大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌地方裁判所 平成10年(ワ)1108号 判決 2005年10月28日

主文

1  被告株式会社B工業,被告B1及び被告Dは,原告に対し,連帯して,7163万2342円及びこれに対する被告株式会社B工業については平成10年5月24日から支払済みまで年5分の,その余の被告らについては平成11年10月16日から支払済みまで年5分の各割合による金員を支払え。

2  原告の上記被告らに対するその余の請求並びに被告亡B2訴訟承継人B1,同B3及び被告Cに対する請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用のうち,原告と亡B2訴訟承継人B1,同B3及び被告Cとの間に生じたものは,原告の負担とし,原告とその余の被告らとの間に生じたものは,これを4分し,その1を原告の,その3を上記被告らの負担とする。

4  この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

1  被告株式会社B工業,被告兼被告亡B2訴訟承継人B1,被告C及び被告Dは,原告に対し,連帯して,8987万9966円及びこれに対する被告株式会社B工業については平成10年5月24日から支払済みまで年6分の,その余の被告らについては平成11年10月16日から支払済みまで年5分の各割合による金員を支払え。

2  被告亡B2訴訟承継人B3は,原告に対し,被告株式会社B工業,被告兼被告B2訴訟承継人B1,被告C及び被告Dと連帯して4493万9983円及びこれに対する平成11年10月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,原告が,被告株式会社B工業(以下「被告B工業」という。)との間で工事請負契約を締結し,同契約に基づく施工建物の引渡しを受けたが,当該建物には建築基準法等の建築関連法規に違反するなどの瑕疵があるとして,(1)上記契約の請負人であった被告B工業に対し,不法行為ないし瑕疵担保に基づき,(2)被告B工業の取締役であった被告(兼亡被告B2訴訟承継人)B1及び被告亡B2(以下「亡B2」という。)に対し,商法266条ノ3に基づき,(3)上記建物を設計監理したとする被告Dに対し,不法行為に基づき,(4)上記工事請負契約の締結を強要などしたとする被告Cに対し,不法行為に基づき,それぞれ上記建物の補修費相当損害金等の賠償を求めた事案である。なお,亡B2は,訴え提起後に死亡し,被告B1及びB3(以下「被告B3」という。)がその訴訟を承継した。

1  前提となる事実(争いのない事実は証拠を掲記しない。)

(1)  被告B工業は,建築工事の設計及び請負業等を目的とする株式会社である。

後述の本件建物が施工された当時,被告B1及び亡B2はいずれも被告B工業の取締役(被告B1は代表取締役)であった。

亡B2は,平成12年1月20日に死亡し,被告B1及び被告B3が亡B2を相続した(弁論の全趣旨)。

(2)  被告B工業は,平成8年2月23日,以下のとおり,原告との間で,別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)の設計及び施工を請け負う契約(以下「本件工事請負契約」という。甲1)をした。

工期    着手 平成8年5月1日(確認申請受理後6日以内)

完成 同  年10月20日(着手の日から6か月以内)

引渡時期  完成の日から6日以内

請負代金  1億0135万2000円(うち消費税額295万2000円)

支払時期  平成8年2月26日(本設計着手時) 300万円

同  年5月1日(着工時)  2000万円

同  年8月31日(上棟時)  2000万円

完成引渡時  5835万2000円

その他  5階住宅部分の浴室ブロー及び洋室の暖房機1機の設置工事については,別途追加工事とする。

(3)  原告は,被告B工業に対し,本件工事請負契約に基づき,以下のとおり,請負代金及び追加工事代金として合計1億0641万9500円を支払った。

平成8年2月26日       300万円

同  年5月21日      2000万円

同  年8月20日      2000万円

同  年11月14日  6272万9500円

平成9年1月18日        69万円

(4)  被告B工業は,本件建物の建築工事(以下「本件工事」という。)を行い,平成8年11月14日,原告に対し,本件建物を引き渡した。

2  争点

(1)  本件建物の瑕疵の存否

(原告の主張)

ア 本件建物のような鉄筋コンクリート造建物の瑕疵(欠陥)の存否を判断するに当たっては,当該建物が,①設計図書,契約図書,確認図書どおりに建築されているか否か,②建築基準法(以下「法」という。),同法施行令(以下「施行令」という。),建設省告示,鉄筋コンクリート造建物についての日本建築学会建築工事標準仕様書(JASS5)等,我が国の建築界の通説的規準を満たしているか否かによって判断すべきである。

イ 本件建物には,以下のとおり,瑕疵が存在する。

(ア) 構造躯体コンクリートの打ち込み不良

a 本件建物には,以下の箇所に有害な打ち込み欠陥であるジャンカ及びコールドジョイントが存在する(なお,以下において,欠陥箇所等の特定は,調査報告書(甲41)添付の設計図5及び6の記載によるものとする。)。

ジャンカ

①地階X2・Y1-2間地中梁  1か所 長さ約700mm

②地階X3・Y3-4間地中梁  2か所 長さ約430mm

径150mm

③地階X4・Y1-2間地中梁  1か所 径150mm

④地階Y3・X3-4間地中梁  1か所 径300mm

コールドジョイント

①地階X4・Y1-2間地中梁  1か所 長さ約2600mm

②地階X4’・Y2-3間地中梁 3か所 長さ約1000mm

同約600mm

同約600mm

③地階X5・Y2-3間地中梁  1か所 長さ約600mm

④地階Y3・X3-4間地中梁  2か所 長さ約1300mm

同約1200mm

⑤地階Y3・X4-5間地中梁  1か所 長さ約900mm

b 上記のとおり,本件建物は,コンクリートの一体性に欠け,コンクリートに要求される性能を満たしておらず,JASS5・2・3・b,同5・7・6,施行令74条3項の各規定に違反する有害な打ち込みの欠陥施工によるものであって,法20条(平成10年法律第100号による改正前のもの。以下,本条につき同じ。),施行令36条1項,3項(平成12年政令第211号による改正前のもの。以下,本条各項につき同じ。)に定める「変形又は振動が生じないような剛性や靱性」を保持していない。

(イ) コンクリートのひび割れ(亀裂)の存在

a 本件建物の耐力壁は,「構造耐力上主要な部分」(施行令1条)であるところ,以下の箇所にひび割れの存在が確認された。

①1階X2・Y1-3間W18A壁  5か所 幅0.1~0.25mm

②1階X3’・Y2’-3間W12壁  1か所 幅0.2mm

③1階X3・Y3-5間W18A壁  1か所 幅0.2mm

④1階X2’・Y3-3’間W12壁  1か所 幅0.3mm

⑤1階X4・Y1-2間W18A壁  3か所 幅0.08~0.2mm

⑥1階X6・Y1-2間W18A壁  2か所 幅0.2~0.3mm

⑦1階Y3・X1-2間W18A壁  3か所 幅0.08~0.2mm

⑧1階X4~6・Y1-2間スラブ  7か所 幅0.15~0.5mm

⑨4階405号バルコニー下部CS1  無数 幅0.1mm

b コンクリートのひび割れは,コンクリートの中性化,鉄筋の発錆等により,部材の耐久性を低下させ,構造部分の剛性低下をもたらす。

上記のとおり,本件建物は,骨材等の材料の選定(施行令72条),打設時の養生(同75条),型枠の除去期間(同76条)を誤ったことにより,JASS5・2・3・bの規定に違反して数多くのひび割れが発生し,その結果,コンクリートの一体性や耐久性,剛性が低下しているのであって,法20条,施行令36条1項,3項に定める「変形又は振動が生じないような剛性や靱性」を保持していない。

