最高裁判所第二小法廷 昭和61年(行ツ)145号 判決 1988年9月30日
京都市伏見区醍醐御陵東裏町三八番地
上告人
出野武
右訴訟代理人弁護士
岩佐英夫
平田武義
中尾誠
杉山潔志
吉田眞佐子
京都市伏見区鑓屋町無番地
被上告人
伏見税務署長
藤原冨次
右指定代理人
竹本廣一
右当事者間の大阪高等裁判所昭和(行コ)第三七号所得税更正決定処分取消請求事件について、同裁判所が昭和六一年七月一一日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人岩佐英夫、同平田武義、同中尾誠、同杉山潔志、同吉田眞佐子の上告理由について
原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、本件更正処分につき推計課税をする必要性があり、かつ、その推計方法に合理性があると認められるので、本件更正処分に違法はないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。右違法があることを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠き、また、本件記録によれば、原審の訴訟手続に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、独自の見解に基づいて原判決を論難するものであつて、採用することができない。
よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 島谷六郎 裁判官 牧圭次 裁判官 藤島昭 裁判官 香川保一 裁判官 奥野久之)
(昭和六一年(行ツ)第一四五号 上告人 出野武)
上告代理人岩佐英夫、同平田武義、同中尾誠、同杉山潔志、同吉田眞佐子の上告理由
第一、本件更正処分には推計課税への移行要件が存在しないにもかかわらず、推計課税を認めたことは、憲法三一条に違反する。
一、いうまでもなく、日本の現行税制は申告納税制度を大原則としており、推計課税は例外的にのみ許されるにすぎない。
従つて推計課税への移行の前提としての質問検査権の行使も次の厳格な要件に従わなければならず、そのひとつでも欠いた場合は違法となる。
所得税法二三四条の質問検査権は、一方では調査者の任意の協力を前提としていることは争がない。しかし他方において、同法二四二条九号によつて一年以下の懲役又は二〇万円以下の罰金という重いは罰則が定められている。
この一見矛盾した税法の要請を矛盾なく整合的に解釈するにはどうすべきであろうか。
それは質問検査権の行使が左の(1)ないし(5)の要件に厳格に従わなければならないとして、はじめて矛盾なく解釈できるのである。質問検査権が不法に行使された場合には被調査者の営業を侵害する可能性が大であり、その弊害は違法な捜査権の行使に比して決して劣るものではない。従つて、質問検査権の行使も憲法三一条の制約に従わなければならない。従つて左記(1)ないし(5)の要件に合致してはじめて質問権の行使が許されると解することによつて所得税法二三四条は合憲となるものであつて、この要件を満さない質問検査権の行使は違法である。
しかして、質問検査権の行使が憲法三一条に適合するための要件は左の通りである。
(1) 被調査官に対して、調査の必要性と合理性および調査の対象、範囲を明示しなければならない。
(2) 質問検査権の行使により被調査官の営業活動を妨害したり、得意先や取引銀行等の信用を失墜せしめ、あるいは私生活の著しい妨害を行つてはならない。
(3) 被調査者の事業所等への立入りにあたつては被調査者の同意が必要である。
(4) 不意打ちの税務調査は被調査者の営業と生活に支障をきたす場合が多く、事前の通知が必要である。
(5) 反面調査は、納税者の調査の裏付のためであり、反面調査先の同意は勿論のこと、納税者自身の同意を得てから行わなければならない。
二、こうした要件は学説上認められているのみならず、国会においても、昭和四九年六月三日の大蔵委員会で採択された請願においても、事前の通知および調査理由の開示を要求している(甲第五号証)。
