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札幌地方裁判所 平成10年(ワ)2992号 判決 2001年2月26日

原告

上記訴訟代理人弁護士

竹中郁夫

被告

北海道厚生農業

協同組合連合会

上記代表者代表理事

阿部忠男

上記訴訟代理人弁護士

黒木俊郎

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は、原告に対し、5070万440円及びこれに対する平成10年12月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告

主文と同旨

第二  事案の概要

一  本件は、亡乙子が、被告の経営する総合病院帯広厚生病院(以下「被告病院」という。)耳鼻咽喉科の医師による手術を受け、その途中にくも膜下出血を発症し死亡した事故について、遺族である原告が、右事故は、執刀医が手術操作を誤ったため生じたものであるとして、被告に対し、債務不履行又は不法行為(民法709条、715条)に基づき、損害賠償金、慰藉料及び弁護士費用合計5070万440円並びにこれに対する平成10年12月17日(訴状送達の日の翌日又は不法行為の後)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

二  前提事実(争いのない事実以外については証拠を併記)

1  診療経過(甲四、七ないし九(甲七、八は枝番を含む。))

(一) 亡乙子(昭和20年1月12日生)は、平成9年10月2日、鼻閉を訴えて被告病院耳鼻咽喉科で受診した。

被告病院医師は、亡乙子の症状を、両側慢性副鼻腔炎及び鼻茸と診断し、平成10年2月5日、同病院において、両側鼻内上顎洞・篩骨洞開放術及び鼻茸切除術(以下「本件手術」という。)を施行した。

(二) 被告病院医師A(以下「A医師」という。)は、同日午後1時56分、本件手術を開始した。

A医師は、両側上顎洞及び篩骨洞の手術操作を終え、同日午後2時50分ころ、鼻腔内吸引により手術創部の清掃を行っていたところ、亡乙子に二段脈(不整脈)、血圧上昇の各症状が現れ、ほぼ同時に篩骨洞付近から出血があった。A医師は、降圧剤の投与及び圧迫止血の処置をとり、午後2時58分、本件手術を終了した。亡乙子の出血量は、本件手術の開始から午後2時50分までに約500ミリリットル、開始から終了までを通算して約1000ミリリットルであった。

(三) 亡乙子には、本件手術後、瞳孔左右不同の症状が現れており、CT検査の結果、くも膜下出血が発見されたため、亡乙子は、医療法人社団北斗病院に転送された。

亡乙子は、同月9日午前10時、同病院において、くも膜下出血により死亡した。

2  病理解剖の所見(甲五、乙三、一〇、一三)

被告病院臨床病理主任部長医師C(以下「C医師」という。)らは、亡乙子の死亡後、同人のくも膜下出血と手術操作の因果関係等を明らかにするための病理解剖の依頼を受け、解剖を実施した。

C医師は、解剖及び組織学的検査の結果、亡乙子の頭蓋内硬膜内を走行する右内頸動脈に血管壁の解離・破綻を認め(右の解剖により解離・破綻が認められた部分を以下「本件解離・破綻部分」という。)、その一部からの出血によりくも膜下出血が発生したものと判断した。C医師は、右出血点が頭蓋内硬膜内にあり、A医師の手術操作の範囲外にあることなどを理由に、亡乙子のくも膜下出血について、A医師の手術操作と因果関係を有する外傷性のものとは考え難いとして、「特発性内頸動脈解離」と診断した。

3  内頸動脈と副鼻腔の位置関係について

内頸動脈は、解剖学上、別紙図面のとおり、頸動脈管内を上方に向かって走行する部分(C5)、直角に向きを変え、海綿静脈洞内を水平前方に走行する部分(C4)、ヘアピン・カーブ状に走行し、硬膜内に入るまでの部分(C3)、硬膜内を後上方向内側へと走行する部分(C1〜2。右の間も、更にC1とC2の2つに区分される。)の5つに区分される(フィッシャーによる。)。

右のうちC4部分においては、内頸動脈は、一般に、副鼻腔の一部である蝶形骨洞の洞壁を内部方向に膨隆させ、右部分に接するように走行している。

4  権利の承継(甲一ないし三(甲一、三は枝番を含む。))

原告は亡乙子の夫であるが、平成10年9月25日、亡乙子の3人の子との間で、原告が亡乙子の被告に対する損害賠償債権を全部承継する旨の遺産分割協議をした。

三  争点

1  被告の責任原因について

(一) 原告

(1) 本件医療事故の原因は、以下のとおり、A医師が、篩骨洞開放術の際、最奥処理点である後部篩骨洞天蓋部の処理及び吸引管による鼻腔内清掃作業により、篩骨洞壁に接して走行している内頸動脈を損傷、破綻させたことにある。