(ウ) 鉄筋のかぶり厚さ不足

a 本件建物の鉄筋のかぶり厚さ(鉄筋コンクリートの中に入っている鉄筋の表面からコンクリートの表面までの部分の厚さ)が不足している箇所は,以下のとおりである。

①地階X3・Y3-4間地中梁差筋

②地階Y3・X3-4間地中梁差筋

③地階Y2・X2-4間F1基礎縦筋

④地階X4・Y1-2間F1基礎縦筋

⑤地階X2・Y1-2間F1基礎縦筋

⑥1階X1・Y1-2間W18A壁横筋

⑦1階X3・Y3-5間W18A壁横筋

⑧1階Y4・X5-6間W18A壁横筋

⑨2階Y1・X4-6間大梁あばら筋

⑩2階X1・Y1-2間大梁あばら筋

⑪2階X1・Y3-5間大梁あばら筋

⑫2階Y3・X3-4’間大梁あばら筋

⑬2階Y4・X5-6間大梁あばら筋

⑭3階305号室CS1バルコニー主筋下面

⑮4階Y1・X4-6間大梁あばら筋

b かぶり厚さが薄いと鉄筋が錆びたり,火災の際の熱に耐えられなくなることから,かぶり厚さは,建物の強度,耐久性,耐火性を保つ上で極めて重要である。

上記のとおり,本件建物は,建物全体に数多くのかぶり厚さ不足があり,その結果,建物の強度,耐久性の低下はもちろん,火災の際における耐火時間の低下(施行令107条(平成12年政令第211号による改正前のもの。)違反)も招いているのであって,JASS5・10・3,施行令79条(平成12年政令第211号による改正前のもの。)の各規定に違反する。

(エ) 鉄筋の配筋間隔不良

a 本件建物の鉄筋の配筋間隔が不良である箇所は,以下のとおりである。

①地階X3・Y3-4間地中梁差筋

②1階Y1・X1-2間W18A壁縦筋

③1階Y1・X1-2間W18A壁縦筋

④1階Y1・X1-2間W18A壁横筋

⑤1階X1・Y1-2間W18A壁横筋

⑥1階X3・Y3-5間W18A壁縦筋

⑦1階X3・Y3-5間W18A壁横筋

⑧1階Y4・X5-6間W18A壁横筋

⑨1階X4-6・Y1-2間スラブ主筋

⑩2階Y1・X4-6間大梁あばら筋

⑪2階X1・Y3-5間大梁あばら筋

⑫2階Y3・X3-4’間大梁あばら筋

⑬2階Y4・X5-6間大梁あばら筋

⑭2階Y1・X5-6間大梁あばら筋

⑮2階201号室CS1バルコニー主筋内側

⑯3階305号室CS1バルコニー主筋内側

⑰4階401号室CS1バルコニー主筋内側

⑱4階401号室CS1バルコニー主筋外側

⑲3階X1・Y3-5間W18A壁横筋

b 鉄筋の配筋間隔不良は,設計時に期待されている建物強度を低下させる重大な欠陥であるところ,上記のとおり,本件建物は,多数の配筋間隔不良があり,JASS5・11・5,施行令77条の各規定に違反する。

(オ) 開口補強筋の欠落

a 本件建物の開口補強筋が存在しない箇所は,以下のとおりである。

①1階X4・Y1-2間 W18A壁開口部開口補強筋なし

②地階X4・Y2-3間 地中(基礎)梁開口部開口補強筋なし,あばら筋の補強なし

b 構造耐力上主要な部分である耐力壁の開口部の隅各部には応力が集中するため,ひび割れが発生しやすく,また,開口部周辺は破損風化のおそれも大きいことから,開口部に補強筋を配筋することは不可欠とされている。

上記のとおり,本件建物は,開口部についての開口補強筋もあばら筋の補強等もなく,安全性が確保されていない状態であって,鉄筋コンクリート構造計算基準を満たさず,法20条,施行令36条1項,3項に違反する。

(カ) 床スラブの耐力低下

現状の床スラブの配筋は,主筋(短辺方向)が62mm,67mm,69mm,配力筋(長辺方向)が80mm,76mmである(甲46)ため,正常な配筋の場合と比較し,下がり量が大きすぎ,応力中心距離が小さくなり,強度が約30パーセント以下に低下する。

また,これに伴い,下側の鉄筋も同様に下がっている可能性がある。

以上から,本件建物の床スラブの配筋不良は,設計時に期待している強度を確保しておらず,耐力を低下させる欠陥である。

(被告B工業,被告B1及び被告B3(以下,併せて「被告Bら」という。)の主張)

ア 原告が主張する建築建物の瑕疵の存否の判断基準は,概ね認める。

イ 本件建物の瑕疵について

(ア) ジャンカ及びコールドジョイントについて

本件建物に,原告主張に係るジャンカ及びコールドジョイントが存在することは,否定しない。

しかし,これらの補修は,当該部分をはつり落としてグラウト材を充填するか,比較的小面積の場合はポリマーセメントモルタルを充填する方法によって行うことが十分可能である。

(イ) コンクリートのひび割れについて

本件建物に原告主張に係るひび割れが存在することは認める。

しかし,本件建物のひび割れは,その発生パターンや既に完成から7年経過していることなどから考えて,コンクリートの乾燥収縮に起因するものと判断され,施工不良により生じたものではないから,請負人である被告B工業は補修責任を負わない。

また,ひび割れの程度,個数,場所,位置を勘案しても,乾燥収縮量に達しておらず,むしろ少ない方であって,耐力性や剛性の低下する可能性は著しく低いし,ひび割れが発生している箇所は,雨掛かりになる箇所ではなく,耐久性に影響を及ぼすものではない。

これらのひび割れの補修は,Uカットシール材充填を行えば足りる。

(ウ) 鉄筋のかぶり厚さ不足について

原告は,本件建物のかぶり厚さが不足する箇所等を指摘するが,これは,非破壊検査による測定結果に基づくものであって,実際のかぶり厚さとの深度校正をしていないから,実際のかぶり厚さよりも浅めの数値である可能性が高い。

仮に,本件建物のかぶり厚さが不足している箇所があるとしても,一般的に,その箇所にモルタルを塗ることによって,かぶり厚さ不足によるコンクリートの中性化を防止することができ,また,二酸化炭素や酸素の遮断性の大きい表面被覆材等で表面を保護したり,炭素繊維シートを張り付けたりすることによって,付着割裂ひび割れ,付着割裂破壊の発生を防ぐことができるのであって,これらの方法で十分に対応が可能である。

(エ) 鉄筋の配筋間隔の不良について

本件建物に原告主張に係る配筋間隔不良があることは,否認する。

本件建物は,地上部分について,設計どおりの配筋がされており,問題がない(間隔の多少の大小は鉄筋施工の誤差の範囲内で,平均鉄筋間隔は設計値と相違がない。)。基礎部分について,測定により鉄筋が検出されていない部分があるのは,これらの鉄筋がベース筋の立ち上がり筋で,もともとフーチング高さの途中までしか存在せず,測線まで達していなかったためであると考えられ,また,鉄筋間隔にややばらつきが見られるのは,鉄筋の立ち上がり部分の傾斜が原因で配筋不良になったものと思われるが,同箇所は直接に力が加わる部分ではないから,基礎の強度には問題がない。

(オ) 開口補強筋の欠落について

本件建物の1階エントランス開口部の補強筋が当初の設計どおりでないことは認める。

これは,原告の希望により,郵便ポストが工期の途中で急きょ設けられたためであって,これを埋設して,改めて周囲の鉄筋をはつり出し,新規鉄筋を溶接した上,型枠を取り付け,コンクリートを打設すれば,補強筋の欠落の問題は解消する。

地階基礎梁人通孔の補強筋についても同様である。

(カ) 床スラブの耐力低下について

本件建物の床スラブの配筋不良はなく,補修工事の必要性はない。

(2)  被告らの責任の有無

(原告の主張)

ア 被告B工業の責任

原告は,後記(ア)及び(イ)の不法行為責任及び使用者責任を主位的に,(ウ)の瑕疵担保責任を予備的に主張する。

(ア) 不法行為責任

本件建物は,前記(1)(本件建物の瑕疵の存否)原告の主張において述べたとおり,建築関連法規等に定める建物の安全性に関する最低基準すら満たさない構造上の安全性を欠く欠陥住宅であるところ,これらの欠陥は,被告B工業の故意又は過失によって惹起され,これにより原告は後述の損害を被った。したがって,被告B工業は,原告に対し,民法709条に基づく損害賠償責任を負う。

(イ) 使用者責任

本件建物の欠陥は,その建設工事の主任技術者が適切な施工を行うべき必要な現場管理を怠ったことに起因するものであり,当該主任技術者は民法709条に基づく損害賠償責任を負うから,被告B工業は,原告に対し,同主任技術者を雇用する者として,民法715条に基づく損害賠償責任を負う。

(ウ) 瑕疵担保責任

本件建物には重大な欠陥が存在するから,本件工事請負契約に基づき本件建物の施工を請け負った被告B工業は,注文者である原告に対し,民法634条に基づく瑕疵修補に代わる損害賠償責任を負う。

