木更津簡易裁判所 昭和62年(ハ)6号 判決 1988年6月27日
原告 株式会社大信販
右代表者代表取締役 平野一雄
右訴訟代理人弁護士 加藤紘
同 舩越豊
同 高梨徹
被告 岡村知昭
<ほか一名>
右被告ら訴訟代理人弁護士 守川幸男
同 渡会久実
同 田中三男
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
六号事件
(主たる請求)
一 請求の趣旨
1 被告岡村知昭は原告に対し、金二八万二三七〇円と、内金二六万五九二〇円に対する昭和六〇年一一月二日から支払ずみまで、年二九・二パーセントの割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告岡村知昭の負担とする。
3 仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
(予備的請求)
一 請求の趣旨
主たる請求の趣旨と同一であるので、これを引用する。
二 請求の趣旨に対する答弁
主たる請求の趣旨に対する答弁と同一であるので、これを引用する。
七号事件
(主たる請求)
一 請求の趣旨
1 被告岡村佳代は原告に対し、金四五万七五一〇円と、内金四二万四〇六〇円に対する昭和六〇年一一月二日から支払ずみまで、年二九・二パーセントの割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告岡村佳代の負担とする。
3 仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
(予備的請求)
一 請求の趣旨
主たる請求の趣旨と同一であるので、これを引用する。
二 請求の趣旨に対する答弁
主たる請求の趣旨に対する答弁と同一であるので、これを引用する。
第二当事者の主張
六号事件
(主たる請求)
一 請求原因
1 原告は割賦購入斡旋を業とする会社であるが、昭和五八年二月一六日被告岡村知昭(以下被告知昭という。)が、販売店有限会社岩上商会(以下岩上商会という。)から、理容器具を購入するにあたり、左記要旨の契約(以下本件立替払契約(一)という。)を締結し、昭和五八年三月五日岩上商会に一括立替払をした。
(一) 被告知昭が岩上商会に支払うべき代金(但し、頭金を除外した額)金五〇万円を、岩上商会に一括立替払をする。
(二) 被告知昭は原告に対し、手数料として、金一九万七五〇〇円を支払う。
(三) 被告知昭は原告に対し、右(一)、(二)の合計金六九万七五〇〇円を債務総額とし、左のとおり支払う。
(1) 支払回数 計六〇回
(2) 支払期間 昭和五八年三月から昭和六三年二月まで、毎月二七日
(3) 賦払金
第一回目 金一万三一〇〇円、
第二回以降金一万一六〇〇円
2 被告知昭が右賦払金の支払を遅滞し、原告から二〇日間以上の期間を定めて、書面で催告されたにもかかわらず、その期間内に支払わなかったときは、当然に期限の利益を喪失し、残金を一時に支払う。この場合残金に対し、年二九・二パーセントの割合による遅延損害金を付加して支払う。
3 被告知昭は原告に対し、左記のとおり弁済した。
(一) 入金額 金三二万六三〇〇円
内訳 立替金二三万四〇八〇円
手数料金九万二二二〇円
(二) 最終入金日 昭和六〇年七月一六日
4 原告は被告知昭に対し、昭和六〇年一〇月一一日到達の書面で、二〇日間の期間を定めて遅滞金の支払を催告するも、その支払をしない。
よって、昭和六〇年一一月一日の経過によって期限の利益を喪失した。
5 期限の利益喪失時の一括戻し手数料は金八万八八三〇円である。
6 よって、原告は被告知昭に対し、
(一) 立替金・手数料の残金から戻し手数料を差し引いた金額金二八万二三七〇円
(二) 立替金残金二六万五九二〇円に対する期限の利益喪失の日の翌日である昭和六〇年一一月二日から支払ずみまで、年二九・二パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。
7 仮に、被告知昭が、本件立替払契約を直接に締結しなかったとしても、被告知昭は、岩上商会又は同会社専務流山一男(以下流山という。)から、本件立替払契約(一)を締結するのに、被告知昭の名前を使わせて欲しい旨の依頼を受け、これを承諾し、岩上商会又は流山は、その承諾に基づいて被告知昭の名義を用いて、本件立替払契約(一)を締結した。けだし、右本件立替払契約(一)の締結に関する包括代理権を被告知昭は、岩上商会又は流山に与えたというべきで、被告知昭は岩上商会又は流山を代理人として、原告との間で、本件立替払契約(一)を締結したものである。