副鼻腔のうち後部篩骨洞と蝶形骨洞の移行部は、両者を隔てる骨壁を取り除く際、視神経を損傷する合併症が多い危険領域であるが、右の部分において、視神経管と内頸動脈とは、わずかミリメートル単位の間隔しかないから、内頸動脈も、視神経と同様に、手術操作による直達的又は介達的な力により、損傷される危険が高い。

このことに、①亡乙子には、通常、内因性くも膜下出血の原因となる、脳動脈瘤や動静脈奇形等の症状がなく、病理解剖及び組織学的検査によっても、本件解離・破綻部分の周辺に、突然の血管障害発作の原因となり得る病変が認められなかったこと、②亡乙子には、午後2時50分から同58分(本件手術終了)までの間に、副鼻腔から、約500ミリリットルの急激かつ多量の出血があり、かかる多量の出血は、本件手術によっては通常考え難いことから、A医師が手術操作により血管を損傷したと考えるのが自然であること、③右出血の時期が、A医師による篩骨洞開放術の直後である上、くも膜下出血によるものと推定される血圧上昇及び二段脈の出現や、脳血管障害を示す瞳孔不同の症状の発生とも近接していることを総合すると、亡乙子のくも膜下出血は、右出血のころ生じたものであり、かつ、A医師の手術操作中の内頸動脈の損傷によって生じたものと考えるほかない。

(2) 亡乙子のくも膜下出血の発生機序は、医学的には、以下のように説明することができる。

ア 篩骨洞と内頸動脈は、後部篩骨洞の付近では、厚さにしてミリメートル単位の非常に薄い骨性膜様物を隔てて接しているところ、A医師は、本件手術中、手術操作を誤って右骨性膜様物を一部損傷し、膜様物が脆弱になったところへ、更に吸引作業による外力を加えたことにより、内頸動脈を解離・破綻させ、この解離・破綻が末梢(脳)方向へと進展することによって、最終的に、本件解離・破綻部分を生じさせたものである。

そして、血管壁の解離を起こした内頸動脈からの出血は、その圧力により、内頸動脈周囲の膜様物、硬膜及びくも膜を破り、くも膜下腔に流入したものと考えられる。あるいは、本件解離・破綻部分が末梢(脳)方向へと進展していく過程で、新たに解離・破綻した部分からの出血が、くも膜下出血となったことも考えられる。

C医師の所見は、本件解離・破綻部分は、亡乙子の硬膜内に限定されており、手術操作の範囲外であったというものであるが、フィッシャーによる内頸動脈の区分も截然としたものではなく、内頸動脈と副鼻腔の立体的な位置関係についても個体差があるから、本件解離・破綻部分が硬膜内にあるか否か、手術操作の範囲外であるか否かを決するに当たっては、右の位置関係をより慎重に測定・検討すべきところ、これを行った形跡はない。また、亡乙子の鼻内に生じた大出血は、硬膜内に限定されたくも膜下出血によっては説明できない事象であり、C医師は、この出血点が、本件解離・破綻部分以外にあると想定しているにもかかわらず、これを特定しようともしていない。このとおり、右所見は、内容的に不十分なものであって、そのまま信用することはできない。

C医師の所見によれば、内頸動脈のC3部分には血管解離、破綻、血腫、出血を認めなかったというが、くも膜下出血により広範な組織の赤染が認められる状態において、頭蓋に近接するC3部分に何らの出血及び血腫を認めないというのは不自然である。C医師は、硬膜外に存在した内頸動脈の出血点を、隠ぺい又は看過したものである。

イ 仮に、A医師が手術操作により直接的に内頸動脈を傷害したものでないとしても、亡乙子のくも膜下出血が、手術操作による外傷性のものである可能性は否定されない。一般に、頭頸部に対する衝撃により、血管に対して圧迫ないし剪断外力が加わり、これにより血管壁が破綻することはよく知られており、本件手術の手術操作によって加えられた介達力により、内頸動脈が損傷することも十分に考えられる。

ウ 被告は、CT画像上、亡乙子の後部篩骨洞付近には内頸動脈が走行していないと主張するけれども、右のCT画像のみからは、一定の方向からの断面図しか知り得ず、後部篩骨洞と内頸動脈とが、立体構造の中において、実際にどの程度近接していたのかを正確に再現することはできない。右の画像のみでは、被告の主張を根拠づけることはできない。

(3) 被告に使用されているA医師は、副鼻腔炎手術が、内頸動脈等、身体の枢要部を損傷する危険性があり、患者の生命身体に甚大な被害を与え得る手術であることに留意し、副鼻腔周辺組織に損傷を与えないような細心の手術操作を行わなければならない注意義務を負うにもかかわらず、右注意義務を怠り、手術操作及び清掃作業の手技の過誤により亡乙子の内頸動脈を損傷、破綻させ、亡乙子をくも膜下出血により死亡させた。

