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最高裁判所第二小法廷 昭和60年(オ)597号 1986年3月07日

上告人

株式会社第一学習社

右代表者代表取締役

松本清

右訴訟代理人弁護士

開原真弓

国政道明

田邉満

被上告人

高瀬均

被上告人

小林和俊

右両名訴訟代理人弁護士

坂本修

相良勝美

田中敏夫

中島英夫

右当事者間の広島高等裁判所昭和五六年(ネ)第二〇六号従業員地位確認請求事件について、同裁判所が昭和六〇年一月二五日言い渡した判決に対し、上告人から一部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人開原真弓、同国政道明、同田邉満の上告理由について

被上告人らに対する本件懲戒解雇が不当労働行為に当たり無効であるとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、是認することができないではなく、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解を前提として原判決を論難するか、又は原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、いずれも採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大橋進 裁判官 牧圭次 裁判官 島谷六郎 裁判官 藤島昭 裁判官 香川保一)

上告代理人の上告理由

第一、原判決には上告人の不当労働行為意思を推認したとして掲げる具体的各事実の認定に関して、審理不尽理由不備及び採証法則を誤った違法があり、これが判決に影響を及ぼすことが明らかであるから破棄を免れない。

一、原判決は、被上告人らの「各行為は各就業規則違反の事実を綜合すると懲戒解雇事由となり得る程度、内容のものであると言うことができる」と認定しながら「懲戒解雇事由となるような就業規則違反がある場合でも、使用者が懲戒解雇をなすに至った決定的理由は組合活動に対する嫌悪、組合に対する支配介入であると認められる場合はそれは不当労働行為意思に基づくものと言うことができる」とし、本件について第一組合の結成、第一組合の出版労連加盟に対する上告人の態度、第二組合の結成、第一組合所属の者に対する配転、組合活動に対する懲戒処分、被上告人らの配転、原職復帰後の処遇、本件解雇の時期に関する各事実を認定した上、本件解雇につき上告人は不当労働行為の意思を有していたと判断している。

しかし、原判決は上告人が当時直面していた会社内外の状況からして、被上告人らに対する配転・出向命令につき、その必要性並びに合理性が十分認められるのにかかわらず、組合の結成時期及び被上告人らが組合執行委員であることを理由に上告人の不当労働行為意思に基づくものとし、更に上告人が配転効力停止仮処分決定の当時被上告人らに与えるべき英語・生物の編集業務がなく応援業務を指示せざるを得なかった理由並びに必要性も極めて明確であったのに、正当な組合活動を嫌悪する上告人の不当労働行為意思に基づくものとして、就業規則違反が明らかな被上告人らの言動を正当な組合活動と認めるもので原判決の右判断は極めて合理性に乏しく、しかも原判決が挙示した右各事項に対する具体的各事実の認定については、以下述べるとおり、明らかに判決に影響を及ぼすべき重大な事実について審理不尽・理由不備及び採証法則を誤った違法があるから破棄を免れないものである。

《二~七―略》

八、以上原判決の、第一組合所属の者に対する配転、被上告人らに対する配転出向、第一組合の出版労連加盟に対する上告人の態度、原職復帰後の処遇、組合活動に対する懲戒処分、配転・出向に関する第一組合との交渉内容等の各事項についての判断は不当労働行為の成否にかかわり、ひいては懲戒解雇処分の効力を左右する極めて重要なものであるが、右各事項に関する原判決の認定は審理不尽・採証法則違反・理由不備の違法があり、これが判決に影響を及ぼすことが明らかであるから破棄を免れないものである。