しかも、国税庁自身が昭和五〇年の税務運営方針において「調査は、その調査によつてその後は調査をしないでも自主的に適正な申告と納税が期待できるような指導的効果をもつものでなければならない。このためには、事実関係を正しく把握し、申告の誤りを是正することに努めるのはもちろんであるが、それにとどまることなく、調査内容を納税者が納得するように説明し、これを契機に納税者が税務知識を深め、更に進んで将来にわたり適正な申告と納税を続けるように指導していくことに努めなければならない。調査が非違事項の摘出に終始し、このような指導の理念を欠く場合には、納税者の税務に対する姿勢を質すことも、また将来にわたつて適正な自主申告を期待することも困難となり、納税者の不適正な申告、税務調査の必要という悪循環に陥る結果となるであろう。・・・税務調査は、その公益的必要性と納税者の私的利益の保護との衡量において社会通念上相当と認められる範囲内で、納税者の理解と協力を得て行うものであることに照らし、一般の調査においては、事前通知の励行に努め、また、現況調査は必要最小限度にとどめ、反面調査(納税者本人の取引先等に対する)は客観的にみてやむを得ないと認められる場合に限つて行うこととする。なお納税者との接触に当たつては、納税者に当局の考え方を的確に伝達し、無用の心理的負担をかけないようにするため、納税者に送付する文書の形式、文書等をできるだけ平易、親切なものとする。また、納税者に対する来署依頼は、納税者に経済的、心理的負担を掛けることになるので、みだりに来署を依頼しないように留意する」と述べやはり事前の通知および理由の開示を要求しているのである。
判例においてもこうした当然の事理を認めたものも少なくない。
例えば、千葉地裁昭和四六年一月二七日判決は「税の徴収確保と被調査官の私的利益の保護との調和するところで、質問検査権の限界を考察すると、被調査者は当該税務署職員に対し調査の合理的必要性の開示を要求でき、右要求が受け入れられないかぎり、適法に質問検査を拒むことができる」としている(判例時報六一八号一七~一八頁)。
静岡地裁昭和四七年二月九日判決は、申告納税制度の下では税額は原則として申告により確定するものであり、例外的に更正するための調査はそうするだけの合理的な根拠と理由とを有していなければならないとしたうえで、「反面調査、臨宅調査のいずれにおいても、その調査にあたつては、調査の相手方が要求するかぎり調査理由を開示すべきである。前述の必要性の要件の実行性を担保するためにも、また質問検査権の行使が任意調査であつて調査の相手方の承諾を得てする調査であることからしても(承諾を与えるためには、何を質問し、何を調査するのかが特定されなければ承諾の与よえうがない)当然のことである。それ故、被調査理由の開示(合理的必要性の開示)ない場合にはその調査を拒みうる。」としている。
こうした点について、最高裁判所第三小法廷昭和四八年七月一〇日決定では、「相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当の限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解すべく、・・・実施の日時場所の事前通知、調査の理由および必要性の個別的具体的な告知のごときも、質問検査を行ううえの法律上一律の要件とされているものではない。」と述べている。
この最高裁決定は質問検査権の行使の要件を不当に緩めるものであるが、それでもなお一定の要件を課しており、恣意的な行使を認めたものではない。
即ち、同決定は「相手方の私的利益との衡量において、社会通念上相当な限度」にとどまることを要求し、事前通知、理由と必要性の告知についても「一律の要件」とされているものではないと述べているのみであつて、事前通知、調査理由および必要性の告知が要求される場合がありうることを認めているのである。こうした点の具体的な内容については右最高裁決定は何らふれておらず、それはまさに憲法三一条や、自主申告納税制度の趣旨に沿つて解釈がなされなければならないのである。
こうした観点に立つて本件を検討するならば推計移行要件を欠くことは明らかでる。
三、本件における推計移行要件の欠如
