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札幌地方裁判所 平成元年(ワ)951号 判決 1992年3月30日

原告

穴原尚

穴原征子

右両名訴訟代理人弁護士

西川哲也

被告

札幌市

右代表者市長

桂信雄

右指定代理人

浅野清美

外四名

右訴訟代理人弁護士

門間晟

主文

一  被告は、原告穴原尚に対し、八〇二万円及び内金七二九万円に対する昭和六三年一二月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告穴原征子に対し、七六二万円及び内金六八九万円に対する昭和六三年一二月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを三分し、その二を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

一被告は、原告穴原尚に対し、二〇一八万六七〇四円及び内金一八六八万六七〇四円に対する昭和六三年一二月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二被告は、原告穴原征子に対し、一九二八万六七〇三円及び内金一七七八万六七〇三円に対する昭和六三年一二月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一事案の要約

本訴の事案の要約は次のとおりである。

1  原告らは、同人らの子哲夫(以下「哲夫」という。)が学校給食でそばを食べて、そばアレルギー症を発症し、その帰宅途上、アレルギー発作に起因する呼吸困難、異物誤飲により窒息死したが、学校ないしその教諭及び札幌市教育委員会を含む被告に、安全配慮義務違反又は哲夫の症状に応じた適切な対応をとらなかった過失があったとして、債務不履行又は国家賠償法一条ないし民法七一五条に基づき、損害賠償(哲夫の逸失利益の相続分各自一四二八万六七〇三円、原告ら固有の慰謝料各自七〇〇万円、原告尚が負担した葬儀費用九〇万円、弁護士費用各自一五〇万円から原告各自の相続分に応じて受領した日本体育・学校健康センターの災害共済給付金三五〇万円を控除した金額)と弁護士費用を除くその余の損害賠償金に対する遅延損害金の支払を求める。

2  被告は、そばアレルギーは極めて少なく、一般人の知識として普及していなかったことから、中野佐登教諭においては、そばがアレルギー反応を示すことも、そばアレルギーが気管支喘息などの重篤な症状に陥ることも知らなかったし、札幌市教育委員会も、その事故例の報告も、国からの何らの報告、指導、勧告等も受けていなかったことで、本件事故まで、このような事故を未然に防止しうる体勢を取り得なかったとして、被告の過失を争う。

二争点

本件の主要な争点は、学校ないしその教諭及び札幌市教育委員会を含む被告に安全配慮義務違反又は過失があったか(過失に関して、被告に本件事故の予見可能性及び回避可能性が存在したかを含む。)にある。

三証拠<省略>

第三争点に対する判断

一事実関係について

1  当事者の関係(争いのない事実)

(一) 哲夫は、昭和五一年一二月二八日生の男子で、昭和六三年一二月八日当時、札幌市立新琴似小学校の六学年に就学通学していた。

(二) 原告穴原尚(以下「原告尚」という。)は哲夫の父、原告穴原征子(以下「原告征子」という。)は哲夫の母である。

(三) 札幌市は、札幌市立琴似小学校「以下「新琴似小学校」という。)の設置者で、中野佐登教諭(以下「中野教諭」といい、同人の証人尋問における証言を「中野証言」という。)の使用者であり、哲夫を六学年として、同小学校に受け入れていた。

(四) 中野教諭は、哲夫の五学年時と六学年時に於ける担当教諭であった。

2  死亡事故の発生

哲夫は、昭和六三年一二月八日午後二時過ぎに、学校から自宅へ向かう道路端で意識不明の状態で倒れているところを、通行人により発見され、北札幌病院に収容されたが、同日午後二時二〇分に死亡した(原告征子本人)。

その直後の死因は異物誤飲による窒息死であり、そばを食べたことによるそばアレルギーによる強度の喘息発作のため、異物誤飲となったものと推認される<書証番号略>、福原正和証言)。

3  哲夫の体質

哲夫は、幼小のころから気管支喘息の持病があり、七歳の時に食事アレルギー症の一つである「そばアレルギー症」に罹患した(争いのない事実)。

4  本件事故までの学校と原告らとの関係

(一) 新琴似小学校では、おおむね月一度は給食にそばを出してきた。哲夫は、小学校五年生以後本件事故当日まで学校給食においてそばを食べたことはなかった(被告の自認する事実)。