第二、原判決は、懲戒解雇処分の効力について法律の解釈を誤りこれが判決に影響を及ぼすことが明らかであるから破棄を免れないものである。

一、原判決は、「懲戒解雇事由になるような就業規則違反がある場合でも使用者が懲戒解雇をなすに至った決定的理由は組合活動に対する嫌悪・組合に対する支配介入であると認められる場合はそれは不当労働行為意思に基づくものということができる」と判示のうえ「本件解雇は被控訴人高瀬が副執行委員長として組合の指導的中心的立場にあり、同小林が執行委員として活発に組合活動をした正当な組合の行為を嫌悪しこれを企業外に排除するとともに、組合を嫌悪し、その弱体化を図ったことに主たる理由があるといえる。なるほど控訴人会社が解雇理由として主張する被控訴人らの無断欠勤やそのほかの行為には相当でないものがあるけれども、それは会社が不当労働行為意思をもって被控訴人らを配転し、また会社が被控訴人らの原職復帰を信義則に反して拒否するなど組合活動に対する異常な対策から派生したものが多分に存するものであり、彼此考量すると本件解雇の決定的理由は前記の点にあり、換言すれば解雇の決定的動機は不当労働行為意思にあったということができる」と判断し「本件解雇は各被控訴人の組合の正当な行為を理由とし被控訴人らを解雇により企業外に排除することによって第一組合を弱体化しようとし組合の運営を支配しこれに介入したもので労働組合法第七条一号、三号の不当労働行為として無効である」と認定している。

原判決は上告人の主張する正当な懲戒解雇理由と被上告人らの主張する反組合的意図を比較考量することによっていずれが「決定的動機」であったかをもってその成否を決定しようとするものであるが、原判決は懲戒解雇処分の効力について、労働基準法第八九条、労働組合法第七条一号・三号及び上告人就業規則の解釈を明らかに誤るものである。

第一に本件解雇は、上告理由第一点で原判決が不当労働行為意思を推認したとして掲げる具体的各事項につき不当労働行為に当たらないとして詳細に述べたとおりであって、所謂原因の競合する場合には該当しない。

第二に、本件解雇が仮に原判決認定のとおり、原因の競合する場合であるとしても、合理的且つ相当と考えられる懲戒解雇事由が存在するときは誰であっても懲戒解雇に付されても已むを得ないものと解すべきであり、また、合理的且つ相当な懲戒解雇事由に加えて、不当労働行為の成立する余地があるとしても、それを以って解雇処分の効力を否定することは合理的でなく、その場合には処分の効力を否定する以外の方法で救済の方法を考慮するのが相当である。

この点について原判決は重大な点において法令の解釈を誤ったものである。なお、本件においては上告人が企業秩序維持の観点から、被上告人らに対し解雇処分することの意思決定において、不当労働行為意思を認める理由は全くなく、被上告人らの処分前後を通じての違法・不当な秩序破壊行為に対し自衛上やむなく行った行為を、平常時において且つ正当な組合活動を前提に、比較検討してなした原判決の事実認定は著しく経験則に反し、右の誤認は原判決の結論に影響することは明白である。

二(一) ところで原判決の認定した被上告人らの就業規則違反行為は、誰であっても懲戒解雇に付されてもやむを得ないと言わざるを得ないものである。原判決が明確に認定している就業規則違反行為は次のとおりである。

1 被上告人らの無断欠勤等について被上告人高瀬について

無断欠勤 二〇日

就業規則第五六条(2)・(4)号違反

無断遅刻 一二回

就業規則第五六条(2)号違反

無断職場離脱 四三回

就業規則第五六条(2)号違反

被上告人小林について

無断欠勤 六日

就業規則第五六条(2)・(4)号違反

無断遅刻 二〇回

就業規則第五六条違反

無断職場離脱 四六回

就業規則第五六条違反

右被上告人らの無断欠勤等は原判決も指摘しているとおり仮処分による復帰後本件解雇まで勤務を要する一三一日間においてなされたものである。

被上告人らの右無断欠勤は就業規則第五六条(4)号の「正当な事由なくして三日以上無断欠勤したとき(年三回又は連続)」にあたるほか、第三一条の欠勤届出及び承認の規定に反する点で第五六条(2)号の懲戒事由となるものである。

右無断遅刻(早退も同様)は第三〇条の届出義務に反して第五六条(2)号により懲戒事由となるものである。

<省略>

右無断職場離脱は、第三二条の職務専念義務違反、第三三条(14)号のみだりに職場を離れない義務違反、第三〇条二項の私用外出の許可義務違反となり第五六条(2)号で懲戒事由となるものである。

被上告人らは勤務すべき右一三一日間に、無断欠勤等を前記認定の回数繰り返しているだけでなく、その他の就労日においても、まともに出勤している日はほとんどなく、病気による欠勤(診断書が提出されたものはなく病気を名目上の理由とするが何ら正当な理由なき欠勤である)か、ストライキにより欠勤していたもので、無断欠勤、遅刻、無断職場離脱の回数について、原判決の認定に従うとしても昭和四九年四月八日から九月一三日までの勤務実態は次〔左表―編注〕のとおりとなっている。