1、まず第一に指摘しなければならないことは、本件について被上告人は全く調査の必要もないままに「概況調査」と称して「調査」を行なおうとし、これすらまともに行なわず、一方的に推計を強行したことである。
被上告人側の証人であり、本件「調査」を担当した伏見税務署所得資産税部門調査官(当時)であつた石崎証人の証言によつてこのことは明らかである。
石崎証人によれば、上司である高野統括官から調査の端緒として指示された内容は単に上告人の事業の「概況を見てくるように」ということにすぎず、調査の必要性・理由については「これこれで行け、という理由も別に聞いておりません」と証言しており、上告人についてどのような具体的な問題点の指摘が高野統括官からあつたのか何ら知らないという無責任な調査であつた(第一審第二回口頭弁論、石崎証言調書九丁ウラ、十丁表、石崎二回九丁ウラというように略記する。他の証人についても同様である)。
右石崎証言からすれば、そもそも本件の場合、調査の必要性すら全く存在しなかつた事例であり、調査理由開示以前の段階において、推計の移行要件が否定される事案である。
2、次に、被上告人は上告人に対して調査理由を開示したことは全くない。この点についても石崎調査官自身の証言によつて明確にされている。
即ち、石崎証言によれば、本件調査にあたり、何故調査が必要なのかという合理的且つ具体的な理由を上告人に対して説明したことは一度もないのである(第一審石崎二回十四丁表、十四丁ウラ、三回五丁ウラ、六丁表)(なお第一審原告本人一〇十七丁ウラ~三十一丁ウラ参照)。
3、しかも石崎調査官は、上告人の方からわざわざ連絡をとつて日時を約束した場合以外は全て事前連絡なしに臨宅している(第一審石崎二回十二丁表、十四丁表、三回六丁度ウラ、八丁表~ウラ、原告本人一〇回七丁表~三四丁ウラ、甲七〇号証)。
これは、単に石崎調査官が連絡を怠つたという程度にとどまるものでなく、石崎証言によれば、そもそも同証人は税務調査にあたつては事前通知をする必要もないし、やらないという主義であり、相手の都合のことは考えたこともないというおそるべき傲慢な官僚主義に根ざしているのである。
他人の家を訪問するのに事前に通知して相手の都合を確かめて行くのが当然の社会的常識ではなかろうか。だからこそ前述の国税庁の税務運営方針も事前通知と理由開示の励行を求めているのである。
突然一方的におしかけて、相手の意向も無視してその家におし入り調査を行うなどということが許されるのは犯罪捜査のための強制捜査の場合のみであり、この場合には具体的な犯罪の嫌疑と相当程度の証拠に裏付けられた、裁判官発行の令状によつてはじめてそうした強制権限が付与されるのである。
事前連絡もなく、理由も明らかにしない恣意的な調査が許されるとしたら、所得税法二三四条の質問検査が任意であると解されるというべきことが全く無意味になつてしまうといわなければならない。
こうした点については、事前通知や理由開示をすると調査がやりにくくなるからしないでもいいなどと述べられている判例が一部にみられるが、これでは質問検査への応答が任意だとされていることを無視しているのみならず、納税者全てを犯罪者扱いするものであつておそるべき民主主義感覚の欠如である。
4、上告人は、石崎調査官の調査一切を頭から拒否するなどという態度をとつたことは全くない。
上告人は、石崎証人も認めているように、納得のいく理由を示してくれたら調査に応ずるという態度をとつていた(第一審石崎三回五丁ウラ)。上告人は自分の方から石崎調査官に日時の連絡をとつているし、売掛帳、売上帳、仕入帳、経費明細帳、給料支払帳や送品伝票等も当時は残つていた。石崎調査官が誠実に応対し、具体的な調査理由も明らかにしておればそれに対応する調査に協力することは充分可能であつた。本件で重要な争点になつている卸の占める割合、卸や立地に由来する利益率の程度、途中開店の問題、雇人費の実態、交通事故による雇人費の増加等の問題点も充分に調査できたはずなのである。
5、しかるに、石崎調査官の調査のやり方は、単に事前連絡をしない、理由を開示しないというにとどまらず、さらに悪質なやり方であつた。