したがって、被告は、債務不履行又は不法行為(使用者責任)に基づき、原告に対し損害賠償債務を負う。

(二) 被告

亡乙子のくも膜下出血は、以下のとおり、手術操作による外傷性のものではないから、被告は、原告に対し、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償の義務を負わない。

(1)ア C医師の所見によれば、亡乙子の内頸動脈の本件解離・破綻部分は、硬膜内(フィッシャー区分にいうC1〜2)にあり、硬膜外にある部分(C3〜5)には解離・破綻を認めていない。そうすると、本件解離・破綻部分は、本件手術すなわち鼻内上顎洞・篩骨洞開放術の手術操作の範囲外であるから、亡乙子のくも膜下出血は、手術操作による外傷性のものではあり得ない。C医師は、手術操作により損傷し得る危険部位として、C3の部分について精査した結果、血管の解離、血管壁の破綻、血腫、出血のいずれも認めなかったものであるから、右部分には出血点は存在しなかったものである。原告主張のように、C医師が、出血点を隠ぺい又は看過したことはない。

イ 原告は、篩骨洞は内頸動脈と極めて近接しており、篩骨洞開放術においては内頸動脈損傷の合併症を引き起こす危険領域である旨主張するけれども、一般に、右手術において視神経を損傷した合併症は多数報告されているのに対し、内頸動脈を損傷した事例は医学文献上、全く報告されていない。また、本件手術前に実施されたCTによれば、亡乙子の右内頸動脈は、蝶形骨洞に接しているが、篩骨洞には接していない。したがって、A医師が、亡乙子の後部篩骨洞の処理中に内頸動脈を損傷することは、あり得ない。

なお、亡乙子の右蝶形骨洞は、本件の手術野には含まれていない(現に病理解剖の結果によっても、蝶形骨洞内には、手術操作がなされれば残るはずの凝血が認められていない。)上、右蝶形骨洞と右内頸動脈は、CT画像上、少なくとも厚さ5ミリメートル以上の蝶形骨壁を隔てているから、この骨壁を破壊して右内頸動脈を損傷することは極めて困難である。したがって、右蝶形骨洞に接する右内頸動脈が手術操作によって損傷されたことも考え難い。

ウ 亡乙子の不整脈及び血圧上昇は、手術操作とは無関係に硬膜内の内頸動脈の解離・破綻による出血によりくも膜下出血が生じ、くも膜下腔に流出した血液により脳圧が亢進したために、これに反応して起こったものと考えることができる。原告は、右不整脈及び血圧上昇は、前篩骨洞付近の硬膜外の内頸動脈を手術操作により損傷したことによる出血に起因する旨主張するけれども、そうであれば、大出血によってむしろ血圧は低下するし、止血も極めて困難と考えられるにもかかわらず、実際には、逆に血圧は上昇し、しかも、降圧剤の投与により亡乙子の血圧が正常化した後は、圧迫止血が可能なほどに出血の勢いが弱まっているのであるから、右主張は根拠がない。

エ 亡乙子の前篩骨洞付近からの出血は、ウに記載したとおりの血圧上昇により、前篩骨洞の手術部位の前篩骨動脈から再出血したものと考えられる。この出血量が多かったことは、亡乙子の血圧の異常な上昇という特殊事情や、麻酔方法の相違に照らせば、不自然ではない。

(2)ア 亡乙子のくも膜下出血の原因となった硬膜内の内頸動脈の解離・破綻は、硬膜内血管の変性(内弾性板の肥厚、石灰沈着)が基礎疾患となり、これに手術中に何らかの刺激が加わった結果、発生したものと考えることができるのであって、本件の手術操作による血管損傷が原因となったものではない。

イ 原告は、手術操作中に損傷を受けた硬膜外の内頸動脈からの出血が、その周囲の結合組織、硬膜及びくも膜を破ってくも膜下出血に至った旨説明するけれども、いかに出血が大量であっても、硬膜下出血ないし血腫の形成なしで、出血の勢いのみで硬膜等の組織が破られることは、医学的には考え難い。

ウ なお、原告は、硬膜内の内頸動脈が手術操作による介達的な力により破綻した可能性をいうけれども、かかる現象が起こるのは、交通事故、転倒、殴打等によって極めて強い衝撃を受けた場合であって、通常の手術操作において、かかる強い衝撃が加わることは考えられないから、原告の主張は根拠のないものである。

2  損害額についての原告の主張

(一) 逸失利益 2490万440円

平成8年賃金センサスをもとに3割の生活費控除をし、就労可能期間に対応するライプニッツ係数を乗じた金額(359万3500円×0.7×9.899)

