最高裁判所第二小法廷 昭和26(れ)1302 判決
主 文
本件上告を棄却する。
理 由
被告人及び弁護人日下一郎の上告趣意(後記)について、
本件について当裁判所は昨年八月の開廷以後半歳に亘つて慎重審議を重ねたので
あるが、本件は、賭博の勝金を狙つての強盗殺人と見られるものであつて、嫌疑を
受けるに足る者は、被告人に止まらず、その中には他の事件によつてではあるが逃
亡中の者も存在すること、目撃者がいないこと、被害金額が判然せず、その処置も
不明であること、被告人は金に困つていたとはいえ他に金借の途もあつたこと、被
告人が兇行に使用したとされている斧の血痕は微量であつて、被害者と同じくA型
に属するとはいえ、その鮮度も必ずしも明らかでなく、被告人は第二審公判廷にお
いては右斧を本件発生の約二ケ月前他の不良の輩三名との喧嘩に使用した(したが
つて右血液はその際の附着のものかも知れないとの意)と弁解し、右の中一名は第
一審において証人として喚問されたが出廷せず、次いで勾引状も発せられたがその
後所在不明のため、この者の血液型の鑑定が不能であること、被害者の血痕の附着
した衣類等の存在しないこと斧の捜索所在場所につき、巡査の報告書の記載と第一
審公判廷における同巡査の証言との間に違いがあること等の事情を記録によつてう
かがうことができるばかりでなく、警察官が事件の解決にかなり焦慮して強引な取
調を進めたかの跡を見ることができる。しかしながら捜査官が各種の線を画いて容
疑者の範囲を狭めて行つた努力もまた認められ、必ずしも被告人のみを最初から追
及したものでないこと、被告人が当時金に困つていたことを認められないでもなく、
斧の血痕にについては略々兇行当時に附着したと認められる被害者と同一の血液型
のものであるとの鑑定の外に斧の刃が被害者の傷口中の一部のものと略々合致する
旨の鑑定も存在し、前記不良輩の証言によれば喧嘩に使用したのは斧ではなく鉈で
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あるとの供述記載のあること、被告人も第一審公判廷では鉈を携えて立ち回つた後
それを叩き落されたので後に斧を持ち出した旨述べ、更に第二審公判廷では斧のみ
で喧嘩した旨述べていてその間に矛盾があること、その鉈には右不良輩中傷を受け
たA某の血液型と同一の0型の血痕の附着があること、前記所在不明の喧嘩相手B
ことCは右手甲に全治約一週間の傷を受けたに過ぎず仮に同人の血液型がA型であ
るとしても、斧の木部にまで滲み込む程の出血があつたとは認められないこと、被
告人が本件殺害事件後斧の手入をしていること、博奕場で負けて先に帰途について
いること等の事情も知ることができ、これらを綜合すれば、原判決の事実認定が直
ちに経験則に反するものとはいい難いのである。そして、自ら証拠調のできない当
裁判所としては事実審裁判所の心証を尊重するの外はないのであるし本件のように
旧刑訴及び刑訴応急措置法の適用される事件においては、所論の事実誤認は上告適
法の理由とならないのであるから、当裁判所としては結局本件上告は棄却するの外
はないのである。
よつて刑訴施行法二条旧刑訴四四六条を適用し、主文のとおり判決する。
この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。
検察官 平出禾関与
昭和二七年三月二八日
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官 粟 山 茂
裁判官 小 谷 勝 重
裁判官 藤 田 八 郎
裁判官 谷 村 唯 一 郎
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