但し、原審は上告人高瀬について無断職場離脱が無断遅刻と重なる日が三日、上告人小林については無断職場離脱が無断遅刻と重なる日が九日と認定しているので、これを考慮しても上告人高瀬がまともに就労した日は三二日、被上告人小林は四九日にしか過ぎない。

2 被上告人らの業務不就労について被上告人らは昭和四九年四月八日から本件解雇の同年九月一三日まで上告人の業務指示に従わず一切業務についていないが、右事実は就業規則第五六条(12)号の「業務上の指揮命令に違反したとき」に該当するものである。

3 被上告人らの勤務時間中の違法宣伝行動について

(1) 被上告人らは昭和四九年五月一六日午前八時三〇分(始業時)から約一時間にわたり本社玄関前に組合宣伝車を止め、備付の拡声器で上告人が被上告人らに対してとった処置が違法・不当である旨の抗議放送を続け増田常務らの制止に従わなかった。

(2) また被上告人高瀬は同月一七日午前一一時三〇分ころから約三〇分間右(1)同様の場所・方法で同様の内容の抗議放送を続け増田常務らの制止に従わなかった。

被上告人らの右(1)・(2)の行為はスト通告のない勤務時間中の争議行為であり就業規則第三二条の職務専念義務違反及び業務上の指示命令違反として就業規則第五六条(2)号に該当するものである。

(二) 原判決は、上告人が就業規則違反行為として主張している事実のうち一部の事実について重大な事実誤認をなし就業規則違反行為として認定していないが、原判決が被上告人らの就業規則違反行為として認定している事実だけを見ても前記の事実が認められているものである。

ところで右各事実は、原判決も認定するとおり昭和四九年四月八日より同年九月一三日までの一三一日間の就労日の間に繰り返されているが、その間上告人としては、被上告人らがこれら就業規則違反を重ねるのを漫然放置したわけではない。

上告人は、被上告人らが就労する場所である編集課を三室に間仕切り、管理監督が容易で無断職場離脱が出来ない態勢をとり、被上告人らのタイムカードを総務課長及び総務課員に管理させて被上告人らが無断欠勤・無断遅刻したり不正打刻しないよう処置し、更に会社の出入口に扉と受付を設け、被上告人らが勝手に無断職場離脱して外出することができないような対応策を講じて来たのである。

上告人としては被上告人らの出勤状態及び就労状況が悪くなり、就業規則に抵触する状況が発生してきた際にそれを承知の上で意識的に被上告人らの出鱈目な出勤・勤労状況を放置し、且つそれが助長されるようにしたものではなく、むしろ上告人としては被上告人らが無断欠勤・無断遅刻・無断職場離脱をしないよう会社施設の改善等上告人として取り得る可能な処置を講じてきた。上告人の以上のような努力にもかかわらず被上告人らは原判決の前記認定のような出勤状況を繰り返し継続したものである。

(三) 原判決も認定しているとおり、被上告人らは昭和四九年四月八日より同年九月一三日まで上告人の業務指示に従わず一切就労していない。

原判決認定のとおり上告人は昭和四九年四月八日の配転効力停止の仮処分決定後、被上告人らの就労場所を従来の編集課として、配転・出向発令後一旦引揚げた被上告人らの机を元に戻し、タイムカードも編集課従業員と同一の場所に設置したのである。

昭和四八年四月上告人は昭和四五年告示の学習指導領に基づく教科書編集を終了し、同四九年三月には全教科書は既に検定合格済みとなっていて、教科書編集業務は殆どなく、また副教材に関する編集業務も前年に決定された出版点数の大幅削減のため皆無に等しく、被上告人らに対し与うべき編集業務がなかったことから、上告人において時期的或いは季節的に業務量が増大し、応援を必要とする仕事に従事させざるを得ないと考え、その旨被上告人らの上司に命じた。しかし、配転拒否後の被上告人の言動や仮処分により原職の編集業務を要求する態度から見て上司の係長では具体的な業務指示を行うことは困難と判断し、併せて被上告人らが配転効力停止の仮処分により仮に編集課に復帰している身分であることを考慮し、森中総務部長が被上告人らに具体的業務の指示をすることとしたものである。