(二) 慰藉料 2000万円

(三) 葬儀費用 120万円

(四) 弁護士費用 460万円

(五) 以上合計 5070万440円

第三  当裁判所の判断

一  前記前提事実並びに甲四ないし六、七の1ないし3、八の1、2、九ないし一一、一三及び一四の各1、2、一五の1ないし3、一七、二一、乙一及び二の各1ないし3、三の1ないし6、四の1、2、五の1ないし7、六の1、2、七の1ないし7、八、一〇の1、2、一一の1ないし6、一二の5ないし11、一五の1ないし3、一六ないし一八、二〇、二一、証人A、同C及び原告本人を総合すると、以下の事実を認めることができる(ただし、標本の撮影写真及び医学文献については、関連箇所で改めて掲記することがある。)。

1  本件手術

(一) 亡乙子は、平成9年10月2日、被告病院耳鼻咽喉科で受診したところ、両側慢性副鼻腔炎及び鼻茸と診断された。

亡乙子はその後、本件手術の予約を入れ、外来診療を受けていたが、A医師から改めて本件手術の説明を受け、平成10年2月3日から被告病院に入院し、同月5日、本件手術を受けた。なお亡乙子は、同月4日、全身麻酔検査も受けたが、特段の異常は認められなかった。

亡乙子は、同日午後1時15分に手術室に入って全身麻酔及び局所麻酔を受け、その後、同日午後1時56分からA医師が本件手術を開始した。

(二) 鼻茸切除術

A医師は、亡乙子の右鼻、左鼻の順に、鼻茸絞断器(針金製のループ)を用いて、鼻内の鼻茸と呼ばれるポリープ状の粘膜腫脹を切除した。

(三) 篩骨洞開放術

(1)ア 篩骨洞は、鼻腔と左右の眼窩の間にあり、篩骨の内部に蜂の巣状に発達した多数の小胞からなり、その表面は粘膜に覆われている。その構造は、鼻孔側からみて順に篩骨胞(第2基板)、中鼻甲介基板(第3基板)と呼ばれる隔壁と、隔壁内側に形成される小胞からなっているが、篩骨胞内部の小胞を前部篩骨洞(前部篩骨蜂巣)、中鼻甲介基板内部の小胞を後部篩骨洞(後部篩骨蜂巣)という。なお、後部篩骨洞の奥に、さらに上鼻甲介基板と呼ばれる隔壁で隔てられた最後部篩骨洞が存在することもあるが、亡乙子については明らかでない(以上につき、甲一一、一四の2、乙一五の2)。

篩骨洞開放術は、経鼻腔的に(鼻腔からの作業により)、前記の骨壁や粘膜を除去し、篩骨洞を開放するものである。

イ 篩骨洞内は、内頸動脈から直接血液の供給を受けないが、内頸動脈に由来する眼動脈から分岐した前篩骨動脈及び後篩骨動脈等の血管が走行して血液を供給している。前篩骨洞天蓋付近、後篩骨洞天蓋付近は、それぞれ洞壁付近に内篩骨動脈、外篩骨動脈が走行しており、動脈を損傷する危険が高い領域として指摘されている(甲一一、一四の1、2)。

なお、内頸動脈は、一般には、海綿静脈洞内を走行する、フィッシャー区分C4の部分で蝶形骨洞に接している(蝶形骨洞は篩骨洞の後方に位置している。)と言われるが、多数の検体を解剖した結果、内頸動脈が後部篩骨洞壁に接していた珍しい例を報告する海外文献も存在する(甲一四の1、2、一五の1ないし3)。

(2) A医師は、亡乙子の右鼻内の鈎状突起(第1基板)と呼ばれる隔壁を、コンヒヨトーム(先端部がハサミ状になっている手術器具)を用いて鉗除した後、その奥にある篩骨胞を篩骨胞破砕子及びコンヒヨトームで開放し、同様に前部篩骨洞の開放を行った。A医師は、その際、浮腫性に腫張した粘膜をコンヒヨトーム及び西端豆状鉗子(コンヒヨトームと同様、先がハサミ状になっている手術器具)を用いて鉗除した。

また、A医師は、中鼻甲介基板を篩骨胞破砕子及びコンヒヨトームで開放し、後部篩骨洞の開放を行い、一部の粘膜を鉗除した。

A医師は、右篩骨洞の開放を終えた後、右上顎洞の開放を行い、続いて左篩骨洞、左上顎洞について同様の処置を行った。

(3) A医師は、以上の手術操作を終え、同日午後2時45分ころから、吸引管(直径数ミリメートルのもの)による吸引清掃及びコメガーゼによる圧迫止血を開始したが、その際、吸引管や摂子(ピンセット)で篩骨洞天蓋部分及び紙状板(篩骨洞と眼窩とを隔てる骨壁)に触れたところ、骨性硬を保っていることを確認した。また、髄液の漏出など、頭蓋底及び硬膜の破綻を窺わせる症状も認められなかった。

