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最高裁判所第二小法廷 昭和58年(オ)484号 判決 1983年11月11日

上告人

中嶋一男

右訴訟代理人

佐々木茂

佐々木一彦

被上告人

山中久三郎

被上告人

山中健靖

右法定代理人親権者

山中久三郎

山中岱子

右両名訴訟代理人

久保田昭夫

徳住堅治

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人佐々木茂、同佐々木一彦の上告理由一及び二の(一)について

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして肯認することができ、また、右事実関係のもとにおいては、上告人の賠償額を定めるについて被害者の過失を斟酌しなかつた原判決に判例違反等所論の違法があるとはいえない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原審の認定にそわない事実若しくは原審で主張しない事項に基づいて原判決の不当をいうものにすぎず、採用することができない。

同二の(二)について

原審が適法に確定したところによれば、被上告人山中久三郎は、昭和四八年四月一五日に発生した本件交通事故について事故当時から被疑者として取り調べを受け、次いで昭和四九年一〇月三一日浦和地方裁判所に上告人他八名を被害者とする業務上過失致死傷罪で起訴され、昭和五二年二月一八日同裁判所で禁錮一年六月執行猶予三年の有罪判決を受けたが、東京高等裁判所に控訴したところ、昭和五三年二月二七日同裁判所で無罪判決を受け、同判決が同年三月一四日確定したというのであるから、このような事実関係のもとにおいては、被上告人山中久三郎に対する前記無罪判決が確定した時をもつて、民法七二四条にいう「加害者ヲ知リタル時」にあたるとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よつて、民法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(鹽野宜慶 木下忠良 宮﨑梧一 大橋進 牧圭次)

上告代理人佐々木茂、同佐々木一彦の上告理由

一、<省略>

二、原判決には大審院、最高裁判所判例に相反する判断をした違法がある。

(一) 訴訟資料上、被告者に過失ありと認められるのに、その斟酌の有無につき判示しない判決は、賠償義務者からこの点の主張がない場合でも、審理不尽の違法あるものとされているが(大判昭和三・八・一・民集七・六四七)、原判決は、記録上明らかに認められる被上告人山中久三郎の過失を看過したばかりか、これを斟酌しない理由も明示しないのは、右判例に相反する判断をした違法がある。

(二) 原判決は、民法七二四条の時効の解釈につき、「無罪判決の確定によりはじめて、控訴人に対する賠償請求が事実上可能の状況のもとに、その可能な程度に控訴人が加害者であることを知つたものというべきであり、したがつて、同判決確定時をもつて民法七二四条にいう「加害者ヲ知リタル時」に該当するものと解するのが相当である」と解釈している。

しかしながら、「被害者において加害者の氏名、住所を確認するに至つた時をもつて、民法七二四条にいう「加害者ヲ知リタル時」というべきである。」(最判昭四八・一一・一六民集二七・一〇・一三七四)とされており、現に、被上告人山中久三郎は、自賠責保険金、物損を請求し、その損害金を受領しているのであつて、少くともその時点で「加害者ヲ知リタル時」に至つたというべきである。

しかも、被上告人山中久三郎は、他の同乗者と異なり、無罪を主張していたのであり、弁護人もつけており、権利行使をするのに何ら支障はなかつたものである。

それ故、原審判決には、民法七二四条の解釈を誤つた違法があると言わざるを得ない。

以上、いずれの論点よりするも、原判決は違法であり、破棄さるべきものである。

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