イ 被告B1及び被告B3の責任

被告B1及び亡B2は,いずれも被告B工業の取締役としてその運営に実際に関与し,建築業務全般を統括する立場にあったから,取締役の善管注意義務,監視義務に基づき,本件建物が建築関連法規等を遵守して施工されているか否かについて,厳重に管理,監督すべきであった。しかるに,被告B1及び亡B2は,上記の管理,監督を怠り,その結果,前記欠陥を有する本件建物を施工させたのであって,取締役としての善管注意義務,監視義務に違反したというべきであるから,これによる商法266条ノ3に基づく取締役の第三者に対する損害賠償責任を免れない。亡B2を相続した被告B3も,同様の責任を負う。

ウ 被告Dの責任

被告Dは,本件建物の工事監理を任された建築士として,これを適正に行うべき法律上の義務(建築士法18条)があるにもかかわらず,故意又は重大な過失によって上記義務を懈怠し,その結果,前記欠陥を有する本件建物を施工させた。したがって,被告Dは,原告に対し,民法709条(不法行為)に基づく損害賠償責任を負う。

また,本件建物の工事監理が実際には被告B工業の従業員によって行われ,被告Dはこれに関与していなかったとしても,それは,いわば名義貸しによって建築確認を騙し取る行為に当たるから,被告Dは,重大な法令違反行為をした者として不法行為責任を免れない。

エ 被告Cの責任

被告Cは,宅地建物取引主任者であったところ,その説明義務及び信義誠実義務に違反して,被告B工業が被告B1と亡B2の2人で経営する会社であり,建築関連法規等の通説的基準を遵守して本件建物を建設する度量や経験を有しない会社であることを熟知していながら,これらの事実を秘し,建築の知識に乏しい原告に対し,虚偽の事実を申し向け,強引に被告B工業との間の契約締結を迫り,かつ,自ら収入予測を立てたり,設計図面や見積書を作ったり,代金支払を要求したり,補修を指示したりするなど,本件工事請負契約の締結から完成,補修に至る一切の事項について,主導的役割を果たした。このように,被告Cは,宅地建物取引主任者としての説明義務及び信義誠実義務に違反したにとどまらず,被告B工業,被告B1,亡B2及び被告Dらによる前記不法行為の遂行に関して主導的役割を担い,もって,前記欠陥のある本件建物を施工させたのであるから,同人らと共同して民法709条,719条(共同不法行為)に基づく損害賠償責任を負う。

(被告Bらの主張)

被告Bらに不法行為責任等があるとする原告の主張は,いずれも否認ないし争う。

(被告Dの主張)

被告Dは,原告との間で何ら設計監理契約を締結していないから,原告に対する法律上の責任を負う理由はない。

被告Dは,被告B工業との間で口頭で設計監理契約を締結し,これに基づき,適正にその業務を行っていたのであり,建築士法18条に定める業務の執行を怠ったことはない。また,被告B工業に対して工事監理者の名義貸しをしたこともない。

(被告Cの主張)

原告主張に係る,被告B工業には建設工事の経験知識能力がないこと,原告が被告Cに対し大手建設会社に建築してもらうよう依頼していたこと,被告Cが原告に対し被告B工業との間の契約締結を迫ったこと,さらには設計図書や見積書を作ったり,代金支払を要求したり,補修を要求したりするなどして,本件工事請負契約の一切の事項について主導的役割を果たしたことは,いずれも否認ないし争う。

被告Cは,原告が本件建物を建築するに当たり被告B工業の紹介を依頼してきたことから,その要望に従って,原告に対し,被告B工業を紹介し,簡単なプラン作成や各種相談に好意で乗っていたのであって,不法行為責任を負うものではない。

(3)  損害

(原告の主張)

ア 補修費相当損害金  5717万4566円

(ア) 本件建物の補修工事費用  5104万6942円

本件建物の基礎,1階床,外壁,バルコニーの欠陥を補修するために必要な費用は,以下のとおりである。

a 躯体工事費用  2351万8107円

b 仕上工事費用  907万6330円

c 設備工事費用  317万7500円

d 雑工事費用  48万8600円

e 仮設工事費用  623万9977円

f 施工者諸経費  390万5797円

g 設計監理料  464万0631円

(イ) 本件建物のバルコニー是正工事費用  612万7624円

本件建物の2階,4階南側,3階西側の各バルコニーには,既述のとおりの欠陥が存在することからすれば,他の各バルコニー(南側1か所,西側3か所)にも同様の欠陥が存在することが事実上推定される。

イ 補修期間中の代替建物の賃料相当損害金等  1069万5400円

本件建物の欠陥箇所を補修するには6か月間を要するところ,この間,原告は,以下のとおりの代替建物の使用等に伴う損害を被り,これらは,本件建物の欠陥と相当因果関係を有する。

(ア) 代替建物の賃料相当損害金  90万円

原告は,代替建物を賃借する費用として,1か月15万円(建物賃料13万5000円,駐車場賃料1万5000円)×6か月=90万円の賃料相当損害金を被る。

(イ) 引越費用  100万円

原告は,本件建物の修理期間中,本件建物から一時退去し,補修後再び本件建物に引っ越してくることを余儀なくされる。その引越費用は,1回あたり50万円を下らない。よって,原告は,往復で100万円の引越費用の支出を余儀なくされる。

(ウ) 本件建物の賃料等相当損害金  519万5400円

原告は,本件建物を12名の賃借人に賃貸しており,その1か月分の賃料収入は合計80万5000円である。また,原告は,本件建物の賃借人4名に駐車場を賃貸しており,その1か月分の賃料収入は合計6万0900円である。したがって,原告は,86万5900円×6か月=519万5400円の賃料収入を失う。

(エ) 本件建物の賃借人の引越費用  360万円

1人1回当たり15万円×12名×2(往復)=360万円

ウ 慰謝料  1000万円

エ 本件訴訟に要した費用  1201万円

(ア) 調査鑑定費用  319万円

(イ) 弁護士費用  882万円

オ 合計  8987万9966円

(被告らの主張)

原告主張に係る損害の発生及び額は,いずれも否認ないし争う。

(被告Bらの主張)

本件建物の瑕疵については,前記争点(1)(本件建物の瑕疵の存否)被告Bらの主張において述べたとおりの方法によって十分に補修が可能であるから,原告が主張する損害額は高額にすぎる。

第3争点に対する判断

1  争点(1)(本件建物の瑕疵の存否)について

(1)  瑕疵の判断基準

建物について瑕疵があるか否かを判断するに当たっては,まず,当該建物の設計図書,契約図書及び確認図書(以下「設計図書等」という。)が当事者間の契約内容を画するものであることに加え,それらが行政の行う建築確認や許可等の判断資料となることからすると,特段の事情のない限り,当該建物が設計図書等のとおりに建築されている場合には瑕疵がないとし,そのとおりに建築されていない場合には瑕疵があるものと判断すべきである。また,法及び施行令,建設省(国土交通省)告示,JASS5(鉄筋コンクリート造建物の場合)等(以下これらを併せて「法令等」という。)は,建築上の最低基準を定め(法1条),それを具体化し,あるいは我が国の建築界の通説的基準を示すものである(JASS5も,時代とともに改正が重ねられてきた建築業界での通説的基準であると認められる(甲40)。)から,法令等の定めを満たしている場合には瑕疵がなく,これを満たさない場合には瑕疵があると判断すべきである。

これに対し,法令等が安全な建物が建築されることを目的として定められていることなどを根拠として,当該建物が事実上安全であれば瑕疵はないとすべきであるとして,事実上の安全性を瑕疵の判断基準とする考え方もある。しかし,建物の事実上の耐力を数値化することはできず,それを前提として将来当該建物に襲来する荷重を予測することもできないのであって,事実上の安全性の有無を的確かつ客観的に判定することは不可能である。したがって,事実上の安全性といった概念は,瑕疵の判断基準として合理的なものとはいえず,上記のような考え方を採用することはできない。

以上のことから,建物の瑕疵の存否は,上記のように,それが設計図書等に従っているか否か,また,法令等の定めを満たしているか否かによって判断するのが相当であり,以下においては,このような観点に基づいて,本件建物について瑕疵があるか否かを検討することとする。