他方、哲夫は、その間、おにぎり等の代わりの食べ物をもってくることもなかった(中野証言、原告征子本人)。

(二) 原告らは、昭和六二年四月六日、中野教諭を介して新琴似小学校に対し、学校生活を送る上で担任に知って欲しいこととして「給食で注意すること」に「そば汁」と記載し、さらに、欄外に「小児ぜんそくがありますのでご迷惑をおかけする時もあるかと思います」と記載した児童調査票を提出した。中野教諭は、当時、この調査票を読み、その内容を認識した<書証番号略>中野証言、原告征子本人)。

(三) 哲夫は、昭和六二年四月三〇日の給食で親子そばが出た際、中野教諭に対して、そばが食べられないと告げた。中野教諭は、そのことについて、詳しい説明は求めなかった。(中野証言)

(四) 中野教諭は、昭和六二年五月上旬の家庭訪問の際、原告征子から、哲夫の体質や疾患のうち、喘息については、発作を抑える薬を持っているので、その薬を吸引してしばらく休んでいれば大丈夫との説明を受けた。そばについては、そばを食べると具合が悪くなると聞いただけで、その具体的症状は聞かなかった。(中野証言)

そこで、中野教諭は、原告征子に対し、給食にそばが予定されているときは、哲夫におにぎりやパンを持参させるよう要請した(中野証言、原告征子本人)。

(五) 中野教諭は、昭和六二年四月ころ、前担任教諭から、哲夫は喘息がひどいから気を付けるようにとの引き継ぎを受けた。哲夫は、小学校五年生当時、六、七回の喘息発作を起こした。中野教諭は、その喘息発作がひどいときは哲夫を保健室に連れて行き養護教諭に診せた後、学校の職員等の付き添いで帰宅させたことが四回程あり、そのうちの一回は中野教諭自身が付き添った。六年生になってからは大きな発作は起きなかった。(中野証言)

(六) 学校は、昭和六三年一二月八日の六年生の給食に牛乳、五目そば、チーズポテト、からしあえを提供することを、父兄に予告し、当日予定とおりの給食を提供した<書証番号略>、中野証言、原告征子本人)。

5  本件給食時の哲夫の行動

(一) 原告征子は、昭和六三年一二月八日の学校給食でそばが出されることを知っていたが、哲夫におにぎりとかパン等の給食の代わりとなる昼食を持たせなかった(原告征子本人)。

(二) 昭和六三年一二月八日の給食は午後〇時四五分から食べ始めた。哲夫は、その給食時に、中野教諭にそばを食べていいかと尋ねたので、中野教諭は、「うちで食べていいと連絡がきていないから食べないように」と指示した。哲夫はうなずいていた。(中野証言)

(三) 同日午後〇時五〇分ころ、給食にはいって間もなくの、午後一時一〇分ころ、哲夫は、口の回りが少し赤くなっていると中野教諭に申し出た。中野教諭がそばを食べたかを問うたところ、肯定したので、調べたところ、そばの三分の一程度を食べたことがわかった。中野教諭の見たところでは、口の周辺に変化は見当たらなかった。(中野証言)

6  アレルギー症状発生後の学校側の措置

(一) 中野教諭がそばを食べたらどうなるかを尋ねたところ、哲夫は、顔中にブツブツができてきて二、三日は治らない、病院に行って注射しなければならないと答えた。哲夫は泣いていた。(中野教諭)

(二) 中野教諭は、午後一時二〇分ころ、原告征子に電話し、哲夫がそばを食べたこと、口の回りが赤くなっていると言っていること、病院に連れて行くのは少しでも早いほうがいいと思うのでこれから帰したいと述べたところ、原告征子から帰して欲しいとの返事を受けたので、単独で帰宅させても大丈夫と判断し、哲夫を保健室に連れて行くことも養護教諭に診せることもせず、一人で帰宅させた。哲夫は、同時二五分ころ学校を出た。(中野教諭)

(三) 原告征子は、哲夫を迎えに行かなかった(原告征子本人)。

二そばアレルギーについて

1  そばアレルギー

そばアレルギーは食事性抗原に原因するアレルギーであり、生体にそばアレルギー抗体が産生されているところに同抗体が再び侵入してくると抗原・抗体反応が起き、アレルギー反応が惹起されて、アレルギー性疾患が発症するものである。その暴露は、そばをそば粉のまま吸引しても、経口摂取しても発症し、ごく微量であっても反応し、その反応も即時型で、時として激しくかつ重篤な内容を含んでいる。同抗原の除去療法は、それを含んだ食事を食べないようにすることが重要であり、そば枕も使用してはならないと言われている。アレルギー性疾患には気管支喘息等があげられる。(<書証番号略>、福原正和及び中村晋証言)