A医師は、同日午後2時50分ころ、右鼻内の凝血、粘膜片等を吸引していたところ、亡乙子に著しい血圧上昇がみられ、不整脈、二段脈が現れ、そのころ、亡乙子の右鼻内から大量の出血があった。

A医師らは、亡乙子の不整脈に対する措置として2パーセントキシロカインを投与し、血圧上昇に対する措置としてペルジピンを投与した。

A医師は、右鼻内の出血の勢いが強いため、出血点を同定して圧迫止血を試みることもできず、血液を吸引していたが、やがて出血の勢いが弱まり、前篩骨動脈が走行していると考えられる前篩骨洞天蓋付近から、動脈性の出血があるのを認めた。A医師は、ガーゼによる圧迫止血を試みたところ、今度は止血されたため、止血操作を終えて手術を終了した。

(4) 亡乙子には、本件手術後、瞳孔左右不同の症状が現れていたが、CT検査の結果、くも膜下出血を発症したものと判明し、亡乙子は、同年2月9日午前10時ころ、右傷病により死亡した。

なお、午後2時50分ころ以降の亡乙子の出血量は、約500ミリリットルと多量にのぼっていた。

2  病理解剖及び標本作成の過程

(一) C医師は、亡乙子の主治医であるB医師から、①A医師による副鼻腔炎手術とくも膜下出血の因果関係、②くも膜下出血の責任病巣を明らかにするための病理解剖の依頼を受けた。B医師は、右依頼に際し、病理解剖することについて原告の承諾を得た。

(二) C医師は、亡乙子の死後約8時間が経過した同年2月9日午後6時ころから、B医師、A医師らの立会のもと、病理解剖を開始した。

(1) C医師は、亡乙子の頭皮を切開、剥離した後、頭蓋骨全周に電動鋸で切込みを入れ、頭頂側頭蓋骨を持ち上げながら、脳硬膜との線維性結合部分をハサミで剥離し、頭頂側頭蓋骨を取り外した。

(2) 次に、C医師は、頭蓋底側で、脳底を分離した。

C医師は、脳の前頭葉部分を、脳組織を破壊しないよう軽く持ち上げつつ、頭蓋外に通じている内頸動脈及び視神経を切断し、更に脳神経を切断し、大脳、小脳、脳幹及び脊髄を遺体から分離した。内頸動脈を切断する際、脳底側の硬膜は、頭蓋底に密着ないし接着したままであるため、右の内頸動脈の切断部分は、大脳と硬膜の間(硬膜下腔)にあたることとなる。

以上のような脳の分離方法は、C医師が遺体から脳を取り出す場合に通常とる手順である。また、内頸動脈が硬膜を貫通する部分においては、若干厚くなった硬膜が、血管と線維性の結合をしているため、以上のような作業の過程で、内頸動脈と硬膜が容易に剥離することはない。

(3) 更に、C医師は、内頸動脈を付近の頭蓋底とともに電動鋸で分離した(以下、分離した頭蓋底の骨、硬膜、内頸動脈等をまとめて「本件頭蓋底部分」という。)。本件頭蓋底部分には、おおよそ鼻・耳の高さの部分から、脳を分離する際に切断した上端までの内頸動脈が含まれている。

C医師は、採取した脳(内頸動脈も付着したもの。乙五の1ないし7、一二の1ないし4)及び本件頭蓋底部分(乙六の1、2、一二の5)を、20パーセントホルマリン液に浸して組織を固定した。

(4) C医師は、同年3月11日、組織固定した脳及び本件頭蓋底部分から、それぞれ内頸動脈を剥離した。

C医師は、脳に付着して取り出した内頸動脈((2)記載の切断部から末梢(脳)方向に向かい、内頸動脈が前・中大脳動脈に分岐するまでの部分であり、長さにして数ミリメートルないし1センチメートル程度のもの。以下「血管部分A」という。乙七の1、2、一二の6、7)を、長さ各2.5ないし3ミリメートル程度の小片4個に切断し(乙七の5、6、一二の10、11)、脱水等の過程を経た後、小片をパラフィンに包埋して4個の「パラフィンブロック」と呼ばれる標本を作成し(以下、末梢側の小片から順に①ないし④の番号を付して表す。)、各パラフィンブロックの一部を薄切りしてプレパラート標本(以下、パラフィンブロックの番号に対応して「標本①」ないし「標本④」という。以下同じ。)を作成した。

C医師は、同様に、本件頭蓋底部分に付着して採取した内頸動脈(以下「血管部分B」という。)の末梢側の断端付近(ただし、血管全周の像を確保するため、断端から若干頸部寄りの部分)から小片1個を切り出して⑤のパラフィンブロック及び標本⑤を作成するとともに、より頸部側の部分から長さ各2.5ないし3ミリメートルの小片を3個切り出し、末梢側から順に⑥ないし⑧のパラフィンブロック及び標本⑥ないし⑧を作成した。C医師は、このうち標本⑥及び⑦は、海綿静脈洞内を走行する血管部分にあたると判断した。

