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最高裁判所第二小法廷 昭和57年(オ)1392号 判決 1985年11月29日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人畑尾黎磨の上告理由について

漁業協同組合は、水産業協同組合法四五条の準用する民法五三条、五四条の規定により、定款の規定又は総会の決議によつて特定の事項につき理事が代表権を行使するためには理事会の決議を経ることを必要とするなどと定めて理事の代表権を制限することができるが、善意の第三者に対してはその制限をもつて対抗することができないものであるところ、右にいう善意とは、理事の代表権に制限が加えられていることを知らないことをいうと解すべきであり、また、右の善意についての主張・立証責任は第三者にあるものと解すべきである。そして、第三者が右にいう善意であるとはいえない場合であつても、第三者において、理事が当該具体的行為につき理事会の決議等を得て適法に漁業協同組合を代表する権限を有するものと信じ、かつ、このように信じるにつき正当の理由があるときには、民法一一〇条を類推適用し、漁業協同組合は右行為につき責任を負うものと解するのが相当である。

本件において、原判決は、右と同旨の見解に基づき、(一) 被上告組合は水産業協同組合法に基づいて設立された漁業協同組合であるところ、被上告組合の定款三一条は、組合長はこの組合を代表し、理事会の決定に従つて業務を処理すると規定し、同三三条は、固定資産の取得又は処分に関する事項を理事会の決定事項の一つとして掲げている、(二) 被上告組合の組合長理事であつた坂野虎松は、昭和四六年三月一二日、同組合を代表して、同組合が本件土地等を上告人に対し売却する旨の本件売買契約を締結したが、本件売買契約の締結については右理事会の承認がされていない、(三) 上告人は、被上告組合の定款上本件土地の売却には理事会の承認が必要であることを認識していた、(四) 上告人が、本件土地の売却につき理事会の承認があり組合長坂野虎松が本件売買契約締結の権限があるものと信じたとしても、そう信じるにつき正当の理由があるとはいえない、と認定判断しているのであるから、原判決に所論の違法はない。所論引用の判例は、事案を異にし、本件に適切でない。論旨は、独自の見解に基づき原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧 圭次 裁判官 木下忠良 裁判官 大橋 進 裁判官 島谷六郎 裁判官 藤島 昭)

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