2  気管支喘息

気管支喘息は、気管あるいは気管支の過敏性が亢進した状態で様々な刺激あるいは原因によって、気管・気管支の広範な狭窄を起こすことを特徴とする疾患である。症状としては、主に喘鳴、呼吸困難、咳嗽などがあげられ、気管支における広範な粘液栓形成、気管支平滑筋の攣縮、粘液浮腫、これらによる換気不全が生じる。これらの症状の結果として、喘息発作が重くなれば呼吸困難、意識喪失、そして窒息死に至る。しかも、これらの現象は短時間に生起することが多い<書証番号略>。

喘息発作は時と所を選ばない。患者が発作に見舞われた場合、救急医療が間に合うかが生死を分けることもある。アレルギー性喘息患者は人口の二パーセントにのぼり、そばアレルギー患者はその1.46パーセントの割合を占めるとの報告もある(中村晋証言)。

3  そばアレルギー症の報告例

そばアレルギーの症状は、昭和一七年に田中隆人九州大学教授により紹介されて以来、すでに四七年余りを経過しており、喘息の診断、治療に携わる医師にとっては周知の疾病である。一般人向けの書物においても、昭和三九年当時、そばがアレルギーの原因として紹介されており、昭和四五年に婦人生活社から出版された小児喘息の解説書では、そばの危険性について具体的な例をあげて警告する等、本件事故までに、そばが原因で即時型で全身性の激しいショック状態に陥るアナフィラキシー・ショック症状や激しい喘息発作などを起こすことを警告する書物が多数存在した。(<書証番号略>)

また、昭和五五年一月一七日付けの朝日新聞において、給食でそばを食べた児童の喘息発作の記事(堺市の養護教諭の経験談)が報道され(<書証番号略>)、昭和六二年一月二三日付けの同新聞において、具体的症例をあげて、そばアレルギーでアナフィラキシー・ショックを起こす等の危険性を示唆する記事が報道された(<書証番号略>)。

なお、本件事故の直後の昭和六三年一二月一三日、新琴似小学校の調査において、二名の児童がそばで湿疹がでるとか口の回りが赤くなるとのそばアレルギーの症状を申告した(<書証番号略>)。

三学校給食について

1  学校給食は、児童及び生徒の心身の健全な発達に資し、かつ、国民の食生活の改善に寄与するために、学校において児童及び生徒等に対して実施される給食である(学校給食法一、二、三条)。義務教育諸学校の設置者は、当該義務教育諸学校において学校給食が実施されるように努めなければならないとされ(同条四条)、学校給食の実施者は、その学校の設置者であると解されている(昭和三二年一二月一八日委管七七、福岡県教委教育長あて、文部省管理局長回答「学校給食費の徴収、管理上の疑義について」参照)

2  学校給食実施基準第二条は「学校給食は、当該学校に在学するすべての児童又は生徒に対し実施されるものとする。授業日の昼食時に実施する。」と規定し、昭和三一年六月五日文管学二一九、各都道府県教育委員会、知事、小学校、小学校等を付属して設置する国立大学の長あて、文部省管理局長通達では、学校給食を当該学校の教育計画の一環として実施し、在学するすべての児童又は生徒に対し、もれなく行われることの原則とするとし、さらに、「義務教育諸学校における学校給食運営のための組織として、(1)学校給食の運営は、教育委員会の指導助言により、当該学校の校長が計画、管理し、職員を指揮監督して行うこと。(2)学校の職員はそれぞれの職務に応じ、学校給食に関する事項を分担すること。(3)教師は学校給食に関する研修につとめ、学校給食計画の改善向上を図る。」こと等を指示した。

また、小学校・中学校学習指導要領によれば、学校給食は、教育課程上、特別活動のうちの学校活動に位置付けられており、学校教育の一環としての指導が行われている。

3  昭和三四年五月一八日文体保八三、各都道府県教育委員会教育長、各都道府県知事、国立高等学校長、付属学校を置く各国立大学長あての文部省体育局長通知では「児童生徒等に対し、健康観察その他によって健康の異常の発見につとめ、伝染病、食中毒のような疑わしい症状のある児童生徒等があるときは、すみやかに学校医または医師の診断を受けさせ、その指導により必要な措置を講ずる」よう要請し、かつ、各市町村当局にこの旨を示達するよう求めているところである。