また、C医師は、血管部分Bより頸部側の内頸動脈(以下「血管部分C」という。)の3箇所から小片を切り出して⑨ないし⑪のパラフィンブロック及び標本⑨ないし⑪を作成した(乙七の3ないし6、一二の8ないし11)。

二  C医師の意見

乙三の1ないし6、一三、一八、二〇、証人Cによれば、亡乙子のくも膜下出血の原因に関するC医師の意見は、次のとおりである。

1  解剖時の所見

(一) 脳の表面は、血液の付着によって赤染し、外表から薄い透明なくも膜に覆われた凝血、血腫を確認したため、くも膜下出血を発症したものと判断した。凝血ないし血腫は、両側頭部、頭頂部から脳底部、小脳テント上に目立ったことから、出血点は頭蓋底にあると推定された。

(二) 頭蓋底に付着した血液をガーゼで除去し、頭蓋底を観察したところ、硬膜外出血は確認できず、前頭蓋窩の前頭骨、篩骨、蝶形骨については、骨折や、付着した硬膜の穿破を認めることはできなかった。中頭蓋窩及び後頭蓋窩についても、同様に、骨折又は穿破を認めることはできなかった。

(三) 脳に付着して取り出した右内頸動脈には血栓があり、血管内腔には狭窄を疑わせる外観所見があったが、血管壁の解離・破綻の有無は明らかではなかった。また、頭蓋底部分に付着して取り出した右内頸動脈には、凝血を認めたため、血栓の可能性が考えられた。

なお、左内頸動脈には、右のような血栓、凝血は認められず、特段の異常は認められなかった。

(四) 前記一2(二)(3)のとおり本件頭蓋底部分を除去した後、除去によりできた穴から鼻腔及び副鼻腔を観察したところ、左右の篩骨洞には凝血塊を認め、手術操作により出血したものと判断されたが、篩骨洞と頭蓋底との交通(骨折又は硬膜の穿破)は認めなかった。

また、蝶形骨洞については、頭蓋底部分とともに除去された部分と、遺体に残った部分とに分かれているが、いずれについても、内部に凝血塊を認めなかったため、手術操作は及んでいないと判断された。

(五) 以上の所見から、亡乙子の主病変をくも膜下出血、副病変を脳浮腫、右内頸動脈狭窄などと判断した。

2  組織学的所見

(一) 左内頸動脈には、頭蓋内部に当たる部分から、側頭骨椎体内部に当たる部分に至るまでの範囲で、肉弾性板の肥厚、巣状の石灰沈着のほか、一部について、内膜の軽度の肥厚が観察された。

(二) 右内頸動脈の標本①ないし⑧を顕微鏡下で観察した結果は、次のとおりである(乙一一の1ないし6)。

(1) 標本①からは、血管壁の解離・破綻は観察されなかった。

(2) 標本②からは、血管内腔の血栓と血管壁の破綻が観察されたが、血管壁の解離は認められなかった。

(3) 標本③からは、血管壁の肉弾性板を境にした内膜と中膜との間に偽腔が形成されているのが観察され、血管壁の解離が認められた。偽腔のある側の血管壁には破綻はなかったが、出血が観察された。

(4) 標本④からは、血管壁の解離と破綻とが観察された。

(5) 標本⑤は、内腔内に血栓、凝血が認められたが、明らかな血管壁の解離・破綻は観察されなかった。ただし、同標本は、血管の断端付近の標本であるため、血管の一部が欠けており、全周を観察できていない。

(6) 標本⑥ないし⑪のほか、左内頸動脈から採取した標本については、血管壁の解離・破綻は認められなかった。

(三) 以上の観察結果から、標本②ないし④に相当する部分、すなわち、C医師が脳の剥離の際切断した内頸動脈の断端(硬膜下腔)より末梢側の部分に血管壁の解離・破綻があり、これが亡乙子のくも膜下出血の出血点であると判断された。

もとより、血管部分B及びCについては、適宜の部分から小片を切り出してパラフィンブロックを作成し、その一部を薄切りしてプレパラート標本を作成したに過ぎないため、内頸動脈の全長にわたり網羅的に顕微鏡下の観察を行ったとはいえないけれども、標本②ないし④以外の各標本において、血管壁の解離・破綻の所見が全くないものが連続していることから、標本②ないし④に相当する部位以外に別の出血点があるものとは考え難い。

3  解剖時の所見により、観察可能な範囲では、副鼻腔と頭蓋底との交通(骨折又は硬膜の穿破)を発見できなかったが、内頸動脈には、海綿静脈洞内を走行する部分など、外から観察できない部分が含まれており、その部分に副鼻腔と血管との交通がある可能性が否定できないため、肉眼所見のみからは、手術操作とくも膜下出血との因果関係の有無を断定できない。