8 仮に、右主張が認められないとしても、被告知昭は岩上商会又は流山に対して「名義貸し」をしたものであり、原告は本件立替払契約(一)の当事者であると誤認して右契約を締結したものであるから、被告知昭は、商法二三条により、右立替払契約(一)によって生じた債務につき、岩上商会と連帯して支払うべき責任がある。
(予備的請求)
一 請求原因
岩上商会又は流山は、本件立替払契約(一)を悪用して、原告から立替金名下に金員を騙取したが、被告知昭は「外義貸し」をして岩上商会又は流山の詐欺行為に加担したものである。従って、被告知昭は右不法行為により、原告に対し、六号事件の立替金請求金額(附帯請求を含む。)と同額の損害を与えた。
よって、被告知昭は原告に対し、右損害の支払義務がある
六号事件
二 主たる請求の請求原因に対する認否
1 請求原因1、2、3及び5項の各事実のうち、原告が割賦購入斡旋を業とする会社である事実は認める。
一括立替払した事実は不知。その余は否認する。
2 同4項の事実のうち、支払催告の事実は認めるも、期限の利益が喪失したとの主張は争う。
3 同6項の主張は争う。
4 同7、8項の事実は否認する。
三 予備的請求の請求原因に対する認否
否認する。
七号事件
(主たる請求)
一 請求原因
1 原告は割賦購入斡旋を業とする会社であるが、昭和五七年八月一六日被告岡村佳代(以下被告佳代という。)が、岩上商会から理容器具を購入するにあたり、左記要旨の契約(以下本件立替払契約(二)という。)を締結し、昭和五七年九月五日岩上商会に一括立替払した。
(一) 被告佳代が右岩上商会に支払うべき代金(但し、頭金を除外した額)金九八万円を原告は岩上商会に一括立替払する。
(二) 被告佳代は原告に対して、手数料として金四〇万一八〇〇円を支払う。
(三) 被告佳代は原告に対し、右(一)、(二)の合計金額金一三八万一八〇〇円を債務総額として左記のとおり支払う。
(1) 支払回数 計六〇回
(2) 支払期間 昭和五七年九月から昭和六二年八月まで、毎月二七日
(3) 賦払金
第一回目 金二万四八〇〇円
第二回目以降金二万三〇〇〇円
2 被告佳代が、右賦払金の支払を遅滞し、原告から二〇日間以上の期間を定めて、書面で催告されたにもかかわらず支払をしないときは、当然に期限の利益を喪失し、残金を一時に支払う。この場合残金に対し、年二九・二パーセントの割合による遅延損害金を付加して支払う。
3 被告佳代は原告に対し、左記のとおり弁済した。
(一) 入金額 金七八万三八〇〇円
内訳 立替金五五万五九四〇円
手数料金二二万七八六〇円
(二) 最終入金日 昭和六〇年七月一六日
4 原告は被告佳代に対し、昭和六〇年一〇月一一日到達の書面で、二〇日間の期間を定めて遅滞金の支払を催告するも、その支払をしない。
よって、昭和六〇年一一月一日の経過によって期限の利益を喪失した。
5 期限の利益喪失時の一括戻し手数料は金一四万〇四九〇円である。
6 よって、原告は被告佳代に対し、
(一) 立替金、手数料の残金から、戻し手数料を差し引いた金額金四五万七五一〇円
(二) 立替金残金四二万四〇六〇円に対する期限の利益喪失の日の翌日である昭和六〇年一一月二日から支払ずみまで年二九・二パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。
7 仮に、被告佳代が、本件立替払契約を直接に締結しなかったとしても、被告佳代は岩上商会又は流山から、右本件立替払契約(二)を締結するのに被告佳代の名前を使わせて欲しい旨の依頼を受け、これを承諾し、岩上商会又は流山は、その承諾に基づいて、被告佳代の名義を用いて、本件立替払契約(二)を締結した。けだし、右契約締結に関する包括代理権を被告佳代は岩上商会又は流山に与えたというべきで、被告知昭は岩上商会又は流山を代理人として、原告との間で、本件立替払契約(二)を締結したものである。
8 仮に、右主張が認められないとしても、被告佳代は岩上商会又は流山に対して「名義貸し」をしたものであり、原告は本件立替払契約(二)の当事者であると誤信して締結したものであるから、被告佳代は商法二三条により、右立替払契約(二)により生じた債務につき連帯して支払うべき責任がある。
(予備的請求)
一 請求原因
