大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和42(あ)2877 判決

主 文

原判決を破棄する。

被告人を懲役六月に処する。

この裁判が確定した日から三年間右の刑の執行を猶予する。

理 由

被告人本人および弁護人岩井卓也の各上告趣意は、いずれも量刑不当の主張であ

つて、適法な上告理由にあたらない。

しかしながら、所論は、原審の量刑がはなはだしく過重であつて、原判決を破棄

しなければ著しく正義に反すると主張しているので、職権をもつてこの点を検討す

る。

原判決は、被告人が生活保護者で結成する互助会の副会長であつて、自己の債務

の金利支払および生活費に窮した結果預り保管中の他人の印鑑を冒用し、昭和三八

年一一月三〇日ごろから同三九年九月二一日ごろまでの間七回にわたり他人名義の

金銭借用証書を作成偽造し、そのつど右借用証書をAことBに提出行使して、同人

をして真実証書の名義人が金銭の借用を申し出ているものと誤信させ、同人から合

計金一二万二六六〇円を騙取したという有印私文書偽造、同行使、詐欺の事実と、

同年二月中旬ごろから同年一〇月三〇日ごろまでの間四回にわたり他人から前記A

に対する返済金として預つた合計四万六〇〇〇円の現金をそのつど自己の債務の返

済にあてて横領したという事実を認定して、被告人を懲役六月の実刑に処している。

しかし、記録を調べてみると、本件においては、量刑の資料として次のような諸

事情のあることが認められる。

被告人は高等小学校を卒業し、店員、海軍入隊、商業従事等を経て炭坑夫となり、

昭和三六年北海道の炭坑中で事故に遭つて肋骨を折り働けなくなつたため郷里飯塚

市に帰り生活保護を受け、本件当時三三才の病身の妻、二才の長男および一才未満

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の次男を扶養していた。そして、被告人は本件当時三九才(現在四三才)であつた

が、これまで前科、犯歴はもとより、取調を受けたことは一度もなかつた。

本件犯行の動機について、被告人は、検察官に対する供述調書において、私は昭

和三七年一月ごろから三九年一月ごろまでの間旧a村内の生活保護者で構成してい

る互助会の副会長をしていたが、当時生活苦のため米代の支払えない組合員が数名

おり、その額が合計六、七万円にもなつた。その支払をしない限り米の掛売りはし

ないと米屋がいうので、私はBから自己の名義で一五万円借り受け、その支払にあ

てた、このときの借金が、利息月七分で天引きされ、手取り一三万八千円余であつ

たが、この負債に対する月々の金利に追われ、またオートレースにも手を出したと

ころから、借金が手に負えなくなり、生活費に困つて本件犯行に及んだ旨の供述を

しており、記録中これに反する資料は見あたらない。

次に、本件犯行の態様は第一審判示のとおりであり、一見被告人が多種多様の犯

行を犯したように見えるが、本件はすべて、被告人が前記互助会の世話役として、

組合員たちが金融業AことBから融資を受ける窓口となつていたことから起きた犯

行であつて、有印私文書偽造、同行使、詐欺において被告人が冒用した他人名義と

いうのは、すべて前記組合員たちの名義であり、実質的な被害者はBひとりにすぎ

ない。また、横領罪の被害者は、法律的には、被告人に現金を預けた各組合員とい

うことになるが、これら組合員とBとの取引はすべて被告人を介して行なわれてい

たことから、前記横領にかゝる金員はすべてBの損害とし、後記のように被告人の

Bに対する債務として扱うことにしたので、被告人としては、組合員に対し何ら実

質的被害を及ぼしていない。

そして、本件犯行が官に発覚する以前、本件についてはすでに被告人とBとの間

で示談が成立しており、昭和三九年一〇月三〇日本件の一六万八六六〇円とその余

の債務一切を含め、被告人のBに対する全債務を四九万二〇〇〇円とする準消費貸

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借契約を公正証書によつて結び、右債務の返済につき被告人所有の家屋平屋建一棟

一五坪位を売渡抵当として担保に供した事実が認められるが、被告人は従来Bから

月七分ないし九分の高金利で借財していたので、前記債務中には利息制限法違反の

分もかなり含まれていることがうかがわれる。その後、被告人は、昭和三九年一二

月に一万三〇〇〇円、同四〇年一〇月に八〇〇〇円合計二万一〇〇〇円をBに返済

したが、生活苦のため残余の履行ができない状態にある。

以上のような被告人の経歴(特に犯歴がないこと)、年令、身体の状況、生活状

態、家族関係、本件犯行の動機、態様、被害金額、取得した金員の費消先、犯行後

の事情特に示談が成立し家屋を担保に供している点など一切の情状を考慮すると、

本件はまさに刑の執行を猶予すべき事案であるにもかかわらず、原判決が被告人を

懲役六月の実刑に処したのは、刑の量定がはなはだしく不当であつて、これを破棄

しなければ著しく正義に反するものと認められる。

よつて、刑訴法四一一条二号により原判決を破棄し、同法四一三条但書により原

判決が確定した事実に法律を適用すると、被告人の各所為のうち、私文書偽造の点

は刑法一五九条一項に、同行使の点は同法一六一条一項、一五九条一項に、詐欺の

点は二四六条一項に、横領の点は同法二五二条一項にそれぞれ該当するが、各私文

書偽造と同行使および詐欺の点は、それぞれ手段結果の関係にあるから、同法五四

条一項、一〇条によりいずれも重い詐欺の刑に従い、以上は同法四五条前段の併合

罪であるから、同法四七条、一〇条により最も重い第一審判示第三の詐欺罪の刑に

所定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役六月に処し、前示の情状にかんがみ

同法二五条を適用して、この裁判が確定した日から三年間右刑の執行を猶予するこ

ととし、第一審、原審および当審における訴訟費用については被告人が貧困のため

訴訟費用を納付することのできないことが明らかであるから、刑訴法一八一条一項

但書によりこれを被告人に負担させないこととし、裁判官全員一致の意見で、主文

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のとおり判決する。

検察官 齋藤周逸公判出席

昭和四三年七月一九日

最高裁判所第二小法廷

裁判長裁判官 奥 野 健 一

裁判官 草 鹿 浅 之 介

裁判官 城 戸 芳 彦

裁判官 石 田 和 外

裁判官 色 川 幸 太 郎

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