大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和29(あ)3406 判決

主 文

本件上告を棄却する。

理 由

弁護人鍛治利一の上告趣意第一点ないし第一〇点について、

所論は、いずれも、訴訟法違反の主張か事実誤認の主張に過ぎないもので、刑訴

四〇五条所定の上告理由にあたらない。のみならず第一審判決挙示の証拠によれば、

被告人が判示日時場所で判示Aを殺意をもつて殺害した事実を認めることができる。

右判決挙示の各証拠に徴すれば、Aが自殺したものとは到底認めることはできない。

又右第一審判決ならびにこれを是認した原判決には所論のような経験則違反その他

証拠法則に違反するところは存しない。

同第一一点について、

所論もまた、刑訴法違反の主張であつて、刑訴四〇五条所定の上告理由にあたら

ない。のみならず第一審判決が「被告人は……Aの頸部を絞め上げ、その抵抗が弱

まるに乗じ、その前頸部を出刃庖丁で突き刺し同部に……深さ約七糎の無名動脈に

達する傷害を与え、因つて同女を該動脈損傷に因る失血のため……絶命するに至ら

しめ、殺害の目的を遂げたものである」と判示し、起訴状に記載されていない「A

の頸部を絞め上げ、その抵抗が弱まるに乗じ」との事実を認定したことは、所論の

とおりであるが、右第一審判決も、起訴状記載のとおり、「Aの前頸部を出刃庖丁

で突き刺し無名動脈損傷に因る失血のため」同女を死に至らしめたとの失血死の事

実を認定しているのであるから、同判決が起訴状に記載のない所論の事実を認定し

たからといつて、訴因の変更又は追加を命じなければならないものということはで

きない。又被告人は、終始、本件Aの殺害には関係したことはないと主張し、公訴

事実を全く否認しているのであるから、同判決が右絞頸の事実を認定したからとい

つて、被告人の防禦に著しく不利益を与えるということもない。

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同第一二点について、

所論もまた刑訴法違反の主張であつて、刑訴四〇五条所定の上告理由にあたらな

い。のみならず、裁判所が鑑定人Bに対し仮りに所論のような事項の鑑定を命じた

としても、必ずしも裁判所が本件の死が他殺によるものと予断して右鑑定を命じた

ものとはいえない。現に右鑑定人も、鑑定の結果として、「C鑑定書にも記載され

ているように無名動脈が切られ、その外表に於て胸骨の骨質の一部にも切痕が見ら

れるというから相当強い力で刺したものと考えられ、自為的には出来得る創傷では

なく、他為的に創傷を受けたことは、明らかである」と、自ら、自殺か他殺かを検

案し、他殺と鑑定しているのである。所論は採ることができない。

よつて刑訴四一四条、三九六条により裁判官一致の意見で主文のとおり判決する。

検察官 松村禎彦公判出席

昭和三三年六月二〇日

最高裁判所第二小法廷

裁判長裁判官 小 谷 勝 重

裁判官 藤 田 八 郎

裁判官 河 村 大 助

裁判官 奥 野 健 一

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