最高裁判所第二小法廷 昭和23(れ)116 判決
主 文
本件上告を棄却する。
理 由
弁護人宇野要三郎の上告趣意書第一点は「原判決には虚無の証拠を断罪の資料に
供したる違法がある其の理由は原判決を見ると被告人はA農業会の精米所に勤務中
精米の依頼者から精米を買受けて他に転売してもうけようと考え第一判示の日時場
所に於て(一)Bかち精米一俵を代金千円にて(二)Cから二回に同じく三俵を内
二俵は代金一俵千五百円宛他の一俵は千六百円にて(三)Dから五俵を一俵代金千
三百円にて(四)Eから五俵代金千五百円にて(五)Fより二俵を一俵代金千円に
て(六)Gより一俵を代金千円にて(七)Hより二回に三俵を内二俵は千二百円宛
他の一俵は千円の代金にて(八)Iから二俵を一俵代金千五百円にて(九)Jより
二俵を一俵代金千五百円にていづれも之を買受け第二右買受けたる精米を(一)K
に十六表(二)L某に五俵(内二俵は被告人の保有米)(三)Mに五俵をそれぞれ
判示の日時場所に於て判示の超過価額にて売渡したるものであると判示し右二個の
事実認定の証拠として第一に原審公判廷に於ける被告人の判示同趣旨の供述を援用
し第二に被告人に対する司法警察官代理の聴取書中判示同趣旨の供述記載があるか
ら之をも援用すると説明してある依て先づ第一に原審公判調書を調べて見ると事実
訊問の冒頭に於て裁判長より(問)本件は被告人から横流しをしてやると言ふたの
かと問はれ被告人は(答)左様ではありません米を持つて来た人達から売つてくれ
と頼まれて売つてやつたのですと供述し又原判決第一の(一)Bとの関係事実に付
ては「同人から急いで金が必要だから米の欲しい人に一俵売つて呉れと頼まれたの
が本件の最初である」と陳述し(二)のCとの関係については「娘を嫁にやるに付
ては金が入用だから一俵千百円位で売つてくれと言い二俵持参したので預かりおき
後日之をKに売つてやりたる旨」供述し(三)のDに付ては「同人が肥料代金の支
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払ひに必要だから売つてくれと言い精米五俵を持参したる故一俵千五百円にてKに
之を売り其の代金をD方に持参したところ同人は煙草代として内千円を私に与へた
るもので之れも私が買つて売つたものではなく取次いたものである」と供述し(四)
のE(五)のF(六)のG(七)のH(八)のI(九)のJ等の各関係に付ても被
告人は同人等より「金が入用だから売つてくれと頼まれ其の取次きを為したるもの
である」と供述したる旨の記載あり原判示の如く被告人は金をもうけようと考え自
ら之を買受け更に之を転売したるものなりと供述したる事蹟は同調書を通読し何処
にも之を認むることは出来ない次に第二の司法警察官代理の被告人聴取書を調査す
るにCとの関係については「金の入用があるから若しや売るところがあるなら世話
してくれ」と頼まれHDの関係については「両名からいづれも農薬を買ふに金が入
用だから若し買ふ人があつたら世話してくれ」と頼まれN(Eの誤記)との関係に
付ては「Nからは自分の処にも米があるから売つて呉れぬかと」頼まれBの関係に
ついては「Bは精米一俵を持参し何んとか千円にて売つてくれ」と言ふて頼まれJ
Iの関係については「両名から何れも精米を売つてくれ」と頼まれ又FGの関係に
ついても両名より「米を買ふ人があれば売つて肥料を求めたいから世話してくれ」
と依頼を受けKL某M等に夫れ々々販売の世話を為したる旨の供述記載あるに止ま
り原判示の如く被告人自身が之を買受け被告人自身が之を他に転売したるものなり
との供述記載は何処にも之を発見することは出来ない。然るに原判決は之等の無き
証拠を有りとして被告人は世に所謂ヤミ値を以て精米を買受け更にヤミ値を以て之
を転売したるものなりとし被告人に二重の犯罪行為を認定したのは虚無の証拠に依
つて不当に犯罪構成の事実を拡大し認定したるものであり破棄を免れないものと信
ずる」といい。
同第二点は「原判決には理由齟齬の違法がある其の理由は原判決の証拠説明を見
ると論旨第一点に検討したる主要証拠の他にBGの各始末書CDEFHIJ等に対
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する各司法警察官代理の聴取書及KMの各判決謄本を綜合証拠として援用しおるを
以て之等の証拠につき調査するにFHIの各聴取書には原判決の証拠説明と反対に
同人等は孰も金の入用に迫まられ被告人に手持米の販売を委託したる趣旨の供述記
載あり其の他原判決挙示の各証拠につき如何に之を照応し如何に之を綜合考覈して
も原判決の第一の(一)乃至(九)の事実は到底之を証明することは出来ない然ら
ば原判決には罪となるべき事実の認定と其の之を認めたる証拠説明との間に大いな
る齟齬ある事は極めて明瞭であり此の点においても理由齟齬の違法あるものとして
当然破棄せらるべきものと信ずる」というにある。
しかし、原判決が本件犯罪の証拠として掲げている資料によれば、原判決の認定
した犯罪事実は、すべて、これを認めることができる。したがつて、原判決には、
所論のような虚無の証拠によつて事実を認定した違法はなく、また、事実の認定と、
これを認めた証拠説明との間に、齟齬があるということもない。論旨は、畢竟、原
審の専権に属する事実の認定を非難するものであつて、上告適法の理由とすること
はできない。
尚、職権をもつて原判決を調査するに、原判決はその法律適用の項において、「
昭和二十二年十月二十六日法律第百二十四号第十条」と記載しているのであるが、
同法律は刑法の一部改正に関する法律であつて、同法には第十条という規定は存在
しないのみならず、原判決が同法をこゝに引用したのは、本件被告人の公定価格を
超えて、うるち精米を売買した数個の行為は、改正前刑法第五十五条に該当するこ
とを判示せんがためであることは、判文上極めて明瞭であるから、右の記載は「昭
和二十二年十月二十六日法律第百二十四号附則第四項刑法第十条」の誤記であると
解するのが相当である。したがつて、この瑕疵は、原判決を破毀するに足りないも
のと認める。
よつて、本件上告は理由なしと認め、刑事訴訟法第四百四十六条に従い、主文の
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ごとく判決する。
右は全裁判官一致の意見である。
検察官 福尾彌太郎関与
昭和二十三年五月二十九日
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官 霜 山 精 一
裁判官 栗 山 茂
裁判官 小 谷 勝 重
裁判官 藤 田 八 郎
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