同年四月一二日以降森中総務部長は被上告人らに対し、毎年四月に各部課の応援のもとに行う職員名鑑の編集業務を指示し、同人らがこれに応じないため、引続き通信教育教材の発送業務、商品出荷後の伝票作成をなし営業事務課に報告する等の商品管理課業務を指示し、被上告人高瀬に対しては、右業務のほか更に通信教育部の英語添削指導及び英語教材の編集業務に就く様具体的指示を行ったが、被上告人らはあくまで仮処分決定は現職復帰を認めているとして、従来の英語科或いは生物科の編集業務につくことのみを主張し森中総務部長の業務指示を拒否し、一度として右指示に従い業務に就くことはなかったものである。

原判決は、就労拒否に関し森中総務部長は「昭和四九年六月下旬以降被上告人らに対し何らの業務指示もしなくなった」とし「被上告人らが右のように業務指示を拒否し、就労を拒否したのは原職またはこれに準じた事務職の特定の係に配置し特定の仕事を担当させるべきであるのに総務部長管理という極めて異例な扱いをし、臨時応援的業務をさせ、更に事務職と異なる倉庫などの肉体的労働業務への就労を命じたとして抗議したものであった」と認定しているが、右認定は採証法則に反し重大な事実誤認を犯している。

原判決は、昭和四九年六月下旬以降森中総務部長は被上告人らに対し何らの業務指示もしなくなったと認定しているが、しなくなったのではなくすることが出来なかったものである。

森中総務部長には、総務部長として本来の業務があり、被上告人に対する業務指示もその一端であるが、四月一二日以降二か月余にわたり同部長の指示に一切従わない被上告人らに対し何時までもかかずらうことなど出来うる道理はない。しかも、原判決も認定しているとおり被上告人は出鱈目な出勤、就労状況で本来の就労場所に殆どいることはなく、例え業務指示をしようとしても業務指示をすることすら困難な状態であった。(本件懲戒解雇の通知をする際にも被上告人らは所在不明であったものである。)

更に、原判決は「原職又はこれに準じた事務職の特定の係に配置し特定の仕事を担当させるべきであるのに」と認定しているが、被上告人らはあくまで原職の英語科或いは生物科の編集業務に従事させよとして、その他の業務に就くことは一切拒否したのである。

現に上告人が命じた業務は、既に述べたとおり職員名鑑の編集業務、通信教材の発送業務や通信教育部の英語添削指導及び英語教材の編集業務であって、原職に準じた事務職である。また原判決は臨時応援的業務をさせたと認定しているが、上告人が指示した業務は既に述べたとおり単なる臨時応援的業務ではなく、一定期間継続的に従事する必要性のある業務であった。

まして、被上告人らは一度として右業務指示に応じ就労したことはないのであるから上告人が指示した業務内容につき、臨時応援的業務に過ぎないとか肉体的労働業務であるとか批判がましい指摘をすること自体筋違いと言わねばならない。

昭和四九年四月八日の配転停止の仮処分決定は、単に被上告人らに対する上告人の昭和四九年一月八日付及び同年一月一六日付配転命令の効力を仮に停止するというに過ぎず、その後の新たな業務命令をなんら妨げるものではない。

被上告人らは原職復帰・編集業務につくことのみを主張し、森中総務部長の新たな業務命令に従わず一切就労しなかったのである(但し既に指摘しているとおり被上告人らはほとんど会社内にいなかったものである)。

被上告人らの前記のような対応は労働者としての唯一最大の義務を放棄したものとして重大な就業規則違反行為であると言わねばならない。

原判決は「被上告人らが剰員の形となったにしても会社としては、右仮処分が出た以上その趣旨を尊重し、信義則に従って被控訴人らを加えた上で新たに定員配置計画を立て、特段の事情のないかぎり原職に復帰させ他の職務に配置する場合においては、原職と著しい変動のない同じ事務職を選び被控訴人らをその係員として配置するのが相当である」と判示するのであるが、前記仮処分決定はその理由において、被上告人高瀬が広島営業所勤務となった場合同営業所の勤務状態に照らし日常の組合活動が著しく困難になること、被上告人小林が札幌営業所勤務となった場合は同営業所の規模が狭小であるため組合活動に重大な影響を来すことが一応認められるから、本件配転によって不利益を蒙るものと認定しているのであって、配転により組合活動が困難になることを考慮し被上告人らの場所的移動を停止したことがその主旨である。従って原判決の前記判示は仮処分決定に対し終局判決と同一の効力を認めるものであり、また上告人に対し本来の仮処分決定以上の過度の要求をなすものであって失当である。

