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本庄簡易裁判所 平成18年(ハ)23号 判決 2007年6月14日

原告(反訴被告)

株式会社オリエントコーポレーション

代表者代表取締役

上西郁夫

訴訟代理人

土屋満男

荒金久郎

訴訟代理人弁護士

山崎勇人

被告(反訴原告)

乙川太郎

訴訟代理人司法書士

市村隆治

主文

1  原告(反訴被告)は,被告(反訴原告)に対し,金121万0596円及び内金97万9000円に対する平成17年7月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告(反訴被告)の請求を棄却する。

3  訴訟費用は,本訴反訴を通じ,原告(反訴被告)の負担とする。

4  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第1  請求

(本訴)

被告(反訴原告)は,原告(反訴被告)に対し,金23万4011円及びこれに対する平成17年9月28日から支払済みまで年26.28パーセントの割合による金員を支払え。

(反訴)

主文同旨

第2  事案の概要

1  本訴請求

本件は,貸金業者である原告(反訴被告)が,被告(反訴原告)と平成12年5月15日,ローンカード「アメニティ」会員契約(利率年25パーセント,遅延損害金10万円未満年29.20パーセント,10万円以上100万円未満年26.28パーセントとする金銭消費貸借契約)を締結し,平成12年5月22日から同17年7月20日までの間,別紙計算書の「取引日欄」,「借入額欄」,「返済額欄」記載のとおり貸し付けと返済を繰り返し(争いがない。以下「第3取引」という。),利息制限法の利率による再計算に基づいて残元金と遅延損害金の支払いを請求している事案である。

2  反訴請求

本件は,被告(反訴原告)が,原告(反訴被告)との間で,上記取引以前に平成6年12月2日,金165万1100円借入れの金銭消費貸借契約(以下「第1取引」という。)及び同8年8月12日,金10万円借入れの金銭消費貸借契約(以下「第2取引」という。)を締結し,第1取引については同11年12月13日,第2取引については同9年6月12日,いずれも債務を完済したが(乙4,株式会社群馬銀行深谷支店の預金取引履歴明細表に基づく推定計算),第1取引から第3取引を通算して計算すると別紙計算書記載のとおり過払金が発生している他,原告(反訴被告)は過払金に関し,民法704条所定の悪意の受益者であるとして,過払金発生時以降の同条所定の法定利息の支払を,不当利得として返還請求している事案である。

3  争いのない事実等

(1)  原告(反訴被告)(以下「反訴被告」という。)は,貸金業の規制等に関する法律により登録を受けた貸金業者であり,被告(反訴原告)(以下「反訴原告という。」)に対し,利息制限法を超える金利で貸付を行っていた。

(2)  反訴原告と反訴被告の間には上記第3取引が存在する(甲1)。

(3)  反訴原告と反訴被告との間には,第3取引以前に,遅くも平成6年12月頃には取引が開始され,以後,同7年1月12日から同17年7月20日までの間,反訴原告の群馬銀行深谷支店の預金通帳から返済金の引き落としがなされている(乙4)。

(4)  上記引き落とし中,平成12年7月12日以降の引き落とし額は,反訴被告の入金履歴と合致している(甲3,乙4)。ただし,同12年10月17日,14年4月17日,5月3日,7月17日,16年6月17日の各105円及び17年3月25日の1万5067円の入金(甲3)は預金通帳(乙4)からの引き落としではない。また,同17年1月4日の3万0150円,3月7日の1万5000円及び7月20日の1万5100円の各入金額(甲3)は預金通帳(乙4)からの各引き落とし額(3万0570円,1万5210円,1万5310円)を下回るが,この異同については反訴原告が甲3の額を入金額と認めた。

4  争点

(1)  第3取引以前の取引の内容(平成6年12月2日及び同8年8月12日の借入額)。

(反訴原告の主張)

反訴原告と反訴被告との間には,遅くとも平成6年12月頃には取引が開始され,同7年1月12日から反訴原告の群馬銀行深谷支店の預金通帳から返済金の引き落としがなされている。同6年12月当時の反訴原告の資金需要と上記引き落とし総額を基にアドオン方式によって推定計算したものが金165万1100円借入の第1取引であり,また,同8年8月の反訴原告の新たな資金需要と上記預金通帳からの引き落とし額を基に推定計算したものが金10万円借入の第2取引である。なお,第1取引及び第2取引の各返済金の引き落としは並行して行われている。

(反訴被告の主張)

