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最高裁判所第二小法廷 昭和29(あ)3693 判決

主 文

本件各上告を棄却する。

理 由

被告人両名の弁護人江川甚一郎の上告趣意第一点並びに同鍛治利一の上告趣意第

二点について。

所論は事実誤認の主張であつて刑訴四〇五条の上告理由に当らない。なお所論の

要旨は原判決の肯認した第一審判決は、被告人Aは、単独又は被告人Bと共謀の上、

昭和二三年一二月一〇日頃から同二七年六月二日頃までの間に七〇数回に亘り被告

人Aの業務上保管する判示a町の公金合計四七七万七五〇八円七三銭を横領した事

実を認定したが、右金額は、本件犯行発覚当時である昭和二七年六月の同町の収支

計算上の不足額に相当するものである。しかるにこの計算においては、昭和二七年

五月南九州財務局宮崎財務部から同町が借入れた借入金一五〇万円が収入に計上さ

れているのであるが、右一五〇万円からC銀行D支店に対する前年度借入金残金一

一〇万円及びその利息金二万七五〇〇円並びにG県町村職員恩給組合に対する納付

金一三万円が被告人Aにより同町のため支払われたことは原判決もこれを認めてい

るのであるから、右支払額合計金一二五万七五〇〇円は被告人等の横領金額四七七

万七五〇八円七三銭からこれを控除すべきに拘らず、これを控除しなかつた原判決

は結局事実を誤認したか若しくは経験則に違反した違法があるというのである。

よつて案ずるに、第一審判決が証拠としたa町長Fの検察事務官に対する供述調

書(昭和二七年七月七日附)によれば、本件発覚当時同町に存在すべき公金を算定

するにあたり、前記宮崎財務部より借り入れた借入金一五〇万円全額が加算されて

いることは明らかであり、又原審で証拠調を経たC銀行D支店長の回答書及び前記

恩給組合管理者職務代理者の回答書によれば同町は、右C銀行D支店に対し、前年

度の借入金二〇〇万円のうち支払残金一一〇万円及びその利息金を昭和二七年五月

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二〇日同支店に弁済した事実及び、昭和二六年四月乃至同年一〇月分の恩給納付金

一三万余円(内一〇万二五一八円は町村納付金、三万一六一七円は吏員納付金)を

昭和二七年五月一九日前記恩給組合に支払納付した事実を認め得ることは所論のと

おりである。しかし、昭和二六年度における右金二〇〇万円の借入金は、同町にお

ける予算上の制規の歳入を引当に一時他から借入れたもので、制規の収入(例えば

税収入)さえあれば、これを以つて本来借入れた年度内に返済すべきものであつて、

従つて町の歳入、歳出の決算上は、これが収支は表われない筈のものである。しか

も右Fの前記供述調書によれば、同町における昭和二六年度の収支決算は、一般会

計の歳入総額一七五〇万四八四六円六一銭歳出総額一四五二万一八八一円二二銭特

別会計歳入総額三万九七〇九円六六銭歳出〇であつて、昭和二六年度より同二七年

度に繰越された金額は、収支決算上は、三〇二万二六七五円〇五銭存したというの

であるから、(この収支決算には、借入残金一一〇万円は収入に計上されていない)

被告人A等の、昭和二三年一二月以降同二六年末までの判示横領行為さえなければ、

前記借入金二〇〇万円は当然、昭和二六年度末までには返済できた筈である。然る

に右借入金が同年度中には合計九〇万円を返済ができたに止まるのは、被告人等が、

右期間中に借入残金に相当する同町の制規の収入金を判示のように領得横領したた

めであるといわなければならない。所論の昭和二七年五月同町が前記宮崎財務部か

ら借入れた借入金一五〇万円も、右証人Fの原審公判廷における証言によれば、町

議会の承諾を得て、年度初めの税収入のない時の金繰りのため、職員の俸給役場の

経費等の支弁のため借入れたもので本来前年度の借入金の弁済のため借入れたもの

ではないことが明らかである。被告人Aが右借入金から前記前年度借入金残金を返

済しなければならなくなつたのも、同被告人が判示の如く右借入残金に相当する同

町の公金を領得横領していたがためで、これなくば正に同町の制規の収入で支払い

得た筈のものである。

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又前記恩給組合に対する納付金中吏員納付金三万一六一七円については、被告人

