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最高裁判所第二小法廷 昭和57年(行ツ)93号 判決 1983年3月11日

愛知県葉栗郡木曽川町大字黒田字南八ツケ池一二番地の二

上告人

水野价造

右訴訟代理人弁護士

鍵谷恒夫

愛知県一宮市栄四丁目五番七号

被上告人

一宮税務署長 森正博

右指定代理人

崇嶋良忠

右当事者間の名古屋高等裁判所昭和五六年(行コ)第四号所得税更正処分等取消請求事件について、同裁判所が昭和五七年三月二九日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人及び上告代理人鍵谷恒夫の各上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、違憲をいう部分を含め、ひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難し、若しくは原審の認定しない事実を前提にして原判決の不当をいうか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鹽野宜慶 裁判官 木下忠良 裁判官 宮崎梧一 裁判官 大橋進 裁判官 牧圭次)

(昭和五七年(行ツ)第九三号 上告人 水野价造)

上告代理人鍵谷恒夫の上告理由

一 原判決には、次の点において憲法の解釈の誤りもしくは憲法の違背がある。

すなわち原判決は、所得税法二三四条一項所定の質問検査権の解釈において、質問検査権行使の相手方は、納税義務者本人のみでなくその業務に従事する従業員等をも包含すると解するのが相当であるとし、更に質問検査権行使による税務調査の範囲、程度及び手段等についてはこれを規制する法文は存しないから、すべて税務職員の合理的な裁量に委ねられているものと解するのが相当であるとし、従って税務調査の実施にあたり、事前通知ないし調査の理由開示はその適法要件ではないとし、また臨場による質問調査に際し、納税者本人が不在のとき従業員に質問調査し、任意の回答を得ることも何ら違法とはいえないとして、本件における税務職員が、上告人に対する税務調査に当って上告人の従業員である訴外戸屋照子に対して、同人が上告人は確定申告における上告人の住所に居るからそちらにまずいってくれと求められたにもかかわらず、更にまたその住所は近接していて、そちらに行こうと思えばすぐに行けたにもかかわらず、あえて訴外人からまず、調査事項を質問調査したことを適法とし、これによって得た資料によってなされた本件各更正処分を追認したものである。

然しながらこの原判決は明らかに違憲の判断である。すなわち、わが国税については原則として申告納税制度が採用されている。

この申告納税制度は賦課課税制度に対立するもので、憲法理論的には国民主権の原理の租税法的展開を意味する。

すなわち、旧憲法的理論によれば、納税者である人民は単なる行政の客体として位置づけられてきた。

そこでは主役は行政庁であって人民ではない。ところが申告納税制度は、この法思想を一八〇度変えるもので、そこでは法的には主役は「納税者」という人民に変ったのである。

そこで税務職員の行使する税務調査権についてもこの原理に立って考えなければならない。

税務調査権行使の客体は納税者すなわち主権者たる人民である。主権者に対する調査権の行使が無制約である筈がない。換言すれば、税務調査権は、まず当該納税者本人に対する調査を十分に行ってから、そこでの疑問をどうしても確認する必要がある場合にのみ、第三者に対して制限的例外的に調査が許されると解されなければならない。

更にまた本人に対する事前通知並びに調査理由の告知は当然に必要と解されなければならない。

これは憲法の国民主権の原理が要請する。税務調査権についての当然の解釈である。

この点の判断を誤った原判決は取消を免れない。

このほか原審、第一審における上告人の主張(とくに昭和五三年一一月六日付)を更に援用するものである。

二 原判決には、次のとおり、理由に重大なそごがある。

1 推計の必要性についての理由そご

上告人は、各係争年分の所得、経費の実額を十分に算定じうる帳簿等を備付け整備していたが、前記税務職員の不法調査にあってこれに抗議して、この点の釈明を当局側に求めていた間に、当局側において勝手に推計による更正処分をなしたものであって、上告人は、資料提出を一切拒否したものではない。

この点の原審判断理由において事実との間に重大そごがあって、原判決は取消をまぬがれない。

2 推計の合理性についての理由そご

(1) 美容の部について、

せんい不況による一宮税務署管内における女子工員の減少は、上告人のみが影響をうけているのではないにしろ、管内においてもおのずから、大きな差がある。

原判決は、上告人の木曽川地区が、管内においても最も大きな影響をうけていることを無視している。

(2) 喫茶の部について

原判決は上告人方の店舗においては、他業者に比して小売値がより二割方低れんにしていること、ならびにコーヒーのポンド売りの割合の高さを考慮していない。

(3) 上告人の主業である金属加工業における必要経費としての毎年三〇〇万円の試験開発費の算入を無視している。

以上のような上告人の特殊事情を何ら考慮に入れないでした推計にその合理性において重大な欠陥があり、これを無視した原判決は取消をまぬがれない。

上告人の上告理由

平和と民主主義の日本国の最高法規である、憲法の光が、なぜ税法の中を照らさないので、あろうか。小生は、或る日、突然納税義務者である。私に何んの通知もなく、営業所二ケ所一宮税務署は私の所得税の事後調査を従業員から始めました。私は早速税務署に貴署の行為は間違っている。その事は申告をした。私から始めるべきでは、ないかと、抗議の手紙を出しました。それが当局の意を害し、推計による更正決定を受けました。それが今日までに及んでおります。一審、二審と裁判をしましたが、其の事には触れず最高裁までまいりました。一国民が自主申告に基ずき、毎年、毎年納税の義務を果して生活をしているにも、かかわらず権力を背景にして封建時代にも無かった、無謀な行為は許す事が出来ません、最後の裁判になりました。よろしくお願い申します。

追伸

更正決定の内容は私の営業内容とは、全然別なものと、なっております。

以上

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