第1,第2取引は,第3取引の基本契約に基づく取引ではなく,基本契約を異にする別個の契約であるから,すべての取引を一体として引き直し計算することは不合理である。

平成7年1月12日から同11年12月13日までの各入金は,金銭消費貸借契約に基づく債務の弁済とは限らず,立替払契約に基づく債務の弁済である可能性もある。

(2) 反訴被告は,過払金の返還について,悪意の受益者か。

(反訴原告の主張)

反訴被告は,貸金業の登録業者であり利息制限法を超える金利で貸付けていることを知りながら,反訴原告から返済を受けていたものであるから悪意の受益者である。

(反訴被告の主張)

反訴被告は,弁済金を受領する時点において不当利得が生じていたことを認識していなかった。

第3  争点に対する判断

1  争点(1)について

①  第三取引の非新規性

反訴被告は,第3取引は平成12年5月15日締結の基本契約(ローンカード「アメニティ」会員契約)に基づく取引であると主張する。

しかし,証拠(乙5)によれば,当事者間の取引は,平成6年11月頃,反訴原告が,群馬銀行深谷支店に備え置かれた反訴被告の借入申込書を作成・郵送して始まった事実及びローンカード「アメニティ」会員契約は反訴原告が従前使用していたカードの有効期限が近付いたため,有効期限の更新を図る目的で,やはり同銀行に備え置かれた「ローンカードアメニティ会員入会申込書」を反訴被告に郵送して第3取引の借入申込みをした事実が認められる。

また,反訴被告がカードの有効期限を比較的短期に設定し,番号の異なるカードを再発行して従前のカードを回収し,カードの有効期限の更新を繰り返している事実は,当裁判所が本件と同種の不当利得返還請求訴訟の審理を通じて職務上知り得た裁判所に顕著な事実である。

したがって,ローンカード「アメニティ」会員契約を第3取引の基本契約と解するのは相当ではなく,当事者間の基本契約は第3取引以前に締結されていたものと認められる。

②  取引経過

反訴原告は,反訴被告との取引が,別紙計算書のとおり,平成6年12月2日から開始され同17年7月20日まで継続している旨主張しているところ,平成7年1月12日から同17年7月20日まで返済と借入れが継続していた事実は,反訴原告の群馬銀行深谷支店の預金取引履歴明細表(乙4)によって,明瞭に認められる。

ところが,反訴被告は,反訴原告との取引経過について,平成12年7月12日以降の取引履歴(甲3)を開示するのみで,それ以前の取引履歴については既に削除或いは廃棄処分したと主張して開示しないばかりか,平成11年12月13日以前の入金は立替払契約に基づく弁済の可能性もあると主張し,なんらの立証もしない。

③  取引履歴の保存義務及び開示義務

貸金業法19条及び同法施行規則16条は,貸金業者に貸付けの契約について,契約年月日,貸付日,貸付金額,返済日,返済金額等の事項を記載した業務帳簿の保存を義務づけ,同規則17条は,上記帳簿を債権消滅の日から少なくとも3年間保存しなければならないと定め,その違反については罰則を課している(同法49条3項)。保存期間は3年にとどまるわけではなく,3年経過後は帳簿を保管していなくても罰則に問われない趣旨にすぎない。

また,商法19条2項(平成17年改正前の同36条1項)は,商人に対して商業帳簿の作成を義務づけるとともに,同条3項(改正前の36条1・2項)は帳簿閉鎖の時から10年間,商業帳簿及びその営業に関する重要な資料の保存義務を定めている。この10年間の期間は,帳簿の閉鎖,すなわち,帳簿の使用を廃止した時点から起算される。

したがって,取引が継続している限り保存期間が満了することはあり得ず,当該帳簿等を削除・廃棄等することは法に違反する。

更に,取引履歴の開示について,貸金業者は債務者から取引履歴の開示を求められた場合には,その開示要求が濫用にわたると認められるなど特段の事情のない限り,貸金業の規制等に関する法律の適用を受ける金銭消費貸借契約の付随義務として,信義則上,保存している業務帳簿(保存期間を経過して保存しているものを含む。)に基づいて取引履歴を開示すべき義務を負うとされている(平成17年7月19日最高裁判決)。

同判決は,貸金業法が罰則をもって貸金業者に業務帳簿の作成・備付け義務を課している趣旨について,「債務内容に疑義が生じた場合は,これを業務帳簿によって明らかにし,貸金業者と債務者との間の貸付けに関する紛争の発生を未然に防止し又は生じた紛争を速やかに解決することを図ったものと解するのが相当である。」と判示している。