しかし、病理組織学的所見により、亡乙子のくも膜下出血の出血点は、硬膜内にあると同定できる上、海綿静脈洞内を走行する部分(分離した頭蓋底部分から剥離した血管部分)に血管壁の損傷がなかったことから、肉眼所見と総合すると、当該部分に対する手術操作による損傷の可能性は否定される。

亡乙子のくも膜下出血をもたらした右内頸動脈の解離・破綻の原因は不明であるが、2(一)記載のとおり亡乙子の内頸動脈に基礎的病変があって血管が脆弱化していたところへ、術中の血圧の変動、麻酔の影響、手術の際の頭部固定による内頸動脈の過緊張等の要素により、血管の解離・破綻を来した可能性が考えられる。

三  亡乙子くも膜下出血の原因について

原告は、亡乙子のくも膜下出血は、本件手術中に生じた鼻内大量出血のころ生じたものであり、かつ、右出血はA医師の手術操作により内頸動脈が損傷されたことに起因すると主張するので、以下、検討する。

1 まず、前記のとおり、亡乙子については、病理解剖によっても内因性くも膜下出血の原因となる特段の疾患がみられず、本件手術前にも異常がなかったこと、本件手術中に著しい血圧上昇や不整脈が生じ、手術直後に瞳孔左右不同等の異常を来し、術後間もなく行われたCT検査でも、C医師の解剖所見においても、くも膜下出血が確認されたこと、病理解剖によって内頸動脈の解離・破綻が発見されたことがそれぞれ認められ、これらにC医師の意見をあわせると、亡乙子のくも膜下出血は、手術中に生じたものであり、かつ、内頸動脈の解離・破綻が原因となったものと認められる。

2  次に、前記内頸動脈の解離・破綻が、A医師の手術操作によって生じたものか否かについて検討する。

(一) 原告は、前記内頸動脈の解離・破綻がA医師の手術操作によるものであると主張し、その根拠として、内頸動脈が後部篩骨洞と蝶形骨洞の移行部のごく近くを走行しているため、手術によって内頸動脈損傷の合併症を起こす危険が高いことを挙げるけれども、前記認定事実によれば、本件手術において蝶形骨洞は手術野に含まれておらず、篩骨洞と蝶形骨洞の移行部に対して手術操作を加える必要はなかったものと認められ、現に右移行部に手術操作が及んだ形跡もないから、内頸動脈と右移行部との位置関係から直ちに内頸動脈損傷とA医師の手術操作の因果関係を肯定することはできない。

もっとも、前記認定事実によれば、内頸動脈と副鼻腔の位置関係には個体差があり得、内頸動脈が後部篩骨洞に接して走行する事例も報告されていることが認められるけれども、かかる症例がごく例外的なものであることは前記認定のとおりであり、過去に篩骨洞開放術において内頸動脈を損傷した事例があったことを窺わせる証拠もないことなどに照らすと、内頸動脈と後部篩骨洞との位置関係のみから亡乙子の内頸動脈損傷が後部篩骨洞開放術の手術手技に起因するものか否かを判断することはできず、右の点は、その他の具体的な事実をもあわせて検討する必要がある。

(二) ところで、C医師の意見は、(1)亡乙子の内頸動脈のうち、硬膜内を走行する部分(血管部分A)から切り出した標本②ないし④についてのみから血管の解離・破綻がみられ、一般に副鼻腔付近を走行するとみられている硬膜外のC3ないし4部分から切り出した標本⑤ないし⑦について血管の解離・破綻がみられなかったこと、(2)肉眼所見からも、頭蓋底には硬膜外出血が確認されなかったことなどから、亡乙子の内頸動脈の出血点は硬膜内に限定され、かつ、手術操作の範囲外であるというものである。

右意見は、客観的事実をもとに、専門的知見に基づく合理的な推論によって結論を導いているものであって、十分支持することができる。すなわち、標本②ないし④が切り出された血管部分Aが、硬膜内に位置することは、前記認定の解剖手順及び血管部分Aを採取した後の本件頭蓋底部分の写真(乙六の2)に照らして明らかであって、標本②ないし④に血管の解離・破綻があり、他の標本にこれがないとの所見も、標本写真を前提とし、専門的知見に基づき述べられたものであって、不合理な点は見当たらない。

これに対し、原告は、亡乙子の内頸動脈の損傷部位は篩骨洞付近にもあったのに、C医師がこれを見落としたか隠ぺいした旨主張する。たしかに、前記前提事実に乙一二の8及び一三を総合すると、亡乙子の場合、内頸動脈が海綿静脈洞内を水平に走行し、ヘアピンカーブ状に走行して硬膜内に入るまでの部位(フィシャー区分C3、4に対応する部分)は、少なくとも2センチメートル程度の長さを有すると窺われるのに対し、C医師は、この部分から3ミリメートル程度の小片を3個(標本⑤ないし⑦)しか採用していないと認められるから、出血点を避けて小片を切り出したり、偶然出血点が切出しの範囲に入らなかったなど、出血点が看過又は隠ぺいされたとの疑念をいれる余地がなくはない。

