最高裁判所第二小法廷 昭和34(あ)823 判決
主 文
本件上告を棄却する。
理 由
弁護人高橋万五郎の上告趣意第一点について。
所論は、出入国管理令六〇条二項は、旅券法一三条一項五号の規定と相まつて憲
法二二条二項に違反する旨主張するが、旅券法一三条一項五号及び出入国管理令六
〇条二項がいづれも憲法二二条二項に違反しないことは、当裁判所大法廷の判決(
前者につき昭和二九年(オ)第八九八号同三三年九月一〇日判決、後者につき昭和
三四年(あ)第一六七八号同三七年一一月二八日判決)の示すところであるから、
所論は採ることを得ない。
同第二点について。
所論は、単なる訴訟法違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
なお、刑訴二五五条一項前段の「犯人が国外にいる場合」は、同項後段の「犯人
が逃げ隠れている」場合と異り、公訴時効の進行停止につき、起訴状の謄本の送達
若しくは略式命令の告知ができなかつたことを前提要件とするものでないことは、
規定の明文上疑いを容れないところであり、このことは、所論の如く犯罪の性質上
当然犯人が国外にいる場合と雖も、これを別異に解すべき理由はない。それゆえ、
これと異る見解を前提として、本件につき公訴の時効が完成したとする所論は採る
ことを得ない。
同第三点について。
所論は、単なる訴訟法違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
なお、本件起訴状記載の公訴事実は、「被告人は、昭和二七年三月上旬頃より翌
二八年〇月中旬頃までの間に、有効な旅券に出国の証印を受けないで、本邦より本
邦以外の地域であるソビーエート聯邦モスクフに向け出国したものである」という
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のであつて、犯罪の日時を表示するに一年七月余の期間内とし、場所を単に本邦よ
りとし、その方法につき具体的な表示をしていないことは所論のとおりである。
しかし、刑訴二五六条三項は、裁判所に対し審判の対象を限定するとともに、被
告人に対し防禦の範囲を示すことを目的とする趣旨であり、また犯罪の日時、場所
及び方法は、犯罪の種類、性質等の如何により、これを詳らかにすることができな
い特殊事情がある場合には、右法の目的を害さない限りの幅のある表示をしても、
その一事のみを以て、罪となるべき事実を特定しない違法があるというべきでない
ことは、当裁判所大法廷判決(昭和三四年(あ)第一六七八号同三七年一一月二八
日判決)の示すところである。
これを本件についてみるのに、検察官は、本件第一審第一回公判における冒頭陳
述において、証拠により証明すべき事実として、(一)被告人は昭和二七年三月五
日頃青森市内にいた事実、(二)被告人が昭和二八年一〇月一四日モスクワから青
森駅操車係など宛に出した絵はがきを青森駅庶務課文書係において受取つた事実、
(三)被告人は昭和三三年七月八日中国塘沾から白山丸に乗船して本邦に帰国した
事実及び(四)被告人は旅券に出国の証印を受けていなかつた事実を挙げており、
これによれば、検察官は、被告人が昭和二七年三月上旬頃までは本邦に在住してい
たが、その後日時は詳らかでないがソビエート聯邦に向けて不法に出国し、引き続
いて本邦外にあり、同三三年七月八日白山丸に乗船して帰国したものであるとして、
右不法出国の事実を起訴したものとみるべきである。そして、本件密出国のように、
本邦をひそかに出国して当時わが国と未だ国交を回復せず、外交関係を維持してい
ない国に赴いた場合は、その出国の具体的顛末についてこれを確認することが極め
て困難であつて、まさに上述の特殊事情のある場合に当るものというべく、たとえ
その出国の日時、場所及び方法を詳しく具体的に表示しなくても、起訴状及び右第
一審第一回公判の冒頭陳述によつて本件公訴が裁判所に対し審判を求めようとする
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対象は、おのずから明らかであり、被告人の防禦の範囲もおのずから限定されてい
るというべきであるから、被告人の防禦に実質的の障碍を与えるおそれはない。そ
れゆえ、所論は、採ることを得ない。
同第四点について。
所論は、独自の見解を以てする単なる法令違反の主張を出でないものであつて、
刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
よつて刑訴四〇八条により主文のとおり判決する。
この判決は、論旨第三点に関する裁判官奥野健一の補足意見があるほか、裁判官
全員一致の意見によるものである。
裁判官奥野健一の補足意見は、本判決に引用された昭和三四年(あ)第一六七八
号事件判決に附記したところと同趣旨である。
昭和三八年一月二五日
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官 池 田 克
裁判官 河 村 大 助
裁判官 奥 野 健 一
裁判官 山 田 作 之 助
裁判官 草 鹿 浅 之 介
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