そもそも、上告人は被上告人らを編集職と限定して採用したものではなく、原判決も編集職が営業に従事することが慣行化されているとの事実を認定している。上告人のような規模の会社では従業員が特定業務にのみ従事することは殆どなく、幹部社員もあらゆる業務を経験して来ているのである。

昭和四九年当時、被上告人高瀬は入社二年目であったが、京都支社に営業のため六か月間出向していて、編集業務はさしたる経験もなく、被上告人小林は未だ入社一年目で業務経験に乏しい点を考えれば、上告人において前記のような業務を指示したことが何ら信義則に反するものではなく、仮処分決定の趣旨にも背くものではないのである。

(四) 昭和四九年五月一六日と一七日の被上告人らの勤務時間中の違法宣伝行動は原判決認定のとおりである。被上告人らは勤務時間中に無断職場離脱をしているだけでなく他の従業員の業務を長時間にわたって妨害するために拡声器を使用して大声で一方的かつ虚偽な宣伝活動をなしたものでありこれが就業規則に違反することは明白である。

(五) 以上述べたとおり原判決の認定した就業規則違反の事実だけからみても、被上告人らには、いかなる労使間の紛争があるにしても、誰が見ても合理的且相当と考えられる懲戒解雇事由が存在するものである。

本件のように、誰が見ても明白に懲戒解雇事由が認められる場合には、労使間に紛争があり、例え上告人に不当労働行為意思が存在するものとしても、不当労働行為の成立する余地はなく被上告人らに対する懲戒解雇は有効と言わなければならない。

およそ不当労働行為制度は、労使間の適正な団体交渉を通じて公正な労働契約の実現を目標とするものであり、それ以上に出るものではないことから言えば、不当労働行為の名をもって、特に組合活動家を一般の労働者より手厚く労働契約上保護するということは認めることはできないものである。

以上述べたとおり被上告人らに原判決認定の懲戒解雇理由の認められる本件事案において、本件解雇が労働組合法第七条一号・三号の不当労働行為として無効であるとする原判決には、労働基準法、労働組合法及び就業規則の解釈を誤った違法があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、原判決はすみやかに破棄されるべきである。

三、仮に本件解雇についての上告人の決定的動機を問題とするとしても、原判決の認定した各懲戒解雇事由の認められる本件事案においては、本件解雇の決定的動機は被上告人らに就業規則違反の各懲戒解雇事由が認められるためであり、原判決の認定するような被上告人の正当な組合活動を理由とし、被上告人らを解雇により企業外に排除することによって第一組合を弱体化しようとし、組合の運営を支配しこれに介入しようとしてなしたものではない。懲戒解雇の理由となった前記の如き被上告人らの就業状態は、およそ正当な組合活動とは全く無縁のものであって、これをもって不当労働行為の成否を論ずる余地など全くないと言わざるを得ない。

(一) 既に述べたとおり被上告人らには昭和四九年四月八日より同年九月一三日までの間に原判決認定のとおりの就業規則違反行為があり、右就業規則違反行為はそれ自体懲戒解雇理由に確定的に該当する重大なものである。

上告人が被上告人らを懲戒解雇処分にしたのは、被上告人らが労使紛争に関連して過激な行動に出たと言うような単なる一回限りの行為に対するものではなく、五か月以上もの長期間にわたり上告人の社内秩序の維持・社内規律の保持を殆ど崩壊寸前の状態に陥れるような言動及び勤務状態を敢えてしたからである。

被上告人らのこのような反覆継続した就業規則違反行為に対しては、上告人として企業秩序・社内規律を維持するために何らかの対応をなさざるを得ず、その対応は譴責や出勤停止等の懲戒解雇以外の処分ではもはや阻止しえない状況に立ち至っていたものである。従って、右のような事情経過は決定的動機を問題とする立場に立っても、本件解雇の決定的動機となったことを十分裏付けるものである。

