大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和22(れ)90 判決

主 文

本件上告を棄却する。

理 由

弁護人志方篤上告趣意書第一点原審裁判所は被告人に対する審理を尽さず。原審

の第一回の公判期日である昭和二十二年七月三十一日の公判調書を通読すれば、原

審裁判所は被告人に対する事実の審理を尽して居ないことは明白であります。刑事

訴訟法第三百四十五条第二項によれば公判期日に於ては、検事が被告事件の要旨を

告げたる後、裁判長は被告人訊問をなすべく、其の訊問の範囲は犯罪構成要件の全

部に及ぶべきことは刑事裁判の本質及刑事訴訟法第三百六十条第一項の趣旨より其

の絶対要件とするところであります。然るに原審裁判所は被告人に対して被告人等

の犯罪構成要件の全部に亘つて其の訊問を尽すことなく原審相被告人白石竹郎、同

品川豊に対する訊問と合せて始めて被告人等の本件犯罪の構成要件全部に及んで居

る次第であります。

かくの如き訊問振りに於ては被告人は自己の犯罪の各部分に亘つて其の弁解をな

すの機会なく、従つて原審裁判所は、刑事訴訟法の要求する審理を尽さざるもので、

原審の裁判は、明かに法令に違反するものであります。と云うのであるが、

原審の被告人に対する審理の跡を原審公判調書の記載によつて検討してみると、

そこには被告人に対する公訴事実の全般に亘つて仔細に訊問した事実あることを優

に認めることができ、且つその間いささかも遺漏なく刑事訴訟法の要求する所に毫

も欠くるものあるを見ない。所論は事実に基かないで不当に原審の措置を誣ゆる嫌

いがある。論旨は理由がない。

同第二点原審判決は証拠となすべからざるものを証拠となす。刑事訴訟法応急措

置法第十条第二項によれば「不当に長く拘禁された後の自白は之を証拠とすること

が出来ない」のであります。而して被告人が勾留状の執行を受けて刑務所に収容さ

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れたのは昭和二十二年二月十九日であり、原審第一回の公判期日は被告人が勾留を

受けた日より実に半年の長きにも及ぶ同年七月三十一日であります。従つて原審に

於ける被告人の自白は之を証拠となすべからざるものであるに拘らず原審判決は違

法にも之を有罪判決の証拠として採用して居ります。右は明白に刑事訴訟法応急措

置法第十条第二項に違反するものであり、弁護人は、新憲法下国民の与望を担つて

発足したる最高裁判所は必ずや、之を右法令に違反するものとの認定を下し以て人

権擁護を全ふせられることを確信するものであります。而して右半年に及ぶ勾留が

同条に所謂「不当に長い」ものか否かを判定するに当りても人権尊重を旨とする新

憲法全体の趣旨及び「すべて刑事事件に於ては被告人は公平な裁判所の迅速なる公

開裁判を受ける権利を有する」と規定する同憲法第三十七条第一項によれば半年に

及ぶ勾留は刑事訴訟応急措置法第十条第二項に規定する「不当に長い勾留」と判定

すべきは当然であり、従つてかゝる不当に長い勾留の後に為された自白を有罪判決

の証拠とした原審判決は明かに違法であります。宜しく御慎重なる御審理を求めま

す。と云ふのであるが、被告人に対する勾留がたとえ所論の如き期間に亘つて為さ

れたとしても、本件事案の性質その他諸般の事情等に照らして判断してみても、右

の勾留をもつて不当に長きものと認めることができないので、右勾留期間内である

原審第一回公判期日において為された被告人の自白を断罪の資料に供することが出

来ないと論ずるのは当らない。従つて右自白を証拠として採用した原判決を目して

日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の応急的措置に関する法律第十条第二項の規定

に違背するものと云ふことはできない。論旨は理由がない。

右の理由により刑事訴訟法第四百四十六条に則り主文の如く判決する。

この判決は裁判官の全員一致の意見によるものである。

検察官小幡勇三郎関与

昭和二十二年十一月十九日

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最高裁判所第二小法廷

裁判長裁判官 塚 崎 直 義

裁判官 霜 山 精 一

裁判官 栗 山 茂

裁判官 藤 田 八 郎

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