(2)  本件建物における瑕疵の存否

争いのない事実並びに証拠(甲18,19,23,30,40,41,45,46,54ないし56,60,乙イ24ないし27,34ないし36,乙ロ2,4,証人E,証人F,被告B1,被告D,被告C(ただし,後記認定に反する部分を除く。))及び弁論の全趣旨により認定することができる事実と,上記判断基準に基づく瑕疵の存否についての判断は,以下のとおりである(なお,重要な証拠等は,文中に再掲する。)。

ア 構造体躯体コンクリートの打ち込み不良

(ア) 本件建物には,以下の箇所にジャンカ及びコールドジョイントが存在する(甲41)。

a ジャンカ

①地階X2・Y1-2間地中梁  1か所 長さ約700mm

②地階X3・Y3-4間地中梁  2か所 長さ約430mm

径150mm

③地階X4・Y1-2間地中梁  1か所 径150mm

④地階Y3・X3-4’間地中梁  1か所 径300mm

b コールドジョイント

①地階X4・Y1-2間地中梁  1か所 長さ約2600mm

②地階X4’・Y2-3間地中梁  3か所 長さ約1000mm

同約600mm

同約600mm

③地階X5・Y2-3間地中梁  1か所 長さ約600mm

④地階Y3・X3-4’間地中梁  2か所 長さ約1300mm

同約1200mm

⑤地階Y3・X4’-5間地中梁  1か所 長さ約900mm

(イ) 上記のジャンカ及びコールドジョイントは,次のとおり,いずれも本件建物の瑕疵というべきである。

a ジャンカについて

ジャンカとは,コンクリートの打肌の疎な部分をいい,本来,セメントペーストが骨材どうしをつなぎ合わせて密着している状態となるべきであるのに,砂利だけが固まって周りのセメントペーストが充填されていないため,ジャンカが存在する部分は,砂利と砂利の間に隙間ができて密実でなく,骨材だけが現れて,強度が弱くなる。ジャンカは,人為的な欠陥現象であり,コンクリートを流し込んだ際にこれを丁寧にかき混ぜながら打ち上げていけば避けることができる(証人E)。

本件建物におけるジャンカもこのようなものと考えられ(これに反する証拠はない。),「打ち上がりが均質で密実」とはなっていない点で施行令74条3項に反し,また,「有害な打ち込み欠陥部」であってJASS5・2・3・bにも反している(甲40)から,上記ジャンカは本件建物の瑕疵というべきである。

b コールドジョイントについて

コールドジョイントとは,コンクリートを打ち次ぐ際の時間差によって,先に打ち込んだコンクリートと後に打ち込んだコンクリートとが一体化していない現象をいい,先のコンクリートがある程度固まりかけているところに,その表面をかき混ぜないで後のコンクリートを打ち上げてしまうことによって,人為的に生じるものである。そして,コールドジョイントがあると,一体の部材に境目が入り,一部材であっても性能的には複数の部材が重ねられた状態と同じになり,部材の剛性(外力が作用する構造物又は構造部材の弾性変形に対する抵抗の度合い)が変化する(甲41,証人E)。

本件建物におけるコールドジョイントもこのようなものと考えられ(これに反する証拠はない。),「構造安全性を確保するため,コールドジョイントが…ないように製造…しなければならない」とされているJASS5・2・3・bに反している(甲40,41)から,上記コールドジョイントは本件建物の瑕疵というべきである。

c また,本件建物のジャンカ及びコールドジョイントは,地階の地中梁に存在する(甲41,45)から,本件建物には構造耐力上主要な部分(施行令1条3号,36条3項)に瑕疵があることになる。

イ コンクリートのひび割れ

(ア) 本件建物には,以下の箇所にコンクリートのひび割れ(亀裂)がある。

①1階X2・Y1-3間W18A壁  5か所 幅0.1~0.25mm

②1階X3’・Y2’-3間W12壁  1か所 幅0.2mm

③1階X3・Y3-5間W18A壁  1か所 幅0.2mm

④1階X2’・Y3-3’間W12壁  1か所 幅0.3mm

⑤1階X4・Y1-2間W18A壁  3か所 幅0.08~0.2mm

⑥1階X6・Y1-2間W18A壁  2か所 幅0.2~0.3mm

⑦1階Y3・X1-2間W18A壁  3か所 幅0.08~0.2mm

⑧1階X4~6・Y1-2間スラブ  7か所 幅0.15~0.5mm

⑨4階405号バルコニー下部CS1  無数 幅0.1mm

(イ) 上記のひび割れは,次のとおり,本件建物の瑕疵というべきである。

a 耐力性や剛性の低下する可能性について

鉄筋コンクリート造の建造物においては,鉄筋とコンクリートが一体となって,その一体性を前提に付着強度(鉄筋がコンクリートから引き抜けない強度)が要求されているが,ひび割れは,鉄筋とコンクリートが剥離している状況であるから,両者の一体性がなく,付着強度が低下する。また,ひび割れが生じている箇所は,ひび割れの表面の幅以上に露出長さが存在するが,このような露出があれば,①コンクリートが大気中の炭酸ガスによって中性化し,鉄筋が腐食して構造耐力の低下をきたし,②露出が鉄筋位置まで達すると,鉄筋が発錆し,錆の体積は元の鉄筋の体積より著しく大きくなるので,錆が進行するとかぶりコンクリートを破壊し,鉄筋に沿ってひび割れが入り,このひび割れからさらに水や空気が進入し,ますます鉄筋の腐食が進行し,鉄筋コンクリートの耐久性を失わせることになるから,ひび割れによって耐力性や剛性が低下する可能性が生じることになる(甲46,54,60,証人E)。

そして,どの程度のひび割れがあれば耐力性や剛性が低下する可能性があるかについては,建築学会が,幅0.3mmのひび割れを最大限の許容範囲とし,また,幅0.2mmならばひび割れの中に水が入っていく漏水現象が生じ,特に梁に生じたひび割れの場合,そのひび割れが幅0.1mmであっても,本来は外力によって負担させられる応力(物体に外力が作用するとき物体内部に生ずる抵抗力)が既に鉄筋に作用してしまっており,適当なものではないとして,建築学会の構造計算書では0.1mmから鉄筋にどの程度の強度が加わっているか計算できるようになっていることからすると,幅0.1mm程度のひび割れでも耐力性や剛性の低下する可能性があると認められる(甲41,証人E)。

本件建物に存在するひび割れは,上記認定のとおり,幅0.1mm以上のものがあって軽度なものではなく,また,その数も少なくないから,耐力性や剛性の低下する可能性が著しく低いものではなく(これに反する被告Bらの主張は理由がない。),JASS5・2・3・bに反している(なお,JASS5・2・3・bの「過大なひび割れ」とは,上記観点から,幅0.1mm以上のものがこれに当たるとすべきである。甲41)。)から,上記ひび割れは本件建物の瑕疵というべきである。

b 耐久性への影響について

被告Bらは,本件建物においてひび割れが発生している箇所は,雨掛かりになる部分ではなく,耐久性に影響はないと主張する。

しかし,上記主張は,事実上の安全性をいうものにすぎず,前記のように瑕疵の存否は法令等の定めを基準として判断されるべきであるから,上記主張を採用することはできない。

c ひび割れの発生原因

本件建物において,上記ひび割れがどのようにして発生したかを直接的かつ具体的に示す証拠はない。しかし,後記のように,本件工事の施工は杜撰な態勢の下で行われたところ,上記のとおり,本件建物に存在するジャンカやコールドジョイントはコンクリートの打ち込みの際に適切な処置が施されずに人為的に発生したものであること,また,その箇所が両者を併せて13か所と少なくはないことからすれば,他のコンクリートの打ち込みについても同様に杜撰な施工が行われた可能性は高いということができ,上記ひび割れも杜撰な施工の結果生じたものであることが容易に推認される(甲41,46)。

この点に関し,被告Bらは,住宅の品質確保の促進等に関する法律70条に規定する指定住宅紛争処理機関による住宅紛争処理の参考となるべき技術的基準によれば,本件建物のひび割れは瑕疵と判断される可能性は低い旨主張するが,上記基準は,瑕疵が存在する可能性の判断の目安を一般的に述べるものにすぎず,このような基準があることから直ちに上記推認が覆されるとは解されない。

また,被告Bらは,本件建物のひび割れは,そのパターンから乾燥収縮による原因が大きいと主張するが,乾燥収縮があることから直ちに人為的な原因が存在しないといえるものではなく,この主張をもって上記推認を覆すものとすることはできない。

