大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和23(れ)1229 判決

主 文

本件上告を棄却する。

理 由

弁護人稲垣新次郎の上告趣意第一点について。

原判決はその理由の終りに「被告人は犯行当時心神喪失の状態にあつたかの如き

主張を為し弁護人も被告人が当時精神障礙にあつたかの如き主張を為したが記録上

右主張の如き事実は認められないので採用しない」と説示しているのは所論の通り

である。よつて記録を調査すると、第一審裁判長の嘱託によるB病院長の報告書に

よると、被告人の父は麻痺性痴呆の発作によつて死亡したものであつて、右は梅毒

の感染による後天的なものであると報告されてあり、他方第一審において被告人は

父の外は、母、妹、親戚等に精神病者はなく祖父母も健在であると述べている。(

尤も第二審では父の従弟が精神病で死亡しており祖父もその様なところがあつたと

聞いていると述べている)。被告人の父が悪性の梅毒による麻痺性痴呆で死亡した

から、その子である被告人の精神にも障礙があることがあるかもしれないとしても、

問題は犯行当時に被告人が心神喪失又は心神耗弱の程度に精神障礙の状態にあつた

か否かである。そしてたとい近親に精神病者があり、戦傷、敗戦等所論の如き事実

があつたとしても、裁判所が犯罪の動機、その経過及びその後における被告人の言

動等諸般の状況に徴し犯行当時の被告人の精神状態について特に疑を挿むべき点を

認めない場合には専門家による精神鑑定の方法によらずして犯行当時の被告人の精

神状態を判断してもそれを以て直ちに経験則に反する違法があるということはでき

ない。この理は刑訴応急措置法第二条により旧刑訴法を憲法の趣旨に解釈すると否

とによつて異るものではない。而して本件記録に現れた諸般の状況に徴すれば原審

がその専権に基き専門家の鑑定をまたず犯行当時における被告人の精神状態を判断

したことは前記のとおりであるが未だ必ずしも経験則に反するとは認められない、

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又もとより刑訴応急措置法第二条違反の問題を生ずるものでもない。論旨は理由が

ない。

同第二点について。

論旨は犯行の動機その状況を論じ原判決の量刑不当を主張するもので上告適法の

理由とはならない。

同第三点について。

原判決が訴訟費用につき何等判示するところがないのは、別段被告人に負担させ

る訴訟費用がなかつたから裁判をしなかつたに過ぎない。論旨は原判決を被告人の

不利益に変更することを求めるに帰し上告適法の理由ではない。

被告人Aの上告趣意について。

論旨は原判決の事実認定を非難し且本人の精神鑑定を求めた上寛大な処置を願う

というのである。しかし何れも原審の専権に属するところであつて上告適法の理由

として採用できない。

よつて刑訴施行法第二条、旧刑訴法第四四六条に則り主文の通り判決する。

右は裁判官全員の一致した意見である。

検察官 岡本梅次郎関与

昭和二四年七月二三日

最高裁判所第二小法廷

裁判長裁判官 霜 山 精 一

裁判官 栗 山 茂

裁判官 小 谷 勝 重

裁判官 藤 田 八 郎

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