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最高裁判所第二小法廷 昭和59年(オ)1059号 判決 1987年2月06日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

一  上告代理人猪狩庸祐の上告理由第一及び上告代理人小川善吉、同瀬沼忠夫の上告理由第四点一、二について

国家賠償法一条一項にいう「公権力の行使」には、公立学校における教師の教育活動も含まれるものと解するのが相当であり、これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

二  上告代理人堀家嘉郎の上告理由第二点、上告代理人猪狩庸祐の上告理由第二並びに上告代理人小川善吉、同瀬沼忠夫の上告理由第一点、第二点及び第四点三、四について

学校の教師は、学校における教育活動により生ずるおそれのある危険から生徒を保護すべき義務を負っており、危険を伴う技術を指導する場合には、事故の発生を防止するために十分な措置を講じるべき注意義務があることはいうまでもない。本件についてこれをみるに、所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯することができ、右の事実関係によれば、松浦教諭は、中学校三年生の体育の授業として、プールにおいて飛び込みの指導をしていた際、スタート台上に静止した状態で頭から飛び込む方法の練習では、水中深く入ってしまう者、空中での姿勢が整わない者など未熟な生徒が多く、その原因は足のけりが弱いことにあると判断し、次の段階として、生徒に対し、二、三歩助走をしてスタート台脇のプールの縁から飛び込む方法を一、二回させたのち、更に二、三歩助走をしてスタート台に上がってから飛び込む方法を指導したものであり、被上告人今野良彦は、右指導に従い最後の方法を練習中にプールの底に頭部を激突させる事故に遭遇したものであるところ、助走して飛び込む方法、ことに助走してスタート台にあがってから行う方法は、踏み切りに際してのタイミングの取り方及び踏み切る位置の設定が難しく、踏み切る角度を誤った場合には、極端に高く上がって身体の平衡を失い、空中での身体の制御が不可能となり、水中深く進入しやすくなるのであって、このことは、飛び込みの指導にあたる松浦教諭にとって十分予見しうるところであったというのであるから、スタート台上に静止した状態で飛び込む方法についてさえ未熟な者の多い生徒に対して右の飛び込み方法をさせることは、極めて危険であるから、原判示のような措置、配慮をすべきであったのに、それをしなかった点において、松浦教諭には注意義務違反があったといわなければならない。もっとも、同教諭は、生徒に対して、自信のない者はスタート台を使う必要はない旨を告げているが、生徒が新しい技術を習得する過程にある中学校三年生であり、右の飛び込み方法に伴う危険性を十分理解していたとは考えられないので、右のように告げたからといって、注意義務を尽くしたことにはならないというべきである。したがって、右と同旨に帰する原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

三  上告代理人堀家嘉郎の上告理由第一点一について

原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、原審の付添看護費用に関する損害額の算定方法は、正当として是認することができる。また、損害賠償請求権者が訴訟上一時金による賠償の支払を求める旨の申立をしている場合に、定期金による支払を命ずる判決をすることはできないものと解するのが相当であるから、定期金による支払を命じなかった原判決は正当である。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

四  その余の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきょう、原審の専権に属する事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 林 藤之輔 裁判官 牧 圭次 裁判官 島谷六郎 裁判官 藤島 昭 裁判官 香川保一)

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