しかし、前記の事実及び意見によれば、C医師は、肉眼所見を通じて亡乙子のくも膜下出血の出血点をある程度推測したものの、正確な出血点を同定できないまま組織の切出しを行ったものである上、標本作成の過程を明らかにするため、切出しの対象となった組織の形状、切り出した小片の形状等の写真を多数残していることが認められるのであり、組織の切出し及び標本の作成の過程に隠ぺいないし何らかの作為が働いたと認めることはできない。

そして、前記のとおり標本⑤ないし⑦に血管の解離・破綻が観察されておらず、標本②ないし④に相当する血管の解離・破綻が、硬膜外の部分にまで連続して形成されていたとは考え難いこと、C医師の肉眼的所見において硬膜外出血は認められていないことなどに照らしても、副鼻腔付近を走行する内頸動脈からの出血があったとも、C医師がその出血点を看過したとも認め難い。

(三) 原告は、①出血点が硬膜内か否かを判定する根拠としたフィッシャーの区分は截然としたものではないこと、②内頸動脈と副鼻腔の立体的な位置関係についても個体差があること、③本件手術中に副鼻腔方向からみられた亡乙子の大量出血の出血点が不明であることから、C医師の病理所見は不十分であり信用できないと主張する。

しかし、①については、C医師の意見は、前記のとおり、フィッシャーの区分によるまでもなく、解剖時所見及び組織学的所見に基づき、亡乙子の内頸動脈の本件解離・破綻部分が硬膜内に位置するものと判断しているものであり、②については、C医師の所見は、亡乙子の頭部に対する解剖時観察及び病理組織学的診断に裏付けられており、対象となっている個体そのものについての見解を述べるものであり、③については、一1に認定した出血及び止血の状況、篩骨洞と付近を走行する血管との位置関係等に照らすと、手術中に生じた亡乙子の鼻内の大量出血は、内頸動脈からでなく、前篩骨動脈からの出血として説明可能である(前篩骨動脈が前部篩骨洞天蓋部の手術操作における合併症の危険領域として指摘されているのは前記認定のとおりであり、証人Aも、手術操作によって前篩骨動脈を損傷した可能性を自認している。また、仮に、右大量出血が内頸動脈の損傷によるものとすれば、被告指摘のように、内頸動脈は前篩骨動脈以上に基幹の動脈であるから、出血の量も多くなり、止血も容易ではなかったと考えられるが、本件の場合、止血は比較的容易になされていることは前記のとおりである。)から、いずれも根拠たり得ない。

(四)  以上によれば、亡乙子の内頸動脈の出血点は硬膜内にあり、副鼻腔付近を走行する部分にはないと認められ、かかる事実に照らすと、亡乙子の内頸動脈損傷がA医師の手術操作によるものであるとは認め難い。

なお、原告は、手術操作に伴う介達力により亡乙子の内頸動脈が損傷した可能性があると主張する。右主張の趣旨は必ずしも明確でないが、仮に手術操作による外力により、副鼻腔付近を走行する内頸動脈を破綻させたという趣旨にとどまるのであれば、以上述べたところにより肯認できない。また、原告は、右主張の根拠として医学文献(甲一二)を提出するが、右文献によっても、頭部打撲等に伴う急激な脳のずれによる剪断外力によって頭蓋内動脈閉塞症が生じ得るということを述べるに過ぎないところ、前記認定の手術方法や使用器具等に照らすと、本件手術中に、脳がずれを生じるほどの急激な外力が加えられたとは窺われないから、右文献は原告の主張の根拠たり得ない。

四  以上のとおり、亡乙子のくも膜下出血は、A医師の手術操作によるものとは認め難いから、A医師には、亡乙子の死亡と因果関係を有する過失はないというべきである。(乙一三及び証人Cによれば、C医師は、自ら800体を超える病理解剖を行った経験豊富な医師であるが、病理解剖はもともと死因の明らかでない死体を対象に行うことが多いため、原因不明と結論づけざるを得ない例は少なくないと認められるのであり、手術侵襲に代わる亡乙子のくも膜下出血をもたらした内頸動脈の解離・破綻の原因が確定できないからといって、直ちに右結論が左右されるものではない。)

したがって、原告は、その余の点について判断するまでもなく、被告に対し、診療契約上の債務不履行又は不法行為を理由とする損害賠償金を求めることはできない。

第四  結論

以上の次第で、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・坂井 満、裁判官・飛澤知行、裁判官・土屋 毅)

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