さらに、食中毒や食品の汚染などを主目的としたものであったが、昭和四六年七月二日文体給一九一、各都道府県教育委員会教育長あて「学校給食における衛生管理の徹底について」の文部省体育局長通知では、市町村教育委員会の処理事項として、「給食施設の衛生管理、良質な給食物質の選定など学校給食の衛生管理について関係保健所等との連絡を密にし、必要に応じてその協力、助言、援助を受けるようにすること、学校給食関係職員に対して、衛生管理の徹底を図り、衛生思想の高揚につとめること」を、昭和五九年六月二六日文体給一三三、各都道府県教育委員会教育長、各都道府県知事、付属学校を置く各国立大学長、国立久里浜養護学校長あて、文部省体育局長通知では、「市町村教育委員会においては、学校給食関係職員に対して衛生管理に関する研修の機会を設けること」等を指示し、かつ、いずれも市町村教育委員会及び学校給食実施校等に対する同趣旨の指導の徹底方の配慮を要請した。

これらの通達等の指示の内容からは、その給食物資により生じる各種障害についても、同様の配慮を求めるであろことがうかがえるところであり、また、これらの通達等趣旨から、要請された市町村等への指示等がなされたと推認される。

四被告の過失について

1  予見可能性及び回避可能性について

(一) 中野教諭

中野教諭は、本件事故まで、札幌市教育委員会又は学校長等から、そばアレルギーについての具体的情報を提供されていなかったこともあって、そばアレルギーにより気管支喘息などの重篤な症状に陥ることも知らなかった(中野証言)。

しかしながら、中野教諭は、小学校の教諭として、学校内の児童の安全を配慮する義務を負担しており、給食についてもその安全等についての研修の義務が課せられていたことに、前認定のように、中野教諭は、昭和六二年四月六日付け児童調査票で、哲夫が給食で注意することとして「そば汁」と申告され、同年四月末には哲夫からそばは食べられないことを告げられていたこと、学校の健康診断書には哲夫に気管支喘息の疾病が存在すると記載されていたこと、食べ盛りの哲夫がそばの出る給食時におにぎりとかパン等の給食に代わる食事を持参せず、そばも食べずに五、六学年時を過ごしてきたことからすると、中野教諭は哲夫の担任教諭として、哲夫がそばを食べないことに何か重大な事情が存在し、それが疾病の発症に関連するのではないかと考えるべきことを要求してもあながち不可能を強いるものではなく、右に加えて、先に認定したように、本件事故以前から、そばアレルギーを警告し、その対策を示す多数の書物が出版され、その危険性が新聞でも指摘されていたことを斟酌すると、中野教諭には、そばアレルギー症の重篤さと、哲夫に給食でそばを食べさせないことの重要性及びそばを食べることでの本件事故を予見し、結果を回避することは可能であったと認めるのが相当である。

(二) 札幌市教育委員会

教育委員会は、当該地方公共団体が処理する教育に関する事務及び法律又はこれに基づく政令によりその権限に属する事務(その中に、校長、教員その他の教育関係職員の研修、生徒、児童等の保険、安全、厚生及び福利に関することが含まれる)を管理し、及び執行する(地方教育行政の組織及び運営に関する法律二三条)。

右事実に、先に認定した、給食についての教育委員会の役割、札幌市教育委員会が各種通達等により教諭を含め給食を担当する職員に給食の安全教育の義務を負担し、何よりも安全な給食の提供義務が存在すると解されること、本件事故以前から、そばアレルギーを警告し、その対策を示す多数の書物が出版され、その危険性が新聞でも指摘されていたことを斟酌すると、札幌市教育委員会は、学校の日常教育等に追われる中野教諭より容易にそばアレルギー症の重篤さと、学校給食にそばを出すことに危険を伴う場合が存在すること及びそばを食べることによる本件事故を予見し、結果を回避することは可能であったと認めることができる。