岩上商会又は流山は、本件立替払契約(二)を悪用して、原告から立替金名下に金員を騙取したが、被告佳代は「名義貸し」をして、岩上商会又は流山の詐欺行為に加担したものである。従って、被告佳代は、右不法行為により、原告に対し本件七号事件の立替金請求金額(附帯請求を含む。)と同額の損害を与えた。
よって、被告佳代は原告に対し、右損害の支払義務がある。
七号事件
二 主たる請求の請求原因に対する認否
1 請求原因1、2、3及び5項の各事実のうち、原告が割賦購入斡旋を業とする会社である事実は認める。一括立替払した事実は不知。その余は否認する。
2 同4項の事実のうち、支払催告の事実は認めるが、期限の利益が喪失したとの主張は争う。
3 同6項の主張は争う。
4 同7、8項の事実は否認する。
三 予備的請求の請求原因に対する認否
否認する。
第三証拠《省略》
理由
第一六号、七号事件の主たる請求について
一 六号事件甲第一号証(契約書)の岡村知昭の署名及び記載事項の記入が被告知昭により、名下の印影が、被告知昭の印章により、被告知昭によって顕出されたと、七号事件甲第一号証(契約書)の岡村佳代の署名及び記載事項の記入が被告佳代により、名下の印影が被告佳代の印章により、被告佳代によって顕出されたと、それぞれ、これを認めるに足りる証拠はない。
従って、後記二の認定と併せ考え、右各契約書が真正に成立したとは認められない。
二 《証拠省略》によれば、被告らは、それぞれの本件立替払契約(一)、(二)に基づく商品を、岩上商会から、引渡しを受けていないこと、被告らは、それぞれの賦払金の支払をしていないこと、岩上商会は六号事件につき、被告知昭名義で金三二万六三〇〇円を、七号事件につき、被告佳代名義で金七八万三八〇〇円を、各支払ったことが認められる。
三1 《証拠省略》と、これによって真正に成立したと認められる六号事件甲第二号証(決裁申請書)には、被告知昭につき、昭和五八年二月一六日に、右証言によって真正に成立したと認められる七号事件甲第二号証(決裁申請書)には、被告佳代につき、昭和五七年八月一七日に、本件立替払契約(一)、(二)の締結の意思を、原告において、それぞれ確認した旨の記載があること。
原告において、立替金を販売店に支払う場合には、購入者に対し、立替払契約の締結についての意思確認の手続を経ることが一般であること、原告は岩上商会に対して、六号、七号事件の立替金の支払をしていることが認められる。右の事実によれば、原告は右のそれぞれの日ころ、被告らに対し、本件立替払契約(一)、(二)の各意思確認のための電話をしたことが推認できる。
2(一) 他方六号事件甲第一号証、第二号証には、被告知昭の自動支払預金口座が、千葉相互銀行松ケ丘支店口座番号一一五八九七一号と記載されているが、被告知昭は右銀行に対し、右口座の開設をしていないこと、被告知昭の自宅電話番号が五二の三〇七三であるのに、五二の三〇七二と記載されていること、被告知昭の店の名称が理容室オカムラであるのに、オカムラ理容又はオカムラ理容室と記載されていること、(正しい事実は、被告知昭本人尋問の結果によって認める。)
(二) 七号事件甲第一号証、第二号証には、被告佳代の自動支払預金口座が、千葉銀行君津支店一七三四四と記載されているが、被告佳代は、右銀行に右口座の開設をしていないこと、被告佳代の勤務先の名称は、七号事件甲第二号証によれば美容室オカムラとなっているが、理容室オカムラであること、(正しい事実は、被告佳代本人尋問の結果によって認める。)
七号事件甲第一号証には購入商品プラスマンセット1金七三万円、プラスマン機械1金三〇万円合計金一〇三万円となっているが、右甲第二号証ではプラス1のみで金一三〇万円と記載されていること
3 電話確認によって契約を成立させることは、契約成立一般からみて、例外であるところから、その確認は、名義人本人であるかどうかは当然として、その者が立替払契約の趣旨、内容を十分に理解できるように話し、この電話が契約意思確認のためのものであることを了知してもらうことが不可欠であると解する。
けだし、確認は慎重、かつ、厳格になされるべきである。
4 右の1の事実に、右2の(一)、(二)の各事実(確認が適正になされていれば是正されているべきである。)を加え、右3の考察をふまえて、考えると、右1の事実から原告主張の確認の事実を推認することはむずかしく、ほかにこれを認めるに足りる証拠はない。
従って、原告において、本件立替払契約(一)、(二)の、被告知昭、同佳代の、各契約意思を確認したと確信するに至らない。
四 以上の各事実によれば、原告と被告知昭間の本件立替払契約(一)及び原告と被告佳代間の本件立替払契約(二)が、それぞれ、直接又は代理人により(代理関係が認められないことは、後記五で考察する。)、締結されたとは認められない。