ウ 鉄筋のかぶり厚さの不足

(ア) 本件建物には,以下の箇所に鉄筋のかぶり厚さ不足が存在する(甲41,45)。

①地階X3・Y3-4間地中梁差筋

②地階Y3・X3-4間地中梁差筋

③地階Y2・X2-4間F1基礎縦筋

④地階X4・Y1-2間F1基礎縦筋

⑤地階X2・Y1-2間F1基礎縦筋

⑥1階X1・Y1-2間W18A壁横筋

⑦1階X3・Y3-5間W18A壁横筋

⑧1階Y4・X5-6間W18A壁横筋

⑨2階Y1・X4-6間大梁あばら筋

⑩2階X1・Y1-2間大梁あばら筋

⑪2階X1・Y3-5間大梁あばら筋

⑫2階Y3・X3-4’間大梁あばら筋

⑬2階Y4・X5-6間大梁あばら筋

⑭3階305号室CS1バルコニー主筋下面

⑮4階Y1・X4-6間大梁あばら筋

(イ) 被告Bらは,上記箇所は,非破壊検査による測定結果に基づくものであって,実際のかぶり厚さとの深度校正をしていないから,実際のかぶり厚さよりも浅めの数値である可能性が高い旨主張する。

しかし,被告Bらが上記主張の根拠とする乙イ第35号証(Fを調査責任者とする株式会社A作成の本件建物躯体工事に関する見解書)においても,どの程度の測定誤差を見込む必要があるかという根拠自体が不明確である。また,鉄筋検査機の測定誤差を考慮しても上記⑧,⑭,⑮以外の箇所はかぶり厚さが不足している鉄筋が存在する可能性が高いとされている上,上記⑧は,本来は30mmのかぶり厚さが必要であるところ,甲第41号証(E作成の本件建物の調査報告書)によれば,最小の値が19mmであって,仮に10mmの測定誤差があるとしても,なおかぶり厚さが不足していることは明らかである。そして,上記(ア)の事実認定の証拠とした甲第41号証における測定結果は,それが非破壊検査によるものであるとはいえ,本件建物の多数の測定箇所においてかぶり厚さが不足すると認められる結果が示されているのであって,これを覆すに足りる証拠はなく,上記主張は理由がない。

(ウ) 上記のかぶり厚さの不足は,次のとおり,本件建物の瑕疵というべきである。

a 鉄筋コンクリートに関しては,①コンクリートは中性化し,構造耐力の低下をきたし,コンクリートのひび割れや剥離・剥落を生じ,美観・機能及び日常安定性が低下すること(甲60),②鉄筋が発錆することで,鉄筋コンクリートの耐久性が失われること(甲60),③ひび割れが生じれば,付着強度が低下すること(乙イ36)のほか,④火災が発生すると,表面のコンクリートが劣化するだけでなく,内部の鉄筋及びコンクリートの温度上昇によって鉄筋の強度・降伏点及びコンクリート強度が低下し,部材の耐力が不足し,部材に過大なたわみや変形をきたし,また,コンクリートは急激に強い加熱を受けると,摂氏500度程度の温度になったときに爆裂現象を起こすことがあるので注意を要すること,⑤現状の耐火性能上のかぶり厚さの規定は,あまり余裕のない値であるので,要求耐力性能を満足させるためには,かぶり厚さの精度の確保が重要とされていること(甲60)が認められる。

このように,鉄筋は,錆や火に弱いため,コンクリートで被覆しておく必要があり,その役割を担うコンクリートのかぶり厚さは重要であり(証人E),施行令79条が定められる厚さも最低限の厚さであって,これに特例は認められていない。

本件建物における上記認定のかぶり厚さの不足は,施行令79条に明らかに違反し,JASS5・10・3にも反するから,これらは本件建物の瑕疵というべきである。

b また,上記のように,鉄筋は火に弱いため,かぶり厚さが不足していれば,耐火時間の低下が生じている可能性が認められ,また,現状の耐火性能上のかぶり厚さは余裕のない値であることからすると,上記かぶり厚さの不足は,施行令107条に反する瑕疵にも当たるというべきである。

エ 配筋間隔不良

(ア) 本件建物には,以下の箇所に配筋間隔不良が存在する(甲41,45)。

①地階X3・Y3-4間地中梁壁差筋

②1階Y1・X1-2間W18A壁縦筋

③欠番

④1階Y1・X1-2間W18A壁横筋

⑤1階X1・Y1-2間W18A壁横筋

⑥1階X3・Y3-5間W18A壁縦筋

⑦1階X3・Y3-5間W18A壁横筋

⑧1階Y4・X5-6間W18A壁横筋

⑨1階X4-6・Y1-2間スラブ主筋

⑩2階Y1・X4-6間大梁あばら筋

⑪2階X1・Y3-5間大梁あばら筋

⑫2階Y3・X3-4’間大梁あばら筋

⑬2階Y4・X5-6間大梁あばら筋

⑭2階Y1・X5-6間大梁あばら筋

⑮2階201号室CS1バルコニー主筋内側

⑯3階305号室CS1バルコニー主筋内側

⑰4階401号室CS1バルコニー主筋内側

⑱4階401号室CS1バルコニー主筋外側

⑲3階X1・Y3-5間W18A壁横筋

(イ) 上記の配筋間隔不良は,本件建物の瑕疵というべきである。

すなわち,配筋間隔が不良であれば,建物には鉄筋によって支えられていない部分が生じ,構造耐力上問題であること,また,鉄筋は引張力を負担する役割を担っているが,これが等間隔に配筋されていなければ,応力が均等に働くことを前提とした構造計算そのものの前提が崩れること(証人E)からすれば,鉄筋の配筋間隔不良は,設計時に期待している強度を低下させることが認められる。

したがって,上記認定の配筋間隔不良は,JASS5・11・5・bに違反し,これらは本件建物の瑕疵というべきである。

なお,JASS5・表11・4等によれば,例えば「梁」における「数量・配置」につき,「間隔は1.5m程度」と記載されていること(甲40)からすれば,若干の配筋の誤差を許容していると思われる。しかし,本件建物における配筋においては,設計ピッチに比して,130mmもの誤差のある部分が存在し(甲45),許容される配筋の誤差の範囲内とはいえず,JASS5に照らして,当該配筋不良は瑕疵であることが認められる。施行令77条(平成12年4月改正前のもの。本条につき,以下同じ。)は柱の構造に関するものであり,配筋間隔不良に直接的に関係するものではないから,配筋間隔不良について施行令77条に反するとまではいえない。

(ウ) この点に関し,被告Bらは,本件建物の地上部分については設計どおりの配筋がされており問題がない(間隔の多少の大小は鉄筋施工の誤差の範囲内で,平均鉄筋間隔は設計値と相違ない。)と主張する。しかし,JASS5・11・5・bは「鉄筋は,施工図に基づき所定の位置に正しく配筋し,コンクリートの打ち込み完了まで移動しないよう堅固に組み立てる」と規定して,配筋間隔につき,平均鉄筋間隔を問題としてはおらず,一本一本の鉄筋につき施工図どおりに配筋することを求めているのであって,上記主張は採用することができない。

また,被告Bらは,鉄筋間隔にばらつきが見られるのは,鉄筋の立ち上がり部分の傾斜が原因で配筋不良になったものと思われるが,同箇所は直接に力が加わる部分ではないので,基礎の強度には問題がないと主張するが,配筋間隔が不良である以上,基礎の強度といった事実上の安全性の有無によって瑕疵がないとすることはできず,上記主張は採用することができない。

なお,被告Bらは,基礎部分に検出されていない部分があると主張するが,これは上記認定以外の箇所に係る主張であって,上記認定に影響を及ぼすものではない。

オ 開口補強筋の欠落

(ア) 本件建物には,以下の箇所に開口補強筋が存在しない(甲41)。

①1階X4・Y1-2間 W18A壁開口部開口補強筋なし

②地階X4・Y2-3間 地中(基礎)梁開口部開口補強筋なし,開口部下の基礎梁にあばら筋の補強なし

(イ) 上記の開口補強筋の欠落は,次のとおり,本件建物の瑕疵というべきである。

すなわち,構造耐力上主要な部分の耐力壁の開口部の隅各部には,応力が集中するため,ひび割れが発生しやすくなり,ひび割れが発生すれば,前記のようにコンクリートの中性化・鉄筋の発錆等により部材の耐久性を低下させ,構造部材の剛性低下をもたらすこと,また,開口部周辺は破損風化のおそれが多いため,開口部に補強筋を配筋することが不可欠であり(甲41,乙イ35,証人E),施行令78条の2第1項2号も開口部には補強筋が必要であると定めている。