また,商法が,商業帳簿及び営業に関する重要書類の保存義務を定めている趣旨の一つは,商人と利害関係人の間で紛争が生じた場合に有力な証拠資料となるからである。

④  反訴被告の取引履歴の保存実態

反訴被告は,取引履歴の保管状況について,弁済の情報については「本来,完済されれば保管する必要はなくなる。」,「弁済に係る情報(入金履歴)については平成2年1月5日以降分の情報を保管しているが,本件で保管されている情報の最初のものは平成12年7月12日の弁済である。」と主張し,貸付けの情報については「完済後2か月程度でコンピューター上から削除している。」,「貸金業法19条の規定に基づく帳簿として,コンピューター上のカード計算書を他の記録媒体に写して管理・保管しているが,その保管期間は当該記録媒体の作成直後の4月1日から起算して10年とされ,保管期間が経過すると廃棄処分を行っている。」と主張している。

保存システム及び保存実態は貸金業法,同規則,商法の諸規定を無視する違法なものであるほか,矛盾に満ちており,反訴原告の文書提出命令の申立にも応えず,当裁判所の釈明に対しても従前の主張を繰り返すのみで,各保存規定の意図するところを省みない。

⑤  本件の取引履歴の保存期間と保存実態の違法性

証拠(乙5,15,16)及び弁論の全趣旨によれば,反訴原告は,平成6年12月頃,「トヨタのカルディナ」を購入した事実が認められ,その際に第1取引の借入れをしたもので,同取引を開始した際に,基本契約を締結したものと推認される。

また,証拠(乙4)によれば,第1取引の返済と重複・並行して,平成8年9月12日から同9年6月12日まで9回にわたって,毎回1万2千余円の引き落としがなされている事実が認められ,第2取引の存在の事実が推認される。上記認定に上述の①認定事実を併せ考えると,第3取引は第1・第2取引と連続する一連の取引と認められ,反訴原告の最後の返済は平成17年7月20日であるから,貸金業法の定める最終の取引から3年の保存義務期間内にある。かりに,別個の取引としても,商法の定める10年の保存義務期間内にある。

⑥  証明妨害と真実擬制

民事訴訟法224条2項・3項は,当事者が相手方の使用を妨げる目的で,提出義務のある文書を使用できないようにしたときは,相手方の主張を真実と認めることができると規定している。

相手方の使用を妨げる目的とは,訴訟上書証として用いることを妨害する意図があれば足り,提出義務ある文書とは,同法220条で提出義務ありと定められている文書であり,取引履歴を記載した業務帳簿・商業帳簿やこれらに代わる書面・電磁的記録は同条3項後段の法律関係文書に該当するものと認められる。

保存期間を経過していない帳簿・書類等を正当な理由もないのに毀滅した場合には,たとえ具体的な紛争がなくとも,相手方の使用を妨げる目的で文書を毀滅したことになると解されている(大判昭和6・12・5,裁判例5巻271)。

取引履歴を基礎とすれば,過払金の有無・額は容易に立証される。反訴被告の取引履歴の削除,廃棄の処分は,顧客から過払金算出の資料として開示が求められることもあることを知りながら,保存期間内にある取引履歴を敢えて削除,廃棄して反訴原告が証拠として使用できないようにしたものと認められる。

そうすると,反訴原告が,平成6年12月2日及び同8年8月12日の反訴被告からの借入れの事実に関して具体的な主張をすること及び同事実を他の証拠により証明することが著しく困難であると認められるから,民事訴訟法224条3項を適用して,反訴原告が取引履歴によって立証しようとする事実,すなわち,上記両日の借入れの事実及び第1ないし第3取引を通算して計算した結果別紙計算書のとおり過払金が生じているとの主張を事実と認める。

2  争点(2)について

反訴被告は金融業者であり,反訴原告と利息制限法の制限利率を上回る利息の約定をして取引をし,超過利息を含めた返済を受領していたものであるから,いずれ過払金が生じることを十分認識していたものと認められる。したがって,反訴被告は,本件取引に基づく過払金について悪意の受益者であると認められ,反訴原告に対し,民法704条所定の法定利息を,利得発生日から支払う義務を負う。

第4  結論

以上によれば,反訴請求は理由があるからこれを認容し,主文のとおり判決する。

(裁判官 堤幸正)

別紙計算書<省略>

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