最高裁判所第二小法廷 昭和62年(あ)406号 決定 1987年10月30日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人脇田輝次の上告趣意は、単なる法令違反、事実誤認、量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。
所論にかんがみ、職権をもって判断すると、記録によれば、原審において、弁護人は、被告人が第一審判決判示第一の事実を認めて争わなかったのは、量刑上有利に参酌してもらった方が得策であると考えていたものであるところ、第一審判決が懲役三月の実刑であったため、被告人は控訴して毎時一六八キロメートルもの高速で自動車を運転して進行したことはないとの真実を述べるに至ったものである旨主張し、被告人の右のような新たな供述を被告人質問及び被告人作成の陳述書の形で提出しようとしたうえ、その新供述を裏付けるものということで証人二名及び書証五点の取調を請求したが、原審は、被告人の新供述の提出を許さず(被告人質問は第一審判決後の情状に関してのみ実施した。)、その余の右各証拠の取調請求を却下したことが明らかである。しかし、右弁護人主張のような事情があったとしても、そのような事情は刑訴法三八二条の二にいう「やむを得ない事由」に当たらないとの原判決の判示は正当であるから、このような証拠は同法三九三条一項但書によりその取調が義務付けられるものではなく、ただ同項本文により取り調べるかどうかが裁量にまかせられているものであって、右原審の却下等の措置は、控訴裁判所に認められた裁量の範囲を逸脱していないことが明らかであるから、相当というべきである。
よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 藤島 昭 裁判官 牧 圭次 裁判官 島谷六郎 裁判官 香川保一 裁判官 奥野久之)