本件建物における上記認定の開口補強筋の欠落は,法20条,施行令38条1項,3項,78条の2第1項2号に反し,これらは本件建物の瑕疵というべきである。

(ウ) この点に関し,被告Bらは,開口部の補強筋が当初の設計どおりにならなかったのは,原告の希望により郵便ポストが工期の途中で急きょ設けられたためであると主張する。

しかし,建築工事につき,注文者が施工者等に対し,法令等に反する希望を述べた場合,専門家たる施工者等は,注文者に対し,それが法令等に違反するので希望どおりの施工はできない旨を十分説明し,その施工をしないようにすべきである。そして,施工者が,そのような説明をしたにもかかわらず,注文者が希望を無理に通してしまったような例外的な場合には,施工者等の責任が軽減される余地もないとはいえないが,本件においては,郵便ポストの設置に関して,上記例外的な場合に当たるとすべき事実は認められず,瑕疵の責任を注文者たる原告に転嫁するがごとき被告Bらの上記主張を認めることはできない。

カ 床スラブの耐力低下

原告は,床スラブに配筋不良があり,これは設計時に期待している強度を確保しておらず,耐力を低下させる欠陥である旨主張する。

しかし,上記主張の根拠とされる甲第46号証は,タイルの下がコンクリートであったことを前提としているところ,その前提を認定するに足りる証拠はなく,したがって,床スラブに配筋不良があるとの事実を認定することはできない。

2  争点(2)(被告らの責任の有無)について

前記のとおり,本件建物には瑕疵が存在する。そこで,以下,被告らの責任につき検討する。

(1)  争いのない事実及び後掲証拠等(ただし,後記認定に反する部分を除く。書証の枝番の記載は省略することがある。)によれば,以下の事実を認めることができる。

ア 原告らと被告Cとの従前の関係等

(ア) 原告とG(以下,原告と併せて「原告ら」ということがある。)は,母子であり,平成6年7月に原告の夫(Gの父)が死亡した後,当時居住していた神奈川県川崎市から札幌市に移住することを考えていた。しかし,原告らは,札幌市に知人などがいなかったため,平成7年春ころ,住宅情報誌で知った宅地建物取引業者のH株式会社(以下「H社」という。)に相談をするようになった。

(イ) Gは,その後の契約締結等,本件における出来事について,原告とともに関与した。なお,原告らは,平成8年4月ころ,札幌市a区甲に借りた家に転居し,Gは,同年7月ころから本件工事現場に足繁く通っていた。

(ウ) 被告Cは,宅地建物取引主任者であり,H社の部長であった。

被告Cは,原告らの相談を受け,平成7年7月,原告が札幌市b区にある中古アパート「K]を購入する際に同社の担当者としてこれを仲介した。被告Cは,その後も同社が原告から依頼されたコーポKの管理業務を担当していた。

(エ) 原告は,被告Cの勧めにより札幌市内に原告らの住居部分と賃貸部分のある建物(住宅付きの賃貸マンション)を建てることを考えていたところ,平成8年1月ころ,被告Cから,札幌市a区c条d丁目所在の土地(後に本件建物の敷地となる土地)の購入を勧められ,同年2月23日,上記土地を購入した。

(オ) また,原告らは,被告Cに対し,上記建物を建てるために一流の建築業者の紹介を依頼した。被告Cは,コーポKを建築した被告B工業を紹介したが,その際,原告らに対し,「大手ゼネコンも絶賛している」,「B工業には職人が100人以上いる」などと述べて,被告B工業を建築業者とするように勧めた。

被告Cは,被告B1と昭和58年ころからの知り合いであった。(甲30,56,乙ロ1,3,4,証人G,被告C,弁論の全趣旨)

イ 被告B工業と本件工事請負契約の締結及び被告Cの関与等

(ア) 被告B工業は,昭和63年1月に設立された建築工事の設計及び請負業等を目的とする会社で,建設業法3条1項(平成11年法律第160号による改正前のもの。以下,本条項につき同じ。)に基づく一般建設業者である。

被告B1は,被告B工業の代表取締役で,2級建築施工管理技士の資格は有していたが,建築士の資格はなかった。

亡B2は,被告B工業の取締役であり,事務所において事務を担当しており,現場における工事業務には従事していなかった。

(イ) 原告は,上記土地において鉄筋コンクリート造5階建(1階が車庫,2ないし4階が賃貸部分,5階が原告らの住居部分)の本件建物を建築するため,平成8年2月23日,被告B工業との間で,設計及び施工に関する工事請負契約書(甲1)を作成して,本件工事請負契約を締結した。同契約において,工期は同年5月1日から同年10月20日,請負代金は9840万円(他に消費税)とされた。

被告B工業は,本件工事請負契約締結当時,建築関係の資格のない男性大工と女性従業員1名以外の従業員はいなかった。

(ウ) 被告B工業は,同年1月ころ,被告Cから,原告が5階建の住宅付き賃貸マンションの建築を計画していることを聞き,その後,Gが描いたイラストを基にH社が作成した図面を受け取り,被告Dに依頼してこれを建築確認申請に適合する内容の図面に作り替えるなどの準備をしていたが,原告らとは,同年2月22日に初めて会っただけで,何ら直接の交渉等をしなかった。

被告Cは,建物を建てることを前提とした土地の買主を見つけると,図面や見積書などを持って建築業者を探し,買主に建築のアドバイスをしたり,買主に代わって建築業者と建物建築の打合せ等を行っており,本件建物以外にも被告B工業を建築業者としたことが7回程度あり,うち半分程度については,被告B工業から紹介料名目の金銭を受領していた。被告B1は,被告Cを企画屋ないしデベロッパーというべき存在であると認識していた。

(エ) 被告Cは,被告B工業が一般建設業者であって特定建設業者の資格をもっていないことを知っていたが,本件工事請負契約の締結やその後の本件工事の施工に関し,自ら契約書,図面及び見積書を作成したり,その授受に関与したりしたほか,被告B工業に代わって原告らからのクレームを受けたりしていた。

また,H社は,被告B工業から本件工事の紹介料名目で240万円を受け取り,被告Cは,そのうち80万円を個人として受け取った。(甲1,11の1,2,甲18,19,30,56,乙イ1の1ないし3,乙イ2の1,2,乙イ4の1ないし5,乙イ5,証人G,被告B1,被告C,被告D)

ウ 本件工事の施工状況等

(ア) 被告B工業は,同年5月20日ころから,本件工事に着手したが,同被告が自ら施工する工事は,とびや型枠大工等の作業員を8人から10人程度雇い入れ,被告B1が本件工事現場においてそれらの作業員を指揮命令して行った。

また,被告B工業は,建設業法26条1項に違反して,本件工事を施工するに当たり,建設工事の適正な施工を確保するために置くことが義務付けられている主任技術者を置いていなかった。

(イ) 被告B工業は,一定の場合の下請契約締結等を禁止する建設業法16条,同法施行令1条の2に違反して,総額4500万円以上の金額で本件建物を下請業者に施工させたほか,本件工事に関し,法定事項を具備しない契約書を取り交わしたり,下請業者とは書面さえ取り交わさないなどの法令違反行為を行った(同被告は,平成11年12月ころ,これらの違反行為に対する行政処分を受けた。)。

(ウ) 被告B工業は,本件工事開始から約1か月経ったころ,原告から本件建物の1階正面入口をオートロックに変更するよう求められ,その変更をした場合,郵便受けの位置も変更する必要が生じたため,これらを追加工事とし,1階壁面部分に穴を開けて郵便受けを設置することとした。

(エ) 被告B工業は,平成8年11月14日,原告に対し,本件建物を引き渡した。

原告は,同年2月26日から平成9年1月18日までの間,被告B工業に対し,5回に分けて,本件工事請負契約及び追加工事の代金として合計1億0641万9500円を支払った。(甲2の1ないし5,甲3の1,甲23,乙イ3の1,証人G,被告B1,弁論の全趣旨)

エ 被告Dの関与等

(ア) 被告Dは,1級建築士であり,被告B工業から本件建物の設計図書等の作成を依頼され,同被告から受領した図面を法令に適合するように修正するなどして,建築確認申請に用いる図面等を作成した。