本件懲戒解雇は原判決でも正当に認めているとおり、被上告人らの就業規則に反した著しく不良な勤務状態、上告人の業務命令に反して一切の就労をしない態度及び違法・不当な宣伝活動に対してなされたものでありそれが上告人が解雇に踏み切った決定的動機であると言わざるを得ない。

(二) しかるに原判決は上告人の不当労働行為意思及びそれが決定的動機となったとする各前提事実を認定しているが、これは組合結成以来の組合及び被上告人らの行き過ぎた不当、違法な組合活動とその対応に追われた上告人の立場を正確に理解せず、前記の如き甚だしい被上告人らの社内秩序違反の就労状況並びに言動に対する認識を欠くものであって、原判決が審理不尽・理由不備の違法を犯し、ひいては重大な事実を誤認した点については、上告理由第一点において具体的且つ詳細に指摘しているとおりである。

上告理由第一点において上告人が指摘している具体的な事実誤認を前提として本件解雇の決定的動機が被上告人らの各就業規則違反行為にあるか上告人の不当労働行為意思にあるかを判断した場合、被上告人らの就業規則違反行為にあることは明白である。

仮に原判決認定のとおり上告人の不当労働行為意思及び不当労働行為意思を推認する各事実が認められるとしても、本件解雇の決定的動機は被上告人らの各就業規則違反行為であり、原判決には理由不備並びに理由齟齬の違法がある。

原判決が不当労働行為意思を推認するために認定している各事実は、殆どが昭和四九年四月八日以前か、原判決が、事後の事情として挙げる同年九月一三日以後の事実であるが、本件解雇において不当労働行為意思認定の資料とすることができるのは本件解雇当時の事情についてのみであると言わなければならないが、原判決が、不当労働行為判断の資料としている本件解雇当時の事情としては被上告人らの配転、原職復帰後の処遇・本件解雇の時期であるが、これらの事実認定については審理不尽・理由不備の違法があり、結局不当労働行為を推認する重要な事実についての認定を誤っているのであって、原判決が認定している右各資料は何ら本件解雇の決定的動機を認定するための資料足り得ないものである。

原判決は、本件解雇の時期を問題とし「第一組合定期大会において被控訴人が引続き組合の主要役員になることが予想される前日になされたもので、この点も会社が被控訴人らの組合活動を嫌悪したことを推認させる」とするが、解雇当時までも被上告人らは副委員長或いは執行委員であり、解雇時期の前後を問わず、何れの時期においてでも被上告人らは組合の主要役員の地位にあったものであるから、原判決の論旨は矛盾がある。

被上告人らの就労状況は原判決も認定するとおりで、社内秩序維持のため上告人としては何時までも放置出来ず解雇に踏み切った時期と、たまたま合致したに過ぎないのであって、解雇の時期を不当労働行為意思推認の資料とするのは全く理由がない。

(三) 惟うに使用者の懲戒権の行使は、当該具体的事情の下において、それが客観的に合理的理由を欠き社会通念上相当として是認することが出来ない場合に初めて被懲戒者の行っている組合活動との兼ね合いで不当労働行為としての評価を受け無効となると解するのが相当であり、冒頭において述べたとおり合理的且つ相当と考えられる懲戒解雇理由が存在する場合は誰であっても懲戒解雇に付されてもやむを得ないと言うべきであり、不当労働行為の成否を論ずる余地はない。

本件において、被上告人らが、上告人の指示する業務命令が不当なものと考えたとしても、その撤回を求め自らの主張を実現するためには社会通念上許容される限度内での適切な手段方法によるべきであるのにかかわらず、被上告人らの言動並びに就業状況は、原判決も就業規則違反の事実を認めるとおり、社内秩序を乱すこと甚だしく、職場規律に反すること著しいものがあり到底認容されるべきものではなく、まして被上告人らの出勤状態は、自らの意思に基づくものであり、これを以て上告人の不当労働行為に帰することは出来ないと言わねばならない。四、以上述べたとおり、原判決が、本件解雇は上告人の不当労働行為意思に基づくものであって無効であるとする判断は、労働組合法第七条一号・三号、労働基準法第八九条及び上告人就業規則の解釈を誤ったものであり、これが判決に影響を及ぼすことが明らかであるから原判決は破棄されるべきものである。以上

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