最高裁判所第二小法廷 昭和36(オ)1417 判決
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人長谷川勉、同音喜多賢次の上告理由第一点について。
原判決は、被控訴人(上告人)は、昭和三三年一一月二七日本件建物を訴外Dに
売渡し、即日所有権移転登記手続をなした。ところで、被控訴人は既に控訴人(被
上告人)に対し本件建物を売渡す契約がしてあつた関係上、右Dは被控訴人に対し
右一一月二七日から半年間は代金一〇八万円で被控訴人への売戻しの請求に応ずる
ことを約定したが、控訴人が被控訴人との売買契約における履行期である同年一一
月二九日に代金を持参しなかつたことなどの関係があつて、右売戻しが行われない
まま売戻しの約定期間が経過し、Dとしてはもはや売戻しの意思がなくなつた事実
を確定したものであることは判文上明らかである。されば、被控訴人は昭和三三年
一一月二七日から六ヶ月経過した時において控訴人との間の本件建物売買契約の履
行を不能としたものというべきである。原判決の判文中には所論の指摘するように
その措辞妥当を欠くところがあるが、原判決確定事実が前記のとおりである以上、
被控訴人の債務が被控訴人の責に帰すべき事由により履行不能となつたものとして
約定の手附金倍戻しを求める控訴人の本訴請求を肯認した原判決は正当であるから、
原判決に所論の法律解釈の誤り、理由齟齬の違法がない。論旨は採用できない。
同第二点について。
原判決は、控訴人被控訴人間の本件手附金契約において売主たる被控訴人が違約
したときは手附金の倍額を買主たる控訴人に支払い、控訴人が違約したときは被控
訴人に対し手附金の返還を請求できない旨の約定の趣旨は、違約した相手方に対す
る手附倍戻しの請求もしくは手附没収の意思表示により始めてその効力を生じ、そ
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の時に各当事者が売買契約の履行を要しなくなる、即ち、契約終了の効果を生ずる
と認めたものであること判文の全趣旨に照し明らかである。しからば、たとえ所論
のように控訴人被控訴人間の本件建物売買契約の履行期に被控訴人が訴外Dをして
本件家屋の所有権移転登記手続の提供をなさしめたのに控訴人において代金の提供
をなさなかつたため、双方の債務の履行がなされないまま推移したものであるとし
ても、原判決は、被控訴人において控訴人対し右事実を理由として有効に手附没収
の意思表示をなしたことを認容しないのであるから、未だ契約終了の効果が生ぜず
被控訴人はなお本件売買契約上の債務履行の責を免れないものというべく、その後
において原判決判示の被控訴人の債務履行不能の事実が生じた以上、控訴人は被控
訴人に対し本件手附倍戻しの請求をなしうるものというべきである。されば、右の
理由により控訴人の本訴請求を容認した原判決に所論の判断遺脱、理由不備、理由
齟齬の違法がなく、論旨は採用できない。
同第三点について。
訴外Dが控訴人被控訴人間の本件建物売買契約を解除するにつき被控訴人より代
理権を与えられたことを認めるべき証拠がない旨の原判決の判断は、本件記録によ
り肯認できるから、原判決に所論の経験則違反の違法がない。また、右の点の原判
決の認定が適法である以上、原審において所論の点の釈明を要しないことも当然で
あつて、これをもつて審理不尽の違法があるということができない。論旨は採用で
きない。
同第四点について。
控訴人は原審において、被控訴人が訴外Dに本件家屋を売渡しその所有権移転登
記手続をなしたことによつて、被控訴人の控訴人に対する本件家屋売買契約上の債
務が履行不能となつた旨主張したことは記録により明らかである。原判決は、控訴
人の右主張に対し、被控訴人のDに対する本件家屋売買契約に附随し、被控訴人は
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Dより六箇月以内に代金一〇八万円をもつてこれを買戻す旨の約定をなしたが、右
買戻しが実行されず、遂に右期間の経過により被控訴人の控訴人に対する本件家屋
売買契約上の債務が履行不能に帰した旨を判示したものであるが、右原判決判示は、
履行不能となつた日について控訴人主張と相違するところがあるにしても、前記控
訴人の主張は結局訴外Dに本件家屋の所有権を移転せしめたことをもつて本件契約
の履行不能原因として主張した趣旨と解すべきであるから、原判決に所論の当事者
の申し立てない事項について判断をなした違法および理由不備の違法がない。論旨
は採用できない。
よつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、
主文のとおり判決する。
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官 奥 野 健 一
裁判官 山 田 作 之 助
裁判官 草 鹿 浅 之 介
裁判官 城 戸 芳 彦
裁判官 石 田 和 外
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