また,被告Dは,被告B工業から本件工事の工事監理を依頼され,本件建物の建築確認申請に関して,札幌市に平成8年4月5日付けで提出された中高層建築物の建設に伴う諸問題に関する誓約書等の書類(甲48)にも,被告Dが本件工事の工事監理者である旨の記載がされた。

被告Dは,被告B工業から,上記設計と工事監理の報酬として,合計150万円を受領した。なお,被告Dは,被告B工業が一般建設業者であり,特定建設業の資格を有しないことを知っていた。

(イ) 被告Dは,本件建物の地盤についての地盤調査をせず,工事監理報告書も作成せず,しかも,本件工事現場に行くことさえもほとんどなく,コンクリート打設時にも立ち会わず,本件工事中に工事のやり直しなどを指示したこともなかった。(甲48,乙イ1の2,乙イ2の1,2,乙イ24ないし27,乙イ34,証人G,被告D)

(2)  以上に認定した事実関係等に基づき,被告らの責任の有無を検討する。

ア 被告B工業の不法行為責任について

(ア) 上記1で認定した本件建物の瑕疵(以下「本件瑕疵」という。)は,本件工事が上記2(1)ウ及びエのような状況で施工された結果生じた人為的な瑕疵であるというべきである。

すなわち,上記1認定の事実によれば,ジャンカやコールドジョイントは,適切にコンクリートの打ち込みを行えば防げたことは明らかであり,ひび割れ,鉄筋のかぶり厚さ不足及び配筋間隔の不良は,コンクリートの打設時に,適切な計測をしたり,適切な養生等を行っていれば,いずれも発生しなかったと考えられ,開口補強筋の欠落も,鉄筋がきちんと入っているかどうかを確認をすれば容易に防止し得たものであって,これらの本件瑕疵は,被告B工業が不適切な施工をしたことによって生じた人為的瑕疵であると認められ,かつ,上記2認定の事実によると,被告B工業は,一般建設業者であるが,そもそも本件建物のような鉄筋コンクリート造5階建の建物を建築するのに必要な人的,物的条件がないにもかかわらず,原告との間で本件工事請負契約を締結し,本件工事の施工も,建設業法26条1項により必要とされる主任技術者を置かず(被告B1は,主任技術者は置く必要がない旨供述するが,その根拠は具体的に明らかにされていない。),2級建築施工管理技士の資格は有するものの,建築士の資格のない被告B1が,雇い入れた作業員に対して工事現場において指揮命令をする状態で行ったり,あるいは,同法等の定めに反して下請に行わせたものであり,しかもこのような本件工事について,工事監理者とされていた被告Dの実質的な監理を受けることもなかったため,本件工事は,極めて杜撰に施工され,その結果,本件瑕疵が生じたものと認められ,この判断を覆すに足りる事実を認めるべき証拠はない(なお,被告B1は,本件工事に欠陥があるとすれば,それは同被告が指示した仕事の中で問題があるとされても仕方がない旨供述している。)。

(イ) そして,上記のとおり,本件瑕疵が被告B工業の杜撰な工事によって発生したものであることからすれば,同被告に少なくとも過失があったことは明らかであるから,同被告には,原告が主位的に主張する民法709条所定の不法行為が成立するというべきであり,同被告は,これによって生じた原告の後記損害の賠償責任がある。

イ 被告B1及び亡B2の取締役としての責任について

(ア) 被告B1の責任

上記アのとおり,本件瑕疵は,被告B工業の杜撰な工事によって発生したものである。そして,前提事実及び上記2(1)イないしエ認定の事実によれば,被告B1は,被告B工業の代表取締役として本件工事を統括しており,実際にも,主任技術者がおらず,かつ,被告Dの工事監理も十分に行われていない本件工事現場において,自ら雇い入れた作業員に指示命令して本件工事を施工し,あるいは下請にこれを請け負わせて本件工事を施工したものであるから,作業員や下請に対し,適切な施工をするように必要な管理監督をすべき義務があり,このような管理監督をすることは容易であり,これをしていれば本件瑕疵の発生を防止することができたにもかかわらず,必要な管理監督を怠り,その結果,本件瑕疵を発生させたものと認められる。

上記の被告B1の行為は,被告B工業の取締役としての職務を行うにつき,少なくとも重大な過失により,これを懈怠したものというべきであるから,被告B1は,商法266条ノ3第1項により,原告に生じた後記損害の賠償責任がある。

(イ) 亡B2の責任

亡B2が被告B工業の取締役であり,その事務を担当していたことは上記認定のとおりである。

しかし,本件全証拠に照らしても,亡B2が,作業員や下請に対し,本件工事の施工について指示をし,あるいは指示や管理監督を行い得る立場にあったと認めることができず,本件瑕疵の発生との関係において,亡B2に取締役としての職務を行うにつき故意又は重大な過失があったとすることはできない。

したがって,亡B2に商法266条ノ3第1項による損害賠償責任を認めることはできない。そして,亡B2に責任が認められない以上,その承継人としての被告B1及び被告B3に対する請求は,理由がない。

ウ 被告Dの責任について

(ア)a 上記2(1)イないしエ認定の事実によれば,被告Dは,1級建築士であり,本件建物の建築確認に必要な設計図書等を作成した者であるところ,本件工事については1級建築士である工事監理者が定められなければならないことから,被告B工業の依頼により工事監理を引き受け,建築確認申請に関して行政庁に提出する書類に工事監理者として名を連ねたにもかかわらず,実際には,本件建物の地盤についての地盤調査をせず,工事監理報告書も作成せず,ほとんど本件工事現場に行かず,コンクリート打設時にも立ち会わず,本件工事中に工事のやり直しなどを指示したこともなかったことが認められる。

また,このような事実に加え,被告Dは建築主である原告との間で工事監理契約を締結しておらず,被告Dが設計と工事監理の報酬として受領した金額が合計150万円にすぎず,本件工事代金9840万円と比較しても相当低廉と考えられることからすれば,被告Dが被告B工業との間で締結した工事監理契約は,形式的なものにすぎず,被告Dはいわば工事監理者としての名義貸しをしたものと認められる。

b ところで,工事監理者について定める法5条の2,建築士法3条は建築物の安全性を確保するために設けられた強行規定であるから,工事監理者が必要とされる場合において,建築士が工事監理をする意思もないのに名義を貸したにすぎない場合であっても,当該建築士は,そのことを理由として法令等及び建築士法に規定される工事監理者としての義務を免れることはできないと解される。

そして,建築士法18条1項は,職務を誠実に行い,建築物の質の向上に努める義務を,同条3項(平成9年法律第95号による改正前のもの)は,工事が所定の施工に実施されていないと認めるときは,直ちに工事施工者に注意を与え,工事施工者がこれに従わないときは,その旨を建築主に報告しなければならないとの義務を定め,20条2項(平成11年法律第160号による改正前のもの),建築士法施行規則17条の14(平成13年国交令第72号による改正前のもの)は,工事監理をした場合には,工事監理報告書を作成しなければならない旨規定している。

c しかるに,被告Dの現実の行動等は上記のとおりであり,工事監理者としての義務を履行しておらず,そのことにつき少なくとも過失があったことは明らかである。

また,上記アのとおり,本件瑕疵は,被告B工業の杜撰な工事によって発生したものであるところ,被告Dが工事監理者として,建築士法等に定める上記義務を履行していれば,本件瑕疵の発生を防止し得たことも明らかというべきである。

(イ) したがって,被告Dは,建築士法等に違反して工事監理者としての義務を怠り,その結果,原告に後記損害を被らせたものであるから,民法709条の不法行為が成立するというべきであり,その損害を賠償する責任がある。

(ウ) 以上に関し,被告Dは,被告B工業との間で設計監理契約を締結したが適正にその業務を行っており,他方,原告との間では同契約を締結していないから,原告に対して法律上の責任を負う理由はない旨主張し,また,被告Dが行った工事監理はいわゆる常駐監理ではないが,自ら1か月に数回程度本件現場に臨場したり,被告B1と連絡するなどして,適切に工事監理を行っていたなどと供述する。

しかし,前掲証拠によると,被告Dが被告B工業との間で締結していたのは設計だけではなく工事監理を行うことをも内容とする契約であると認められ(被告Dも,これを前提とする供述をしている。),この点に関する上記主張は失当である。