五 「名義貸し」について(請求原因6、7項)
1 原告は被告らが、岩上商会又は流山に対し、本件立替払契約(一)、(二)の各当事者として、自己の名義の使用することを許諾し、いわゆる「名義貸し」をしたと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
従って、原告の被告らが「名義貸し」をした旨の主張は採用しない。
2 付言するに
(一) 岩上商会が本件の各賦払金の支払をしていること、被告らは本件の各商品の交付を受けていないこと(各先に認定。)、の事実は後記の事実に照らし、右1の認定を左右しない。
(二)(1) 被告知昭につき六号事件甲第三号証、第六号証に、被告佳代につき七号事件甲第六号証に、原告の主張に沿う記載がある。
(2) 《証拠省略》によれば、次の事実を認めることができる。
岩上商会は昭和四二年ころから、理美容材料の販売を業とし、昭和五六年ころには千葉県下では一、二の業者となっていたこと、被告らを含む購入者との取引は掛売りの月末支払が主であったこと、昭和五六年ころ、数社の信販会社と加盟店契約をし、購入者との関係で立替金の交付を受けるようになったこと、
岩上商会は立替払契約を締結した購入者に対する商品の交付につき、全部ではないが、分割又は後納の方法をとっていたこと、商品の交付までの間は、岩上商会において賦払金の支払をしていたこと、
年間契約と言って、毎月一定額を岩上商会に積立させ、それに見合う商品を毎月分納するという方式もあったこと、右から購入者は立替払契約をしたのちも、岩上商会に対し、掛売代金の分割支払と認識している者が多かったこと、
立替払契約に基づく賦払金の支払のための購入者の預金口座の開設は、時には岩上商会が、購入者の名で開設したこともあること、
契約書は、岩上商会が自社の事務所で作成したこともあったこと、
岩上商会は昭和五九年ころから経営が不振となり昭和六〇年七月には、後納商品などに係る賦払金の支払を中止したこと、右の事情で原告は岩上商会に係る立替金債権の回収を始め、被告らと交渉をしたことが認められる。
(3) 右の事実によると、岩上商会は、全部ではないが、立替金の交付を受けながら、商品の分納、後納、岩上商会による賦払金の支払という立替払契約が予定しないことを行っていた。それが立替払契約とその商品を分離させ、岩上商会をして、信販会社から、立替金の安易な入手をすることの考え方を持たせ、それらの事情を購入者に充分に説明せず、岩上商会が中心となって契約書を作成、立替金の交付を受け、これを資金として利用していたことが認められる。
右は購入者軽視の立替金制度の運用と評することができる。
(4) 右の事情のもとにおいて、被告らが岩上商会又は流山との間で、「名義貸し」の合意が、事前に、なされていたとは認め難いところである。又、債権回収のための原告職員との折衝において、被告らが「名義貸し」の意味を理解して、自由に発言したかについてみるに、下記事由に照らして疑問である。けだし、「名義貸し」の事前の合意がないこと、前記(2)、(3)認定の岩上商会の取引の実体、被告らが立替払契約についての理解が乏しいこと(前記(2)、(3)認定と被告ら本人尋問の結果によって認める。)及び六号事件甲第三号証、第六号証の「名義貸し」に対して、不本意であることが看取させる記載があることなどである。
しかして、前記五、2、(二)、(1)掲記の甲号各証の「名義貸し」に沿う各記載は、被告らの意思を表示しているとは認め難く、措信しない。
3 六号、七号事件の各請求原因7項、8項は、被告らのそれぞれが、岩上商会又は流山に対して、「名義貸し」をしたことを前提とするものであるが、それが認められないことは先に認定したとおりである。従って、右の各主張は、その余の点を考察するまでもなく、いずれも失当であり、採用できない。
第二六号、七号事件の予備的請求について
原告の被告らに対する予備的各請求は、被告らが岩上商会又は流山に対する「名義貸し」の存在を前提とするものであるところ、それが認められないことは、前記主たる請求の項において、認定のとおりである。従って、その余の点を考察するまでもなく六号、七号事件の予備的請求は、いずれも、失当である。
第三結論
以上の次第であるから原告の被告らに対する各請求は、いずれも、理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 保田文雄)