即ち、上告人の雑誌の入荷等の関係で最も忙しい曜日である月水金で、しかも忙しい時間帯である午後一時から三時頃ばかりをまるで狙い打ちしたかのように、事前連絡なしに一方的におしかけてきているのである(甲七〇号証、第一審原告本人一〇回十七丁表~三四丁ウラ、)。しかも石崎証人はこの曜日や時間帯が忙しいことを最初からわかつていたのである(第一審石崎二回二丁表、三丁ウラ、十二丁ウラ、三回十一丁度表)。
それでいながらこうした曜日や時間帯を狙い打ちにしてくるのはイヤがらせというほかない。
そして、一方的におしかけてきて上告人が留守であるのに長時間滞留して営業妨害を行い(第一審原告本人一〇回十八丁表、十九丁表)、しかも、上告人が忙しい中をさいて公務である国勢調査員及び市政協力委員としての業務の遂行中にもしつこくつきまとつたのである(第一審原告本人一〇回二九丁ウラ~三二丁ウラ、石崎三回七丁)。
他方では上告人がせつかく時間を空け、場所も用意して、ショッピングセンターの二階で待つていたのに、石崎調査官はそこでは調査ができないと称して、ろくに調査もせず数分で帰つてしまつた(第一審石崎三回二丁ウラ~三丁ウラ、原告本人一〇回二一丁表~二二丁ウラ)。
また石崎調査官の希望にあわせて小栗栖店の二階で待つていた時も、何らまともな調査理由の説明もせず、団地集会所で待つていた時もこれを知りながら顔も出さず一方的に帰つてしまつたのである(第一審石崎三回八丁表~ウラ、原告本人一〇回三二丁ウラ~三三丁ウラ)。
以上の経過をみれば、原判決が「控訴人が調査に極めて非協力的であつた」などと認定しているのは、全く事実をねじまげているといわなければならない。
四、右にみたように、本件での調査の過程をみるならば、いずれの点からも本件質問検査権の行使は違法であり、推計に移行する要件が存在しないことは明らかである。
徴税行為というのは治安の維持と並んで国家権力が最も直接的に国民に対する場面である。
それだけに、刑事手続における適正手続と同様、徴税行為においても厳しい適正手続が要請されており、これがどれだけ保証されているかが民主主義の浸透度のバロメーターともいえよう。
この二つの面でも国家権力が恣意的に行使された場合には、その国民に及ぼす被害は甚大であり、暗黒国家となるほかない。まさにこうした場面にこそ司法の厳しいチェックが最も強く要請されているのである。
第二、原判決には、次のとおり判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背がある。
一、原判決には、審理不尽の違法がある。
本件訴訟の重要な争点の一つとして、推計の合理性の問題があり、この推計の合理性につき、最も大きな影響を及ぼす問題がいわゆる仕切原価率(上告人が取次店株式会社大阪屋から仕入れる書籍や雑誌の仕入価格に対する比率、業界では正味掛率とも呼んでいる。小売価格と仕入価格との差額の小売価格に対する比率を仕切差益率と呼んでいる)であることは、本件記録の主張および証拠を検討すれば明らかである。
本件訴訟において、この仕切原価率が一パーセント変化するだけでも結論が大きく異なり、判決の結論に影響をおよぼす結果となることは、計算上明らかである。
これらの点について上告人は、第一、第二審を通じて詳細に主張立証してきた。
これに対して、第一審は、何ら明確な根拠も示すことなく、一律に仕切原価率を七七パーセントと認定した。これに対して原審は雑誌については七七パーセント、書籍については七八パーセント(昭和四七年分については八〇パーセント)と認定している。
しかしながら原審は、書籍と雑誌の構成比の根拠を必ずしも明確に示していないので、雑誌、書籍全体の仕切原価率の平均値は、不明確であるが、前記の前提からすれば、七八パーセントより低くなることになる。
これに対して上告人は、原審結審後、被上告人の従前の主張と全く矛盾し、又、原審判決とも明らかに異なる結果を招来することとなる重要な証拠の存在を発見して、口頭弁論の再開を申立てた。(昭和六一年六月三〇日付)。
このした証拠は、被上告人が上告人の別件訴訟において京都地方裁判所へ提出してきた準備書面であるが、これによれば、昭和五四年の書籍・雑誌の売上原価率(仕切原価率)として七九・三九パーセント、同五五年分として七九・五四パーセント、同五六年分として七八・九〇パーセントを主張しているのである。
