最高裁判所第二小法廷 昭和55(オ)909 判決
主 文
原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。
被上告人の請求を棄却する。
訴訟の総費用は、被上告人の負担とする。
理 由
上告代理人細見利明の上告理由について
一 原審が適法に確定した事実は、次のとおりである。すなわち、(一) 被上告
人は、昭和四四年末頃から同四六年一月頃までの間に訴外D総業株式会社(以下「
訴外会社」という。)から継続的に金員を借り受け、同四五年九月一八日、訴外会
社との間で、右借受金債務を担保するため、その不履行があるときは訴外会社にお
いて被上告人所有の本件不動産の所有権を取得することができる旨の代物弁済の予
約を締結し(以下「本件代物弁済予約」という。)、これを登記原因として同四六
年四月六日、本件不動産につき所有権移転請求権仮登記(以下「本件仮登記」とい
う。)をしたが、上告人は、訴外会社から本件仮登記上の権利を譲り受けたとして、
同五〇年三月三一日、本件仮登記の附記登記を経由した。(二) 被上告人は、同四
六年四月、訴外会社から委託を受けて同会社の訴外大阪市信用保証協会(以下「訴
外協会」という。)に対する借受金債務につき連帯保証をするとともに、右債務を
担保するため本件不動産につき根抵当権を設定してその旨の登記を経由した。(三)
被上告人は、訴外会社が同年一一月二九日破産宣告を受けたのち、訴外協会から
履行請求を受けたので、同五一年二月二四日、右連帯保証債務の履行として訴外会
社の訴外協会に対する前記借受金債務七九五万〇四四八円のうち九六万九六六三円
を同協会に対し弁済したが、訴外会社の訴外協会に対する前記借受金債務の弁済期
が既に到来していたため、前記破産手続につき破産廃止の決定が確定したのちの同
五二年四月一二日訴外会社に到達した書面により同会社に対し、民法四六〇条二号
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に基づいて訴外会社に対して取得したいわゆる事前求償権をもつて、被上告人の同
会社に対する前記借受金債務(三〇〇万四〇〇〇円)と対当額で相殺する旨の意思
表示(以下「本件相殺」という。)をした。(四) 訴外会社は、前記破産廃止後も
訴外協会に対し負担する前記借受金債務を支払う能力に欠けている。
原審は、以上の事実関係に基づいて、本件においては、主たる債務者である訴
外会社が訴外協会に対する前記借受金債務の支払能力に欠けているのに対し、保証
人たる被上告人が右債務を担保するため本件不動産に根抵当権を設定していて右債
務の弁済をせざるをえない事情にある以上、訴外会社において民法四六一条一項所
定の抗弁権を行使する余地はないから、本件相殺を有効と認めるべきであるとし、
したがつて、本件仮登記の登記原因である本件代物弁済予約はその被担保債権の消
滅によつて効力を失つたとして、上告人に対し本件仮登記及び附記登記の抹消登記
手続を求める被上告人の本訴請求を認容すべきであると判断し、これと同旨の第一
審判決を正当として本件控訴を棄却している。
二 しかしながら、本件相殺が有効であるとする原審の判断は、以下の理由によ
り正当として是認することができない。
保証人が民法四六〇条に基づいて主たる債務者に対して取得するいわゆる事前
求償権は、法定相殺における自働債権としての要件に欠け、保証人はこれを相殺の
用に供しえないものと解するのが相当である(大審院昭和一五年(オ)第六六〇号
同年一一月二六日判決・民集一九巻二二号二〇八八頁参照)。けだし、主たる債務
者の委託を受けて保証した保証人が民法四六〇条に基づいて取得する事前求償権を
行使する場合には、主たる債務者は、同法四六一条一項に基づき、債権者が債権全
額の弁済を受けない間は保証人に対し担保の供与を請求することができ、右担保の
供与があるまでは当該求償に応ずることを拒絶することができるものであるところ、
事前求償権を自働債権とする相殺を許容するときには、主たる債務者からゆえなく
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右の抗弁権行使の機会を奪い、不公平な結果を招くからである。そして、右の理は、
主たる債務者が支払能力に欠け、保証人がその所有不動産について主たる債務者の
債務を被担保債務として債権者のために担保権を設定している場合においても、こ
れをもつて債権者が債権全額の弁済を受けたことと同一視しえない以上、なお、主
たる債務者に対し前記抗弁権行使の機会を与える必要性があるから、妥当するもの
というべきである。�
本件についてこれをみると、前記一の事実関係のもとにおいては、本件相殺は、
訴外協会に対する前示弁済に係る部分を除き、保証人の事前求償権を自働債権とし
てしたものであるから、その効力を生じないものといわなければならない。
三 したがつて、原審の判断は、民法五〇五条一項の解釈適用を誤つた違法なも
のというべきであり、右違法が原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるか
ら、論旨は理由があり、原判決と同旨の第一審判決も取り消すべきものである。そ
して、原審の確定した事実関係のもとにおいては、本件代物弁済予約がその効力を
失つたことを前提とする被上告人の本訴請求は、理由のないことが明らかであるか
ら、棄却することとする。
四 よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条に従い、裁
判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官 大 橋 進
裁判官 木 下 忠 良
裁判官 鹽 野 宜 慶
裁判官 宮 崎 梧 一
裁判官 牧 圭 次
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