また,被告Dがほとんど本件工事現場に行かず,実質的な工事監理を行っていなかったことは,現に人為的な瑕疵というべき本件瑕疵が本件建物に多数発生していること(本件瑕疵の内容や程度からすれば,通常の1級建築士であれば,本件工事現場に行けば,杜撰な工事が行われていることを容易に認識し得たと考えられ,この判断を覆すに足りる事実を認定すべき証拠はない。),被告C及び平成8年7月ころ以降足繁く本件工事現場に通っていたGは,いずれも本件工事現場で被告Dと会ったことがないこと(証人G,被告C),被告D自身が原告の依頼を受けた1級建築士に対し,本件建物の完成まで本件工事現場には数回しか出向いていないと述べていること(甲22)からみて明らかであり,これに反する被告Dの上記主張や供述は,いずれも採用することができない。

エ 被告Cの責任について

上記2(1)認定の事実によれば,被告Cは被告B工業が一般建設業の資格しか有しないことを知っていたことが認められるものの,そのような認識は,本件建物のような瑕疵ある建物が建築されることについての抽象的な認識に過ぎず,被告Cにおいて瑕疵ある建物が建築されるとの具体的な予見があったと認めることはできない。

また,被告Cは,宅地建物取引主任者であり,工事の施工者や工事監理者ではないから,本件工事について管理監督をする立場になく,本件工事現場で指揮をする等して,瑕疵ある本件建物の瑕疵の発生を防止し得たわけでもない。

したがって,被告Cは,コーポKの購入仲介やその管理業務を行い,これにより被告Cを信頼するに至った原告に対し,札幌市内に住宅付きの賃貸マンションを建てることを勧めてその敷地を購入させ,被告B工業が適切に本件建物の建築をする能力があるように信じさせる説明をして,本件工事請負契約を締結させ,契約書,図面及び見積書の作成等に関与するなどして原告と被告B工業との間に積極的に介在し,被告B工業からH社に支払われた紹介料名目の金員の中から80万円を個人的に取得していたといったことに照らすと,道義的責任は免れないものの,不法行為責任の存否の観点からすると,瑕疵についての予見可能性や結果回避可能性がない以上,説明義務や信義誠実義務違反を理由とする過失があるとすることはできず,法的責任を肯定することはできない。

(3)  まとめ

以上によると,本件における原告の損害につき,被告B工業,被告B1,被告Dは責任を負い,これらの被告は共同して損害賠償責任を負う(民法719条)。

3  争点(3)(損害)について

(1)  補修方法について

前記のように,法令等は建築物の最低限の安全性を定めたものであることからすれば,建物の補修方法も,原則として法令等における瑕疵がない状態に復帰させることが最も妥当な方法である。

そして,本件建物の瑕疵は,「構造耐力上主要な部分」(施行令1条3項)に集中していることからすれば,本件建物におけるジャンカ,コールドジョイント,ひび割れ,鉄筋のかぶり厚さ不足,配筋間隔不良,開口補強筋の欠落,については,以下のような補修方法が妥当である。

ア 地中梁(基礎梁)について

基礎梁においては,ジャンカ,コールドジョイント,かぶり厚さ不足,配筋間隔不良,開口補強筋欠落が認められるところ,これらにつき補修をするため,コンクリートをはつり取り,鉄筋を配筋しなおし,80mmのコンクリートを打ち増しする方法が妥当と認められる(甲42)。

イ 壁について

壁においては,ひび割れ,かぶり厚さ不足,配筋間隔不良,開口補強筋欠落が認められるところ,これらにつき補修をするため,コンクリートをはつり取り,鉄筋を配筋しなおし,80mmのコンクリートを打ち増しする方法が妥当と認められる(甲42)。

ウ 大梁について

大梁においては,かぶり厚さ不足,配筋間隔不良が認められるところ,これらにつき補修をするため,コンクリートをはつり取り,鉄筋を配筋しなおし,80mmのコンクリートを打ち増しする方法が妥当と認められる(甲42)。

エ 床スラブについて

床スラブにおいては,ひび割れ,配筋間隔不良が認められるところ,これらにつき補修をするため,解体・新設が容易な1階の床スラブについては,新たなコンクリートの打ち増しよりも安価に補修できるので,土砂を撤去した上,設計図書とおりの床スラブを新設すべきである(甲42)。

オ バルコニーについて

バルコニーにおいては,ひび割れ,かぶり厚さ不足,配筋間隔不良が認められるところ,これらにつき補修をするためには,壁等と異なり,厚さがないこと等から全て解体して新設するとの補修が必要と認められる(甲42)。

(2)  損害額について

ア 本件建物の補修工事費用 5104万6942円

(ア) 上記(1)の方法によって本件建物の基礎,1階床,外壁,バルコニーの欠陥を補修するために必要な費用は,以下のとおりである。

a 躯体工事費用 2351万8107円

(a) 基礎梁工事費用  617万5598円

(b) 壁工事費用  410万6530円

(c) 大梁工事費用  44万3350円

(d) 床スラブ工事費用  276万0222円

(e) 床スラブ撤去・新設工事費用  591万6945円

(f) バルコニー工事費用  242万8414円

(g) バルコニー解体工事費用  168万7048円

b 仕上工事費用  907万6330円

c 設備工事費用  317万7500円

d 雑工事費用  48万8600円

e 仮設工事費用  623万9977円

f 施工者諸経費  390万5797円

g 設計監理料  464万0631円

(イ) なお,本件建物の2階,4階南側,3階西側の各バルコニー以外のバルコニーについて,同様の欠陥が存在することを認めるに足りる証拠はなく,事実上の推定もできない。

イ 補修期間中の代替建物の賃料相当損害金等  889万5400円

本件建物の欠陥箇所を補修するには6か月間を要するところ,この間,原告は,以下のとおりの代替建物の使用等に伴う損害を被り,これらは,本件建物の欠陥と相当因果関係を有する。

(ア) 代替建物の賃料相当損害金  90万円

原告は,代替建物を賃借する費用として,1か月15万円(建物賃料13万5000円,駐車場賃料1万5000円)×6か月=90万円の賃料相当損害金を被る。

(イ) 引越費用  40万円

原告は,本件建物の修理期間中,本件建物から一時退去し,補修後再び本件建物に引っ越してくることを余儀なくされる。その引越費用は,1回当たり20万円が妥当と考えられる。よって,原告は,往復で40万円の引越費用の支出を余儀なくされる。

(ウ) 本件建物の賃料等相当損害金  519万5400円

原告は,本件建物を12名の賃貸人に賃貸しており,その1か月分の賃料収入は合計80万5000円である。また,原告は,本件建物の賃借人4名に駐車場を賃貸しており,その1か月分の賃料収入は合計6万0900円である。したがって,原告は,86万5900円×6か月=519万5400円の賃料収入を失う。

(エ) 本件建物の賃借人の引越費用  240万円

1人1回当たり10万円×12名×2(往復)=240万円

ウ 慰謝料

原告は,Gとともに,神奈川県川崎市から,札幌市に移り住み,本件建物による賃貸業を営みつつ生活をすることを考えていたにもかかわらず,実際に建築された本件建物には,上記のように多数の広範囲にわたる瑕疵があること,それらの瑕疵は,建物の構造耐力上問題がある箇所であること,このような問題ある箇所があるにもかかわらず,原告は本件建物で生活をしなければならないこと等からすれば,原告は深刻な精神的損害を被ったことが認められ,その慰謝料額としては200万円が妥当であると認められる。

エ 本件訴訟に要した費用

(ア) 調査鑑定費用

上記費用として319万円かかったことが認められる(弁論の全趣旨)。

(イ) 弁護士費用

上記費用として,アないしエ(ア)までの合計6513万2342円の約1割である650万円が相当と認められる。

オ 合計

以上,アないしエの合計7163万2342円が損害として認められる。

4  結論

以上によれば,原告の請求は主文第1項の限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条,64条本文を,仮執行宣言につき同法259条1項を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 笠井勝彦 裁判官 馬場純夫 裁判官 矢澤雅規)

別紙物件目録

所在    札幌市a区c条d丁目e番地f

家屋番号 e番f

種類    共同住宅

構造    鉄筋コンクリート造陸屋根5階

建床面積 1階 156.13平方メートル

2階 156.13平方メートル

3階 156.13平方メートル

4階 156.13平方メートル

5階 112.77平方メートル

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例