証書作成の一週間前に光政の嘱託に基づいて同じ公証人が作成した公正証書の記載によつても明らかにされているのであるから、右公正証書に、公証人が嘱託人の氏名を知り面識がある旨の記載が欠けていて、印鑑証明書が連綴されていなくても、なお本件遺言公正証書はその効力を認めて妨げないものというべきである。これと同趣旨に帰着する原判決は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(栗本一夫 木下忠良 鹽野宜慶 宮﨑梧一 大橋進)

上告代理人吉田鉄次郎の上告理由

一、公証人法第二条には

「公証人の作成したる文書は本法及他の法律の定むる要件を具備するに非れば公正の効力を有せず」

と明規して居る

又同法第二八条第二項には

「公証人、嘱託人の氏名を知らず又は之と面識なきときは官公署の作成したる印鑑証明書の提出、其の他之に準ずべき確実なる方法に依り其の人違なきことを証明せしむることを要す」

とし、更に同法第四一条には

「代理人の権限を証すべき証書、官公署の証明書、第三者の許可又は同意を証すべき証書、其の他の附属書類は公証人の作成したる証書に之を連綴すべし」

と法定して居り、其等の要件を具備して居なければ公証人の作成したる公正証書としては無効であること公証人法第二条の明規する処である

二、<省略>

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