2  被告の過失について

(一)  以上のとおりであるから、学校給食の実施者である被告の学校に関する機関として諸機能を行使する札幌市教育委員会は、学校給食の提供に当たり、その児童に給食の材料等に起因するそばアレルギー症の発生に関する情報を現場の学校の学校長を始め、教諭並びに給食を担当する職員に周知徹底させ、そばアレルギー症による事故の発生を未然に防止すべき注意義務が存在し、中野教諭にも給食時に哲夫がそばを取らないよう注意し、哲夫からそばを食べてそばアレルギー症状との訴えを受けたのであるから、哲夫を保健室に連れて行き養護教諭に診せるとか、哲夫の下校時に自らないし学校職員等同伴させる等の措置を取るべき注意義務が存在したと解するのが相当である。

(二) まとめ

以上の次第であるから、本件事故は中野教諭の過失と札幌市教育委員会の過失が競合して、生じたものと認めるのが相当である。したがって、被告は、哲夫の死亡による損害を賠償すべき義務がある。

もっとも、中野教諭が本件事故まで、札幌市教育委員会等から、そばアレルギーについての具体的情報を提供されていなかったこと、同人が学校の日常教育等に追われる個人の立場にあったこと等を斟酌するとき、そばアレルギー症の重篤さと、そばを給食に提供する際の注意と対策を指示ないし、個々の教諭等の給食に実際に関与する者への研修等によりそのことの周知徹底をしなかった札幌市教育委員会の責任に重いものがあったと言わなければならない。

五損害

1  哲夫の逸失利益 各自一四二八万円

哲夫は、死亡当時一一才であり、高等学校卒業後六七才まで就労による収入を得られたものと認めるところ、その年収を「賃金センサス」昭和六三年第一巻第一表の産業別・企業規模計・学歴計・男子労働者全年令平均給与額四五五万一〇〇〇円とし、生活費割合を五〇パーセントとして、一一才の六七才までのライプニッツ係数12.912により計算した金額に原告らの請求額を斟酌し、本件不法行為と相当因果関係のある哲夫の逸失利益を二八五六万円と認める。

原告らは、右逸失利益の二分の一に相当する一四二八万円を相続した。

2  葬儀費用 原告尚について八〇万円

原告尚は、哲夫の父親であることから、哲夫の葬儀費用を負担したことが推認できる。そして、本件事案の内容等を考慮すると、本件不法行為と相当因果関係のある葬儀費用は八〇万円をもって相当と認める。

3  過失相殺

原告征子は、哲夫がそばアレルギーでそばを絶対に食べないように医者から注意を受けていたこと(原告征子本人)、原告征子は、当日、学校から給食にそばが出ることをあらかじめ知らされており、従前から、給食にそばが出るときは、おにぎりやパン等の給食に代わる食事を持参させるよう指示されてこれを了承していながら、当日、育ち盛りの哲夫にそばに代わる昼食を持たせなかったこと(<書証番号略>、原告征子本人)、中野教諭から、哲夫がそばを食べたこととその異常及び哲夫を帰宅させることを知らされながら、哲夫を迎えに行く行動をとらなかったこと(原告征子本人)を総合すると、原告征子(すなわち原告側)にも本件事故について落ち度があり、その過失割合は、原告ら五割、被告五割と認めるのが相当である。

4  原告らの慰謝料 各自三二五万円

右認定の本件事案の内容、原告と哲夫との身分関係、過失相殺等を総合すると、原告らが被告の本件不法行為により受けた精神的苦痛を慰籍するには、原告各自について、それぞれ三二五万円をもって相当と認める。

5  損害の補填 各自三五〇万円

原告らは、各自、相続分に応じて、哲夫の死亡に伴い日本体育・学校健康センターから支給された災害共済給付金三五〇万円を受領した。

6  弁護士費用 各自七三万円

本件事案の内容等を考慮すると、本件不法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、原告ら各自について、それぞれ七三万円と認めるのが相当である。

7  まとめ

以上のとおりであるから、原告尚の損害は八〇二万円、原告征子の損害は七六二万円となる。

第四結論

請求は、国家賠償法一条に基づく損害賠償として、原告穴原尚に対し八〇二万円及び内金七二九万円に対する本件不法行為の日である昭和六三年一二月八日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の、原告穴原征子に対し七六二万円及び内金六八九万円に対する本件不法行為の日である昭和六三年一二月八日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度で理由があり、その余は失当である。

なお、仮執行宣言の申立については、その必要がないものと認め、いずれもこれを却下する。

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