大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和36(あ)223 判決

主 文

原判決を破棄する。

本件を広島高等裁判所岡山支部に差し戻す。

理 由

弁護人柴田治の上告趣意について。

所論は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に

当らない。

しかし、職権を以て調査すると、原判決の認定するところによれば、被告人はA

の委託により、本件山林の立木をAに代つて一応自己の名義をもつてa村より買受

けることを予約し、Aにおいて代金の準備の出来次第、Aのために前記予約に基づ

き自己名義でa村と本契約を結び、更にこれをA名義に移転するか、又は直接a村

とAとの間に本契約を結ばせ、もつてAとの当初の約定のとおり、該山林の立木の

所有権をAに取得せしむべき委任契約上の任務を負担していたものであるところ、

その後Aの金策が意の如く進まず、a村との約定の期限を経過してもなお、代金の

準備が出来ず、被告人も放任出来ずと考え、昭和二八年七月九日Aに対し、七月一

〇日までに代金の準備を終り本契約締結の措置に出でないときは、契約を解約する

旨の通知をなしたが、Aはそれを履行せずその後、被告人はa村との売買の予約が

一応形式上自己名義になつていること及びAに対しては、既に契約解除の通知を発

していることなどを奇貨として、同立木をB株式会社に転売し、よつてAをして契

約金や談合金として提供した金一八万円及び同立木の取得転売によつて得べかりし

金七〇余万円の利益を喪失させ、財産上同額の損害を加えたものであるというので

ある。

しかし、仮令被告人がAの委任に基づき一応自己名義をもつて、a村と本件立木

の売買予約をしたものであつても、若し、右委任契約の趣旨が、Aにおいて代金の

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準備をしない限り、被告人に右立木の名義をA名義に移転するとか又は直接a村と

Aとの間に本契約を結ばせるとかという義務がないものであつたとすれば、右Aが

代金準備をしないうち、被告人は本件委任契約を解除したものであるから、その結

果被告人は完全に前記義務を免れたものといわなければならない。そして、受任者

が委任者のために自己の名をもつて取得した権利(本件についていえば、売買予約

上の権利)といえども、未だこれを委任者に移転する義務のないうち、委任契約が

解除された場合には、最早これを委任者に移転することを要するものではなく、民

法六四六条二項の規定は、かかる場合には適用のないものと解するのが相当である。

然らば、本件委任契約の趣旨が前記のようなものであつたとすれば、被告人はAに

対して、委任契約上の義務は最早存在しないものであり(但し前記契約金や談合金

の返還義務があるや否は別問題である)、従つて、背任罪に問擬することはできな

いものといわねばならない。然らば、原判決は本件委任契約の趣旨につき明確を欠

き、審理を尽さざる違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすこと明らかであつて、

これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められるから、刑訴四一一条一

号により破棄を免れない。

よつて、刑訴四一三条本文に従い、全裁判官一致の意見により、主文のとおり判

決する。

検察官 安田道直公判出席

昭和三八年一一月八日

最高裁判所第二小法廷

裁判長裁判官 奥 野 健 一

裁判官 山 田 作 之 助

裁判官 草 鹿 浅 之 介

裁判官 城 戸 芳 彦

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裁判官 石 田 和 外

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