Aの原審公判廷における供述によれば、職員の恩給基金は、職員の俸給から収入役

である被告人Aが差引き徴収の上職員のために恩給組合に納付すべきものであつて、

町の歳出歳入とは関係ない金員である。従つてこれが財源は、町の歳入は勿論町の

借入金をもつて充つべきものではなく職員の俸給より徴収した金員によるべきもの

である。そして昭和二六年四月乃至同年一〇月までの職員の恩給基金を被告人Eに

おいて徴収しながらこれが昭和二七年五月まで未納であつたのも同被告人等の判示

横領行為があつたために生じたものと解するほかはないのである。従つて論旨主張

のように被告人Aが前記C銀行D支店に対する借入金残額一一〇万円並びに恩給組

合に対する納付金のうち吏員納付金三万一六一七円を支払つたとしても右支払金額

は、被告人等の横領金額の算定には何ら関係のないものである。しかし、前記C銀

行D支店に対する借入金残金に対する利息二万七五〇〇円は、制規の収入と見合う

ものではないから、これが支払は、何らかの名目で町の支出として計上さるべきも

のである。又前記恩給組合に対する納付金中町村納付金一〇万二五一八円も亦町の

負担すべきものと認められるからこれ亦町の収支計算上は支出として計上せらるべ

きものである。従つてもし、右利息金二万七五〇〇円及び恩給組合に対する町村納

付金一〇万二五一八円合計金一三万〇〇一八円が本件犯行発覚当時の同町の収支計

算において支出として計上されていないとすれば、右金額は第一審判決認定の横領

金額四七七万七五〇八円七三銭より控除せらるべきものである。しかし右控除すべ

き金額は、第一審判決が認定した被告人Aの横領金額四七七万七五〇八円七三銭に

対しては勿論、被告人Bの横領金額四二六万三〇〇〇円に対しても極めて僅少であ

るから、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとも認められない。

弁護人江川甚一郎の上告趣意第二、第三点について。

所論はいずれも原判決に法令の適用を誤つた違法又は事実誤認があるというので

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あつて、刑訴四〇五条の適法な上告理由にあたらない。のみならず原判決のこの点

の判断は正当であり何ら違法はないし、事実の誤認も存しない。

弁護人鍛治利一の上告趣意第一点について。

所論は、原判決が第一審判決判示第二、第三の各横領行為を数個の併合罪とした

のは、違法で各一個の包括一罪としなかつたのは、高等裁判所の判例に違反すると

いうのである。しかし所論も第一審判決判示業務横領罪と、文書偽造行使罪とが併

合罪をなすことはこれを争わないのであるから原判決が被告人等に対し併合罪の加

重をして処断したことは結局正当であつて、仮りに原判決に所論判例違反があると

しても原判決に何ら影響を及ぼさない。よつて所論は採るを得ない。

同第三点について。

所論は判例違反を主張するが、所論引用の判例は本件に適切でなく、論旨は理由

がない。

同第四点、同第六点について。

所論は刑訴四〇五条の適法な上告理由にあたらない。

同第五点について。

所論は違憲を主張するけれども、その実質は事実誤認の主張に過ぎないのみなら

ず、所論は原審で主張せず従つて原判決の判断を経ていない事項であるから適法な

上告理由とならない。

なお本件について刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よつて刑訴四一四条、三九六条により主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見によるものである。

検察官 安平政吉公判出席

昭和三三年一〇月三日

最高裁判所第二小法廷

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裁判長裁判官 小 谷 勝 重

裁判官 藤 田 八 郎

裁判官 池 田 克

裁判官 河 村 大 助

裁判官 奥 野 健 一

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