最高裁判所第二小法廷 昭和56年(オ)273号 判決 1981年11月27日
上告人
斎藤幸男
右訴訟代理人
小野寺信一
被上告人
粂忠
右訴訟代理人
渋佐寿平
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人小野寺信一の上告理由について
原審が適法に確定したところによれば、上告人は、本件事故の当日、出先から自宅に連絡し、弟の訴外斎藤政夫をして上告人所有の本件自動車を運転して迎えに来させたうえ、更に、右訴外人をして右自動車の運転を継続させこれに同乗して自宅に戻る途中、本件事故が発生したものであるところ、右同乗後は運転経験の長い上告人が助手席に座つて、運転免許の取得後半年位で運転経歴の浅い右訴外人の運転に気を配り、事故発生の直前にも同人に対し「ゴー」と合図して発進の指示をした、というのである。
右事実関係のもとにおいては、上告人は、一時的にせよ右訴外人を指揮監督して、その自動車により自己を自宅に送り届けさせるという仕事に従事させていたということができるから、上告人と右訴外人との間に本件事故当時上告人の右の仕事につき民法七一五条一項にいう使用者・被用者の関係が成立していたと解するのが相当である。したがつて、これと同旨の原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(栗本一夫 木下忠良 鹽野宜慶 宮﨑梧一)
上告代理人小野寺信一の上告理由
一、原判決は法令違背の誤りがあるので破棄を免れない。すなわち、
(一) 原判決は、上告人と斎藤政夫との間に、上告人の自動車運転業務につき、民法七一五条一項にいう使用者、被用者の関係が一時的に成立していたと判断し、上告人に被上告人に与えた損害の賠償責任を認めている。
(二) しかし、本件は、斎藤政夫が富岡まで、兄である上告人を迎えに行つたその帰途に発生した事故であるが、斎藤政夫が上告人を迎えに行つたことにより、上告人になにがしかの利益が帰属してもそれは兄弟の親好から発した斎藤政夫の運転行為の結果にすぎず、そのことをもつて原判決のように斎藤政夫の運転を上告人の自動車運転業務の一部と解するのは正しくない。
原判決は民法七一五条一項の「事業」の解釈を誤つたものである。
(三) 次に上告人は斎藤政夫の運転する車に同乗し、帰宅する途中「ドサンコ」入口が暗く、対向車があつたので、その進入につき気を配り、「ゴー」の合図を出して、発進させたことは、原判決摘示のとおりであるが、それは、助手席にいる者が、通常なしうることであり、そのことをもつて上告人と斎藤政夫との間に民法七一五条一項の「使用関係」があつたとするのは正しくない。
原判決は民法七一五条一項の「他人を使用する者」の解釈を誤つたものである。
二、以上の法令解釈の誤りは判決に影響をおよぼすこと明らかであるので、原判決は破棄されるべきである。