仕入先は全く変わつておらず、同一上告人の仕入れに関して、被上告人自身が従前本件訴訟で主張していた率より二パーセント余りも高く、原判決との比較でも約二パーセント高いことになる。
しかも、出版社、小売店の関係において、徐々に仕切原価率が下げられてきた歴史的経過からすれば、本件係争年度には、右仕切原価率より高くはあつても低くはならないはずである。
従つて、本件の結論も全く異なつてくるはずである。
右のような重大な結果をもたらす証拠であるが故に、上告人は弁論の再開を申立て、右資料を書証として取り調べ、これに基づいて判決をすることを求めたにもかかわらず、原審裁判所は、口頭弁論を再開しないのみか、再開申立に対する何らの決定すらしないまま判決を下したのである。
右のような重要な資料であれば、当然弁論再開して慎重に検討したうえで、判決をなすべきであるのに、原審はこれを全くなさなかつたのであるから、重大な審理不尽の違法がある。
二、原判決は雇人費の推計において、青色申告者の同業者の雇人費率を単純に適用している。
しかしながら、原判決の右判断は、「雇人費」の解釈を誤つたものであり、法令に違背するといわなければならない。
原判決の前提とする「雇人費」の中には青色事業専従者を含んでいない(乙一号証、乙五号証、乙七号証、乙九号証、乙十一号証、乙十三号証の各二枚目末尾の「注」参照)。
しかして、白色では低額の一定額しか認められないのに対して、青色事業専従者給与は全額必要経費に算入されている。
従つて、青色事業専従者給与は、白色の事業専従者控除額よりずつと高額である。
であるから、上告人の人件費を推計するに際して、青色事業専従者給与を除外して算出された雇人費率に基づく雇人費に、白色である上告人の事業専従者控除額を加えただけでは正しい推計とはいえないのである。
なお人件費率の算出について、青色専従者給与額も労務の対価であるから、人件費に算入して計算すべきである旨の判決が、昭和五九年八月二日京都地方裁判所で言渡され、これを控訴されず確定している(京都地方裁判所昭和五七年(行ウ)第九号)。
原判決は、何らの理由を示すことなく「必要経費の算入につき、青色専従者と白色専従者との間に制度上の差異があるからといつて、そのことが本件同業者雇人費率の適用を不合理ならしめる理由となりえないことは明らかである」と述べている。
しかしながら、仮に実額計算が不可能で推計をすることがせやむをえない場合であつても、推計は出来る限り、対象事業者の実態を考慮したものでなければならず、同業者との比較も、出来る限り実質的な比較をおこなわなければならないことはいうまでもない。
青色専従者給与が実質上は、労務の対価であることは前述京都地方裁判所判決の指摘する通り明白であり、また、これが白色申告の場合と異なり、通常支払われた給料全額の算入を認められることも明らかである。しかも、青色事業者は、専従者以外の人件費も別に経費として認められている。
しかるに、上告人の場合、定額且つ低額の白色専従者控除額しか認められないのでは、全く実態を無視したことになるのである。上告人が多くの従業員を雇つていたことは明らかである。給与台帳等の資料が不充分だからといつて、推計をする際、青色申告者の専従者控除を除外した雇人費率だけで推測することは、実質的正義を著しく欠くものといわざるを得ない。
三、減価償却の解釈についても原判決は、法令の違背がある。
(1) 原判決は、開店、店舗改装にともなう経費は一般経費に含まれ、特別経費となすべきでないと判断している。
しかしながら、開店や改装に伴う、ウインドウ、ショウケース、書籍陳列台、ドア工事、土間コンクリート打、天井等の大工工事等は、明らかに開店ないし改装という特別な場合に集中的に支出される経費であり、日常時な営業の中で支出される一般経費とは明らかに性格を異にし特別経費として認められるべきである。
(2) また、取得価格十万円未満の備品等については、減価償却資産とせず、その取得価額の全額をその業務の用に供した日の属する年分の必要経費に算することが認められている(所得税法施行令一三八条)にもかかわらず、原判決がこれを認めなかつたのはやはり法令解釈の違法がある。
以上